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いつか魔王と勇者になる、その日まで。   作者: 彩白 莱灯


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第4話

「どうした、シュウ」



 声をかけても反応はない。ただ髪が揺れるだけ。

 頭を伏せ、けれど足が、真っ直ぐと進む。

 制止の声は届いていない。

 向かって行くのは――お化け屋敷。



「ワーカーホリックにでもなったか?」



 そんなわけ、と思う。首筋に垂れる汗が考えに同調する。

 フラフラと足取り悪く進んでいく。

 確実にシュウの意思じゃない。

 操られてる?

 いや、魔力は感じない。

 夢遊病?

 ……シュウが?

 今までそんな傾向なかった。

 もしそうだとして、方向が『そこ』というのは、何故なのか。



 あぁ、そうだ。

 以前、見た人間。

 真夜中に移動する人間がいた。

 そいつも変な足取りだった。

 向かっていたのは、お化け屋敷。



「っ!」



 眼球の奥に激痛が走る。

 脳裏に浮かぶ映像。

 頼りなく棒立ちのシュウが、大きい手に掴まれて『喰われる』。

 ああ、これは、未来だ。



「なんかあるんだな」



 身支度だけ整え、シュウの後を追う。上手いこと障害物を避けている。確実にお化け屋敷へ向かう。

 木や街頭の上から様子を見るが、やはりシュウの周りには何も無い。魔法も感じない。

 人間には見えない、魔法使いにも感じ取れない何か?

 おそらくの目的地に着く前に目星だけでもつけておきたい。

 そう思うのに、俺は既にお化け屋敷の入口にいる。

 この場に来てもなにもわからない。

 なんだ、シュウは何をされている。

 考えろ。

 考えろ。



「……揺れている?」



 ダラりと垂れる装飾品。

 風で吹かれるならまだしも、小刻みに揺れるのは不自然だ。

 俺が濡れている訳でもない。

 なにかが振動を起こしている?

 建物は揺れていない。

 軽いものだけが、揺れている。



 ――振動。超音波。



 シュウが入口に足を入れかけた。

 その寸前に背部に降り立った。

 耳元で。



 大きく手を叩いた。



「わぁ!?」



 音よりも大きい産声を上げた。

 瞬時に振り返り、意志を持った大きな瞳が俺を見上げる。



「え、なになになに!?」

「起きたかよ寝坊助」

「……おはよう?」



 眉根をよせ、不快、いや、不可解を目一杯表現している。

 はぁ、と一息ついて、襟元を仰いだ。

 安心と、冷静さと取り戻す。

 力こそ強いが、感覚系や精神操作系には弱いのか。

 伏せた瞼の下。この騒動の主を辿る。

 シュウが自我を取り戻した時点で俺の存在も察しているだろう。

 なにかしてくる様子は無い。

 だが、このままノコノコ帰るつもりはない。

 どうせ、邪魔したヤツを素直に返すわけもないだろう。



 ――入口が勝手に開いた。



「シュウ」

「ん?」

「招待されたみたいだぞ」

「およ?」



 もうなんの心配もなく元通りなのだろう。

 遠くでも見るように手を額に当てる。

 扉の先の空間は真っ暗で見えない。



「どうする?」



 答えなんて決まってる。

 ニヤッと笑った。



「ようやく一緒に遊べるね?」

「今日は休みだからな。存分に遊ぼうや」

「おー!」



 気分は遠足。目的地は遊園地。選択するのはお化け屋敷。

 一発目にしてはなかなか稀有な選択肢だ。



 入口横のランタンを持つ。

 火の魔法で消えない炎を宿す。

 さて、入ろう……と、その前に。



「シュウ、持っとけ」

「なに?」

「お前、操られたら弱いみたいだし。そこ狙われてもいいようにな」

「むっ、弱いって言ったな」

「現に操られてたしな」

「くっ」



 この為に作ったモノではないが、ちょうどいいと思った。

 ただ、どうやって使うかだ。

 先程の操られた状態では自分で使う頭にはならないだろう。

 操られてても使える手筈。

 もしくは、操る手段と主犯引き離す。



 どんな相手かはわからない。

 ただ、シュウになにかをしよう、させようとした。

 もしかしたら別に危害を与えるものではないかもしれない。

 けれどそれなら操る必要がない。

 なにかまともには頼めない事情があったのだろう。



 警戒するに越したことはない。

 拗ねて悔しそうなシュウを後ろにして、ようやく足を異世界へ踏み入れる。



「……」

「……」

「何度も来るもんじゃないな」

「そうだねぇ」



 見慣れた空間だ。

 二桁とまではいかずとも片手分は通った場所だ。

 ランタンがなくても次の部屋まで行けただろう。

 今回は脅かし役もいない。装置も動いていない。

 ……ただくらいだけの部屋じゃないか。



「扉」



 呟くしかやることがない。

 せっかくなのでシュウに開いてもらった。



 だからといって何も新しいことはなく、二つ目の部屋も見飽きた空間だ。

 ……と、思ったが。



「あっちに誰かいるな」



 気配がする。

 それは『非常口』と照らされた扉の向こう側。

 シュウも気付いていたのだろう、俺が言う前に視線は向いていた。

 どちらから示し合わせるでもなく、そちらへ進む。

 真新しい場所の方が楽しそうだ。



 重い鉄の塊を押しあける。

 無骨な階段が上下に続いている。

 気配がするのは下。

 だが。

 灯りがない故に、行く先はまさに『奈落』。

 不定期に鳴り響く音と声。

 お化け屋敷というアトラクションより、いっそう不気味さが漂っている。



「この先行ったことあるか?」

「僕がいたのは上だから、下は知らなーい」

「じゃ、ここからが本番だな」



 ランタンを本来の役目として、階段を降りる。

 カン、カン、と高い音が響く。

 だとしても下からの音は消えることは無い。

 気配を察していないのか、気にしていないのか。



 何度か折り返し、扉らしきものがようやく見えてきた。

『PRIVATE』と書かれた扉。

 それは階段の最下層だった。

 音も気配も、この扉の奥から。



 視線を合わせ、頷く。

 扉を開いた瞬間、シュウが勢いよく飛び込む。

 俺は踏み込まずに身を潜め、シュウの反応を伺う。



「……あれ、てんちょーさん?」



 緊張感のない声だった。

 それに呼応して、「おはよう、シュウくん」と聞こえた。



「どうしたの? こんな朝早くにー」

「ちょっとやり残した仕事があってね。そっちの子も、隠れないでいいよ」



 気付いてる。

 俺は気配を隠すことについては自信がある。

 一般人に見つけられるほど腑抜けちゃいない。

 つまり、俺以上に戦い慣れてるか、気配を読むことに慣れているか。



 すっとぼけて身を隠そうか判断が出る前に「だってー」と声を投げてきた。

 アホ。



「……どーも」

「シュウくんのお友達だね」

「そーです。シュウをここに連れてきたの、アンタ?」

「ええ、ちょっと手伝ってほしいことがあったのでね」



 随分素直に言うな……。

 メガネを掛けた中年。不健康そうな顔色と痩せ型体型。苦労してそうな髪の量。

 いかにも一般人です、といった出で立ち。

 こんな奴がシュウを操った?



「なーにー?」



 警戒心なく、無邪気に聞いている。

 小首を傾げるオマケ付きだ。

 その挙動で浮かんだ。



 ――舐められてるのか。



 見た目はただの子どもだ。

 素直に言っても支障はない。

 力で捻り潰せると。



「君の体が欲しい――」



 店長の後ろで、山のように盛り上がる影。



「――彼女がそう言っているんだ」

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