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堕天の燈火【人間の書】  作者: 深川我無@書籍発売中


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ウヴァマタ


 

 スーは時折自分に言い聞かすようにつぶやいた。

 

「ツァガーンは大丈夫さ。賢い子だもの。この忌々しい湿地から出られて羨ましいくらいだよ」


 スーの後ろを進むベルはスーの背中を優しくさすりながらそれを聞いていた。

 

 随分奥まで進んできた時のことだった。先頭で荊棘の藪を切り開いていたハンニバルが立ち止まった。

 

「ハンニバルの旦那! 突っ立っちまってどうしたんだい?」


 カインが後ろから声をかける。

 

「南に進む道が消えた。東に向かって道が逸れている」ハンニバルはおもむろにライラを抜いた。

 

「みんな下がってろ」


 そういうとハンニバルは南に向けて凄まじい斬撃を飛ばした。荊棘はズタズタに千切れて太刀筋が道になった。

 

「!!!」

 

 一行は目を見張った。荊棘がズルズルと伸びてきてハンニバルが作った道をみるみるうちに塞いでしまったのだ。

 

「ワタシに任せなサイ!」


 パウは炎の精霊を宿した槍で荊棘を燃やした。しかし荊棘は燃えている箇所を自分でぽとりと切り離すと、またしても凄い勢いで蔓を伸ばして道を塞いだ。

 

 ネロはふと振り返った。すると先程通った道が荊棘で塞がえれていた。

 

「みんな! 来た道がなくなってる!!」

 

 ネロは叫んだ。

 

「なんだと!?」

 

 一行は退路を断たれ、南への進路も閉ざされてしまった。残された進路は東へ抜ける道だけだった。


 東へ続く道は不気味なほど開けており、風に揺れる蔓が、まるで一行を手招きしているように見えた。

 

「明らかに罠だ。この荊棘は意思を持っている」


 ハンニバルが唸った。

 

「植物が意思なんか持っててたまるかよ!」


 カインがユバルを投げつけながら叫んだ。

 

「植物、意思ありマス。聞いたことありマス……」


 パウが暗い顔で言った。

 

「ウヴァマタ言いマス。毒の棘ありマス。うろうろ歩きまわり、人々に悪い夢見せマス」

 

「じゃあこの荊棘はウヴァマタだってことかい?」


 スーの問にパウは真剣な顔で頷いた。

 

「ともかく進むしかあるまい。このままこの道まで閉じれば取り返しがつかん」

 

「ベル。何か解決策は聞こえないかい?」


 ネロはベルに尋ねた。ベルは首を横に振って言った。

 

「ルコモリエを出てから一度も声が聞こえないの。それに声はいつも自分勝手なの。こっちがいくら尋ねても答えてくれたことはないわ」

 

 ベルは申し訳無さそうにうつむいた。


「仕方ない。先へ進もう。みんな油断するな」

 

 ハンニバルを先頭に一行は東へと進んでいった。道はどんどん開けていき、しばらく進むと遠くに白く塗られた丸い建物が見えてきた。

 

「あれが噂の兵器の実験場じゃねぇのか?」


 カインが訝しげにつぶやく。

 

「道はあそこに続いてるみたいだね」


 ネロもぼそりとつぶやいた。

 

「やけに綺麗なままだな」


 ハンニバルまでもがいつも以上に警戒しているようだった。

 

 腐った水と毒荊棘の茂みの中に佇むそれは、今まで見たどんな建造物よりも、不気味で不吉な空気を放つ建物だった。ドーム状の真っ白な建物からは一本の長い煙突が伸びていた。

 

 一行はほとんど同時にドームの隣にある廃墟に目を留めた。異様なほど綺麗なドームの隣には、内側から破られた別のドームの残骸が残されていた。それはまるで卵の殻を破って何かが生まれたあとのようにも見えた。

 

 不吉な気配に胸を締め付けられながら、ネロ達は真っ白な建物の方へと進んでいくのだった。

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