チルノン山脈2
翌朝、一行はチルノン山の麓に到達した。チルノン山は真っ黒な禿山で生命の気配がまるで感じられなかった。チルノン山から湧き出る水は怪しげなエメラルド色をしており形容し難い異臭を放っていた。なだらかな山道がクネクネ、ダラダラと頂上まで続き、ところどころにぽっかりと横穴が開いている。
「よいか。絶対にここの水や食べ物を口にするでない。人族を辞めたくなければな」
「どういう意味だよ? パラケルススの爺様」
「ここには小人のカロカラ族が住んでおる。その仲間入りをすることになるという意味じゃ」
パラケルススいわく、カロカラ族はこの山脈に古くから住み着く小人で、小人こそが最も神聖な生き物だと信じているらしい。そして訪れる人族に無理矢理この地の水や食べ物を摂らせて、同じカロカラ族に変えるのだという。
「厄介なことに奴らに悪意は全く無い。あくまで善意でわしらを小人に変えようと、あの手この手を尽くしてくる。絶対に関わるでないぞ」
「あの穴はなに?」
ネロは尋ねた。
「あれこそがカロカラ族の住処じゃ。洞窟の奥にはガスが充満しておる。カロカラ族はそのガスを定期的に吸わなければ生きられない。わしらの吸う空気は奴らにとっては毒のようじゃ。それでみなそれぞれ、手作りの気味の悪いマスクを付けておる」
一行はパラケルススの注意事項を確認するとゆっくりと馬で山道を登り始めた。土は汚染物質で腐っており乾いた表面の奥にはズブリと柔らかい汚泥の気配があった。山道の脇や岩の割れ目から青白い蒸気が吹き出しているところもあった。一行は口元に布を巻いて蒸気やガスを吸い込まないように気をつけながら山を登っていった。
一方、ネロ達一行を遠くから見つけて愉快な会話を繰り広げている者たちがいた。カロカラ族の見張り番たちである。
「人族だ。人族がいる」
「爺様に報告しよう」
「そうしよう。そうしよう」
「久々の人族だ」
「クスクスクスクス……」
カロカラ族の見張り番達は首を左右に激しく振って、手作りのマスクについた骨の飾りをカラカラと震わせて笑うのだった。




