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襲天のユサーパーズ  作者: Ba-N0rth
ツワモノ暴動、その始源
11/14

もぬけの殻に一刃を

「分からないのや」


「え…」


目の前の怨霊群“空虫”の特性を尋ねるが、レオが求めていた答えは得られなかった。


「確かにそうか、触れられただけで命が危ういもんな」


「ああ、な。私達(妖怪)や怨霊どもは、その異質な生存本能ゆえに、己の力のみで戦うことはせんのな」


だがどうするか。


“悪食の剣”は無能力となり、術式の回収も不可能である可能性が高い。


「でも、それはどうでもいい」


あの剣は、魔力があれば強いのであって、ダメージ補正がある、とかいう訳ではない。

初めから、持参していたどの武器も、魔法耐性は平均レベルだ、大して思考を巡らせる意味もないのだ。


「これで悩みの種は紛らわせられたかな?」


早速、作戦会議、とでも行こう。


一体の司令塔につき、その小型を囲うように位置取っているのが、三体。


「あいつら、どこを斬っても消えなかったところを見るに、」


「中のチビが怪しい、とな?」


「そうだ」


だが、空虫達の連携が厄介である。

一つの小隊を崩すのにもひと苦労、とはいかないだろう。


だが、それをやらなければ勝ち目はない。


「“開花”」


「――!」


変換された魔素を手に纏い、モコに触れることで移動させる。


これがあれば、空虫の接触を数回は防げるだろう。


「決戦に臨む前に、聞いておかないとな」


そう言って、レオの視線が、モコに向けられる。


「モコがあれだけ怨霊に噛み付いたり殴ったりしても身が削られていないのは、体質か?」


「――、やっぱり、気づくのな」


正直、レオがこれに気づいたのは偶然だ。


“万能感知”を使った際に、モコが触れた部位が、比較的無傷だったのだ。



「――――」


肯定するモコの表情は、曇っているようにも見える。


おそらく、レオに武器として扱われるのだと確信しているのだろう。


「モコ、お前の考えは半分違う」


「?」


「生き残るために、一緒に戦ってくれ。てか戦え」



また黙り込んでいるのが分かったが、それを悠々と見ていられる状況でもなく、そのまま続ける。


「戦るぞ」


「分かった、のな」


「よろしい」


腹を括ったらしいモコが、全身を巨大化させ、拳を構えた。


「――レオ」


「なんだ?」


レオの前方に立ち、空虫と対峙するモコ。


「魔力をもう少しくれよな」


「たく、図々しいもんだ」


そんな会話を交わしたのち、戦闘が再開した。











「――()ィ!」


極限まで略された詠唱とともに、鋼剣から放たれる豪炎。


詠唱の省略に伴った、わずかな威力減少があるものの、本来ならば上位プレイヤーすら即死させる壊れ技。


果たしてその効果は、


「効いてないな」


試せる元素魔法は試したが、どれもダメージが通った手応えはなかった。


『全部吸収されて終わったんだや』


「ああ」


だが、別で新たな発見があった。


「ただの肉弾戦が最適、とはな」


生身での格闘に長けているらしいモコ、彼?彼女?に防護壁を纏わせて殴りに行かせたのだが、その攻撃によるダメージに効果があるのが分かった。


「フィジカル特化と頭脳派か、こりゃあ相性がいいな」


「?」


首を傾げていそうな反応をするフワ。

だが、レオの口は止まらない。


「フワ、付与術式って知ってるか?」


『“言霊”のことかや?それなら知っている』


「よし、ならいい」


“言霊”という別名を知っていたのが幸運だった、とレオは感じる。



剣を持たない方の手を腕輪に翳して、術を発動する。


『これを?』


「ああ」


『やれと、や?』


「やれ」


端的に言い合えるとすぐに、空虫の方へと向かうレオ。






「――レオ!?」


「俺も混ぜろ!」


唐突なレオの行動に戸惑いを隠せないモコ。


だが、当のレオは気に留めずに、二振りの刀を空虫に突きつけている。


「鋭けりゃア、硬さなんて意味ねえんだよなァ!?」


スキル発動――、徐々に上昇する攻撃速度が、無尽蔵にいる怨霊を斬り裂く。


「――――」


一秒間に二十回超繰り出される、神速の連撃が、瞬く間に前衛怨霊を壊滅させた。


――ッ」


その現象を警戒する司令塔怨霊――その反射的な抵抗、それも虚しく、左脇腹から首と、腹部が、それぞれ五つほどに裂かれる。


が、


「は――」


刹那、背後からの不意打ち。


察知してパリィ、そのまま距離を取る。


「なんで増えてるんだよ…!?」


斬り裂かれた後の、大量の肉塊。


ゴポゴポ、と不吉な効果音を立てながら、少しずつ膨張し、やがて形ができ始め、


「「「――――ッッッ!!」」」


絶望感を伴った不協和音(なきごえ)が、レオの心に焦りを募らせていく。



『まずいや、レオ!逃げ道を塞がれた!!』


「こっちもだな」


無限湧きの域にでも届いてしまいそうなレベルの頭数が、レオ達三名を捕らえた。




「ふ」


この状況では、もはや笑えてくるのだろうか――、











――否、


「――――ッハッハハハ、はァ――!!!」




違う、何もかもが違うのだ。


レオにとっては、これは最悪の状況にも、絶体絶命のそれにも値しない。


かといって、最良のシチュエーションであるわけでもない。



至福(サイコウ)だぁ!!」



こんな絶望に満ちた時こそ、ゲームという存在を叩きつけられる、そんな気分がする。




――だからこそ、笑わなくては。


――だからこそ、楽しまなくては。


――だからこそ、戦わなくては。


――だからこそ、冒険をせねば。










――だからこそ、




「暴れようゼェ!!」


「ちょ、レオ!?」


宣言をした瞬間に、モコの防護壁に触れて、()()をいじる。


「出すのだな、レ「すまん、今は無理だ」


そのままモコを閉じ込めて、ついでに刀もインベントリに収める。


『そんなものでは「できる」


あれほど狂ったように舞っていたにもかかわらず、レオの態度は落ち着いている。


だからこそ、力を最大限に発揮できるのだろうか。




だが、無刀であれば、意味はない、誰しもがそう思うだろう。


「――()()()を使うかな」


細い腕を全力で振りながらの全力疾走、そのまま空虫の群れの一角に詰め寄る。


その奇行に、空虫は鼻で笑うように笑いながら迎え撃つ。



――だから、死ぬのだ。



「“()を呑め”」


レオが常用する、詠唱の省略を施された魔法、それと同じくらいの長さで発された一言。


だが、その言葉は、魔法とは異なり、レオの最強の切り札の一つとして君臨する。




「――ッぎっ、ァァアアア!!!?」


狙いの的になった怨霊、その顔面を左手に掴み、炎を纏った右手が、胸を貫いた。


右手の炎に蝕まれる怨霊、その体が燃え尽きていく中、レオの手の爆炎、勢いが激しく増す。


「“食炎(クライビ)・白”」


突如、レオの炎が白い光へと変わり、爆炎の周囲に火花が散布する。


「「「――!?」」」


その火花に肌を掠めた怨霊が、同じ白炎によって、身を塵へと変えられていく。


『――――!空虫から魔力が吸い尽くされてる…?』


このような事態になってもなお、冷静に状況判断をするフワ。


その“解析眼”を通した視界には、魔力の()が薄まり、レオのその濃度が高まっている――、そんな光景が映っていた。


『そんな、一気に魔力を吸ったら…どうなるかや!?』


魔力――またの名を呪力――というのは、薬と同じような扱いでなければならない。


正しい節度をもって吸収・消費しなければ、その魔力の宿主、その肉体に反動が迫る。


特に、魔力を限界値よりも多く貯蔵できるのは、妖怪の特権、人間には体質的に不可能なのだ。




だが、レオはその問題を解決しているらしい。


現に、どれだけ空虫から魔力を絞っても、その体には傷ひとつすら入っている様子は見られない。


となれば、考えられる推測、その焦点はひとつに絞られる。


『私の魂が修復されている…!』


先の出来事で損傷した霊魂、その回復に回した、ということだろう。


それだけではない。


吸収された魔力は、モコの魔力総量を満たす量も移されていると考えられる。


それに、フワのそれも、すでに限界量を上回っている。


『す、すごいや…、レオ、いや、主』


「そうだな、あの者の実力は、我々に計り知れるものでは「っはぁ、もう駄目だ!」


「『――――!?』」


突然、防護壁を解除してモコを担ぎ、隙だらけになった突破口を走り抜けるレオ。




「すまん、一旦逃げるぞ!」


「なら担ぐな!」


犬の霊を猫掴みで持ち上げていたのが、無理やり地面に降りて、着地と同時に全力疾走するモコ。



『空虫はどうなったのや!?』


我を忘れて都を駆ける二名に、焦りを見せながら問いかけるが、返答は、


「仕留めるのは無理だった」


そう、端的に返されるだけだった。


「――ただ」


「ただ?」


小型犬に姿を戻して、その速度を引き出したらしいモコが尋ねる。


「しばらくは「ドゴォオン!!」


続きを伝えようとするも、レオの顔面スレスレに、空虫の体が投げつけられ、轟音が邪魔をした。


「あいつら、えげつねえな…」


「もういい、今は逃げることを考えるのな」


そうして、岩のような肉塊の嵐から逃げることとなった。







「――大丈夫か?」


地べたに倒れ込みながら吐息を漏らすレオ。


彼を見下ろしながらそう言うのは、白と赤が基調になった服を着た、背の高い青年だ。


「おい、大丈夫かって聞いてんだ、さっさと答えろ人間」


「なんだこいつ…。まあいいや、とりあえず、助けてくれてありがとな」


空虫からの逃走を図るレオ達だったが、いつまでも追いかけてくる怨霊群に追い詰められていたのだが、その状況に駆けつけてきたのがこの青年。


レオの貧相な知識からしても、明らかに神聖な仕事でもしていそうな見た目だが、彼からすれば「こんな傍若無人みたいな奴と話したくない」というのが本音だ。



「ふん、まあ、例は受け取っておく。お前の使い魔を死なせるのは気が引けたからな」


「?ああ、モコのことか?」


「え?も、こ…?」


「え?」



モコの名前を確認するなり、顔を強張らせ、身を震わせる青年。


「確認ししておくが、そのの犬霊、であるよよな?」


「すごい挙動不審、あと付喪神ね」


この反応を見るに、明らかに、モコ――もしくはモコたち――が危険分子に近しい存在であることは、レオにも理解できた。


青年は、身に纏った、巫女服の男装版のような衣服、身だしなみを整えるようにして心を落ち着かせながらレオに視線を戻した。


「なら、今はお前の、いや、貴方様の軍門に降った、というわけですかな!?」


「お、おお。そういうことだな」


額に汗を滴らせたかと思うと、光の速さの土下座でレオたちに頭を垂れる青年。


「たいっへん、失礼しましたぁ!モコ様の主人殿であったとは気づかずに、無礼を働いたことを大変お詫び申し上げます!!」


「なんか分からんけど、いいっていいって!こんな街中で痴態を晒すなよ」


どうにか宥めて、レオは青年を立ち上がらせて、服についた汚れを払ってやると、次はモコを見つめた。


だが、その視線に返答したのはフワ。



『その人間は、以前モコが殴り倒したやつぞや』


「何してんの?」




その後も外道らしさが混じったように何やらを話しながら爆笑しているモコを尻目に、レオは青年に詰め寄り、彼の全身を探るように調べまわす。


「んー」


が、ひとまず眺めてみたが、これといった特徴は特に見当たらない。


このご時世では比較的整った体型、ざっとそれくらいだ。


「――パチン!」


ここで指パッチン、指定しておいた動作によって、“万能感知”を発動し、今度は彼の中身を見る。


すると、レオの目に、不思議なものが見えた。


そしてすぐに、その正体を理解した。


「モコ…お前、こいつを()()()な?」


この青年の異常な魔力の特性。


青年のそれは、肉体の生成・維持するための最低限の量しか存在しておらず、その量を超えることがない。




「――――」


これは、レオのNPCに関する記憶では先天性の現状ではなく、誰かが意図的に吸収しなければまず起こらない。


そして決め手は、青年の魔力に干渉した痕跡――魔力の『色』だ。


「こいつの味はさほど絶品だっただろう、なあ?」


「――――」


黙る、すなわち無言の肯定。


観念したらしく、俯くモコに歩み寄り、その頭に触れて、


「よくやった!」


「は!?なのだな」


犬の頭を撫でたのち、今度は青年に近づく。


「君、俺に敬語はいらない。そして」


青年の額を人差し指でついて、魔力を注ぐ。


「俺の式神(使い魔)になれ」


人形のように、力が抜けて倒れる青年、その意識が残るうちに、レオは言い放ったのだった。

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