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いつか魔王と勇者になる、その日まで。   作者: 彩白 莱灯


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第2話

 ――― ♠




「あー! ねこさんだー!」

「僕、風船ほしい!」

「私もー!」

「はいどーぞー」

「私には……?」

「ん」

「あ、ありがとう」


「にいちゃん、時計治せるかい?」

「ああ、よゆーっすよ。ちょいと待っててください。先のお客さん。アクセサリー直りました」

「キャー! ありがとう! これ記念日に貰ったばっかりだったからうれしー!」

「まいどー」



 この国はサービス業だ。どこかしらには求人があるだろうと思っていたが、その予想は大当たり。

 着ぐるみを着て風船配り。蒸し暑いし体力がいる。体格的にも制限がある。

 そこらへん、シュウはクリアしていた。

 だからあの三毛猫の中身はシュウだ。

 満遍なく渡せと言っているのにどうにもあいつは好き嫌いがあるらしい。



 それを横目に、俺は露店を出している。

 と言っても何かを売っているわけではなく、『なんでも直します』の看板のみ。

 こういう人が群れる場所では、多かれ少なかれ接触が起きる。

 そうなれば装飾品、靴は壊れるし、服は破れる。

 俺は手先は器用だから狙ってみた。

 シュウと距離を開けない方が目的だったが、両方上手くいった。



「迷子のご案内を申し上げます――」



 子どもが一人いないという案内。

 シュウの周りに群れている子どもを見るが、該当しそうな子どもはいない。

 ならば謝礼をたかるという手段はとれない。

 手元に目線を戻し、時計の蓋を外した。




 ――― ♠




「結局見つかんなかったのかな?」



 シュウが壁を見ながら呟いた。

 壁に紙が貼ってあって、おそらくは日中に聞いた迷子のことだろう。

 まだ片手ほどの子どもが見つからないならば、親は気が気じゃないだろうな。

 まあ、俺には関係ないが。



 シュウもただ呟いただけのようで、すぐに目線を逸らしていた。

 お互いに何かを言うでもなく、俺は今日の稼ぎを手に夕飯を買いに向かう。

 そこまで稼げたわけでもないし、これからのことを考えればそこまで買い込めない。

 サンドイッチや飲み物だけを買って、国内の公園で休むことにした。



「おやすみー」

「おやすみ」



 木の陰の元で灯りを消すと、月明りや星、ついでに街灯が目立ってくる。

 テーマパークならばイルミネーションとでも言ってみるか。

 ときめきも面白みないので、何の抵抗もなく瞼が閉じていく。



 ―― 物音。



 目を閉じたまま、音のした方に注意を向ける。

 それはこちらに来る様子はなく、むしろ離れて行くようでもある。



「こっちには来ないね」



 ぽつり、と。確かな声が俺に向かってきた。

 片目だけ薄っすら開ければ、シュウも薄目を開けて音のした方を見ている。



「どんな音だった?」

「引きずってる音だった」



 俺も同意見。

 ただ何かはわからない。警戒していてもこちらには来なかったし、姿は見えなかった。ただ向かった先は、あまりいい印象はない。



「お化け屋敷の方だったな」



 仕事で近寄れないわけではないが、そこまでする必要はないだろう。

 気配も音も消え、返事もなかった。今度はしっかりと目を開いて首も捻ってみたら、丸く縮こまって寝息を立てていた。



「ねこ……」



 子どもの真似をしようとして、冷静になった。

 危なかった。




 ――― ♠




 翌朝。

 昨夜の貼り紙はなくなっていた。



「見つかったんだねー」



 他人事の呟きが風に流れて消えた。

 ここも一国とはいえ仕切られた場所。入場にも退場にもゲートは通らなければならない。目的の人物を探すのだとすれば、まずゲートを張ってさえいれば国内外どちらにいるかがわかる。

 子どもの行動は時に予想外ではあるが、例えば職員のみしか立ち入りできない場所にいたとしたら確実に見つかるだろう。そうでない場所であれば、家族連れの多い国だ。他人事ですませずに良心を動かす人間が多少はいることだろう。

 と、なれば。遅かれ少なかれ見つかっていた。



 過ぎたことへの見ず知らずの人間についての関心は砂の様に飛んで行く。

 シュウは着ぐるみを着て風船を持つ。俺はシュウの立ち回りに合わせて露店を広げる。

 まだ入場時間から時間は経っていないから客もまばらだ。ビニールシートの上に胡坐をかき、ついでに頬杖をついた。



「シュウくん、ちょっといいかい」



 耳だけをそちらに向ければ、シュウは話しかけてきた男性を「しゃちょーさん」と呼んだ。雇用主。経営者。この国の主だろうか。

 着ぐるみの頭をそのままに、シュウは社長に向き合っている。



「明日のことなんだけど、ちょっと人手が足りなくてね。今日はこのままでいいから、明日はお化け屋敷の方に行ってくれるかな?」

「なにやるの?」

「裏方だよ。近くの職員の指示通りに動いてくれればそれでいい。力仕事だが大丈夫かな?」

「へーき! 僕ちからあるから!」

「じゃあお願いするね」



 朝っぱらから次の日の調整とは、誰かが急に休んだんだろうか。

 話が済んだ社長は別の所へ歩いていく。

 体を回転させたシュウは着ぐるみ姿で駆け寄ってくる。



「キョウカは明日どうする?」



 お化け屋敷ならば室内仕事がメインだろう。

 露店じゃあ建物の外でやるしかなく、シュウと距離が開いてしまう。

 馬鹿力のシュウには力仕事は適任だから、賃金のためには是非働いてもらいたい。

 となると、だ。



「俺は客として入ろうかな」

「えー! ずるーい!」

「一人でお化け屋敷に入るのがずるいか?」

「遊びじゃん! 僕も遊びたい!」

「それもそうだな。……よし、なら俺を驚かしてみろよ」



 きょとん、と。

 そんなにも予想外の提案だったろうか。

 ……と、思ったが、裏方の力仕事をするシュウが俺を脅かしに来れるだろうか。

 一瞬でそれを訂正しようと口を開いた、が、それよりも早くシュウは両手を挙げる。



「やる!!!」



 着ぐるみの頭が浮いて、シュウの顔と髪と、角が露になった。

 陽の光に照らされたことで、眩しいまでに輝く髪と瞳。

 透明ながらも存在感を色濃くしている角。

 迂闊にも、奪われた。



「被れ」

「ぬぉ!?」



 着ぐるみの頭をたたき落とすと、籠って野太くなった声を上げた。

 幸い、一瞬のことだったから周囲の人間には怪しまれていなさそうだ。



「楽しみだなぁ」



 丸っこい手で頬を包み、首を傾ける、着ぐるみ。女子どもに見せれば風船は余裕で捌けそうだ。

 残念ながら、俺にはシュウの愉しんでいる姿をよく知っている……そういう姿やギャップが好ましいという訳では無いが、まあ、騙されない。



「言っておくが、俺は暗闇には強いぞ」

「どんな風に?」

「それを言ったらつまらないだろう」

「……そうだね。全力出してね!」



 どうやって?

 驚かす相手にどう本気になれと?



 考えて、わからなくて、なんか間抜けで、小さく吹き出した。

 数秒後、籠って小さな笑い声が聞こえた。





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