表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

012 田舎者でもぶっつぶせ

結構・・・長いです。

「おと~ちゃ~んの~た~めな~ら、え~んやこ~ら♪・・・っと!!」


ザシュッ・・・どごごごごご


「もひ~と~つ、おま~け~にえ~んやこ~ら♪」


ザシュッ・・・どごごごごご


ここは魔国の端の端、農業大国ファーマーズの田舎にあるカラン村。


先程から聞こえる歌と爆音は、1人の黒鬼の奏でる音だ。


「だい~ち~のめぐ~み~に~、かんしゃ~し~て♪」


ザシュッ・・・どごごごごご


「きょ~も、ひと~ふ~り、えん~やこ~ら♪」


ザシュッ・・・どごごごごご


黒鬼が歌いながらくわを振り下ろすと、鍬が突き刺さった場所から20m程地面が爆砕・・・じゃない、耕される。


黒鬼の通って来た道は縦1km横2kmほどの距離で、見事なほどに整地されている。


「さでど、こったらもんだべか?」


整地された地面を見て、満足そうに頷く。


「田吾作ど~ん、精がでんな~い。」


遠くから聞こえる声に黒鬼ー田吾作は辺りをキョロキョロと見回すが声の主が見つからない。


「こごだ、こごだ。」


田吾作はハッと気づいて上を見上げると、そこには美しい少女が空に浮いていた。


年の頃は15.6才。栗色のポニーテールを揺らしながら、両手の翼でバサバサと羽ばたきを繰り返している。

空を飛ぶためにかなりスレンダーだが、血色はかなり良い。


「よっ・・・と、ま~だ飯も食わねぇで畑耕してたんだべ?

握り飯もってきただ。一緒にくぅべ。」


少女はほおを赤らめながら、背中に背負っていた風呂敷包みをほどいて田吾作へ差し出す。

身長2m程の黒鬼に対し、ハーピーの身長は1m30cmほど。

子供が大人に差し出しているようで微笑ましい。


「いづもわりぃなぁ~。

花子も自分の畑があんだろうに。」


花子と呼ばれたハーピーは首を振る。


「そっだらことねぇ。

田吾作さこそ、自分の畑だげじゃなぐうちの畑までやってくれるべ?いっつも助かっでるだぁ。」


「おらぁ力しか取り柄ねぇべ?

そっだらごどでよげれば、いづでも頼ってくんれぇ。」


田吾作も頬を赤らめながら、花子の差し出した握り飯を受け取る。


「いんや、田吾作さは他にも取り柄はいっぱいあるだ!!

優しいとごろもそうだし、いざとなったら頼れる安心感もあるだ。

ほがにも、え~っと・・・え~っと・・・

とにかぐ、田吾作さは素敵なおどこのひどだ!!」


花子は両手を握りしめながらも一生懸命に話す。

そんな花子を見ながら田吾作は、照れたように鼻の頭を掻く。


「花子、言い過ぎだ。

おらあ、そごまでのおどこじゃねぇ。」


謙遜する田吾作の手を取って、花子は身を乗り出す。


「そごまでの人だぁ。

少なくともあだしにとっては・・・」


そこで花子は田吾作にキス寸前まで顔が近づいて居る事に気がついて、慌てて離れてしまう。


「・・・・・・・」


2人はそのまましばらくの間見つめ合う。


そして意を決したように田吾作は口を開く。


「花子ぉ、おらぁ・・・おらぉ・・・」


が、そんな2人に遠くから声がかかる。


「2人共~、いちゃいちゃもその辺にして飯さくっとげ~。

まだまだやるごどはいっぱいあるでの~。」


「あっ・・・兄ちゃん!?どっから見でだんだい?」


「花子が田吾作ど~んって、いっだどごがらだ~。」


「それ初めっからでねぇがい!?」


「そうとも言うなぁ~。」


どうやら声を掛けたのは花子の兄のようだ。

田吾作は恥ずかしいところを見られたと、真っ赤になって茹だっている。


「た・・・田吾作さ、飯さ食うべえ~。」


「あ・・あぁ、んだな。」


田吾作と花子は風呂敷を開くと、おにぎりを頬張り始める。


「田吾作、花子の事頼んだぞ。」


花子の兄はそんな田吾作の隣まで来ると、一言言ってすぐに飛び立った。


「ぶふぅっ」


「田吾作さ、どうしただ?

水のむだか?」


聞こえてなかった花子は、いきなり吹き出した田吾作を心配する。


「いや、何でもないだ。

それよりも兄ちゃんはどうしただ?」


「兄ちゃんはよぐわがんね。

それよりも、飯さくっで、午後も頑張るべ?」


美味しそうに握り飯を頬張る花子を優しく見つめると、田吾作も握り飯を掴んで返事する。


「んだな。」


とまぁ、大国といっても、このような牧歌的な日常がごく当たり前に繰り返される田舎である。


ーーー場所はファーマーズ王城。


玉座に座った男性へ、執事の格好をした二足歩行の羊が何事か報告している。


「ーー以上の報告から生存は絶望的と考えられます。」


「判った・・・下がるが良い。」


「はっ、失礼いたします。」


報告が終わると、男性はため息を吐く。

鍛え抜かれた黒銀のような体躯に、オニキスを思わせるほど漆黒の双眸。

額には天を貫くほど大きな角を持つこの国の王。

ライルは悩んでいた。


「・・・いまだ息子の所在は知れずか・・・

どこに消えたんだ・・・アラン。」


ハーレムを作り、遊び呆けていた息子アラン。

その息子が突如疾走してから、はや1年が過ぎようとしていた。


「一体どこに消えてしまったのじゃ・・・遊び呆けるのも大概にせいと言っておったのに・・・

・・・いや、止められなかった我も同罪だな。

罪は贖う・・・だが・・・アランに会いたいよう、会いたいよう、会いたいよう~。」


大の大人が・・・いや、ムキムキのマッチョが駄々をこねながら地面をゴロゴロ回るのは如何なものか・・・


「会いたいよう、会いたいよう、会いたいよう・・・」


「ごほん。」


「会いたいよう、会いたいよう、会いたいよう・・・」


「ごほんっ!!」


「会いたいよう、会いたい「いいかげん気付けやっ!!」・・・はっ、なにやつっ!?」


いつからそこにいたのか、王がゴロゴロするのを見下ろしている青年がいた。


「久しぶりだな。」


「貴様はっ!!・・・誰じゃ?」


なおもぼけ続ける王に、青年は額を抑えつつ答える。


「あのな・・・自分の最愛の息子を連れ去った男を忘れるな・・・」


青年の答えに王は目が点になる。


「・・・は?」


その様子を見て青年は訝しげに見た後、何か思いついたように手を打つ。


「あぁ、ちぃと魔法が強すぎたか?

これで・・・どうだ?」


パチンッ


青年が指を鳴らすと、王の脳裏にありし日の記憶が蘇る。


「あぁぁぁぁぁっ、思い出した・・・貴様はっ!?」」


王は青年に指を突きつけたまま、口をパクパクと開く。


「どうやら思い出したようだな。」


青年は満足そうに頷く。


「忘れはせぬぞっ!!

あれは1年前・・・だったっけ?」


ガクッと崩れる青年。


「忘れもしねぇって・・・全然覚えてねぇじゃねぇか・・・

説明・・・もめんどくせぇな、過去見で見せてやるよ。目ぇ閉じな。」


王が目を閉じると、青年はパチンと指を鳴らす。


「お・・・おおっ?これは?」


王のまぶたの裏には、ありし日の光景が映し出される。




その日、ライルは玉座に座り、民や隣国の使者と謁見を行っていた。


「次の者、入れ。」


ひつじの執事が声を上げると、いかにもちゃらそ~だが、王に良く似た面影を持つ青年が5人の女性を連れて入ってきた。


「おぉ、アランよ。どうした?

今日は謁見の日だ、何か陳情したい物でもあるのか?」


アランはこのように、何度も謁見の日に訪れては何かをせびって行くため、家臣団の表情は渋い。

だが、王はこの息子に甘く、表立って諌めることの出来るものはいない。

因みにどれぐらい甘いかというと、サトウキビに練乳と蜂蜜でコーティングし、その上にホイップクリームとカスタードクリームをデコレーションするぐらい甘い。


「あぁ、おやじさぁ~、ちいっと法律変えてくんねぇ?

くっちゃくっちゃ。」


「はぁっ?」


今までにも無理難題な陳情わがままを言われたことがあるが、国営に関わる陳情は初めてだった。

しかも、ガムを噛みながら・・・


「法律とは・・・まず、理由を聞かせてくれないか?」


前向きな返答をする王に、家臣団はますます渋い顔をする。


「連れて来たこいつ等?俺の嫁になりたいって言う訳よ。

でも、法律だと嫁は1人って決まってんじゃね?

なら、法律の方を変えれば皆嫁に出来るし?

おやじなら出来るっしょ?

くっちゃくっちゃ。」


これには王も渋面を作る。


「お前のためだ、法律を変えたくはあるがそれだけは出来ん・・・」


今まで断られた事の無かったアランは顔を真っ赤にして王に詰め寄る。


「ちょっ、おやじ!?

たかが嫁を5人つくるだけっしょ?

この前みたく竜の首取ってきてとか、隣国の宝を盗って来てってお願いは叶えてくれたじゃん?

今更、無理でした~ってこいつ等に言えないよ?」


「え~、マッジ~?

左団扇させてくれるって言ったじゃない~。」と、ラミアの少女。


「わたしぃ~、次はグリフォンの爪欲しいんですけど~?」と、ゴルゴンの少女。


「えっ、これって本物だったの?うっわ、ちょ~マジ~?」と、インプの少女。


「ねぇ~ん、私の分はぁ?」と、サキュバスの少女。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん、これ殺していいの?」と、シザースの少女。


アランに乗っかり、それまで黙っていた少女達も騒ぎ出す。

だが王は叱るでもなく、されるがままに揺さぶられながら、懇願に近い声を出す。


「頼む・・・ワシはお前が死ぬほど可愛い。

だから今すぐ彼女達と縁を切り、ハーレムなどと考えるではない。」


だが、産まれて初めてワガママを聞いて貰えなかったアランは逆上する。


「おやじっ!!俺の顔に泥を塗るのかよ!!

俺が可愛いんじゃなかったのかよ!!

なら、今回も黙っていう事を聞きゃぁいいんだよっ!!

ペッ!!」


王の胸ぐらを掴み、啖呵を切った後にはガムを王の額に吐き捨てる。


「アラン・・・不甲斐ない父を許してくれ・・・

これだけは・・・これだけは聞くことが出来ぬのだ・・・」


額のガムもそのままに、涙を流しながら王は父を出来ないという。

王の意思が変わらない事を知ると、アランも涙を流し懇願する。


「頼むよおやじぃ。

俺さ、こいつ等の事はマジで考えてるんだ。

きちんと王位も継ぐからさぁ。」


「じゃが!!・・・大臣?」


尚も王がアランに説得しようとするが、ひつじの執事に阻まれる。


「王様、王子もこのように言っておりますので、特例として認めても宜しいではないでしょうか?」


この言葉に1番驚いたのはアランだ。

今まで、やることなす事全てに反対していた執事が自分の肩を持ってくれている。

素直に考えれば裏がありそうだと思うのだが、アランはそうは思わなかった。


(へへ、王位を継ぐって言ったから急におべっかでもつかうようになったってか?

残念だけど、今までの怨みは忘れたわけじゃねぇからな。)


自分に都合の良い考え方をすると、ほくそ笑んで更に王に詰め寄る。


「ほら、オヤジよぉ~。

大臣もこう言ってんだし、特例って事でいいんじゃねぇか?」


アランが言いよると、執事も王にだけ聞こえるようにこそこそと説得する。


「ライル様、このままアラン様が王位を継いでも直ぐにクーデターが起こると思われます・・・

ここは1度痛い目にあっていただいた方が・・・」


「じゃが・・・アランに苦労は・・・」


「なぁ、おやじぃ~。頼むよぉ~。」


「ライル様っ!!」


「マッジ頼むよ、おっさん。」


「わたしぃ~、王妃の座も欲しいんですけど~。」


「うわっ、マジでウケる~。

本気でアランの言いなりでやんの。」


「おうさまぁ~ん、サービスするから私が第一夫人と言う事でお願いしますわぁ~。」


「ねぇねぇおじいちゃん、耳切り落としていい?」


「なっ、おやじっ、嫁達もこう言ってるからよ。」


「ライル様っ!!もうここは一発ガツンと!!」


周りが次々と王へと詰め寄り、口々に責め立てる。


「ううう・・・貴様ら!!ぼっち魔王が恐ろしくないのかっ!!」


ついに王は禁断の名を告げる。


「ボッチ魔王?なにそれ?ぼっちなのに魔王とかウケるんですけど~。」


「マッジ、アランの言うとおりぃ~。おじさん呆けちゃった?」


「わたしぃ~、介護はしたくないんですけど~。」


「マジ痴呆って感じ?うーけーるーんでーすーけど~。」


「あらあら、ボッチ魔王とか、なにたわけたことを申してるのでしょう。」


「ねぇねぇ、ボッチ魔王って、切り裂けばいい声で泣いてくれる?」


その名に恐れおののいている王や執事、兵士達とは裏腹に、アランと少女達は笑いあっている。


「ぎゃはははははは・・・あ?なんだこの歌?」


どこからともなく流れてくる旋律が耳に入ると、それまで笑いあっていたアラン達が訝しげする。


「おやじぃ、なにしたんだ?・・・おやじ?」


王へ問いただそうとアランが王を見ると、顔面蒼白となり、口をパクパクとさせる王がいた。


「一体なんなんだよ・・・」


更に見回すと、執事や近衛達も同じ表情で固まっている。

そんな王達をそっちのけに旋律は段々と大きくなってくる。




わ~れっらむ~てっきの~そ~ろぐ~んだ~ん♪

ハーレムな~んってぶっとばせ~(おー)♪

はーれっむゆ~しゃは?(めっさつだー)♪

はーれっむこっくおっう?(ぼっくさっつだ~)♪

ほっかにっもいっろいっろあっるけ~れど~♪

いっぷたさ~いは~(みなごろし~)♪

お~と~こた~るも~の(ひっとり~にし~ぼれ~)♪

お~んな~はも~ちろ~ん(つ~つま~しく~)♪

あ~あ~♪

そう~しそ~うあ~いつら~ぬ~けば~♪

お~のず~と~な~るな~る(いっぷいっさい)♪

いってお~くが~♪

ひ~がみ~じゃ~な~いぞ~♪

じゅ~んあ~いろせ~ん~がすっきな~だけ~(おー)♪

き~っとであいがあ~るは~ずと~(想いつづけてうんじゅうね~ん)♪

さびしくないさ~、さびしくないよ~(背中がすすけて見えるだけ~)♪

ハーレムな~んて(ぼっくさ~つ、めっさ~つ)♪

あ~あ~、われ~らむってき~のそ~ろぐ~んだ~ん♪

あした~もきっと~、ち~のあ~めだ~♪




「だだだだだ・・・誰ぞ、ワシではない、アランを守るのじゃ!!」


王が自分の身を守ろうと駆け寄ってくる近衛達に命令を下す。


「「「無理ですっ!!」」」


が、一矢乱れぬ返事が返る。


「我等が守るは王の身!!

元凶まで守るのは不可能ですっ!!」


執事が王の前に立つと、震える声で毅然と言い放つ。


「だが、ワシはアランの事が!!」


「おやじっ、一体何なんだよっ!!」


尚もアランの事を気にかける王と、状況を全く把握していないアランの間に突然生首が現れる。

歌舞伎でよく見られる隈取りまで施されていて、見るからに怪しい。


「ハーレム野郎は、ど~こ~の~だ~れ~じゃ~。」


生首はそのまま360度回転すると、おどろおどろしく言う。


「わ・・・ワシじゃ!!ワシが身の程知らずにもハーレムを作ろうとしたのだっ!!」


誰もがその異様な光景に圧倒され、口が開けない中、王がアランを庇って言い放つ。


「そ~うか?だが、お前からはハーレム反応が感じられないなぁ~。」


王へ振り返ると、生首は芝居がかったように動き回る。


「「「「ひぃぃぃぃ」」」」


その動きと異様さに周りはただ悲鳴を上げるだけだ。


そんな中、腰を抜かし地面にへたり込んでいたアランは女性達をそのままに、1人逃げようとしていた。


「ひっ・・・ひぃっ・・・にっ・・・にげっ・・・」


誰もが動き回る生首に腰を抜かし、恐怖に怯える中、アランに気付くものはいない。


「へ・・・へへっ、もうすぐ出口だ・・・」


もうすぐ扉・・・というところでアランの上から声がかかる。


「自分のハーレムを置き去りにして1人だけ逃げるとか・・・最低だな?」


「ひっ・・・ひぃっ!?」


声に驚いてアランが扉を見ると、扉の前には黒ずくめの服を着た青年が立っていた。


「あの王の様子とお前の態度・・・気になるな。少し逆再生でどんなやり取りがあったか見てみるか。」


青年はパチンと音を立てて指を弾く。

そのまま虚空を眺めはじめたため、アランはその隙に扉へ手をかけようとする。


ダンッ


「いづっ・・・」


「ふむ、なるほどな・・・」


青年はアランの伸ばした手を踏みつけ、納得したように頷く。

蔑んだ目でアランを見下ろし、それまで抑えていた魔力を解放すると、荒れ狂う魔力の渦が発生した。


「さいっっっってぇだな、お前。」


「ひぃぃぃぃ!!」


物理的な風を巻き起こす程の魔力に圧倒され、アランはその場で腰を抜かすと失禁する。


「くっ・・・首が消えた・・・?一体何事が・・・?

あぁっ、アラン!?」


青年が魔力を解放するに合わせ、生首は霧のように消え去っていた。

何とか一息をついた王の目に映ったのは、青年に手を踏まれ、失禁するアランだった。


「貴様ぁ!!

我が最愛の息子に何をするっ!!」


王は腰に差した剣を抜き、青年に向けて走る。


「わりぃが、あんたの元じゃ同じ事の繰り返しになる。

ちっと荒療治をさせて貰うぞ。」


王が青年の元へたどり着くより、青年が指を鳴らす方が先だった。


パチンッ


「なっ・・・!?」


王の意識がそこで途切れる。


「ライル様っ!?

貴様っ何者だっ!!ライル様に何をした!!

皆の者っ、曲者を引っ立てい!!」


執事が慌てて王の元へ駆け寄り、近衛達を青年にけしかける。


「一応説明しといてやる。俺がぼっち魔王と呼ばれる存在で、ハーレムを作ろうとしたこいつにお仕置きに来た。」


パチンッ


バタタタタタタタタタタ


青年が更に指を弾くと、執事や近衛達が崩れ落ちる。

どうやら生首は、魔力で生み出した幻影であってぼっち魔王はこの青年だったようだ。・・・・・・バレバレでしたか。


「意識を奪っただけだ、安心しな。

・・・さてと。」


魔王はアランを見下ろす。


「おい。」


「ひっ・・・はいっ」


「念の為に聞いてやる。これからはハーレムなんて考えず、心を入れ替えて1人の女だけを愛する事を誓えるか?」


魔王の問いかけに、アランは後ろでへたり込んでいる女性達には目もくれずに媚びへつらった笑みを浮かべ、懇願する。


「もちろんですっ!!あなた様の言うとおり、2度とハーレムなんて考えません!!

王の座だって欲しければノシをつけてお譲りします。

女達だって好きにして構いません!!

だから、命だけは・・・命だけはお助けをぉぉ!!」


魔王はアランをジト目で睨むと、まだ腰を抜かし、地面にへたり込んでいる女性達に振り返る。


「こんな事を言ってるがどうなんだ?」


「マッジ好きにしてイイよ!!だから命だけは助けてくんね?」


「わたしぃ~、貞操より命の方が大事なんです~。」


「いいよっ?それで助かるんならバッチこ~いって感じ?」


「あらあら、これは困ってしまいましたわ。」


「ねぇねぇ、好きにされるってどういうこと?切り裂けばいいの?」


「・・・・・・・・・何なんだこいつら。」


誰もがアランや仲間の事など考えず、自分の事だけを考えていた。魔王は額を抑え、ぼそりと呟く。


「こいつ等全員・・・荒療治するか・・・」


その呟きが聞こえたか、アランが弱々しく問う。


「なっ・・・何をするつもりだっ!?

あんたの言う通りにするっ!!あんたに絶対に逆らわないから許してくれぇぇぇ。」


「はぁ、その演技・・・いい加減やめろ?バレバレだ。」


魔王の言葉にアランはビクッと震える。


「なっ・・・何を言ってるんだ?」


「俺にそこの女共をあてがって、油断した所を後ろから刺すんだろ?分かってる。」


その言葉にアランだけでなく、女性達まで愕然とした表情になる。


「ここまで腐った奴らは久し振りだな。

念入りにお仕置きしてやるぜ。」


魔王は悪魔的な笑みをすると、ゆっくりとアランへと近付いていった。




「やめろぉおおおぉ!!」


王は自分の絶叫で目を覚ます。


「はっ・・・ここは?」


目の前にいるのは1人の青年。

だが、王は既にこの青年の正体を知っている。


「お帰り。全部見てきたか?」


「貴様っ、ぼっち魔王かっ!!

息子を

・・・アランをどうしたっ?」


強大な存在であると知っていながら、それでも王は魔王へと詰め寄る。


「その様子だと、途中で目を覚ましたのか。

なかなか強靭な精神力だな。」


魔王は感心する。


「息子の為なら、ワシは神にだろうと逆らえる。」


王はぎりぎりと身体を震わせながら魔王を睨みつける。


「・・・はぁ、相変わらず子離れは出来てねぇみたいだな・・・」


「なんじゃとぉっ!!」


「本当は分かってるだろ?自分が息子をどれだけ甘やかして、ダメにしたのか?」


魔王の言葉に王は怯む。


「そ・・・それは・・・」


「それとも、自分の非を認めるのが嫌で息子を甘やかし続けたのか?」


魔王の言葉に王は項垂れる。


「そのような事は・・・そのような事は・・・」


呟く声にも力がなくなって行く。


「ライル様・・・認めましょう。」


王は置かれた手に気づいて横を見ると、執事が立っていた。


「お主は・・・」


「大変申し訳ございません。

実は・・・王が記憶を失ったのを承知で全て把握しておりました。」


その言葉に、王は信じられないものを見る目で執事を見る。


「全て・・・知っておったのか?」


王の問いに執事はゆっくりと頷く。


「・・・はい。」


「ワシが絶えずアランの事を心配しておったと言うのにか?」


王の語気は強くなって行くが、執事はただ頷くのみ。


「はっ。」


「では捜索の件はなんだったのだっ!!」


バシィッ


頬を強くはたかれ、口から血を流しながらも、執事はたんたんと答える。


「見つかったと知れば、ライル様は直ぐに迎えに行ったでしょう。

ぼっち魔王様のお仕置きといえ、校正しかけているアラン様にライル様が会えば、全ては水の泡・・・

我ら家臣一同・・・ライル様のためと思えば、涙を飲んで知らぬ振りを決め込んでおりました。」


「そっ・・・それはっ・・・」


なおも叩こうとした手が空中で止まる。


「全ての非は、アラン様をたしなめようとしなかった我等家臣の非。

処罰は覚悟しておりますっ!!

ですが、今一度我等の声をお聞き下さるのであれば、アラン様が校正するまで、もう暫くお時間を下さい!!」


執事はそれだけを言うと、深々と頭を下げる。


「俺が言うのも何だが、こいつ等は立派な家臣だとおもうぜ?

主の為を思っての行動だ。意を組むのも王の仕事じゃねぇのか?」


魔王は執事の傷を癒しながら王に語りかける。

王は上げた手を震えさせながら、そのまま目元に持ってくる。


「分かっておる・・・本当は分かっておったのだ・・・

本当に悪いのは、息子を愛するが故に全てを許し続けたワシの方だったというのも・・・全て分かっておったのだ・・・」


王はそのまま泣き崩れる。


「そのような事はありません!!

王が間違っているのなら、それを正すのも家臣の務め・・・

そのような基本すら守れなかった我等の非なのですっ!!」


執事は泣き崩れる王の手を取り、一緒に泣き始める。


バァンッ


「私も同じです!!己が身の可愛さから、王に意見すらしませんでしたっ!!」


「私もですっ!!」


「俺だって・・・!!」


「わたくしこそっ!!」


「おいどんもですばいっ!!」


「拙者もっ!!」


「それがしもっ!!」


「あたいもっ!!」


「おらもっ!!」


扉を開けてどんどんと人が号泣しながら入ってくる。

皆扉に聞き耳を立てて居たようだ。


「全く・・・親がこれだけ好かれてるってのに、肝心の息子は・・・」


魔王は水晶球を取り出すと覗き込む。


「ああ、こっちもいい頃だ。そろそろ・・・だな。」


ーーーーー


カラン村の入り口前で、田吾作は額や肩、左腕から血を流していた。


「大丈夫が?花子?」


田吾作の足元には、無残にも右手の羽根が穴だらけになった花子が突っ伏していた。


「あだすは大丈夫だぁ。それより田吾作どんこそ、血が出てんべ!!」


花子が田吾作を心配するが、田吾作は正面を向いたまま動こうとしない。


「ひゃぁははははははは、命が惜しけりゃぁ有り金全部と女を差し出しゃ許してやんよ。」


「きゃはは、マッジウケるんですけど~。

クワ一本で盗賊団"あんころ餅"のリーダー、スカンク様に立ち向かうつもりぃ~?」


田吾作の目の前には、30人近い盗賊団が村へ攻め入ろうと様々な武器を構えていた。


「首領の言う通りでぃ。

村の奴らは怯えて誰もでてこねぇ。

1人意気がっても無駄な足掻きだ!!」


「わたしぃ~、無駄な足掻きって見苦しいと思うんですけどぉ~。」


「マジでこの村に義理立てするつもり~?

盗賊団の方が楽なーんーでーすーけーど~?。」


「あらあら、それともそこのハーピーに情でも移ったのかしら?」


「ねぇねぇ、そこのハーピーの羽根むしって良い?良い?」


村をただ1人で守ろうとしている田吾作へ、盗賊団からヤジが飛ぶ。

その中には何処かで見た事のある5人の女性もいた。


「おまえたづっ、いなぐなっだど思ったら・・・なにしどんだ!?」


「何って、生活の為に働いてるのよ?

あんたこそ暫く会わないうちに随分と変わったわねぇ。」


代表してラミアの少女が答える。


「そうそう、汗水垂らしてってマジで流行らない感じ?」


インプの少女も続く。


「いぎだおれでだどころぉ、たすげでもらっだ恩を忘れだだが?」


「わたしぃ~、助けて貰った覚えなんてないですしぃ~。」


「あらあら、あれで助けて貰ったなんてどの口が言えるのかしら?

見返りを求めようとしていたじゃありませんか。」


「そうだよそうだよ。

誰も切っちゃダメなんて生き地獄だよ。」


田吾作が問うが、帰ってくるのはろくでもない返事ばかりだった。


「なに言っとるだ!!

記憶を無ぐしで彷徨っでだおらだずを、あだだがぐ迎え入れでくれだんでねぇが!!

それなのにおめたづは・・・盗賊の真似ごどなんで、はずがしいとおもわねんが!!」


田吾作の声にラミアは耳を日ほじりながら答える。


「マッジウケる~。

名前もらって?家貰って?食べ物も貰ったから温かく迎え入れてもらった?

3日で食料尽きたから、貰いに行ったら後は自分で働けって言われたんで~、スカンク様に取り入って働いてるだけですけど~?」


「「「そうそう。」」」


その答えに、田吾作は顔を真っ赤にする。


「3日で!?

あれは1ヶ月分ってゆずっでもらっだ食料でねぇが!!

それに、はだらがねぇもんは食うべからずだ!!汗水垂らしてではだらぐのがあだり前でねぇか!!」


ラミアは呆れた顔を田吾作へ向けると、盗賊団のリーダーへしなだれかかり、胸に顔を埋めながらおねだりをする。


「だから、働いてんじゃん!!

マッジムカつくぅ~。


ねぇん、スカンク様ぁ~ん、さっさとあいつ殺して村の金目のものと食料奪っちゃってよ~。」


スカンクはまんざらでもない表情をすると、盗賊団を見渡し、


「ぎゃははははは、それもそうだ。

さっさと金目のものと女共を頂きに行きますかっ!!」


号令をかけると、一斉に田吾作へと襲いかかる。


「こごはオラが命をかげでも通さねえ!!

花子・・・安全などごさ逃げるだっ!!」


「田吾作さっ・・・あだすも、最後まで田吾作さと一緒にただがうだっ!!」


「花子っ頼むからにげるだっ!!」


「いやだっ、あだす・・・好ぎなひどを置いで逃げらんねっ!!」


「花子・・・おら・・・身元もなんもわがんねがったがら言えながっだげど・・・おらも花子のごどが好きだっ、だがら逃げでくれっ!!時間だげでも稼いで見せるだっ!!」


なおもすがり付いてくる花子を後ろに突き飛ばし、田吾作は一斉に掛かって来る盗賊団へとクワを振り上げる。


多勢に無勢、何人かはそのクワで打ち据えるも、盗賊達の武器が田吾作の身体へと吸い込まれてゆく。


「田吾作さ~!!」


どんどん傷ついて行く田吾作を見兼ね、花子が助けに出ようとする。


「花子ぉぉ~!!」


そんな花子へと、ラミアの放った魔法が吸い込まれるように向かって行き・・・


パシィィインッ


ぶつかったと思った瞬間、眩しい程の光が辺り一面を真っ白に変えた。


「花子っ、花子ぉぉぉっ。」


田吾作は光の中、クワを放り投げて花子のいた場所へ駆け出す。


「田吾作さぁ~。」


光の中から花子の田吾作を呼ぶ声が聞こえる。


「花子ぉ~。」


田吾作も花子の名を呼びながら手を伸ばす。


田吾作の手が誰かの手を握る。


「花子っ!!」


田吾作は、その手が花子の手だと確信を持って引き寄せ、抱きしめる。


「田吾作さっ!!」


その手は花子の手で間違いなかったようで、花子も田吾作を抱きしめる。


「成長したようだな。安心したぜ。」


田吾作の近くから男性の声がすると、パチリと言う、指を弾く音が聞こえる。


「ぐわっ!?」


「ひひゃっ!?」


「なんだこりゃぁ!?」


「何これっ!?しんじらんな~い!?」


光の中から口々に悲鳴が聞こえてくる。


田吾作と花子はお互いに抱きしめあったままぎゅっと目をつむり、光が収まるのを待つ。


「うるせぇな、ついでに飛ばしとくか。」


パチンッ


再度指のなる音が聞こえると、聞こえていた悲鳴が静かになる。


「もういいぜ、目を開けな。」


男性の声に導かれるまま田吾作と花子が目を開くと、そこには地面から伸びる草に身体中巻きつけられ、気絶している盗賊団の姿があった。


「これは・・・」


「俺の取引先にちょっかいかけた礼だ。

まずは気絶してもらった。」


"まずは"と言う所に引っかかりを感じたが、2人は助けて貰った礼をすぐにする。


「ありがどうございましただ。お陰で村が救われただ。」


「たすかっただ。あのまま花子が死んじまったら・・・あら・・・おらぁ・・・」


男性ーぼっち魔王は花子の礼には「あぁ。」とだけ返したが、田吾作の礼には大変驚いた。


「変わるもんだな・・・」


そして盗賊団の方を見る。


「変わらなかった奴等もいたが・・・まぁいい。」


魔王は田吾作へ振り返る。


「田吾作・・・と言ったな。

今の気持ちは本当か?」


魔王の出す威圧感に気圧されるが、それでもしっかりと目を見て頷く。


「んだ!!おらぁ、記憶もねぇ流れもんだで我慢しでだが、花子だげは失いたぐねぇ!!

何があろうと守って見せるだ!!」


魔王はゆっくりと微笑む。


「そうか。

大切な者を見つけることができたんだな。」


そして真剣な顔になり、


「俺は記憶を戻すことが出来る。

記憶を戻してやろうか?」


ゆっくりと言った。


「ほっ・・・本当げ?」


魔王の言葉に飛びついたのは田吾作ではなく、花子の方だった。


「田吾作さは、ずっと自分のごどがわがんなぐって悩んでただ!!

おねげえだ、田吾作さの記憶を戻してけれっ!!」


花子は魔王へ深々と頭を下げる。

田吾作はと言うと、難しい顔で立ったままだ。


「記憶が戻れば、田吾作は別人のようになるかもしれないんだぞ?」


魔王の言葉に田吾作と、花子の体がビクッとする。


「それでも田吾作の記憶が戻るのを願うのか?」


花子は頭を下げたまま言葉を続ける。


「わだすの事は忘れでもいい。

田吾作さが大切な人を思い出せれば、それでいいだ。」


花子は顔を上げようとしない。足元の地面がぽつぽつと濡れる。


「花子お・・・」


田吾作はそんな花子を抱きしめようとして、踏みとどまる。

そして迷いを吹っ切った顔で魔王の方を向く。


「おらぁ・・・花子のこどはぜってぇ忘れねぇだ!!

この気持ちは永遠のものだぁ!!

たどえ元の記憶に潰されでも、必ず思い出しで見せる!!

だがら・・・だがら・・・お願いするだ!!記憶を戻しで欲しいだ!!」


魔王はその言葉を一つ一つ噛み締めるように聞き、ゆっくりという。


「・・・分かった。

お前の決意、確かに受け取った。



覚悟は・・・いいな?」


魔王がゆっくりと田吾作の頭に手をかざす。


ゴクリッ


誰ともなく、ツバを飲む音が大きく響く。


「お願い・・・するだ。」


花子は俯いたままだ。


「行くぞ。」


田吾作は体を固くする。


バチィ


魔王の手から火花が散ると、田吾作が崩れ落ちる。


「田吾作さっ!!」


音に反応し、顔を上げた花子は崩れ落ちた田吾作へと駆け寄る。


「田吾作さっ、田吾作さっ、・・・何をしただ!?」


意識の無い田吾作へ声を掛けるが反応しない。花子は涙目でキッと魔王を睨みつける。


「安心しろ、戻った記憶の情報量で意識が飛んだだけだ。

すぐに起きる。」


魔王の言葉を受け取ったか、田吾作は身じろぎする。


「田吾作さっ!!良かった・・・無事だっただか!?」


「う・・・うぅん・・・」


「田吾作さっ、良かった・・・良かった・・・」


花子は田吾作をギュッと抱きしめる。


「俺・・・は・・・?」


田吾作はかぶりを振ると立ち上がる。

驚いた花子は田吾作から手を離してしまう。


「田吾作さっ、急にたぢあがってはあぶねぇだ。」


「田吾作?俺の名はアランだが?」


田吾作・・・もとい、ひょろひょろだった面影はまったくなくなっているが、彼はこの国の王の馬鹿息子、アランだった。


「田吾作・・・さ?」


花子は困惑した顔で田吾作を見る。


田吾作は花子を無視し、魔王へと殴りかかる。


「ぼっち魔王・・・よくもやってくれたな!!」


以前のひょろひょろから、農作業を経てムキムキマッチョになった剛腕が魔王へと迫る。


「おっとあぶねぇっ。」


魔王はひょいとかわすが、困惑した表情だ。


「いきなり何しやがるっ!!」


「何って、お前には言いたい事が色々あるから・・・なっ!!」


アランは話をしながら、なおも剛腕を振るい続ける。


「いや、今のお前なら俺が何したかったか分かるだろ?」


「それとこれとは・・・話が別だっ!!」


「ちょっ・・・やめろって!!

いい加減怒るぞっ!!」


「やめて欲しけりゃ、さっさと城に戻せっ!!

俺はオヤジに謝んなきゃいけねえんだ!!」


最後の言葉にハッとした魔王と、アランの視線が交錯する。


「お前・・・」


魔王は両手を上げると、動きを止める。


「・・・ふっ!!」


アランの手は魔王の目の前で止まる。


「分かった。

王城へ転移してやるよ・・・良いんだな?」


「・・・当たり前だ。」


魔王は地面に幾何学模様の魔法陣を描く。


パチンッ


最後に指を弾くと、魔法陣が光り輝く。


「これに乗れば王城だ・・・本当に良いんだな?」


「・・・当たり前だ。」


アランが魔法陣へ向かおうとした時、それまで固まっていた花子が叫ぶ。


「田吾作さっ!!・・・あっ!?」


花子はしまったと言う表情になり、すぐに両手で口を抑える。

アランは足を止め、振り返ると一瞬切なそうな顔をしたが、すぐに能面のように無表情になる。


「誰と勘違いしてるのか知らねぇが、俺の名前はアランだ。

この国の次期国王の名前だ。 2度と間違えるなよ。・・・花子。」


それだけ言うと魔法陣へと駆け出す。


「アラン、伝言だ。

約束は違えるなってさ。」


アランが魔法陣の直前で振り返ると、魔王は明後日の方向を見ていた。

その視線を辿ると、木の上に花子の兄が立っていた。


「・・・ったく、全部てめえの仕業かよ。」


「いや、あれは想定外だ。」


魔王は盗賊団を指差す。


「そうかよ。

なら、答えておく。」


アランは大きく息を吸い、叫ぶ。


「俺は、もう2度と約束はたがえない!!

だが、時間がどれだけかかるか分からないし、 必ず幸せに出来るとは言えないっ。

 他に幸せになる道があれば、そっちを進んでもらっても構わない!!

胸を張って歩けるようになるまでは・・・俺に資格は無いからなっ!!」


言い切ると満足した表情で魔法陣の中に入り、


シュンッ


と、小さな音を残し消えて行った。



アランが消えると、堰を切ったように花子が泣き崩れる。


「田吾作さっ・・・田吾作さっ・・・」


そんな花子のそばへ兄がゆっくりと降り立つ。


「あんちゃっ・・・田吾作さが・・・田吾作さが・・・」


兄は無言で花子の頭を撫でる。


「あだすのごど忘れでっ・・・でもっ、田吾作さをまっでる人の事考えるどっ・・・」


「よぐ我慢した。偉いぞ花子。」


「でもっ・・・わだすっ・・・わだすっ・・・」


兄は困ったように花子を見ると、切り出す。


「大丈夫・・・

恐らぐ彼は覚えでる。」


「でっ・・・でもっ?」


「あいづは約束は必ず守ると言っでただ。

なら、それを信じっぺ。」


「でも、あだすのごど忘れでだ。約束も覚えでだが・・・」


「花子、田吾作の記憶が戻っでがら、自分の名を言っだが?」


「ううん、言っでねぇ・・・あっ!?」


「んだ、それでもあいづは花子の名前を知っでだ。」


「それじゃ・・・」


「俺は魔王に聞いだ以上の事は分がんね。

でも、田吾作は元の場所でやんなげればなんねぇごどがあるんだべ。

んで、胸を張っで会えるようになっだら迎えに来る。

俺はそう聞こえだが、花子はどうだ?」


花子はアランの最後の言葉を反芻し、顔が真っ赤になる。


「あっ・・・」


「分がったが?

胸を張っで迎えに来れるまで、待ってで欲しい。

あいづの最後の言葉はそう聞こえたんじゃねぇが?」


「そっ・・・それは・・・」


「全ぐ・・・不器用な義弟ができたもんだ。」


「あんちゃん・・・」


そんな2人を微笑ましく見ていた魔王は、そっと姿を消すのであった。



これは後に、賢王と讃えられるアラン王と、その妻であり民に絶大な人気を得た花子王妃の出会いの真相だが、知るものはごく僅かである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ