「ある日の暮れ方のことである。」一番
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◇
ランク戦終了から凡そ半日後――。
終盤で奇襲を受け、二位となってしまったS級――夏目ソウスケは、ある少年から譲り受けたそれを手に取った。
「これがレオくんの“白黒羅生・芥”か…」
戦後にフレンド登録をし、そこで聞いた話によれば、ユニークアイテムという部類らしく、耐久値が尽きても破損はせず、譲渡しない限りは手元から離れないのだとか。
「そうまでして贈り物をしたいだなんて、どれだけ僕を好いてくれるんだよ」
実際、サシの勝負を受けたことで、彼の自分に向けてくれる熱量や憧憬はどれだけなのかはよく分かった。
もしかすると、彼のメイン武器は、将来共闘する約束の担保なのかもしれないが。
「この鎌、振り心地は短剣に近いし、青竜刀と組めば使い道が広がるな!」
鎌自体も軽過ぎず重過ぎず、耐久値が高いことも魅力だ。
「金色の盾は彼の魔法とかかな?」
武器を装備した状態でしか、あの金盾は出現していなかったが、それを除いても、流石は運営の力作、どこを取っても一級品。
まあ、金盾はレオが武器に宿した術式だが、それだけは死守したいが為に、死ぬ寸前に回収したのが本当の理由だ。
「これからどうしようか…」
現状保有しているのは、キャラデザの際に育てたステータスと鋸鎌のみ、序盤の武器はランク戦用で、終わればロストさせられる使い捨てだ。
だが、特権の一つとして、一般プレイヤーのレベル上限にも匹敵するステータス、その時点でレベル1なので、ここから彼らと格差をつけられるのだ。
まあ、そうでもしないと、数千万人のプレイヤーを、七十人とA級の戦友で対処できないだろうから、S級専用の『神秘』を含めても、まだまだ恩恵は足りない程だ。
「ソウスケ様ー」
「はい、どうしました?」
レオのフレンドということで招待された『珍武器行商会』の宿泊施設、その一室で寛いでいたソウスケの鼓膜を、揺らした。
ノック音に反応して、扉を開けると、一人のNPCが見えた。
茶色をベースとした、落ち着いた色合いの制服、その胸ポケットには鳥の羽が留められている。
「ええと、確か『郵便屋』のNPCだよね?」
「はい、そちらの友人様からのお手紙をお渡しに来ました!」
明るく陽気なトーンで語る青年に、手紙を受け取り一礼。
手紙の封を開くと、内容がウィンドウに表示された。
長い文章が来るのかと考えるが、その予想は外れる。
『ユニークシナリオ』
とだけ書かれており、後ろには正確な位置が書かれていた。
「このエリアは、貧民街だったかな?」
攻略サイトで閲覧した記憶が正しければ、ソウスケの現在位置からでは、二つのエリアを通過した先に位置する街の中に点在するエリアのはずだ。
メールの追記を見たところ、そのシナリオとやらは、今日中でなければならないらしく、更にはソウスケとレオの二人だけを所望らしい。
「ゲーム内での接点からして、やっぱこれでしょ」
そう言いながら目を向けるのは、白い鋸鎌。
「わざわざユニークなんて大層な言葉がくっ付けられているんだ、どんな恩恵があるか魔物だね」
レオのメールに書かれていた時刻までは、六時間残っているか怪しい。
それまでに広大なエリアを走破しなければならない。
「タイムアタックとしてエリアを抜けるのでも、最短二時間って言われてるからな…」
だがそれは、「敵に一度も遭遇しない」という幸運によって成功した記録だという。
従来のMMOとは異なり、エリア攻略にあたっての敵はモンスターのみに留まらず、B級以下、即ち『地軍』との戦闘は実質不可避だ。
「何を悩んでるんですか、夏目選手?」
「版銅羅くんか、ちょっくらRTAでもしようと思ってね」
「急に?団長みたいなこと言い出すんですね」
そんなやべえ奴なの?と言いそうになるが、言葉が詰まった。
なるほど確かに、レオがそんな性格であることは否定出来ない。
彼を十分に理解できるほどに関わってはいないが、上位のプロゲーマー相手を挑発する大胆さから、何となく読み取れる。
「実は、レオくんに呼び出しをされていて、もし可能なら、深夜までに二つ先の街まで来てくれ、とのことだ」
「うーん。でも団長のことだから、何かしらの意図はあると思いますよ?」
「しかも、その話をクランメンバーにすら言ってないとなると、よほどこのユニークシナリオが大事なんだな」
「え?」
突然の間抜けた声に反応して、反射的に版銅羅に顔を向ける。
「え?い、今…、ユニークシナリオって言いました?」
目を丸くして、表情を強張らせる彼女と、その口から発される小声――、ソウスケは状況を察して、小声で返答する。
「もしかして、それって超絶レアなクエストだったり?」
「はい…、天地のプレイヤーの大半が血眼になって探しているレベルです」
必死に周囲の安全を確認する版銅羅。
「とにかく、早くここから離れてレオさんの「何の話をしているのかなぁ?」
ついには額を汗で滴らせる版銅羅、その肩を白く小い手が触れた。
「「あ」」
ゆっくりと背後に向き直る版銅羅、その瞬間、彼女の顔がより一倍凍りついた。
ソウスケは、数時間前にレオの部下役から言われた警告を思い出した。
『――ザラメはドブというか、ゲロみたいだから気を付けた方がいいですよ』
気が付けば、その吐瀉物の具現化らしい幼女風が、二人を捕らえていた。
◇
商会の会議室、そこに用意された三つの椅子、ソウスケたち二人はその二つに着く。
そして、隣り合う二人の前方の席には、ザラメが座った。
「それでぇ?話を聞かせてもらおうか?」
一切の恐れをなさずにプロゲーマー相手に詰め寄るザラメ。
その姿勢に、騙し合いに発展させることすら危うい、とすぐに気付くソウスケ。
「先に、こちらから聞いても「ここは防音室だ、盗み聞きをされる心配はないよ。僕の秘書たちが人払もしてる」
秘書、というのは、この商会の中でこのザラメに付き従っている同士、とかいう話だっただろうか。
ひとまず、漏洩の危険はないことは信用してもいいようだ。
「まあ、隠すだけレオくんの協力相手だし、リスクは少ない、話せるだけ話すよ」
「話せるだけ?」
ソウスケの言葉に反応し、ザラメは眉を動かした。
「そうキレないでくれ、僕だって、レオくんのメイン武器を譲り受けたから、偶然受注出来たんだ」
「ああ、だからか」
ザラメはわずかに視線を落としながらそう言った。
それにソウスケは首を傾げる。
「「だからか」?」
彼の発言に、どことなく違和感を覚える。
「夏目さん、それは、ランク戦でドロップアイテムとして見当たらなかったから、っていうことでしょう?」
版銅羅の言っていることは理解出来る。
確かに、長い間レオと組んでいた相手だ、当然彼のユニークアイテムの存在を知らないはずがない。
だから、ランク戦でキルすれば、ゲット出来るだろう、そう考えた。
ザラメの「だからか」には、そんな意味を読み取れるが、ザラメの発言のタイミングでは、
「別の意図にも結びつく」
ザラメも古参プレイヤーだと聞いている。当然、ユニークアイテムと、その先にあるクエストやシナリオにも、身近に持ち主がいるために、何かしらは勘付いていてもおかしくはない。
そして、先程のやり取りだけでも、恐らく相当の洞察力の持ち主、それすらもその証拠になり得る。
「ランク戦で裏切ったのも、意図的だな?」
「!?」
隣から版銅羅の驚きの声が漏れているのが分かる。だがそれも無理はない。
しかし、肝心のザラメからの返答はない、弁論に悩んででもいるのだろうか。
「――――。」
その予想は大いに外れた。
「――やっぱ食えねえな」
冷たく言い放たれる一言が、密談の部屋を凍り付かせているように感じた。
◇
天地のプレイヤー、ザラメ。
レオと共に、数多のNPC商会を買収し、共栄の道へと歩ませた、悪意の塊、もしくは権化。
天地が神ゲーと評され始めた頃、その世界に籠り始めた彼は、持ち前の技量と頭脳を駆使した畜生じみたプレイにより、わずか半年でトップ帯に君臨した魔王。
その名を知らない古参はいないレベルで、黒い爪痕ばかりを残し続けたプレイヤー、それがザラメだ。
当然、レオとも光輝かしさとは対極的な出会いを交わし、彼との協力関係が築かれたのだが、それ以降の実績は、正負の両方向へと発展している。
ザラメの悪行を制御しては、レオもそれにある程度加担してはを繰り返し、互いの信用関係が成り立った。
まあ、二人間には無自覚ながら信頼関係もあるのだが。
そうして、天地の経済の六割を牛耳る商会連合、その互いの関係を壊滅させるように仕組み、魔王をそこへ介入、それを懐柔するように演じた善人役。
大方そのような動向で、背中の返り血に塗れたような友好関係によって、依存気質に陥った商会を、互いの了承を得た上で、それらを支配下に置いたのだ。
それから数年が経ち現在、大方丸くなり、魔王と狂犬が、悪魔二人に落ち着き?、周囲からの信用を得た二人は、十数名の優秀な新規メンバーを加えた少数精鋭の、上位クランへと成長した。
そんな歴史がある商会だが、その内部は、ザラメによって回されている。
つまりは、悪魔たる彼の思い通りに出来るということであり、レオも、数人のユニークNPCとの関係を持っていることを探られた経験がある程だ。
「やっぱ食えねえな」
会議室が凍り付く。
「で、それを知ってどうするんだ?当人にチクるのか?」
「いや、そのつもりはない。彼も察しが付いているだろうからね」
互いに探りを入れ合うような状況に、版銅羅は冷や汗をかき、そっと目を瞑った。
「この話は終わり。時は刻一刻と迫っている、早くことを片付けよう」
はやる気持ちを抑えて、目をザラメへと向ける。
「単刀直入に言おう。そちらの団長とのユニークシナリオは、事後の情報の開示で「それで構わない」
冷たい視線は変わっていないからか、食い気味に、即座に了承するザラメ。
そこで、ソウスケはまたしても閃いた。
「そんな不満げにオーケーするってことはぁ?もしかしてだけど、レオくんとシナリオをクリアしたかったのぉ?」
「――――!!」
電撃にでも撃たれたかのように開眼し、目を逸らされる。
返答はない。
「だからこの鎌を手に入れてぇ?彼とシナリオを共有したかった、とかぁ??」
「――――ッ!!」
「もしかしてだけどぉ、終わったら鎌も返すつもりだったとかぁ?」
「――――ッッッ」
「てことはぁ、君ってレオくんに嫌がらせしてるけど、それって愛情表げ……ぶふぅ!!?」
煽り散らかすように鎌を見せびらかすソウスケの頭を、釘バットが叩きつけた。
「ソウスケさん、副団長をいじめないでください、レオくんの親友ですよ。全勢力であなたを捻り殺して、鎌を彼に返すことも出来るんですよ?」
「版銅羅ありがとう、助かった」
ついに開眼して、ポーションをソウスケに撒き散らして叱咤する版銅羅を横目に、ため息を吐きながら礼を告げるザラメ。
だが、その最中に、気絶させられそうなレベルの威圧感を含んだ睨みを利かせるザラメ。
「分かったよ。レオくんには言わないから、それで許して?」
「そうじゃない。悪巧みたあいえ、四年一緒だった相棒だ。あいつがお前に憧れてんのは知ってんだ。お前のそんな悪どい目付きを絶対に見せるなよ」
これ以上ないほどの怒りが詰め込まれた態度、乱れた口調、その理由もこれ以上ないほどに理解出来る。
「なるほど、彼を騙してもいいのは俺だけだ、と」
「そういう訳だ、俺のクソなプライドが潰れるだろ」
版銅羅に宥められて、怒りを抑えるザラメ。その言葉には、悪名をなぞったような雰囲気は見られない。
悪行を共にし続けたことの、一方的な信頼だろうか。
「分かったよ、彼――レオくんには悪行は仕掛けない。今後、事故も含めて嵌めてしまった暁には、これを君に譲る」
どこまでも主導権を握ろうとしているのが見え透けた態度に、ザラメの怒りは沸点寸前だ。
「絶対だな?」
当然、彼からの信用は尽きたとも言える。
「とりあえず、彼のユニークシナリオの約束だけは間に合わせないといけない。許可か、または拒否か、君の親友のために決めてほしい」
「レオのために、か?」
今にもソウスケを縊り殺してしまいそうな静かな殺気を纏っている。
よほど今のレオとの関係、立ち位置が大事なのだろう。
「勘違いするな、それはお前の利己欲だろうが。お前は俺と同じポジションには立たせない今回もレオのサポートだけをしてろ。お前はいつもの格好付けらしく、アイツの憧れの的になってろ」
「要求ばっか並べるもんだ」
話はついた。
ユニークシナリオを終えたのち、レオ経由でソウスケの動向を教えてもらう、とのこと。
彼の手伝いしかしないのならば、レオに同行するのを認めるらしい。その監視のため、版銅羅含む数名にも同行させることとなった。
そして最後に、
「その本性を、レオには見せないでくれ」
それは、ザラメの本心にも聞こえた。
「――それと二人とも、さっきから俺をレオの「親友」だと言ってるが
――「悪友」だ、間違えるな」
彼はそれだけ、言い放った。
現在のレオとザラメは、互いのスタイルを危険視はしていますが、曲がりなりにもザラメはレオには一番の信頼を寄せていますし、レオも薄々理解していますが否定気味なだけです。
だから、レオにとってはユニークウェポンを奪おうとしていることも、「流れに任せる」との意向です。
レオ:ザラメは危険、でも頼ってくるし協力し合えるから仲間にしといて損はない。暴れ馬、嫌いじゃない。
ザラメ:レオは文句言いつつも、もしやらかしても、互いにサポートし合えるいい奴。仲間にしときたい。暴れ馬、割と好き。
要するに、レオはツンデレ、ザラメは奥手、とでも覚えといてくれるとありがたいです。
ちな、ソウスケがレオとユニークシナリオを共有したことに関しては、ソウスケに嫉妬してます。(これに関する詳しいエピソードは、次回以降出来たら書こうと思ってます。)




