プロローグ
このヴァリエタース帝国には、四つの盾がある。
《北の盾》。剣技の名門家であるウォークス家が代々、北の地を護ってきた。
《南の盾》。魔塔があり、数ある優秀な人材から選ばれる魔塔主が南の地を護ってきた。
《東の盾》。初代レギオニス家の一人娘が四大精霊王の一人と結婚し、子々孫々と精霊の加護を受けてきた。その精霊術で東の地を護ってきた。
《西の盾》。自身の錬金術により不老となったミセリア・ルスが350年、西の地を護っている。
「当主様、失礼します!北の地、フロースの森に赤龍の群れが出現しました!」
「なんだと、今すぐにルグルスと軍を連れて行け!」
「はっ」
静か過ぎる夜の森に、赤龍の群れが出現しフロースの森の近隣にある村が龍の息吹により、1つ2つと焼き尽くされていく。フロースの森とウォークス家は少し距離があり、伝達が遅くなってしまった。
ソールドマスターであるウォークス家長男であるルグルス・ウォークスとウォークス家屈指の精鋭隊“アクィラ”を向かわせた。
✽✽✽✽✽✽
「よくも森を焼き尽くしてくれたな」
ただ一人の少女が宙に浮かんでいた。
____星々の運命
星々のように煌めき、夜空に舞っている。次の瞬間、眩い閃光が龍の鱗を貫通し串刺しにした。次々と閃光が龍を目掛けて串刺しにしていき、龍が地に落ちていく。
炎を雨で覆い、鎮火していく。灰と化した葉を木を花が龍の屍から生き生きと咲き誇り、再生していく。さっきのことが嘘のように元通り綺麗な森になった。
「第一班と第二班は龍を殺せ!第三班は人命救助をしろ!」
やっとの思いで村に着いたものの、既に手遅れと言いたいほどの有様だった。
「ルグルス!火が回りすぎている、魔法使いが必要だ!」
「なんだと……。今すぐに応援を要請しろ!」
この精鋭隊にこれほどの炎を鎮火できる魔法使いはいない。せいぜい目眩しくらいだ。
馬を降り、赤龍の退治をしようと森の方に行った。
「……あれは、少女か?」
宙に一人の少女がいた。村娘だろうか。
龍を相手にしていたが、彼女から目が離せない。あの燃えているような癖っ毛の赤毛が酷く美しい。危険だから逃げろとでも叫ぶべきなのだろうが、どうもその気にはならない。むしろ、このまま見ていたい。
「星が、綺麗だ……」
こんな混沌とし炎の中にいるというのに、夜空は知らん顔で煌めいている。
「キェエエエエ!!!!」
「何匹いるんだ、お前たちはっ!」
少し呆けた隙に赤龍が襲って来た。のんびり夜空なんて見ていられない。
「ル、ルグルス様!あれは、一体!!」
隊員が指さす方は少女の方角だった。しかし、今は煌めいた星々ではなく、閃光が走っている。
「なんということだ、」
これほどの魔法を使えるものがこの村にいるものだろうか。例え、学園に通っていても高度な光魔法をこれほどに操れるものだろうか。いいや、無理だ。
あの少女は一体何者だ。
森の上を飛んでいた赤龍は、次々に落ちていきそれを見た他の赤龍も彼女の方に行くが、また光魔法により串刺しにされてしまった。ソールドマスターである俺でも龍の硬い鱗を切るのは苦戦してしまうのに、こうも容易く殺してしまうのか。
「っ、待ってくれ、そこの君!!待ってくれ、お礼を言いたい!!」
無視されているのか聞こえてないのか、彼女は森の方に行ってしまった。
「ルグルス様、鎮火が最優先です!ご命令をお願いします!」
「……、風魔法を使える者は砂をかけろ!応援はまだか?」
「来ました!応援、来ました!」
ほっと胸を撫で下ろした。
なんとか火は消え、一段落を得た。
「ゼノ、空にいたあの少女何者だと思う?」
「少女?なんのことだ?」
「見てなかったのか。……その少女が光魔法で龍を殺したんだ」
「なんだと」
精鋭隊“アクィラ”団長のゼノは俺の親友で小さい頃から一緒にいた。そんなゼノでも、赤龍を殺すのは苦戦したそうだ。心底驚いている顔をしている。
「あの少女の正体を調べてくれ、ゼノ」
「これの後片付けが済んだらな」
「助かる」
村が2つも焼き尽くされたんだ。再建は時間がかかるだろうな。しかし、赤龍の鱗などを売れは資源は確保できるだろう。時期当主である俺が、最後までやりきらないとな。
✽✽✽✽✽✽
「師匠〜、赤龍の群れが森に悪さしてたんだ」
「それで森が騒がしかったんだね。……ところで、この赤龍は?」
家の前にどーんと置かれた赤龍の死体が1つ。
「魔法薬の材料にする。今すぐ解剖するから怒らないでよ」
「そういうことじゃ……ま、いっか。カードゲームしたかったのになぁ」
いい歳した大人が唇をとんがらせた拗ね顔をして、家に戻った。ラヴィリーナは、黙々とそんなことは気にせずに赤龍の解剖を始めた。
龍の身体は余すことなく使える。鱗は装備や武器になる。血や臓器は魔法薬に役立つし、肉は美味い。鱗を1枚1枚丁寧に剥がしていくのは骨が折れるが、価値があるので粗末にはできない。
「ふー、流石にしんどい」
細かく切り分けているせいでキリがない。今夜中に終わるのだろうか。
「あ、ミラ、食べちゃダメだから。ほら、ぺっ、ぺっ、」
飼い犬……飼い狼であるミラは龍の肉が大好物で、食べるなと言っているのに私が捌いた肉を貪っている。人の努力をなんだと思ってるんだ。
「夕飯食べたじゃんか、どんなけ食べるのよ」
「ワンっ」
「もっと、じゃないのよ!」
口の周りを血まみれにしながら、笑顔でそう言われても怖いだけだ。布でミラの口の周りを拭き、家に入れた。
「さ、頑張りますか」
「師匠、お腹空いた……ふわぁ」
起きた時から何か違うことがわかった。寝ぼけていた頭が覚めるくらいには。いつもの美味しそうな匂いがない。包丁の音も茹でる音もない。
「師匠……?」
いつもなら、おはようとパンを焼いて、スープを作って、サラダを作って、キッチンに師匠がいるはずなのに。
「……置き手紙だ」
“愛しのラヴィへ
君が起きて、これを読む頃には私は家にいない。何も言わずに、君を置いていってごめんね。捨てたわけじゃない。君を嫌いになったわけじゃない。ただ、どうしても外せない用事ができたんだ。
君は私の後継者として完璧だ。どうかフロースの森を君が護ってくれ。頼んだよ。”
「なにそれ、私が森番に?……無理だよ、まだ、分からないことだらけなのに……」
だから、昨日の夕飯は豪華だったのか。私が好きな料理ばかりで誕生日が来たのかと思った。珍しく、デザートまでのフルコースだった。おまけに、この間私が街で欲しいと強請った魔法書をくれた。どうしてだろうと考えたが、上機嫌だったから気にしなかった。もしかしたら、試練でも与えられるのかと思って身構えたが、なんにもなかった。
“君は私の後継者として完璧だ”
あの厳しく、滅多に褒めないあの師匠が私のことを完璧だと言った。
「私が、森番に、なったんだ」




