見えないお仕事
冒険者組合の敷地内には、様々な施設が存在している。
冒険者の誰もが知る受付窓口、その後方では事務員が多数在籍し、
依頼内容の管理や精査、報酬の計算など様々な処理を行っている。
やや規模が大きい場所では食堂が併設されているところも多いが、
冒険者は夜間活動もありうるために昼夜問わず開いている。
夜間は酒も提供されるため、ここで宴会が開かれることも多い。
安めの武器や防具、ちょっとした日用品や薬品を扱う場所もある。
自前でこの手の装備を揃えられない新人達への救済策でもある。
最近出回り始めた、日光を蓄積し暗所で光を開放できる照明や、
かさばらない錠剤型で、必要に応じて水に溶かし飲用する薬など、
普段の生活でも重宝しそうなものも揃っている。
害獣や魔獣は、討伐によって食材や素材として扱うものも数多い。
それを解体して必要部位に分ける解体場や、保存する倉庫もある。
迷宮や遺跡で出土する未知の品物は厳重に宝物庫へ納められる。
遠征で一時的に町に滞在する場合、安価に泊まれる宿泊所もある。
災害などの緊急時には看護施設として流用する場合もある。
居心地が良いとは言えないのだが、寝床としてとにかく安いため、
それを良いことに長々と居座る奴も出てきてしまい…
ここにもそんな奴が住み着いていた。魔術師フレスノである。
◆
外見は少女のようだが、実は三十近い。六つ星の上級冒険者。
癖のある亜麻色の長い髪を手入れもせず無造作に伸ばしている。
目つきが非常に悪く、この世の全てを恨んでいるようだ、
などと言われているが、実際のところ視力が悪いだけである。
耳の付け根が痛くなるとかで、眼鏡は頑なに拒んでいる。
他の冒険者との会話もあまりしない。なので怖がられたままだ。
もっとも当人はそれを気にも留めていない。
むしろ都合がいいとすら思っている。
実力はあるはずだが護衛も害獣駆除も引き受けない。指名も断る。
唯一、定期的に行うのは薬草採集や鉱物採集のみ。
しかし、高額報酬を得ている。希少な薬草、鉱物だからである。
六つ星では、仕事は一年しなくても冒険者資格の失効はしないが、
彼女は律儀に月二回ずつ入手の難しい薬草か鉱物を採集してくる。
そんなフレスノは普段、宿泊所にこもって出てこない。
夜の食事時だけは食堂に現れ、今夜のおすすめ料理を平らげる。
ゆっくりと味わって。高級酒ひと瓶を空けて。
組合長も控えめながら時々苦言を呈し、
「高給取りなんだから、近くに借家でも借りたらどうなんだ?」
と言ったのだが。
「めんどいからやだ」
の一言だった。
◆
今夜も客が引けた頃に食事を終えると料金を多めに置き、
ご馳走様と料理長に告げてフレスノは宿泊所へ戻っていった。
定宿となっている部屋に入り、鍵をかける。
《施錠》を唱え鍵の上からさらに部屋の扉を固定。
《鳴子》を唱え、誰か訪ねてきたら即反応できるようにする。
《放たれる視界》と《音声記録》を、今夜は四つずつ同時に使用。
食堂で怪しげな会話をしていた、疑わしい冒険者達に張り付ける。
フレスノは王国より密命を受けた冒険者監察官である。
犯罪歴のある者は、冒険者資格を取得できない。
しかし、くすぶっている冒険者は生活苦ややりきれなさから、
安易に犯罪に加担する者も出てきてしまう。残念な話だが。
孤独な仕事ではある。喜ばれる仕事でもない。
が、人付き合いが苦手な自分にはある意味天職とも思っている。
組合長にはいつも一芝居打ってもらっている。
冒険者の情報を得るには、この場所にいるのが都合いいのだ。
彼女は今夜も網を張る。
冒険者の中にはこういう仕事の人もいるんだろうなぁと。
彼女はお金には不自由していないので、眼鏡を買おうと思えば買えます。




