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襲天のユサーパーズ  作者: Ba-N0rth
ツワモノ暴動、その始源
4/14

牡丹


「――――!」


「うぉお!?」


今にも斬り裂かれてしまいそうな猛攻を捌きながら、トキセを挟むように陣取るザラメ達。


「うーん、やっぱり、A級上位と格闘部門MVPは、一筋縄じゃあ、無理だな」


「俺の部下達もそこそこやる奴等なんだが、流石に格の差があり過ぎただけだろ」


「僕の弟子もそんなところだねー」


拳に纏うオーラの色を変えては、それによる拳打をダガーへと繰りだし相殺する半裸。そして、トキセの背後から気配を顕にした多節棍使い。


「危ないねぇ!」


上半身を狙った乱撃を、上腕で無理やり受けとめることで対処。


「その気配を断つスキル、面倒だね」


「分かっていても意識できないだろ?

――――ッ」


狙いがザラメに向けられ、一秒もない間に攻撃が迫る。


「セーフ」


ザラメの肩を捉えたダガーがそれに触れるよりも早く、強引に腕が入れられた。


「君は腕失っちゃまずいだろ?」


わずかに止まったトキセを蹴り飛ばし、その隙に回復アイテム――ポーションを飲み干す半裸。


「すまん、俺のせいで」


「いいっていいって!僕のほうが再生は低コストだ。それに、今、君の戦力が削がれると危ういからね」


「お喋りたあ、余裕こいてんなぁ!?」


態勢を整える二人に割り込むように、ダガーが投擲され、トキセがもう一振りを突き出して突撃する。


だが、


「な…」


「こんなに早くバフを使うとは思わなかったな」


トキセの放ったダガーは、軽く振られた鉄棍によって砕かれた。


「こっからは、時間との勝負だ」


またしても新たなダガーを手にとって構えるトキセ。


だが、前屈みになり払われた多節棍によって、片腕もろとも粉砕される。


「ザラメ?」


「悪いな半裸、いや、ベリー選手。プロに頼むのもなんだが」


片腕だけで殴りかかるトキセのバランスを崩し、浮いた体を、膝、肘によって打ちつける。


「ぁっ」


「――援護を頼む。」


無理やり拘束から逃れたトキセの顔面を蹴り、生き残った右肩から多節棍により力を加えて、彼の体を吹き飛ばした。


そうして、トキセを見つめて、


「バフが切れるまでに仕留めたい。」











『命火の首飾り』


それは、ザラメがレオから譲り受けたアクセサリ。


任意のタイミングで使用でき、三分間、すべてのステータスが二倍になる、戦闘面ではこの上なく有能なアイテムだ。


だが、その分のデメリットも大きい。


効果時間中は能力の発動が封じられ、バフが切れてからは、継続ダメージによって、一分後には確定で死亡する。

そして、リスポーンをした後に待っているのは大幅なレベルダウン。




「――それでも、今は使うときだ」


「とんだ無茶だな」


ダガーを突きつけるトキセを多節棍によって弾く。


そして、彼の懐に潜ると、


「はい残念!」


ダガーで斧棍はパリィされた。

そのまま刺突を狙う短剣が、すぐそこに迫っている。


「終わりだぁ!」


一歩前へと踏み込み、首を貫こうとするダガー、が、トキセの背を何かが蹴りつけた。


「ザラメばっか見すぎなんだよ!」


ベリーがトキセを前方に押したことで、彼のナイフが、ザラメの腹に突き刺さる。


「おいおい、ベリー。お仲間さんにブッ刺さってんぞ、あァ!?」


トキセが挑発を叫ぶが、ザラメは無視、剛力によって彼の左肩を鷲掴みにする。


それによるダメージは微量しかない。だが、彼の図体を拘束できた、それで十分。


「右腕も不要だろ、重心安定するぞ?」


多量のバフを積んだらしい、オーラに満ちた拳が、トキセの右肩を砕き、彼の体から鈍く硬い音が鳴る。


そこへ、斧棍が通り抜ける。


「両腕は潰した、これで武器はない!終わりだ――

「待て!!」


勝利を確信して、ザラメはリーサルを狙うが、ベリーはそれを止める。

だが、時既に遅し。


「精霊術【喰らわれた死骸(ネクロマンサー)】――」


異様な空気を察知し、咄嗟にザラメに向かって飛びかかり、彼の軽いアバターを突き飛ばした。




「ベリ――「――ザラメくん、後は頼みま「死ねえ!!」


最期にはカッコつけようとしたらしく、一昔前の低音イケボの七三を真似ようとするも、トキセの放った爆発によって、空気の地理と化した。


「いやせめて最後まで言わせてやれよ!あの人声低いんだから!――って、なんとまあひでぇ有様」


立ち上がったザラメが目にしたのは、トキセを中心に直径五十メートルはある、クレーターだった。


「てことは、ベリー選手はそんだけ投げ飛ばしてくれたのか、筋力値が気になるな」


「いやそこかよ、爆発力をツッコめや」


あれだけの光熱で、斧棍が溶けてしまう被害だけに留まったのは幸運だ。


従来よりかは数節の長いそれらが欠けたことで、多節棍は四節だ。


「これでも、使える、な」


武器としての性能を確かめると、ようやく彼は、目の前の敵を見る。


彼が発動した精霊術、その大技の一つである【喰われた死骸】は、魔術契約モブなる、精霊や悪魔、妖精などの魔力媒体を吸収、貯蓄することでバフや魔導術式を得られる、という能力だ。


「本人がステータス干渉を弾く体質ってのを見ても、術式を得るのは確定でもあんのか」


本来、光の弾丸――『ライタナ』は、手元に銃口の役割を担う多面体や水玉があるのだが、両腕をなくしたトキセは、背後にバランスボール程度の大きさの水玉が十個弱構えられている。


つまり、そこからライタナが連射され続けているのだが、


「俺はレオみたいな機動力特化じゃねえんだよ…」


「俺とバトったのが運の尽きだったな」


「うるせえ!暴走車は黙ってろ!!」



縦横無尽に飛び交う光線を、どれも紙一重の差で躱して、狙い(トキセ)へ一撃を入れる。


「チッ」


だが、水玉の一つを盾にされたことで、多節棍の二節を消失する。


「クソがぁ!!」


諦めの悪さを発揮しながら、ヌンチャクと変貌した鉄棍を、叩きつけるが、またしても防がれ、ついに武器を失う。



バフの効果時間は、残り一分を切った。


バフによって、被ダメによる死亡をないものと考えないでいいとしても、残りの短時間でトキセを討てる勝算はゼロに等しい。


だが、()()()ことはできる。


そのためには、やはりライタナの対策が必須。


ここで、己に課した役割――「レオの一騎打ちの優先すること」を遂行するためには、残り一分の間に、すべてを使い果たしてでも戦い切ることだ。



「死亡まではざっと一分半ってトコだ。もう出し惜しみはしねえ、てか、してらんねえ」


正真正銘で、これが最後のデッドヒートだ。



インベントリから、武器を取り出す。




「なんだそれは?色違いか?」


「テメェ、さっきからレオのお手製(ユニーク)ウェポンを壊しやがって!制作費高えんだぞ!?」



新たに手にしたのは、灰色がかった多節棍、その両端へ行くと、それぞれ白黒に染まっている。


「陰陽鉄器『黒銀棍(カゲカゼ)』」


かつて、レオと丸三日かけて採集した希少鉱石によって作られた多節棍、ザラメの宝であり、メイン武器だ。


この武器には、ある特性がある。それは、


「光線がかき消された…?」


「『闇属性』のアイテムはトップクラスにレアだからな!大体の魔法は吸い取るか弾くんだよ!!」


光属性の派生である闇属性によって、天地内の魔法系の攻撃のほとんどに、強い耐性、または親和性を有しており、それは熱や光でも、魔力が入っていれば適用されるのだ。


「耐久値の高さも魅力だぜ!」


全方向から向けられるライタナを、多節棍特有の剣戟ならぬ棍戟で吸い取る。



そして、黒銀棍には、能力がある。


黒い棍によって、魔力を吸収でき、



「消し飛べや!!」


白い棍で攻撃することによって、その分の火力を放出できるのだ。


これは、彼の親友たる付与術師の仕業だ。


「レオ最高!レオ最強!こいつぁ気分がいいねえ!!」


「痛えな、それ。体力がゴッソリ持ってかれた」


「正確には?」


「三割」


「VIT高すぎだろ」


そうこうしているうちに、またしても、もう一発分が蓄積される。



「フェイントォ!!」


「やべ――」


またしても直撃。



「時間切れで俺だけ死ぬか、それまでに共死にするか、ケリつけようや!!」


「よ、バトルジャンキー!!」


攻撃――外れた。




「――――ッ!」


攻撃――またも外れ。


バフ:残り三十秒





攻撃――躱されカスダメ。


残り二十二秒。



攻撃――直撃、まだ死なない。

残り十八秒。



――外れ、向こうの弾丸も増えている。

残り十六秒。





残り0秒。


直撃、クリティカル発生。体力ミリで耐えている模様。



「クッ…、バフが切れた!」


「素のカスステータスじゃあ、俺を倒せないだろ!?」


「それが、そうでもないんだよね」


蓄積された魔力を放ち、ライタナを掠めながらの特攻で、豪速で多節棍を叩きつける。


「“流星博打ベット・オブ・ミーティア”からの…“乾坤一撃”!!」


低確率で、武器の回転速度を瞬間的に上昇させるスキルに、攻撃を構えてから打つまでの時間が短いほどに、威力に補正が入るスキルを発動。

それらと蓄積された火力が、炸裂する。



「土壇場の俺の豪運!最高ゥ!










――とはいかねえか」


渾身の一撃を、無理やり地面に倒れ込むことで躱したトキセ。

だが、地面への激突で、体力はもう残っていないのと同じようなもの。


膝から先がない腕で立ち上がろうとする、トキセの頭を、勢いよく粉砕し、ようやく撃破する。


「あ?」


亡骸となった体から、少しずつ光熱が漏出している。


「嘘だろおい――」


大爆発が起こり、ザラメの体が後方へと吹き飛ぶ。


「あっ、ぶねぇえ!?体力全回させてなきゃ死んでたぞ!?」


直前に、回復アイテムを使用していなければ、体力が尽きて塵にでもなっていただろう。


だが、最終的に勝利したのはザラメだ。今は別のことに考えを向けなければならない。


「戦闘に集中しすぎて、レオ守んのなんか、もうどうなってもいいや!アイツなら善戦してるだろ!」


第一、他人の為にこうまでして体を張るのもおかしな話だ。


「元々これは個人戦、つまりは自分の為「だけ」に動くのが本来のやり方だ」


黒銀棍を収納し、装備を双剣に変更する。


無能力である上に、レオの()()を通して製造したような、癖の強さ、高い費用を有している訳でもない。


剣のような軽い斬撃ならば容易に防げるような、少し硬いだけの石。

それも、ザラメが森を歩いている際に見つけた石ころ、それで作られた細身の双剣である。



「さっきの爆発に反応してる奴等がウジャウジャいてやがる」


十数分に渡る激戦によって、周囲には崩壊寸前の建物がいくつもある。


それをよじ登ったり破壊したりしながら、この場所に接近しては鉢合わせた敵と交戦するプレイヤーが何人も見える。


「スキルのリキャストは終了、回復ポーションは大量に持ってる。これが尽きるまでは、近くの奴等を斬り倒すか」


「スキル――爆剣・改二十七!!」


抜剣ならぬ爆剣。

居合の構えから抜かれた一振り、からの前方への無数の斬撃。


それらの延長線上にある瓦礫が、爆音を鳴らしながら爆散した。


こんな敵の集合地帯で、爆音なんて立てれば、




「いたぞ!やっぱザラメだ!」

「このロワイヤルで順位抜いたるからなぁ!?」

「差し違えてでも殺してやる!!」

「さっきの光といい、まだスキル隠し持ってんのか!?言ってみろ!!」

「毎度毎度トップクラン潰しやがって!分を弁えろ痴れ者が!!」

「さっさと借金返せ、これはお前が始めた“物語”だろ!!」


色々な罵詈雑言が飛び交う中、ザラメは一瞬も経たない間に、またしても居合を構えると、


「邪魔」


1フレームが経過したかも怪しい速度での突進、からの十数名はいたであろうプレイヤーの撃破。

その神業が、今為された。


「いやぁ、こんなレア武器をありがとう!!」


このゲームでは、死亡時に所持していたアイテム、武器は、その撃破者に所有権が移る。

よって、武器を奪われた彼らの反応は、


「「「お前ガチで殺す!!」」」


「じゃあねー」



怒りを喚き散らかすのを無視して、さらに集まったプレイヤーを一掃するザラメ。


彼に向けられる怒号は、ロワイヤルが終わるまでの間、延々と続いたのだった。

次の話から、またレオ対ソウスケ選手を書こうと思ってます。


あと、一応設定とかも記しておくと、ザラメの個人討伐数のランキングは、A級の中でも上位二十人に入ってます。(レオは強者ばかり狙うこともあって五十人中に入ってます。)

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