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堕天の燈火【人間の書】  作者: 深川我無@書籍発売中


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チルノン山脈1

一行は丸一日休まずに馬を走らせ続けた。誰も口にはしなかったが、また後方から叫び声や遠吠えが聞こえてくるのではないかという不吉な妄想が頭から離れなかったからである。

 

 キリル平原の草原地帯は徐々にゴツゴツとした岩地や荒野に姿を変え、荒涼とした風景に姿を変え始めた。前方には夕暮れの薄闇の中に、真っ黒なチルノン山脈の輪郭が浮かび上がってきた。

 

「ここまで来ればひとまずは大丈夫じゃろう…」


 パラケルススが重たい沈黙を破った。皆へとへとに疲れ果てていた。どこかで休息が必要だった。


「パラケルススの爺様に賛成。俺はもうクタクタだぜ」


 カインがおどけて見せた。


「フン! 軟弱者メ! ワタシはまだまだ動けマス!」


 パウが食って掛かった。


「ほう。じゃあひとっ走りして水瓶に山程の湧き水でも汲んできてくれねぇか? 俺はこの体中にこびり付いた、狼の最低な臭いを洗い流したいんでね」


「なぜワタシが貴様の為にそんなことスルか!?」


 カンカンになって怒るパウとそれを煽るカインの間にスーが割って入った。

 

「ヤメな!! バカ共!! ネロを見てみな!? 文句の一つも言わないで黙って進んでるよ! ネロの方がよっぽど大人だね」


 スーはそう言うとネロに目配せした。


「アンタのこと見くびってたこと謝るよ。ネロ。アンタは子供のくせに凄い奴だよ」 


「やめてよ。逆に恥ずかしいよ」


 スーが真顔で言うのでネロは気恥ずかしくなった。


「ネロは立派な戦士なりマシタ! ホントです!」


 パウもスーに乗っかってネロを褒めるのでネロは赤くなった。


「おいおい! こいつ赤くなってるぞ!?」


 カインがニヤニヤしながらネロに近づいて茶化した。ネロはそんかカインの肩を思い切り殴ってやった。

 

 一行はチルノン山から少し離れた岩地で野営することにした。久しぶりに火を焚いて温かい食事を食べた。食事が終わるとパウはネロ話しかけてきた。


「これが何かわかりマス?」


 毛糸と木でできた人形を見せてパウは言った。


「なんなの?」


 ネロは首をかしげた。


「これは妻のアイヤナ。永遠に咲く花という意味デス! これは長女のチェノア。白い鳩を意味しマス! 次女のエノア。木蓮のように美しい!」

 

 パウは人形を愛おしそうに撫でながら続けた。


「こっちは長男のカリアン。生命の戦士! 次男のアポビニ。風の道です! 息子たちは、アナタのように勇敢になって欲しいデス」

 

「ワタシの部族が住む島、ある日とても悪い病気流行っタ。そして島を出た。ワタシたちの住む場所、シュタイナー王国の自治領にナッタ。みんな本当は島、帰りタイ。この旅終われば、島の病気治る! 皆帰れる! ブラフマン約束しタ!」


 パウは嬉しそうに語り終えると、満足した様子で自分の天幕に帰っていった。

 

 皆、目的があるのだ。叶えたい夢があるのだ。そのためには必ず生きて帰らなければならない。誰一人欠けること無く。


 ふとネロはハンニバルのことが気になった。ハンニバルは一体どんな条件でこの旅に加わったのだろう? ネロはハンニバルの方に目をやった。するとハンニバルがそれに気づいて近づいてきた。

 

「なんだ? どうかしたのか?」


「いや。大したことじゃないんだけど。みんな色んな条件でこの旅に参加したんだなと思って。ハンニバルはどんな条件でこの旅に?」

 

 ハンニバルはしばらく黙って空を見つめていた。ネロもつられて空を見ると珍しく雲の切れ間から星が顔をのぞかせていた。


「俺は死に場所と償いの方法を探している。それだけだ」


 しばらくの沈黙の後、ハンニバルはそういうと早く寝ろよと天幕に帰っていった。

 

 ネロはひとり取り残されて星を見ながら考えていた。死に場所と償い。それはきっとハンニバルの目の中の悲しみと何か関係があるのだろう。しかしネロにはそれ以上ハンニバルの過去に踏み入ること出来なかった。ネロは複雑な気持ちを抱えたまま自分の天幕に戻り眠りについた。

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