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「ねぇねぇ、あれ何か知ってる?」


 とある寺の大仏殿。


 参拝を済ましてから見て回っていた時、ふと彼女が聞いてくる。


「柱にある穴をくぐり抜けるとご利益があるってやつ。たしか無病息災と祈願成就」


「へー、物知りなんだね君」


「いつかのレポート課題かなんかで調べたことがあるんだ」


 小学生くらいだろうか、小さな男の子が潜ろうとしている姿を興味津々に見ている彼女は、彼が無事くぐり終えたあと、こっちに振り返った。


「わ、私もやってみようかな……」


 と、年齢故の躊躇いとウズウズ葛藤しながら一言。


「やめといたほうがいいよ。抜けなくなるから」


「えー」


 それに対してノータイムで返すと、じゃあ、と迷案でも思いついたのか、ビシッと僕を指差して言ってくる。


「代わりに君がやってきてよ。君なら通れそうだし」


 それはどういう意味か。


 再び口がついて出そうなのを堪え、一呼吸。


「遠回しに小さいって言われた気がするのは気のせいかもしれないけど、とりあえず遠慮しとくよ。あと、人はどこに地雷が転がってるかわからないから言動には気をつけたほうがいいよ」


 努めて微笑を浮かべ、やんわりとお断りしておく。


「ごめんごめん、背が低いの気にしてたんだ。気をつけるから許してってば」


「今完全に僕の背が低いって認めちゃったけどね」


 悲しいかな、事実だから否定できない。理不尽に怒る性格でもないし、自分の身体の成長を恨むことしかできない。


「そ、それででやるだけやってみなよ。祈願成就なんだしお願い事でもいいじゃん」


「お願い事とか特にないしな」


「なんで? 背を伸ば……じゃ、じゃあ無病息災でもいいよ。身体は大事にしなきゃ」


「神様とかあまり信じない人だから別に、」


 言われてはうやむやに否定してを繰り返す僕に、彼女は小さく唸り出した。


「ああもういいの! なくてもせっかく来た記念ってことで。ほらほら」


 リュックを勝手に外されて、ぐいぐいと肩を押されては強制的に柱の穴の前へ。


「よかったら写真撮ってあげようか?」


「それは本当にやめて」


「分かってる分かってる。それじゃあ私はあっちで……と、そうだ」


 柱の反対側に回ろうとして、けど足を止めた彼女は、おもむろに手を差し出してくる。何かと僕が彼女の手の下に手を広げて出すと、ぺちっと音を立てて合わせてきた。


「何?」


「君がお願い事しないから、代わりに私のお願いを君に託しとく」


「何お願いするの?」


「秘密。その方が叶いやすいって言うでしょ? じゃ、先にいるね」


 彼女を見送って、いざ穴に頭を入れる。


 羞恥心も然ることながら、抜けなくなったらどうしようなどと思考を過ぎらせながら、足で地面を押して身体を徐々に入れ込んでいく。


 決して広いわけではなく、寧ろ隙間などほとんどないほどに狭い空間なのだが、思っていたより楽に進める。これなら無事に抜けられそうだ。はまって赤の他人に助けを請うなんて最悪の展開にならないで済むならなにより。


 小さくて良かったと、不覚にも思ってしまったのは、穴から頭を出すのと同時。


 ピタリと静止した僕の上から、先で待っていた彼女の声がかかる。


「どした? はまっちゃった?」


「いや、はまってない。はまってないけど、むしろはまった方がよかったというかなんというか……ごめん、やっぱはまってるっぽいから引っ張ってくれる?」


「え? でも自分で抜けられそうじゃ、」


「引っ張ってくれる? 身体はまって抜けられないんだ」


「う、うん。分かった」


 大して彼女に力を貸してもらう必要もなく、けれど力を借りて抜け出した。


「意外と簡単そうだったね。身体ちい、」


「……」


「……いや、やっぱなんでもないや……あはは、お疲れ様ー……」


 その先を言ってはならないと視線だけで伝え、颯爽とその場を去った。

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