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襲天のユサーパーズ  作者: Ba-N0rth
ツワモノ暴動、その始源
2/14

笛吹けど踊らず。法螺笛吹けば踊り盛る。

一話の時点で難しかったので、主人公付属の第三者目線、的な感じで書いていきます。


一話を拝見して下さった方々含め皆様、これから拙作に乞うご期待!

「――それじゃあ、俺のライブはここで終わるぜ!またな!!」


ハルマというプロゲーマーにとって、公衆に振り撒いている熱血系(キャラ像)は、彼自身にとってはあまり深い意味は持ち合わせていない。


周りと比べて優れた顔つき、それに群がる連中の所為で仕立て上げられた糞のような戦歴・人気・知名度…エトセトラ。


ゲーマーとはかけ離れた外部に向ける「顔」としてデビューさせられた経歴を持つ彼には、『イケメン兼お笑い担当』の筋書きに則って演じる、表の顔だってある。


そんなハルマにとって、比較的物静かな性格を出させてくれる、()()()()()ファンは救いだった。


理由は言うまでもない。

自分の仮面しか見ないファンとは違い、彼らは自分の好き(ゲーム)を共有できる存在だ。


「でもなあ、ファン(春巻き)共にいいトコ見せようと思ったが…、あんなバケモノがいるとは聞いてないぞ」


配信が終了したのが確認出来た途端に、眉を寄せながら乱雑にVR機器を取り外すハルマ。


彼の口から吐き捨てられる独り言は、愚痴とも負け惜しみとも表現できない文字の列だ。


「しっかし、あのレオとかいうプレイヤー…、今時あんな()()()()を推してるたあ、余程クセの強いスタイル使いこなしてんだろうな」


事実、レオのスタイルは、実に濃いそれだ。

その一つで呆気なくキルされた彼にも、それは十分理解できただろう。


「まあ、これからは仲間だし、スキルの一つ二つでも教えられたらよかったけど、あんまし心配はいらないか?」


それも事実。

試合が始まって数分の出来事とはいえ、レオの技量が異質であることは容易く分かるだろうし、もっと言えば、試合が始まる前から既に、ハルマはそのヤバさを知っていただろう。


「アレには遠く及ばんだろうが、まあ頑張れ」


誰にも聞こえない声援が、戦場に生きる一人のプレイヤーに向けられた。











決定戦が始まり十五分が経過、その中でレオは、ある障壁に行手を阻まれていた。


その相手は、


「――久しぶりだな、林檎飴」


連なる事態にも平静を保つメンタルで話しかける相手――ボブカットの幼女…もとい男は、不機嫌そうに息を吐く。


「レオよぉ、このゲームじゃ俺はザラメだ、前会った時も言ったでしょ?」


俗に言うネカマ――ザラメに対してレオは雑に流して話を終わらせる。


そうして両者の視線が同じ方向へと向けられ、その先にいたプレイヤーが一歩前に出た。


「――そろそろ始めるか?」


若干落ち着いたトーンとは裏腹に、両手に携えた拳銃をチラつかせて急かすのはプロゲーマーのトキセ。


その行動にレオ達は各々の武器を手に取ることで応答する。



「「「――――」」」


立ち位置で言えば正三角形の頂点、そのそれぞれでそれぞれの睨み合いが続く。


そんな中で最初に動いたのはザラメだ。


「レオとのサシを期待してたんだが、これはこれで面白いからいい、か!」


叫び声の終わりと同時、大きく一歩踏み出す。


狙うはトキセ。


片方の手が握る鉄棍で、一つ先の打突部――もとい斧が、彼の頭部を捉える。


「――ハハー!!」


直撃を確信し、短く高笑う幼女風。

が、人の頭蓋骨とはまた別の感触が感じられ、


「君の期待に応えられるよう努めるよ」


斧鉄棍を大きく弾かれ、同時に体を揺さぶられるザラメ。

体の制御を取り戻すよりも、回避行動をするよりも、僅かに上回る速度で、トキセの手の元から弾丸が放たれた。


「らあっ!」


頭を狙う一発を、最小限の動きで躱す、が、直後に彼の体を斬撃が走った。


「意識それてらぁっ!」


鞭を用いた、レオの中距離の一撃。

間髪入れずに放たれたもう一撃、それを安地への跳躍で回避。


その間、懐に入ろうとするトキセ。

反射的に繰り出されたザラメの爪先蹴りが彼の腹へと直撃する。


「遅え!」


直後、迫るレオの無数の攻撃に、ザラメの武器――多節棍が捌き切った。


「振り回すのはそっちが速えよな!」


「だろ!」


その後も続く二人の乱闘に、ダガーナイフに武器を持ち替えたトキセが乱入した。



「ちっ、なんなんだお前ら二人は…。揃いも揃って変な獲物で!」


「「んだと――「二丁拳銃でイキってる俺がバカみてえだろ!」


 侮辱の皮を被った称賛、だが二人が向けるのは言葉ではなく、代わりの大振りの一撃が叩きつけられた。


「――――ッ!」

「――――」


多節棍を肘で弾き、レオのナイフには、鞭にダガーを切り付けることで堰き止めた。が、


「残念!」


鞭は切れることなく、ダガーを軸に軌道を変えた先端を半径に、回転を始めた。


「“円”」


鞭の回転する速度が増していき、やがて、トキセの頬に傷を入れた。












どの時代でも、ゲーム、と言われれば、何らかの異能力を思い浮かべる者は少なくないだろう。


勿論、天地においても数種類のそれらが存在する。


スキル・魔法・付与術式・etc…。


天地プレイヤーは一部例外を除いて、それらから二つの能力を育成している。



未だ中坊にして、長年強者との斬り合いを交わした中で、レオは自身の欠点を補うために、スキルと付与術式を習得したのだ。


そして、付与術式によって武器にスキルを宿し、彼の戦闘力を最大限発揮できるようになった。


そうして、天軍内の順位を数日で荒らしていき、一部で伝説になったのがレオだ。



ここからが本題。

彼の鞭――老衰の鞭――は、その名の通り、その攻撃に被弾した武器の耐久値の減少速度を上昇させる。

そこへ武器の陰湿さが強まる術式が降霊され、先端にナイフを接続すると完成。



そんな武器の攻撃が当たればどうなるか?


「は!?」


三つ巴の状況の中、唯一のプロゲーマー――トキセの嘆く声が響き渡る。


「「ドンマイ!」」


頭部への攻撃を捌くのに、レオの鞭を弾こうとしたダガーが粉砕、周囲にはそれを嘲る二人がいる。


「さっきまで野良どもを片すのに酷使してたもんなあ!?」


レオの言う通りだ。というか、既知の上で狙ったことなのだから、こうなって当然だ。


さらに、


「もーらいっ!」


呆気に取られたトキセの手元から、もう片手のダガーが鞭に絡め取られる。


「てめぇ!!」


一連の出来事に理解が追いついたトキセ。

彼は腰から銃を抜くが、その瞬間に、右手が握る拳銃、それが根本から断ち切られた。


――しかし、トキセは笑った。


「――――」


「遅い!」


中を舞う、()()()()が彼の手元に置かれる。


意識の外から入ってきたそれに、反応出来ず、弾丸が射られた。


「どうだ――ぇ」



ようやくトキセにも喜べる状況があるか、と思われた、が、レオを狙う弾丸は、指二本だけの動きで捻られたダガーによって弾かれ、距離を置いて俯瞰していたザラメへと突き進んでいた。

その上、彼の寸前の動作により、多節棍の端の槍部が銃を破壊しており、またしても唖然とするトキセ。


何食わぬ顔で、ザラメが弾丸をキャッチしているのが、その感情を際立たせている。


「ぃゃ…え?」


「何驚いてるんだ?こんなの天軍じゃあ日常茶飯事だぞ」


「そうだな」


広めの間隔で横に並んで、初心者を見るような眼差しのレオとザラメ。


「そうなんだな…まあいいや、俺にとってはここからが本番だ。両手自体がメイン武器d――あれぇ」


「今の発言、結構大事だったろ!!?」


両手を銃の形にしてレオ達に向けたトキセだが、キメ台詞の途中で吹っ飛んでいった。


意味不明な状況だったが、


「今のって」


「ああ、跳躍魔法――「はーい、そこまで」


彼らの首に刃物が添えられた。


背後からの身動きを封じた何者かとは反対側、二人の視線の先には、配信用の黒球が浮かんでいた。


「……か?」


「――――。」


慎重に背後のプレイヤーと何らかの言葉を交わすザラメだが、対するレオは、思考が停止するような感覚を味わう最中だった。


背後のプレイヤーは、十中八九プロゲーマー。その条件下で、背後の声には聞き馴染みがあった。


「そうだ、ザラメ?君。君は、僕のPNを見てごらん」


少なくとも、現実での友人との話した回数よりも、その声を聞いているし、その姿も見ている。


だからこそ、その驚愕に理解が遅れる。


「おいおい、こりゃあ…」


何故なら、


「夏目ソウスケじゃねえかよ…!」


ようやく、理解が出来た…否、信じられない、という感情が、理解するのを阻んでいたが、それがなくなった、と言う方が正しい。


「どうも、ファンの挑発(こえ)を聞いて、飛んできたよ」


首が長剣から解放され、反射的にソウスケと距離を置いて身構える二人に、彼は軽く一礼した。












「――じゃあな、頑張れよ」


珍武器仲間は、そう言って、猛スピードで走っていった。


彼がトキセの吹き飛んだ方角へと向かい、姿が見えなくなったところで、レオとソウスケは目を合わせた。


数秒の沈黙の中、先に口を開いたのはソウスケだった。


「いやぁ、僕をまだ推してくれる人がいて嬉しいよ」


「合理性を求める声が多いのもあって、浪漫主義のスタイルは古臭い、なんて言われてるしな」


それなのに浪漫技でKOするのは最高、だとか、そんな一般論に腹を立てた経験がレオにはある。


「実際、俺がソウスケ…選手?に憧れてたのは、大分前のことだし、その頃は普通なのが絶妙にいやなんだよな」


「過去形ってことは、今は「ゲーマーとして尊敬の対象」君ガチでありがとう」


若干の照れを含ませながら敬意を示すレオに、落ち着きを失うような態度のソウスケ。


「じゃあ、配信の方もあるし…、そろそろヤるか?」


太い長剣を両方の手に握らせるソウスケ。

その立ち姿には一切の隙が感じられず、どこから掛かっても倒し切れない確信がある。


「相変わらず、超重量の青龍刀二本を振り回してんのか。生で見るとゾクゾクする」


俗に言う武者震を全身で感じながら、レオは鞭剣を前に出して、左腕の小盾を胸元に添える。


ソウスケの背後へ回った配信球には、研ぎ澄まされた精神を剥き出しにする両者が見えているだろう。


「『乱獲者』のレオ」


「『格好付け』夏目ソウスケ」


同時、両者が武器を払いながら近付き合い、鞭剣と青龍刀が激突する。


「――!?切れ味が落ちねえ!やっぱ打撃属性かよ」


「正ッ解!」


鞭による攻撃が押し返されるも、止まらずそれを払って、一々重々しい攻撃を一つずつ捌く。


「――――」


鞭による切れ味低下が意味をなさないこともあり、ソウスケの武器へ抱く希望は耐久値。


だが、何度もデバフが掛かってはクリティカルまで発生していても、彼の青龍刀は削れることすら起こらない。


「耐久値に振ってるクチか?」


長年の付与術式の育成によって得た、エンティティの能力の有無を調べるスキル。それを用いた結果、彼の青龍刀は無能力。


元から耐久値が高いものを手にしたのだろう。



「【ロック・ブラスター】」


「――――ッ!」


振り下ろされた刀剣をギリギリで躱し、大振りの隙を通じて、鞭の乱舞がソウスケを襲う。


「【閃光花火】!」


守りを固める青龍刀諸共、全方向から鞭が打ち付けられる。


その速度は音速を超え、その連発は、レオのスタミナが切れるまで続く。



「はぁ、はー!!」


このスキルは本来、発動後の移動が不可能になること――即ち、その間の他者からの攻撃への対処が困難になることを視野に入れなければならない。


今までは移動せずとも捌ける者が殆どだったのでその心配はレオには不要だった。


だが、今回の相手は嘗て浪漫技だけで世界を相手にしたプロゲーマー、今も尚健在であるその技量相手に、それが成せる可能性は極めて低い。


「かなりの賭けに出たようだが、ダメージもそんなに入れれてないぞ?こりゃあ、大した勝負は出来ねえな?」


「どうだろうな?」


「どうもこうもあるか。手数で押すタイプっぽいし、技量もプロレベルに優れてるけど、それじゃあ僕には届かない」


「――――」


希少な自分のファンとの会話を惜しんでいるのか、ゆっくりと、地に膝をつくレオとの距離を縮めるソウスケ。


「せっかく本気で戦おうと思ってるのに、手の内を見せられないからかな?まあそれは配信中の僕も同じだ」


「――――」


「図星だった?ごめんごめん。そんな真顔で見ないでよ。ヒソカみたいに興奮する訳じゃあないけど、感情殺してる顔は嫌いなんだよ」


満面の笑みで語りかけるが、形容し難い表情で見つめ返すレオ。


「感情を殺してる、か」


「――ん?」


デバフが切れ始めたようで、レオは体の重心を僅かに上げていく。


「確かに、何かの感情が抑えられてる感じだな。推しに会えて緊張してんのかもな」


元のステータスへと戻り、鞭を構え直す。


「あーらら、戻っちゃった?もっと早くに仕留めればよかったな」


変わらず崩れない笑顔、隙のない立ち姿を前にして、レオは思った。




「じゃあ、また会う日が来たら!!」






――パチン。


ソウスケの別れの言葉の途中で、レオの指が乾いた音を立てた。


「【遅れて咲く黒花(ディレイブルーム)】」


二本の刀剣の薙ぎの寸前、ソウスケの動く速度が激減した。


花火によって芽生えた術式(呪い)が、今、ソウスケの体を急速に蝕んだ。


攻撃が中断したソウスケに、更なるデバフの込められた飛び蹴りが直撃した。



――レオは、思った。


もっと、殴り合いたいと。

――レオの老害鞭に付与された術式について――


・耐久値減少の促進は、一定時間継続のスリップが強制される。

・対象が刃物であった場合、前期のスリップが終了する、又は対象が消滅するまで、物体への切断効果が消滅する。

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