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襲天のユサーパーズ  作者: Ba-N0rth
ツワモノ暴動、その始源
12/14

食物連鎖

「「は?」」


一人と一体の声が重なる。


だが、そのような反応を向けられても、レオは表情を崩すどころか、口元を綻ばせている。


そういった表情になるのも無理はないだろう。


何せ、同じ反応をしているモコと青年だが、それぞれの驚く理由が異なることがわかっているからだ。




レオの考えを説明するには、モコについてを話さなければならない。


彼?は、青年を「食った」ことを認めてはいるが、レオの発言には、何かを「知った」ことや「気づいた」ことに驚いているわけではない。


気づかれた、という異常事態からの焦りが主な理由なのだ。




「さてはお前、肉体の存在を奪えるんだろ?」


「――!!」


この様子からして図星だ。


「…、なぜわかったのな?」



それも言わなければならない。



「ずっと気になっていたんだ、お前らと会った時から」


「――?」


レオがモコたちと一戦を交わした際、フワの行動が気がかりだったのだ。


そして、その確信は、つい先ほど、彼らと交わした雑談にあった。



「本来なら魔力のない死骸だというのに、なんで実体を持てたんだ?」


「ん?」


「いや、正確には、体を“動かせた”の方が正しいのかな?」


レオにとって正直なところ、この推測は、考えただけでも意味がわからなかった。


倫理的な面で、ではなく、論理的にあまり理解に易しくない、という意味で、だ。



おそらく、フワやモコをはじめとする付喪神は、物体に憑依ができても、動くのには何らかの手順がいるのだろう。


実際、レオの知識の範囲内でも、魔法系のモンスターで、そんなことができたのは、生物に寄生・憑依したものしか見たことがない。

まあ、このエリアの怨霊、妖怪が例外という線も捨てられないが。


「だが、ここからは、ただの憶測にしかならない」


根拠となる事実も碌にない、仮説だ。



「“動き方”を知っている生物の魂を得ることで、その情報を手に入れたんじゃないか?」


「それを見抜かれては、言い訳のしようがないのな」


観念した、という態度のモコに、レオは満足そうに笑んでから、青年の方を見る。


「で、お前ら。さっきからこいつ、話を聞いていてもアホヅラしてんだが?」



今までの話を聞いていたら、モコに対する怒りとか、衝撃の事実とかに驚いていそうだが、いまだに理解していないのが丸見えだ。



「あー、それはだな」


『モコが喰った時に、この子の記憶ごと喰っちゃったのや』


追及され、目を逸らしながら口籠もるモコ、の代わりに答えるのはフワ。


「へー…え?」


『で、魔力だけが残って、この子の肉体が魔力に融けてるんだや』


「え?」


「それで今のこいつは、怨霊と人間の間、みたいな状態だな」


「は?」


『だから、さっきの使い魔にする、ってのも間違ってないんだや』


「ちょ、」


『君の洞察力には驚いたや』


「ちょいちょい、待て待て待て!!?」


口が回り続ける二体を、無理やり制止させる。


「いや、使い魔になれ、ってのは、だいぶ流れに任せたかまかけだったんだが!?」


「『え!?』」


実際、ここまで的中している考察を当てられたら、そう思うのも無理はない。


「なんというかまあ、肉体が魔力に浸透していたからな、怨霊化してるのでは、とか思っただけだ」


今度はレオが目を逸らす番になり、その場の全員からの冷たい視線が向けられる。


その棘のような感覚を水に流そうとするも、付喪神たちのそれは、だんだんと呆れへと変わっていくのが分かった。


「ところで、フワ」


『今のこの青年は、“擬人式神”に分類されるのや』


レオの思考を読むことで、疑問をすぐに晴らしてくれる。


「擬人、ねぇ」


「まあ、例外だがな。能力も術式も持っとらん。魔力が多いのが救いだな」


となれば、これからレオに連れられるにあたっては、育成は必須事項になるだろう。


「それじゃあ、決まりだ。さっさとシナリオを攻略しねえと」


「ちょっと待ってくださいよ!」


話がまとまりつつあるレオたちに、怒声を含んだ青年が殴り込んだ。


「確かに何も思い出せませんが…、妖怪、俺が?モコ様まで何を仰るのですか!?」


わなわな、と震えながらレオたちに詰め寄る青年。だが、彼らから返されたのは、慰めではない。


「勘違いするな、ガキ。私の指であるのだから、黙って従って居ればよいのだな」


「そうそう。で、それを従えてるのが俺だから、お前にはハナから拒否権はナシ!いいな?」




そう、この青年の反論など、レオにはどうでもいい話。


手駒を増やせるから捕まえた、そんな客観的事実にしか興味関心はない。


「ちなみに、こいつらを通じて甚振ることもできるんだが…、それで調教してやろうか?」



事実上、モコの式神であるため、力で蹂躙することだって不可能でもない。


だが、


「――なんて、冗談だよ!」


「――!?」


「サプラーイズ!!」とかの効果音がついていそうなテンションで、青年へと言い放ち、後ずさる彼に詰め寄る。


「いぃいいぃやぁぁあああ」


「あはっ、なんだそりゃあ?ホントに妖怪じゃねえの」


「くっ、来るなぁぁああああ!!?」


「お?シャイボーイめ」


「何をする気だ!?調伏する気か!?」


「しないしない、調伏は」


「うんkだ…嘘だ!!」


「今なんかすげえ言い間違いしたな!?」


平安版ムーンウォークで逃げる子供を、爆笑しながら詰め寄る、なんともシュールな絵面。


『ストップ!』


「はいはい」


その奇行を、一叫して止める声。


「ごめんごめん、からかいたくなって、な?」


「へ?」


「ホントだよ、ホント」


徐々に真剣な表情になるレオに、声に落ち着きが戻るのが分かった。



当然ながら、このようにふざけ散らかすのが目的ではない。


それに、この名もなき――、否、名を失くした青年を従えさせることも、レオには興味がない。




――なら、何がしたいのか。


簡単だ。



「ま、安心してくれよ」


宥めるように語りかけながら、そっと、彼の肩に手を添える。



「“開花(ひらけ)”」


「――ッ!!?」


腕輪から抽出した魔力が、青年の全身へと注ぎ込まれ、彼の体が魔素に染まっていく。


「――――」


声にならない声を放っては抵抗を試みるが、それも虚しく、次第に全身から血の気が引いていくのが見て分かる。



「俺は、「調伏しない」とは言ったが、「何もしない」とは言ってないんだよな」



『レオ、記憶は喰い終わったんだや』


「OK!じゃ、乗っ取っていいぞ」


「や、べろ…!!」



スムーズに話が進んでいくが、その一人と一体のやり取りに割り込む、荒くか細い声。


「なんだ、まだ生きてんのか。よかった」


青年の肩に触れた手に、さらに力を込めて、魔力を流し込む。


だが、その最中、場に沈黙が訪れた。


「え、“()()()()”?」


「なんでもいい!放せ!!てか色んな所から口出すな喋んな気持ち悪い!!」


困惑をモロに出すフワと、いまだに怒りに染まった青年。


「片方は分かるが、フワのアホヅラはなんでだよ」


「いや…」


「まあいい!」


いつまでも冷静を取り戻さないフワに痺れを切らしたのか、レオは、ぴしゃん、と手を叩いて黙らせる。


「フワ、喰った記憶は戻しなさい」


「な!?」「は!?」


一人と一体の反応が重なる。


「フワがいれば、この人の魔力は安定する。そうすりゃあ人のカラダは回復するでしょ?」



レオと接続(リンク)していたマナバッテリー。


それに憑依した魔力操作の一級品(フワ)ならば、この名もなき青年の容態の向上ができる――、レオはそう踏んだ。


そして、フワの拠り所を青年へと移動させれば、必然的にマナバッテリーも戻ってくる。


そう、一石二鳥だ。



「ということで、フワ。その人を救ってやれ。お前が救世主だ」


「いやいや、やだn」


口を出して(物理)愚痴をこぼすが、その口のスレスレに刀が突かれ、その威嚇に萎縮した。



「やれ、じゃなきゃ大便に憑依させるぞ」


「鬼だな!」



それなりに脅しのこもった命令を叩きつけて、無理やりに話をまとめさせる。


「待ってくれ、いや、待ってください。一体なんのためにそんな――」


「このエリアについての情報が欲しいんだ。ついでに救える命は救っておきたい」


嘘である。




レオの本心は「こいつ大変だ!早く助けないと!」である。


ついで、なんて言葉が加えられている意思こそが本心なのだ。


この意地っ張りが、ザラメの態度にも影響しているのを、レオは知らない。




冗談はさておき、



「情報…、だから「記憶」を戻したいんですか?」


「それもあるんだけど…」


「「「あるんだけど?」」」


「キミにフワを宿したほうが、フワの本領を発揮できると思って、ね?」



あくまで本音を隠したうえで、理に適った理由も提示する――、副団長から教わった手法である。


ただ、そのコピー元と比べれば、使った本音ではいささか説得力が足りないのだが、そこは見るべきではないだろう。



「俺の言うことは絶対、だろ?」


「この童に“固有術式”がないのが救いだな」


「コユウジュツシキ?」


「なんじゃ、知らんのかや?」



首を縦に振っての肯定。


「いい機会だや。童、主君(レオ)に教えてやれ」


少し堅くなった呼び方に引っ掛かりを覚えるが、会話を続行する。


「え、僕そんなの知りませんよ?記憶ないのに」


「私の魂と繋がっているのや、私の記憶を見れるだろうや」



聞き捨てならない内容が入っている気もするが、気にせず待機。



「えぇと、魔力を持った生物の特殊能力、だそうです」


「特殊な、ね」


「フワ様によれば、レオ様の“スキル”と似たようなものだそうです」


「なるほど……」


つまるところ、付喪神のような、物体に憑依するタイプのMOBは、憑依する対象に、他の術式などがあると、ほぼ確定で拒絶反応が起こる、と。



「なんだ。じゃあ、さっき聞いた話と同じじゃん」


「生憎、そういうわけにもいかないのや」


何やら口籠もっているフワ。



「あー…、仮に“固有術式”があった時、相性次第じゃあ、互いの魔力構造が激しく乱れる。双方が消滅することも、珍しくはないのな」


「じゃあ、この人にスキルがなくてよかったー、ってことでいい?」


「そうや」



危なかったな、とレオは反省する。


もし、この青年にスキルがあれば、最悪フワが消えていた――、そうならなくてよかった。



「私の言いたいことはこれで以上。主君の命だ、この童には、できることをしよう」



レオは頷いて、刀を仕舞う。


「あ、そうだ」


「?」


一つ、レオは思い出した。


「どうせなら、新しい名前をつけない?」


こうして、数時間に及ぶ『名付け論争』が、幕を開けるのだった。

下ネタもどきのとき、青年はめちゃくちゃ早口になってます。

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