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堕天の燈火【人間の書】  作者: 深川我無@書籍発売中


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雪幻

 その日もネロは風の音で目を覚ました。ネロがそっと起き上がるとあたりは《《しん》》と静まり返っていた。

 

「あれ? みんなはどこに行ったんだろう?」


 ネロはあたりを見回したが、天幕の中にはだれもいなかった。

 

 ネロはふと気配を感じて天幕の入り口に目をやった。誰かが天幕の外に立っているのが分かった。ネロは静かに愛剣のノワールに手を掛けた。

 

「ネロ」


 鈴のなるような声が聞こえた。

 

 すると天幕の入り口がするりと開いた。そこにはベルが立っていた。ベルは音もなく滑り込むように天幕の中に入ってきた。 

 

「ベル?」

 

 ベルは真っ白な薄布を身にまとっていた。薄布は水に濡れてベルの身体にぴったりと張り付いて身体の線をくっきりと浮かび上がらせている。

 

 水に濡れた黒い髪がベルの白い頬に線を引き、今しか描くことのできない美しい模様を象っていた。

 

 震えるベルをネロは迎え入れた。

 

「こんな雪の中でどうしてこんな恰好を?」


 ネロはベルに上着をかけようとしたがベルはそれを遮った。

 

 ベルはネロの胸に耳を押し当てて、ネロの身体にぴったりとくっついた。ベルの身体の柔らかさが布越しに伝わってくる。

 

「べ、ベル? どうしたの?」


 ネロは少し躊躇ったがベルの背中にそっと腕をまわしてつぶやいた。

 

 しばらくすると、ベルはするりとネロの腕から抜け出した。そして薄布を脱ぎ捨てるとネロの服を脱がし始めた。

 

 ネロは裸のベルの姿に見惚れて、ベルのすることに何も抵抗しなかった。ベルはネロの唇に自分の唇をそっと押し当てた。


 恥ずかしさや余計な思考は、何一つ頭に浮かんでこなかった。ネロは身体を走り抜ける痺れにすべてを委ねた。

 

 それから二人は一言も言葉を発すること無く一枚の薄い毛布の中で火の玉になった。ふたつの火種は輪郭を溶かし合いながら、やがて一つの巨大な炎になった。


 人の形をした巨大な炎。獣のようなうめき声をあげる人型の炎は熱を放ち、消えること無く深い雪の夜を融かした。

 

 熱は蒸気となって天幕のなかに充満した。ネロはベルの香りに包まれていたし、ベルはネロの香りに包まれていた。お互いがお互いの肌の温度を感じながらその温もりに浸っていると、やがて朝の気配が近づいてくるのが分かった。

 

 ベルは少し寂しそうな顔をして微笑むと、入ってくる時に身にまとっていた薄布を手にとって天幕を出ていった。

 

 ネロはベルを引き止めたかったけれど声が出なかった。身体も動かなかった。ただ天幕を出ていくベルを見つめることしか出来なかった。

 

 ふと気がつくと朝の気配が近づくのがわかった。ネロがあたりを見回すと、いつもどおりそこには仲間たちが眠っていた。

 

 ネロは困惑した。今の出来事は夢だったのか、現実の出来事だったのか判然としなかった。


 しかしはっきりと思い出せる確かな手触りや、匂い、息遣い。汗の感覚や天幕の中に満ちた蒸気。どれをとっても現実のそれとしか思えなかった。


 ベルの方に目をやるとベルと目が合った。ベルは少し恥ずかしそうに笑うと、ネロに向かってシーと人差し指を唇に当てるのだった。

 

 真実は吹雪の奥に浮かぶ幻のように夢と現の間に揺蕩っていた。

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