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ここはなにかが欠けている

見えないお仕事

作者: 浮月重月
掲載日:2026/07/25

冒険者組合の敷地内には、様々な施設が存在している。


冒険者の誰もが知る受付窓口、その後方では事務員が多数在籍し、

依頼内容の管理や精査、報酬の計算など様々な処理を行っている。


やや規模が大きい場所では食堂が併設されているところも多いが、

冒険者は夜間活動もありうるために昼夜問わず開いている。

夜間は酒も提供されるため、ここで宴会が開かれることも多い。


安めの武器や防具、ちょっとした日用品や薬品を扱う場所もある。

自前でこの手の装備を揃えられない新人達への救済策でもある。

最近出回り始めた、日光を蓄積し暗所で光を開放できる照明や、

かさばらない錠剤型で、必要に応じて水に溶かし飲用する薬など、

普段の生活でも重宝しそうなものも揃っている。


害獣や魔獣は、討伐によって食材や素材として扱うものも数多い。

それを解体して必要部位に分ける解体場や、保存する倉庫もある。

迷宮や遺跡で出土する未知の品物は厳重に宝物庫へ納められる。


遠征で一時的に町に滞在する場合、安価に泊まれる宿泊所もある。

災害などの緊急時には看護施設として流用する場合もある。

居心地が良いとは言えないのだが、寝床としてとにかく安いため、

それを良いことに長々と居座る奴も出てきてしまい…


ここにもそんな奴が住み着いていた。魔術師フレスノである。



外見は少女のようだが、実は三十近い。六つ星の上級冒険者。

癖のある亜麻色の長い髪を手入れもせず無造作に伸ばしている。

目つきが非常に悪く、この世の全てを恨んでいるようだ、

などと言われているが、実際のところ視力が悪いだけである。

耳の付け根が痛くなるとかで、眼鏡は頑なに拒んでいる。


他の冒険者との会話もあまりしない。なので怖がられたままだ。

もっとも当人はそれを気にも留めていない。

むしろ都合がいいとすら思っている。


実力はあるはずだが護衛も害獣駆除も引き受けない。指名も断る。

唯一、定期的に行うのは薬草採集や鉱物採集のみ。

しかし、高額報酬を得ている。希少な薬草、鉱物だからである。

六つ星では、仕事は一年しなくても冒険者資格の失効はしないが、

彼女は律儀に月二回ずつ入手の難しい薬草か鉱物を採集してくる。


そんなフレスノは普段、宿泊所にこもって出てこない。

夜の食事時だけは食堂に現れ、今夜のおすすめ料理を平らげる。

ゆっくりと味わって。高級酒ひと瓶を空けて。


組合長も控えめながら時々苦言を呈し、


「高給取りなんだから、近くに借家でも借りたらどうなんだ?」


と言ったのだが。


「めんどいからやだ」


の一言だった。



今夜も客が引けた頃に食事を終えると料金を多めに置き、

ご馳走様と料理長に告げてフレスノは宿泊所へ戻っていった。


定宿となっている部屋に入り、鍵をかける。

《施錠》を唱え鍵の上からさらに部屋の扉を固定。

《鳴子》を唱え、誰か訪ねてきたら即反応できるようにする。

《放たれる視界》と《音声記録》を、今夜は四つずつ同時に使用。

食堂で怪しげな会話をしていた、疑わしい冒険者達に張り付ける。


フレスノは王国より密命を受けた冒険者監察官である。


犯罪歴のある者は、冒険者資格を取得できない。

しかし、くすぶっている冒険者は生活苦ややりきれなさから、

安易に犯罪に加担する者も出てきてしまう。残念な話だが。


孤独な仕事ではある。喜ばれる仕事でもない。

が、人付き合いが苦手な自分にはある意味天職とも思っている。


組合長にはいつも一芝居打ってもらっている。

冒険者の情報を得るには、この場所にいるのが都合いいのだ。


彼女は今夜も網を張る。

冒険者の中にはこういう仕事の人もいるんだろうなぁと。

彼女はお金には不自由していないので、眼鏡を買おうと思えば買えます。

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