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堕天の燈火【人間の書】  作者: 深川我無@書籍発売中


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陰謀の気配2

「静粛に。只今から評議会を執り行う。私は十三貴族。天秤座を司るリブラ家のファウエルだ。国王よりこの評議会の議長を仰せつかっている」


神経質そうな骨張った顔の男がそう宣言した。

 

 円形劇場のようなその部屋は真ん中で二つに分けられていた。ファウエルの議長席を中心に、右側には赤い垂れ幕が掛けられ、十二人の貴族院の面々が座っていた。左側には緑色の垂れ幕が掛けられ、十二人の労働院の面々が座っている。

 

 十三貴族はシュタイナー王国の政治を運営する強大な富と権力を持つ一族達で、それぞれの一族には特別な職責が割り当てられていた。


貴族院を構成する十三貴族をここに示す。

 

 牡羊座のエイリエス家

 牡牛座のタウルス家

 双子座のゲミニ家

 蟹座のキャンサー家

 獅子座のレオ家

 乙女座のヴィルゴ家

 天秤座のリブラ家

 蠍座のスコルピオ家

 蛇遣い座のオフィウクス家

 射手座のサジタリウス家

 山羊座のカプリコルヌス家

 水瓶座のアクエリアス家

 魚座のピィシャス家、以上である。



 

 労働院は血族ではなくシュタイナー王国に籍を置く、各種ギルドの長老や学団連や医師連などからなる民衆の代表者達で構成されていた。


 労働院は以下の組織の長からなる。

 

 農業ギルド 

 漁業ギルド

 建築ギルド

 炭鉱ギルド

 造船ギルド

 鍛冶ギルド

 

 薬草研究所

 王国医師連

 王国学連団

 魔法研究所

 考古学研究所

 

 ルミナス教団教、以上である。



 

「議題は堕天(だてん)燈火ともしびをいかにして天界に返すかだ」


ファウエルがそう言うやいなやライオンのような毛深い男が大声で言った。


「こんなチビに堕天の燈火を持たせてどうする気だ? お使いににでもやるのか?」


「声が大きいぞ。レオ家のサンダーズ。予言ではこの少年で間違いないのだ。議論の余地などあるまい」


 首に巨大な蛇を巻き付けた、痩せて青白い男がそう言った。


「まったくナーガ様の言う通りですな。医師団連はオフィウクス家の意見に賛同いたします」


 白衣の老人が髭を触りながら周囲に目線を送った。


「俺は反対だぞ。サンダーズの旦那に賛成だ! 鍛冶ギルドはレオ家を支持する!」



「おやおや」


 ゲミニ家のジョバンナは愉快そうに意地の悪い笑みを浮かべている。

 

 がやがやとした議論の場は、いつしか罵声が飛び交う舌戦の場に変わっていた。ネロは自分の置かれている状況が少しずつ分かってきた。どうやら堕天の燈火とかいう代物しろものを天界に返そうということらしい。その運び役を僕にさせるかどうかで揉めているようだ。それもどうやら占か何かで僕に白羽の矢が当たったらしい。

 

「静粛に!」


ファウエルが叫ぶとあれほど激しく罵り合っていた一同が一瞬で静かになった。どうやら評議会では絶対の権力を持っている様子だった。

 

「ブラフマン王。堕天の燈火をこちらに持ってくることは叶いますでしょうか?」

 


「可能である」


 王はにやりと片方の口角を上げて眉を動かした。


 卵型の頭に月桂樹の冠を被った王はふわりとマントを翻し立ち上がると、まるで螺旋階段を降りるように空中を歩いてネロの隣まで降りてきた。


「これが堕天の燈火である」


 王はマントの中から純銀で縁取られたランタンを取り出した。ガラスと銀の檻の中にはオレンジと青に燃える炎が浮いていた。不思議なことに、評議会の誰もランタンの炎を直視するものはいなかった。

 

(みな)知っての通り、この炎は(よこしま)なものに反応して黒い炎へと姿を変える。王国の者はおろか、世界中の誰もこのランタンを持つことが出来るものはおらぬ」


「余とて、王国内の結界の中でなければこのように持ち歩くことは叶わぬ。ランタンを持ったまま一歩国の外に出れば、黒い炎がたちまち余を焼き尽くすだろう」

 

 その場にいる全員が王から視線を逸して顔を伏せていた。その光景を見て王は愉快そうにクスクスと笑うのだった。

 

「さて。少年ネロ。このランタンを持つがよい」


 ネロは黙って王を見つめた。


「君なら持てる。予言では君だけがこの火を持つことが出来る」


 王はネロの表情を観察しながらさらに付け加えた。



「もし君がこの火を無事に天界に返せたならばお母さんと君を自由にしてあげよう。それにお母さんの病気も治してあげよう。褒美も与えよう。ん? どうだ?」

 


 ネロは周りを見渡した。さっきまでよそを向いていた評議会の面々が、今は皆ネロに注目していた。

 

「ネロ。どのみちこのままではあと一年もしないうちに、この火は世界を飲み込む地獄の炎に変わるのだよ。その日世界は焼き尽くされて何も残らない。当然君も君のお母さんもだ。友達やペットもお気に入りの毛布も、何もかも黒い炎に飲み込まれてしまう」

 

 少しの余白の後、ネロは王の眼をまっすぐ見て言った。


「それなら僕は残りの時間を母さんと家で穏やかに過ごしたい」

 

「なるほど! 素晴らしい! 連れてこい!」


王がそう言って合図すると目隠しをされた母さんが議会に連れてこられた。

 

「母さん!!」

 

 王はネロと母親の間に割って入り、細長い人指し指をチッチッと左右に振ってみせた。

 

「ネロ。君はわかっていない。君に選択肢は無いんだよ。言い方を変えよう! お母さんと無事に家に帰りたければ堕天の燈火を天界に返すしか道は無い。余はシュタイナー王国の王ブラフマン。世界と国を守る者なり」

 

 王は微笑みながら軽く頭を下げ、手のひらでネロをランタンの方へと誘導した。


 ネロは唇を噛みしめてランタンの方へ歩いていった。


 ランタンの中の炎はドクンドクンと脈打つように燃えていた。その姿はまるで心臓のようにも見える。

 

 ネロがランタンに手を伸ばすと、炎はその手に反応するかのようにチリチリと火花をあげた。驚いて手を引くと耳元でかすかな声が聞こえた。



「大丈夫よ…」




「えっ?」


 ネロは驚いて振り向いたがそこには誰もいない。


「さ。早く」


 王は先程と同じ場所でにっこり微笑んでネロを見つめていた。

 

 ネロは覚悟を決めて今度は一気にランタンの持ち手に手をかけた。その瞬間、炎がまばゆい光を放った。オレンジや黄色や水色に色を変えながら炎は輝き、やがてもとのオレンジと青の炎に戻った。

 

「実に素晴らしい!」


 王は手を叩きながらネロに歩み寄り背中をポンと叩いた。


「これでわかったろ? ネロが堕天の燈火を天界に返す! 異論はあるまい。評議長いかがかな?」


「異議のあるものは挙手を」


 ファウエルの声を聞いて手を上げる者は誰もいなかった。ファウエルはそれを確認すると会議の閉会を宣言した。


「異議は無いようですので、全員の賛成をもって評議会を閉会する」

 

 ネロは手の中で燃える炎を黙って見つめていた。母さんと家に帰るためには、このランタンを無事に天界に返さなければならない。

 

「大丈夫よ」

 

 またどこかから声が聞こえた気がした。

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