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襲天のユサーパーズ  作者: Ba-N0rth
ツワモノ暴動、その始源
6/14

散り菊

前に書いていた設定の補足ですが、『天地』のランク戦時のアイテムドロップは、「死亡時に装備していたアイテムが、止めを刺したプレイヤーに所有権が移行する」という仕様です。

ので、デスした際、インベントリ内のアイテムも奪われる訳ではありません。ややこしくてすみません。


ちな、ランク戦以外では、その時に所持していた全アイテムは普通にドロップします。

更新されたリス地の空間内に居ると、『倉庫』でのアイテムの保管、管理が可能です。

その中のアイテムはキルされた場合に損失しません。


ランク戦が開始され、凡そ一時間が経過した。


ラスト三人の内、レオ、ソウスケの戦闘はクライマックスへと達していた。




「“付与(エンチャ)”」


高密度のバフ、その連撃が繰り出される。


その大部分がソウスケの急所へと狙われるが、それらを難なく躱して、間合いを詰めて仕掛けられる残りを包丁によって受け流す。


「略せるのな、術名(それ)!」



後方に退こうとするが、それを封じるようにカウンターの一撃――、それを『金盾』によって防御、即座に放たれる足技も同様に止める。


「バフ無しでこの威力かよ…!」



彼の間合いから外れることには成功。だが、その間に距離を詰められ、凄まじい速度で迫る刺突も金盾によって防ぐ。




彼の能力を使わない、という宣言をされたように、先程から彼のモーションの全てには何の効果も付与されていない。


つまりはただの基礎的な体術のみで、圧倒されているのだ。


「浪漫技だけでプロを抑えられるのは、この技量によるものか」


無言の肯定だろう。金属音ばかりが鼓膜を揺さぶる。




だが幸い、レオは鋸鎌の()()()、それを再開するトリガーは発生させている。


『金盾』での防御、ローテの対象をソウスケ自身に変更する為に、彼が体術を仕掛けるまで凌いだ甲斐があった。


レオの鋸鎌“白黒羅生・芥”は、入手後に掛けられた術式によって、ローテ一巡における、対象へデバフを入れられる回数の上限が減らされる代わりに、デバフ一回毎の出力が強化されていたりと、幾つかの補正が入っている。



ソウスケが「本気を出す」と言ってから、以前のような手数によって相手を削るような豪快なスタイルではなく、相手の本命の攻撃のタイミングを正確に見抜くそれだ。

「削る」タイプの前者と比較するならば、「封じる」と表すのが適っているだろう。


現在のスタイル、その戦いは、レオも映像で見たことがある。

普段は観客を魅せるように暴れる“熱血”の呼び名に対して、こう呼ばれる――、


「“氷冷”じゃねえかよ!」


「へえ、それも知ってくれてるんだな」



現在も着々と追い込まれてはいるが、真に全力、否、“本気”で相手をしてくれる彼に、感激ばかりを味わってしまう。

かというレオも、勢いに乗るまでは冷静な判断で動くのだが、その戦い方も、彼に憧れて真似た結果癖付いた物なのだ。



「なら、俺も負けてらんねえな!」


今、それを使うのは違う。


レオは精神状態がプレイスキルに直接影響する、言わば『テンションファイター』型だ。


ノリに乗った今、このソウスケを模倣するのは、「自分」が崩れて動きが乱れる。




――というか、どうせなら暴れ回った方が楽しいだろ、やらなきゃ損だ。



そうだ、その通りだ。今更そんなことで迷うのも馬鹿らしい。こんな絶好調なタイミングで、そんな知り切った情報なんか意識するまでもない。


仮に、そんな雑念入ったまま戦り合ってたら、



「それこそお前に失礼だろ!!」


「おお、浪漫を注ぎ込んだ戦い方は、()()()()大好きだ!いいぞもっと来い!!」


見るの「は」好き、だ?そんなことはずっと前から知ってる。


「バトル漫画で自由気ままに殴るのは、アンタが一番好きなキャラ構造だろうが!そんな化物が、目の前に!いるぞぉお!!?あァ!!」



数百回の挑戦の末に、包丁の防御網を抜けて、ソウスケに鋸鎌が被弾する。


「うぉ、デバフでけぇ!!」


ローテの対象がMOBの場合、MP・STR・VIT・AGIに大幅なデバフが入る。


「まだまだぁ!!」


そこへ、三発、さらにもう一発、合計四発が被弾する。


「ホントにデバフ効いてんのかぁ!?VITだけ弱ってるかが疑わしいレベルだぞ」


デバフが弾かれることはまずあり得ないだろう。


白黒羅生・芥の能力の効果は、『天地』に於けるトップクラスの影響力『天』であり、レジストが不可能な部類だ。


つまりは、ソウスケの素のステータス値が異常に高いのだろう。


「何かと予想が付いてるだろうけど、僕は能力を『スキル』しか習得できない代わりに、ステータスポイントを増やしてるんだ」


「やっぱり!」


そういったプレイヤーが、超極小割合でいるのはレオも知っていたが、やはりプロはそれを意図的に選べるのだろう。


「ま、デバフの出力的に、五回分()でも二割は削られてるだろ」


「サラッと爆弾発言してるのはお前もだな!って痛ぁ」


その隙にもう二発が被弾。


「ていうか、その鎌がレオの筋力下げてんのか?」


「なんで分かるんだよ!」


この鎌を入手して以降、さらにその暴れ馬さを強めたせいで、運営からのナーフが施されたのだ。

まあ、装備中STRが半減するだけに留まったのは彼らの慈悲だろう。



「さらにもう一回!」


「同じ手が何回も通用すると思うなよ」



方向を急転換させることでの連撃を繰り出すが、全て躱されることで失敗に終わる。



ソウスケもレオの攻撃を見切れるようになっており、攻撃を先読みされる頻度が徐々に増している。


加えてソウスケの技量の真骨頂。

それに「全身の筋肉の扱い方を網羅している」とインタビューで答えていたのが思い出される。


その時の発言通り、素の攻撃の一つ一つの力量が尋常ではなく、クリティカルでのパリィを成功させなければダメージが入る。

レオ自身の技量がクリティカルをほぼ常時発生させられるが、ソウスケの仕掛ける攻撃が、どれもレオの反応を遅らせるようにフェイントやらディレイやらを含ませられる。


「ま、それはもう慣れたが、こっちは一撃も当たるわけにはいかねえんだ」


数回パリィが乱れただけで、あと一撃喰らえば即死の状況まで追い詰められた。


だが、こちらにも手はあるのだ。



「ふん!」


「甘え、!?」


声と共に放つ一撃。


その声に反応し、包丁を交差させて守るソウスケ。

だが肝心の攻撃はワンテンポ遅れて繰り出され、見事に直撃する。


「さっきまで、声と同時だった攻撃――あれ、わざとです。反応速度が仇になったなぁ!」


「姑息だなぁおい、侍とか騎士の心とか持ってねえのかよ」


「おいおい、A級上位(俺達)を勘違いしてねーか?このゲームは「プライド捨てろ」がキャッチコピーだぞ?常に乱闘騒ぎの中で、んなモン持ってる方が珍しいんだよ」


「道理でお前みたいな異常者が多いのか」



攻撃を弾き、後方へ退がって距離を取り、二人の間に笑い声が響く。が、片方の怒号がその空気を引き裂いた。


「それはお前もだよ馬鹿が!言っちゃ駄目な言葉も分からんのか、あぁ!?」


爆発した怒りのままに斬り付ける鎌撃が、ソウスケの顔面へと振り掛かり、そのまま耳を斬り落とした。


「しまっ――」


「遅え遅え遅え!」


それに気付いた時にはレオのフェーズ、左から右へと振るわれた鎌によって、ソウスケの両肩に刃が斬り込む。


が、ただではやられず、直前に取った回避行動によって掠るだけに留まった。




彼の頭へと膝蹴りが炸裂し、力が働く方向に吹き飛び、その先に現れた金盾に激しく衝突――、だがまだ倒れない。


先程から、明らかに限界を迎えていてもおかしくないというのに、彼のHPがゼロになっているかが疑わしいレベルで死亡しない。


だが、体力を回復していなかった上に、ミリレベルでしか残っていなかったのは確認済みだ。


「まだ『神秘』を隠し持ってるのかよ」


この状況に至っては、スキル・魔法を隠れて発動していた線は薄い。何らかの神秘による影響であると考えるのが自然だ。


「HP1で耐え続けられるのか」


だが、天地ではプレイヤーのパラメータは、階級毎にゲームバランスを保つように設定されている。



「この場合だと、一定確率で食い縛れるのか?あぁん?」


腐り切ったような声色、開き切った眼、今のレオの表情を見れば、彼が戦闘狂であることを改めて理解するだろう。


「俺ァ乗ってる時ゃあ幸運引くのが稀だからな、俺の“アタリ”とテメェの“ハズレ”、どっちが早いか運勝負だなぁ!」



その幸運頼りの勝負の間に、レオが死亡すれば全てが終わる。


「だが、そんなモン今はどうでもいい――」


「――――!」



十発目――武器の能力の全開放に成功。


バフが切れたが、同時に最大の()()()を繰り出す。


「術式【大爆散(ドデカい花火)】!」



正真正銘のラストスパートでの、自爆特攻が展開された。






コンパクトな踏み込みからの、ソウスケに向ける爆速の突撃――その初速は音速を超える。


極限の集中状態へと入った彼でも反応出来ず、鳩尾へと直撃、その軌道と被弾部が爆撃を発生させる。


それにより吹き飛ばされる身体を首根っこから掴み取り、無防備な構えからの高火力――、


「“点火【神焔】(イグニッション)”!」


自滅覚悟の術式、それにより成された詠唱省略での最大火力の“点火”が叩き付けられ、バフの籠った握力で鎌を握り、その力に比例した爆炎――否、光炎が辺り一面を燃やす。


「被弾からワンテンポ遅れての熱ダメージ、加えて【神焔(カミノヒ)】のダメージ倍増、これでも死なねえのか!」


攻撃態勢を取ろうとするソウスケの腕を削ぎ、動きを防ぐ。


この瞬間に回復アイテムを一気飲み、空になった瓶を投擲してソウスケに叩き付ける――が、死なない。


「らぁぁああ!!」


止まることを知らない猛攻がソウスケへと叩き付けられるが、彼の体力も尽きることを知らない。




【大爆散】は、ステータスへのバフと、攻撃スキルの威力に補正が入る、付与術師の奥義の一つだ。


その効果時間は、発動時点でのMP残量に比例しており、レオに残された時間は持って十数秒――、効果時間が終了して時点で、レオはその時間内に蓄積された反動ダメージによって即死する。


かつてザラメに渡したアクセサリも、この術式の派生であるが、それとは大きく異なり、制限時間が終わった後は、回復アイテムによる延命が出来ないのだ。


「まあ、これを使う時は大体、効果時間内の被弾で死ぬんだがな!」


業火を伴った攻撃――、だがそれは弾かれ、カウンターが仕掛けられる。



――だが自分でも分かる、よく分かるのだ。



「――――」


「――今最高にノってんだ」



今よりも幼い頃に見て、何度も模倣(トレース)を試みては挫折した。






――でも今は出来る。



「ナンチャッテ――“抜魂撃”!!」




それは、ソウスケの初の表舞台、デビュー戦にて勝利を手にした、数十発もの神速の拳を一瞬の間に叩きつける、正しく神の拳。



――これを披露する相手が夏目ソウスケ(本人)であるということが、一体どれだけの幸福なのだろうか。


――後は彼がどのような反応をするのか、それを知れたならば、この勝負は勝ったのと同じだ。




「――いい出来栄えだ。


嬉しさと誇らしさが鬩ぎ合うような、暴力的な微笑。



「この勝負――、実質俺の勝ちィィいいい!!!」


もう、満足だ。


ここからは、



「吐いちまうレベルでぇ!至福を噛み締めようか!!」



彼の豪運は計り知れないまま、彼は未だに他に倒れない。


時間はあって七秒、その間に、超音速の打撃が激突――






















『ランク戦終了。リザルト:三位。』



AIの通知音声――『世界の言葉』に尋ねる。


「称号『乱闘覇者(ラストサバイバー)』は誰だ?」



『A級四位「ザラメ」です。』


冷め切った目でウィンドウを睨みつけるレオ。


彼の心中には、拭えない苛立ちと、ザラメに対する憎悪が澱んでいる。


だがその感情には、大した強さがない。


「人が嫌がることを喜んでしやがるからな」


珍武器で繋がった仲とはいえ、ザラメとの関係は、友情というよりかは、利害関係の方が的を得ている。



二人が会った時から、共闘、裏切りを繰り返した結果、彼ら二人の間に結ばれた条約に従って動く仲なのだ。



今回のランク戦に於いても、「レオの決闘を支える」とか何とか意思表明していたくせに、「気が変わったから」とかの理由で漁夫の利をかましていく破天荒さだ。


その鉄砲玉な行動は、今までのイベントの大半で披露され、その度に標的(モンスター)が大量のプレイヤー諸共爆散するのだ。


そんな常日頃の異常行為の積み重ねによって、悪行によって蓄積されるパラメータは上限から減ることはなく、罪状値――又の名をカルマ値がゲーム内最大であることを証明する『最大罪状(カルマホルダー)』を三年は保持しているのだ。



「ま、それはいつも通りだからいいとして、だ」


リスポーン地点であるベッドから起き上がり、インベントリを確認する。


「ソウスケさんにまた会える時が来るのかどうか」


死の直前、レオはソウスケと共闘することを約束し、メイン武器である白黒羅生・芥を贈ったのだ。


だが、共闘を実現させるには、何千万といるプレイヤーの中から出会わなければならない、これからプロに会えることすら奇跡だろう。



「よしよし、どうやら贈与しておけば、死亡時のアイテムドロップはないみたいだな」


あの鎌が装備中だったことは幸運だ。


ランク戦のアイテムドロップの仕様は上位にとっては救いなのだ。






「じゃ、行きますか!」


必要事項の確認を終えて、まずは安全な街へと向かうのだった。

戦闘の冒頭で、装備ごと全身を微塵切りにされてるせいでソウスケの見た目がデフォルトの半ズボンだけの半裸であることを最後に思い出し、包丁二丁で斬り殺しに掛かってるのを想像すると、大分化物であることに気付いた。


まあ、訂正する気はない。(これもこれでアリだろ、って感じで乗り切ります)



この話で、

レオ:

・普段は感情を抑えることでソウスケを真似て、状況判断を欠かさない。

・本気を出せば感情に任せることで最高のパフォーマンスを出来る。


ソウスケ:

・普段は大業を多発したり、感情のままに動いてるように「作る」。

・本気を出せば、相手を正確に分析したり、手を封じたりしてリズムを作る“分析型”。


的な内容を導入しようとしてごちゃごちゃになったのですが、上手く書けていたでしょうか…?

今後も同じような書き方をしようとする場面が出てくるかもしれないので、重要な改善点などが分かる有識者の方がいましたら、お気軽に感想でストレートに教えてくださるとありがたいです!



これにて、ランク戦編は終了です。

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