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襲天のユサーパーズ  作者: Ba-N0rth
ツワモノ暴動、その始源
3/14

「お前、何をした?」


地面に刀剣を突いて勢いを殺すソウスケ。


「本来鞭が与えるダメージ分のデバフをお前に与えた」


「は?」


大方理屈が通るだろうが、少なくともソウスケは納得をしていない。


「いや、いやいや。普通はそんなダメージ量にはならないし、仮にそうだとしてもこのデバフの効果と時間にはならないだろ」


「そうだな、()()なら、な?」


そう、レオの状態は普通ではない。

多量の術式を同時に発動することで、高密度・長時間の効果を生んでいるのだ。


「そうか、今はそれでいい。高出力の付与とだけ分かればいいんだ」


ようやく、レオへの危険視が芽生えたらしく、ソウスケは右の剣先を彼に向ける。


「撤回しよう、君は化物だ。そう、このゲームのA級には化物がいる」


「ちな、俺以上の付与術式は二、三人いるぞ?」


「A級上位バケモンじゃねえか!?」


「まあね、それは否定できない」


確かに、A級の順位が上がっていく程、より色濃いプレイヤーが多くなるのは事実。

実際、レオと仲が良いザラメが、キャラメイクの時点で幼女を選ぶことから、それはよく分かるだろう。



微かな息の音も聞き取れるほど、張り詰めた空気が流れ込む。


「――仕切り直しだ」


レオはそう言い放つと、短剣を鞭から外して、全く同じそれをインベントリから取り出した。


その一対の双剣、その鎬同士を打ち付ける。


「それは、」


「分かるか?これはアンタと同じようになりたくて、何年も前から使ってきた真似事だ」


苦笑するように微笑むレオ、その両手には、かつてはナイフだった、重量とリーチが増した、片刃の刀剣。


「これを作った時は、そらもうはしゃいだよ。でも完全な模倣から離れた方がいいって思った時の感覚も忘れられない」


「そうか?俺は独自にアレンジして使ってくれんのも嬉しいぞ?」


今この場において、二人には照れ臭さは、微塵にもない。


「俺のメイン武器の手前だ、ガチバトルの頭はこれで我慢してくれ」


若干、青龍刀にも似た、長く重い長剣。それらと青龍刀が向き合う。


「おぉぉおおらぁ――ッッッ!!!」


目にも止まらない速さでの一撃、それを受け止めるが捌き切れずに体が後方へ飛ぶソウスケ。


「さぁッ!」


右の剣による追撃。が、豪快に打ち払い、懐に入り込み、二振を突き付けるソウスケ。


「――ッ」


回し蹴りが刀剣の腹に激突し、軌道が逸れたところに、


「閃ッ光、花火!!」


スキルを発動。


大幅に上昇した攻撃速度、今回はそれを威力に変えて叩きつける。

が、その剣戟を左の剣によって受け流すソウスケ。


「鈍間がぁ!!」


レオからの返事はない。


現在、本気を出しているレオは、普段の敵を相手にする時のような、冷静さはない。

それは、焦燥ともソウスケの対処が原因でも、どちらでもない。


「それが、お前の最大の武器か」


防御を掻い潜る蹴りに吹き飛ばされながら、ソウスケの視線の先には、機械のような動きで襲いかかるレオがいる。


最低限の動きで最大限の効果を叩き出す、それを常に繰り出すのがレオだ。


「は、まさかこの僕が、反応速度で負けるとは、な!!」


「火力が釣り合ってるから出来んだけどな」


一点にソウスケを見つめてながら、長剣を振るう。


すぐに弾かれるが、その瞬間、ソウスケの左手首が切り落ちた。


弾かれた方の剣を囮に、手首への攻撃。

だが、それを受けてなお、ソウスケには焦りの感情がない。


それは、レオの腕に切り傷を与える、僅かな反撃をしたからではなく、


「一つ披露しよう」


腕の断面を虚空に向けるソウスケ。

すると、その手首が一瞬で再生したのだ。


「それは?」


僕達(プロ)に与えられた特権、天地の上級者と並ぶための措置だ。残念だな!」


「狡いなぁ!?」


下衆じみた態度のソウスケに、今にも中指を立ててしまいそうな怒りを露わにするレオ。


「あれって、プロ全員に付与されてんのかよ…」


「一応、別の能力を入手することもできるけどね」


レオは冷静に怒りを消すが、代わりに落胆が浮かぶ。


「若干劣勢になったが、だがこれでいい!敵にとって不足なし、てか倍以上の余りが出る!!」


「いいぞお、その意気だ!!」


一気に間合いを詰めて、


重量付与・改三十六(エンチャント)


防御姿勢をとるソウスケごと、剣で叩きつける。


「おっも!!?」


その衝撃に操られるまま、五十メートルほど先まで大きくふき飛び、轟音をたてながら連なる家屋を貫いた。


そこへ、


猪突猛進・改二十五(ストレート)ォ!!」


全方向に斬撃をかましながら、音の速さで接近するレオ。


「え?ちょ」


瓦礫から顔を出すソウスケが、すぐに回避を狙う。が、すでにレオは眼前、避けられるはずがなく、


「テキパキどっかーん!!」


「ぎぃいやぁぁああああ!!?」


悲鳴を上げながら、全身をミンチにされるソウスケ。

だが、


「ポリゴンが出てねえな?」


斬りつけられた彼の体から、微塵もダメージエフェクトが発生していない。


それどころか、


「ちっ、せっかく買ったダメ無効化のアイテムがパァになったじゃねえかよぉ、どう落とし前つけんだ?」


飛び散った肉片の一つから、顔面から下へと肉を生やすグロい肉塊、もといソウスケ。


「きったね…」


「ほとんどお前のせいだろうが」


「ごめんなしゃい!!」


「殺す!!あのアイテム買うためにキャラメイクの時のスキル消したんだぞ!?」


再生中の上半身を揺さぶって起きあがり、ソウスケは「ふんっ!」と息を吐きながら、残りの部位も一気に再生させた。


「あーあ、デフォルトのズボン除けば全裸だよ」


「アクセサリーとかは奪っといたよー」


「テンめぇぇえ…!!」


「ま、これは有効活用しますか」


そう言って、レオはチラつかせていたアクセサリーを口へと運んだ。


悪食術式(バッドマナー)、いただきまーす」


アクセサリーを全て飲み込むと、インベントリから取り出した、青龍刀も、少しずつへし折って食する。


「カスダメが痛え、って、ホントに無能力なんだ、この青龍刀」


「ちょいちょいちょいー?」


武器を奪われ警戒することしかできないソウスケは、彼の意味不明な行動に、とうとう怒りよりも困惑を浮かべている。


「なんか、オーラ?をいじってるけど何してんのー?」


「なあに、ちょっとした()()()()()の準備だ」


距離をおいてレオを伺うソウスケだが、レオの目には止められていない。


そうしてレオは、食べたはずの青龍刀と、アクセサリ手からとり出した。


「インベントリから出す時のポリゴンとは違うな、紫色とはこれまた不思議な…、ってコイツ異変ばっかだろ」


「いやー、それほどでも。お目が高いね!」


そうして、()()()されたアイテムと、もう片方の刀を手渡す。


「これは、バフか?」


「そ、俺の魔力(マナ)を全消費して降霊させた。アクセは常時の全ステバフ、青龍刀はTEQが込められた攻撃ほどダメボが入る」


「急に優しすぎて怖いんだが?」


またしても離れて、それらを構えて警戒するソウスケ。

彼に返された言葉は、



「だって、お前の…いや、ソウスケ選手の最大のパフォーマンスとやり合いたいからな」


子供じみた発言に、ため息をつくソウスケ。


「はいはい、わかったよ」


「ちなみにだが、そのバフ、切れたら、自分でマナ注ぎ込まないといけないから、そこんとこ勘弁な?」


「いやいや、いいよ。そんなデメリットで高出力のバフなら儲けもんだ」


適当にその場を片付けられたので、またしても仕切り直し。


「こんなバトルもいいけど、交流会って感じで、話し合いとかしたかったのにな」


「それはそう、僕も久々にファンに会えたしな」


話す最中、互いに接近して、刃を叩き合う二人。


二人の戦闘は、疲れることを知らない、そんな様子だ。











「らぁっ!」


「残っ念」


レオ達の交戦とは少し離れた地区での戦闘。


とあるプロ――トキセが睨みつけ、ダガーの鋒を向けるのは、幼女姿のゲーマー――ザラメだ。


彼は、ソウスケによって飛ばされたトキセを追いかけてここへ来たのだ。


「しつけえ野郎だな…、その多節棍、わざわざ槍部を壊したんだが、大した効果ねえし」


「悪いが、この先には行かせたくねえんだ」


そう言いながら、ザラメはその方向に背を向けて、トキセと対峙する。


ソウスケが現れた直後、ザラメは、レオの念願が叶ったと内心喜ぶと同時に、それを邪魔しかねない脅威、すなわちプロゲーマーを抑えるために、最初にトキセを狩りに向かったのだ。


その道中には、プロもA級もごろごろおり、それを撃破する最中に、ようやく彼と遭遇したのだ。


「「――――」」


訪れる沈黙。


「すまない、ザラメくん!戻った」


その緊張する状況に、十人足らずのプレイヤーが割り込んだ。


その面子には、プロが二人おり、他は皆A級中位だ。A級の彼らの手には、ガトリング、ゴルフクラブ、大盾、サッカーボールなど、このゲームでは明らかに珍しい武器が握られている。


「いやー、プロもそっち側にいるとは、やり甲斐あるな」


「そりゃあ、あんな大胆なことするやつ、初めてだからな!今はアイツの味方についてみることにした!」


「向こうの決着がついたら、勝ったほう袋叩きにします、喜んで!!」


それぞれの意見を告げて、二人はローブを脱ぎ捨て、拳を構えた。


「半裸その一!」


「えぇと、その二」


その場で考えたとしか考えられない名前に、わずかに反応しつつも、武器であるダガーと、()を構えるトキセ。


「日本六位、『カウボーイ』のトキセ」


「――――」


プロ側が名乗り終えたのを確認して、ザラメは咳払いしてA級達より前に出る。


「プロの方々が待ってくれとるんだ、手短に済ます」


軽く一呼吸をして、


「クラン『珍武器行商会』サブリーダー、ザラメ。と、頼もしい仲間達――」


一行が武器を握りしめて、


「俺らがリーダーのために、トキセ選手をはっ倒す!!」


多数、対一人の勝負が始まった。






プロゲーマー総合順位六位、トキセ。


拳銃とハットを愛用することから、『カウボーイ』の愛称でファンから親しまれる彼。


彼の実力は、その順位から見てとれるように、そこらのプレイヤーに討たれるほど弱くない。


それどころか、A級中位のプレイヤーが十人単位で取ってかかっても、到底勝てるような相手ではない。


こと、このゲームでも、サブ武器たる、二丁拳銃とダガーにおいては、彼と同順位のプロと比べても、技術面は一線を画すものがある。


そして、天地のステータスでは、HP・VIT・STR・AGIに極振りされている。

本来、天地の戦闘でクリティカルは、高度の技量によって発生させなければならない。


だが、トキセが物理武器を使う場合、彼は素の技量で大半の攻撃をクリティカルにすることもできる。


そこへ、格ゲーよりの特攻型となれば、彼の実力を最大限に発揮できるのだ。





「かかれぇ!」


突撃する半裸二人に続き、ザラメの指示に従って、クランメンバーが襲いかかる。


「行きます!」


トキセを睨みつけながら叫ぶのはガトリング使いだ。


彼の掛け声に応じて、初撃から退く半裸。



「文明の利器は怖いな」


連射される弾丸の一部を捌きながら、最低限の被ダメで回避するトキセ。


そこへ、二人の団員が斬りかかった。


「――、」


迫る武器に対して、素早く一息ついて、ダガーを揺らす――否、素早く振るうトキセ。


その瞬間に、ギリギリで回避行動をとる団員の上半身に斬撃が入った。


「はっや!!」


「ちぃ、すげぇなぁ!?」


トキセの刃が二人を捉えた瞬間に、半裸達がトキセの頭部と腹部を、同時に打突した。


が、


「「――――!」」


半裸のうち、一人は片手が断たれ、もう一人は首と肩が深く抉られていた。


また、トキセを殴った手は、細かく斬られており、赤黒いポリゴンが飛散していた。


「嘘だろ、チェリー選手が一瞬で!?」


「このカウボーイには勝てるはずがねえだろ!」


片方の半裸こと、チェリーは、致命傷により硬直しており、片手でサムズアップをしながら地に倒れ伏している。


「ぁ」


「連携が上手いのは良いねえ!GG!!」


そうこうするうちに、団員の一人が討ち取られる。


「釘バットって、なんつー趣味だよ」


彼の武器であるそれを手にとり、襲いかかった団員に顔を向ける。


「【焦熱】!!」


団員と睨みあうトキセに、魔力のこめられた熱球が叩きつけられる。


「効かないか…」


「見たところ、熱と、デバフも弾かれてんのか?」


彼の体は未だピンピンしており、デバフ特有のエフェクトも発生していない。


「それが、アイツの特権――『神秘』か」


「だろうな」


考えこむザラメに、肯定の意を向ける半裸。


「体力はどんくらい減ったんですか?」


「ざっと三分の一、部位の損失はもう治癒された」


生き残ったほうの半裸の状況を確認して、二人は自身に迫る脅威――トキセに目をやる。が、






「おいおい、マジかー」


「いくらなんでも早すぎだろ」


トキセの背後には、全滅した仲間がポリゴンへと変質していた。

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