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襲天のユサーパーズ  作者: Ba-N0rth
ツワモノ暴動、その始源
5/14

松葉


順位決定戦の開始から、一時間と少しの時間が経過した。


開始時に武器を携えていたプレイヤーの大半が退場し、残っている者はそう多くない。


その過程の中で崩壊状態へと追い込まれた『バケモノ街』には現在、二つの戦火が散っている、その最中である。


一つは、定期的にHPを回復させながら、傷の一つも体に纏わずに、爆音を立てながら群がる敵を蹂躙する幼女風(ザラメ)だ。


彼は、敵が集まるたびに大技によって片付け、その音を察知して接近するプレイヤーを、また瞬殺している。


それを数十分ばかり続けた結果、その波が終わりを迎えたのだ。


「おお、ラスト三人か!どれどれーやっぱり!」


体力を回復させながら、ウィンドウを操作して開いた、生存している参加者の名簿だ。

そこに記されたプレイヤーネームは、大方予想通りの面子。


「やっぱし、残りの二人はレオとナツメ選手だな、あいつら強えなー」


このような乱闘の形式で、身を隠してやり過ごさないプレイヤーが一人も残っていないのは最早奇跡だろう。


もしかすると、プロと戦いたいが為に、そうしなかった者の方が多かったのかもしれないが。


「うーん、俺がこのまま待機してたら、あいつらの勝った方と戦わねえといけねえのか」


もしくは、このままスリップダメージに身を任せて自死を選ぶか、だがそれはあり得ない。


「全くよお、上位がS級の奴等とばっか当たったのかは知らねえが、神は底意地が悪いな」


愚痴を溢しながら、双剣をインベントリに仕舞い、代わりに黒銀棍を軽く握ると、狂気染みた笑みを顕にした。




「あいつ等のガチバトルなんざ、どうでもいい。今は、順位を上げることだけ考えりゃあ、何でも正解だろ」


待機なんてするだけ無意味、二人の一騎打ちを滅茶苦茶にしたい、ザラメには、そんな考えばかり巡るのだった。












「――――」


青龍刀が激突し、互いの刃から火花が跳ねる。


互いに防御に徹する様子は見られず、それぞれの攻撃性が剥き出しとなって、襲い掛かる標的に抵抗し、反撃し、避けてまたも仕留めに掛かる。


「「――」」



今、この場所には、声がない。


響き渡るのは刀剣が風を切り裂くそれと、金属のそれのみ。


最早、この時では、これらの音こそが声であるのだと思い知らされる。




直近での二人の会話は、もう数十分も前のことだ。


それから、口は息を吸う為だけに使われ、目は意思の疎通ではなく、敵を捉える為だけの道具へと成り果てた。




また、剣と剣が打ち合う。


力量の差によってバランスが乱れるレオ、その隙を突いての二連撃が迫る。


「」


それを読んでいたかの如く、初撃をパリィ、続けてもう一撃の押し返す。それらを左剣で済まし同時に右剣の刺突――首だけの動きによって躱された。


間髪入れず、右剣を逆に裏返し、左肩狙いの神速の振り下ろし――


「――ッ

――!」


劣らぬ速度の斬り上げが弾くが、既に放たれた、レオの両剣の薙ぎ払いが、ソウスケの咄嗟の防御を無意味にして、胴体を斬る。


それを無視して、欠損した肉体が再生するまで、レオの猛攻を捌く。



「――ッ」


再生が完了し、一切の躊躇を切り捨てた一撃が振るわれ、レオは強引に受け流す。


それにより左剣の先端が欠けるが、戦闘に支障はない程度なので無視――



「――その判断が仇になったな」


レオの脳裏を読み取るように、ソウスケは言葉を放った。


すぐに意識を戻し、突進によって間合いを詰めるソウスケの払いを流して、横腹へ狙いを変えた三連撃を、身を捻らせて弾く。


背後へ回ろうとするソウスケへ牽制、1フレーム程止まった体に、両剣の居合、抜刀――


「あ――

ぶねえ!」


上半身を後方に反らし、紙一重の回避。


だがレオは驚かない。


どころか、それも想定済みだったのか、力んだ足へとトーキック。


盛大にバランスを崩したソウスケ、その体勢から持ち直そうと浮いた方の足を後ろへ回し、イナバウアーのような姿勢になるまで10フレーム弱。



「そこ!!」


ソウスケが武器を握る手に力を入れた瞬間に、肘近くの上腕が断たれる。




「“火薬装填(ニトロチャージ)”――」


またしてもソウスケは反応が遅れ、その間にレオは両剣を天に掲げる。


次第に両剣の先端から硝煙が立ち、


「“点火【焔】(イグニッション)”」


業火を巻き起こしながら胴体へ振り下ろされ、避けようとして体勢を起こすソウスケに、直撃。



「らぁぁあああ!!」


青龍刀を握る手に更に剛力を絞り出し、それに伴って勢いを強める爆炎が周囲に噴出し、最後に爆発がソウスケを吹き飛ばす。




「で?何が仇になったって?」


余力に吹き飛ばされ、何度か地面にバウンドしてから硬直した彼から返答はない。


「というか、返事できねえよな、あのザマじゃ」




発動前の時点で耐久値が激減していたのもあるだろう、レオの青龍刀は限界を迎えたらしく、散らばった破片が消滅している。



「――――」


少しずつ肉体を再生させるソウスケを見つめながら、レオはガラクタとなった青竜刀の残骸を投げ捨てる。



()()()()だな」


炭のように黒く焼き焦げた地面で歩みを進める。


それに気付き、手をつきながら立ち上がって、近付くレオを凝視するソウスケ。




「――――」


警戒を顕すのが分かるが、気にせずに距離を詰めて、道中に落ちていた一対の双剣を拾い上げる。


元は手だった炭を払い落として、その青竜刀を投げて渡す。



その瞬間に、餌を見つけたハイエナのように、一直線にそれらを取ってレオに攻撃を仕掛けるソウスケ。



だが、レオは動じずに、歩みを止めて、ノールックでインベントリの項目を指で叩いた。



「もう死にかけだろ、ソウスケ氏?生憎俺もなんだよ。だから――」


「あぁ!?」


歯を剥き出しにして、獣のように笑いながら、居合を仕掛けるソウスケ。


だが、レオの手に姿を現した鎌が、それを弾き飛ばした。



「デットヒートと行こうぜ!!」


勝利を賭けた戦いが、最高潮へ達しようとしていた。












レオの手に携えられた、白い鋸鎌。


「なんだ、その武器は?ふざけてんのか?」


「安心しな、ちゃんと真剣(マジ)だ」



レオが手にするそれは、数年前の大型イベントの際に得た戦利品だ。


そのイベントでは、優勝者には、望む武器を、運営が直々に制作するという内容だったのだが、


「運営はドン引きだったな」


「だろうな」



ユニークウェポン制作の裏話に、ソウスケは苦笑を返す。


「っと、談笑中にも殺意立ってるねぇ」


「当たり前だろ、聖者でも相手にしてるつもりか?相手は戦闘狂(バトルジャンキー)なプロゲーマーだぜ?」



ソウスケの青竜刀から放たれる四連撃、その三撃を鎌で弾くが、残りの一撃がレオを狙う。


が、


「――戦闘狂(それ)は俺もだ」


左腕を狙う斬撃が、光る()()によって防がれる。



「そういうクチか」


宙に浮遊する金色のプレート、否『盾』。


そう、この鋸鎌を装備中は、レオの任意のタイミングで絶対防御を発動できるのだ。




「なら――「盾を出すより速く攻撃すればいい、ってか?」


ソウスケの狙いは尽く外れ、間を挟まずに繰り出される神速の連撃、だが、


「こういうのも出来るんだぜ?」



極小サイズの大量の金盾が、全ての攻撃を弾いた。


「成程なあ、「手数での勝負」を強制することで、大抵の相手じゃあ、為す術無く滅多刺しって所かな?」


「ま、シンプルな「手」だし、攻略法とかはすぐバレるんだよな」



身体の重心を動かしながら、多方向からの攻撃をノンストップで繰り出すソウスケ。


「盾の隙間を突いての攻撃、ねぇ、悪かあ無いが、それも意味ないんだよな」


「そうやって舐め腐ってても勝てるんだな、お陰で戦利品(ドロップ)は大量だろうな!」



その場から一歩も動かずに攻撃を捌くレオ。

確かに、舐めているのは間違いないだろう。



「それが“乱獲者”だの呼ばれてる所以か!」


その刹那、レオの動きが止まり、そこへソウスケの一撃が迫るが、


「――――あ?」


突然鋸鎌を構えるレオを見て、咄嗟に背後へ下がる。



「その程度の行為で“乱獲者”だぁ?今日が初ログ日とはいえ、それは聞き捨てなんねえな?」


眉を震わせて、怒りを露わにするレオ、対してソウスケは、その静寂な怒号、そして衝動に警戒心を向け、気配を絶ってレオを凝視する。



「要するに、お前はまだ、奥の手を隠してるって訳だな?」


「――――」



怒りを抑えて見つめ返すだけで、返答はしない。




「分かった、じゃあ頼む、本当の所以とやらを見せてくれ」


「――――」


「配信もあるから、無理強いはしないが、俺もお前の最大火力を――――ッ!?」



会話の最中の不意打ち――、それはレオなりの回答だ。


「どうした?会話中に殴るのは日常茶飯事なんじゃねえの?」


「テメェ…ッ、言ってくれるじゃねえか…!」


挑発に乗り、青竜刀を振るうが、振り上げを構えた瞬間に盾が堰き止めた。


「せこっ!?ぐぇえ」



低姿勢を取っていたのが仇となり、腹に入った蹴りが、ソウスケを斜め上へと吹き飛ばし、そこへ鎌の一撃が直撃、とはいかず、寸前で刀剣がガード。


着地までの間に、追撃の数撃も受け止める。


「九回――」


「残念だったな!」


着地し、今度は挑発をし返すソウスケ、だが、レオの顔にはそれの対応はない。


「鎌なんて脆い武器選んだのも失敗「と、思うじゃん?」


青竜刀の振り下ろしを、レオは左腕で軽々と受け止めた。


「重量が――」


「おー、やっぱりその重さは能力か!だと思ったよ」



恐らくは鋸鎌の攻撃を防いだ時点で与えられたデバフだろう。

それは、ソウスケの青竜刀の特性である『重量増加』の効果を激減させている。


ソウスケの青竜刀は、鈍器に近しいそれを叩きつけることによってダメージを与えたり、叩き切るなどを可能としている。

そこから武器の長所を削られては、ただ軽いだけのナマクラだ。


「その上、VITも基礎ダメ量も減らされてやがる…!」


「このレオ相手にィ!そんな眠っちまいそうなショボい武器など、貧弱貧弱ゥ!!」


いくら相手の武器を消したとしても、それで情けを掛けるのは三流だ。故に容赦はしないし、躊躇もあり得ない。


「“――火は闇を照らすもの 闇は灯りを呑み込むもの。 万象に寄り添い、時に相容れる事なき表裏――」


「ここで詠唱!?」


防戦一方になりながら、レオの猛攻を躱すソウスケ、だが、その逃げ道を次第に塞がれていく。


「――しかして均衡は崩れる 闇を穿ち、耳を打つ天の火」


「やばいやばいやばい!!」


「遠からんものは音に聞け!近くに寄らば目にも見よ!!――火薬装填(ニトロチャージ)――!」


「――!」



隙を丸出しにした構え、それはソウスケには酷く見覚えがあった。


「“点火【花焰】(イグニッション)”!!」


力強く一点に振り下ろされる鎌、それにソウスケは、紙一重で躱す。


「つぅっ!」


だが躱し切れず、左腕に激突する寸前に、青竜刀で強引に受け流す。




だが、それは間違った対処法であることに、ソウスケは気付かなかった。



「しまっ――「体力ミリで高火力迫ったら、そりゃ焦るよな!」



銀のオーラを纏った鎌が、ソウスケの青竜刀へと叩きつけられ、


「どうだ、()()なっただろ?」


青竜刀の能力を獲得したことによる重量級の一撃が、その大元たる刀剣の防御を吹き飛ばした。


その刹那、ソウスケの脳内に思考が巡り出し、やがて眼前の鎌の大部分を識る。


「何かしらのモーションから始まり、対象に一定回数の攻撃を与えることで、能力を奪える、そんな所か?」


「大方正解」


「だが、能力だけしか奪えないようだし、武器のデバフも消えてる、さてはお前のバフもリセットされたな?」


「こいつの頭どうなってんの?すげえな、知ってたけど!」


「いやー、それほどでも」


再度斬り合いが始まる。


「だが、一つ忘れてるぞ?」


「何をだ――あ」



攻撃を防ごうとするが、青竜刀がへし折られた。


「対象のVITは還らないんだな!」


「は、はぁあああ!!?ざっけんな、ぶっ殺す!!」



狂気染みた笑顔が、急激な怒りの感情に埋められるが、すぐにその感情を殺して、破壊された一振りの青竜刀を投げ捨て、新たな剣を取り出して構える。



「お前の鎌のタネは割れた、それが分かればいい」



臨機応変な対応はお手のもの、流石はプロゲーマー、踏んできた場数が違うのだろう。



「青竜刀は、雑魚を殺るのに用意してたエモノだったからな。本命は()()だ」


そう言ってソウスケが取り出したのは、二丁の包丁、しかも、何か特殊な見た目をしているのでもなく、どの一般家庭にもありそうな、何の変哲もないそれらだ。


「武器の出所(ソース)は?」


「序盤の街の料理処」


「お前、よく俺にふざけてんの?とか言えたな」



鋸鎌でペン回し的な動作をしながら、包丁の刺突を盾で防ぐ。


そして、そのタイミングで付与術を『鑑定』するが、



「うわ、ホントに無能力じゃん、マナも注入されてねえし」


「そ、少し壊れにくいだけ」



高確率で包丁の出所が正しいことを知り、彼の意外な行動に僅かばかり反応してしまう。



「ま、どんな装備で来ようと、やることは変わらねえんだがな」




――戦いは、もう少し続く。

詠唱書いてて思ったけど、早くアニメ三期来てほしいっすよね〜(パクリって思われたくないので、それっぽいこと言っときました。一応リスペクトしてのことなので、元を知っている方は、何卒ご了承ください…)

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