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序章
あるところに、花国と呼ばれる美しい国がある。
東西南北の八つの都市と中心に位置する帝都、計九つの地からなるこの国には昔から人と人ならざるものが住んでいた。
人は人ならざるものを妖や神と呼んだ。
妖は人を食らい、人は妖を屠る。神は人を蹂躙し、人は神を崇め、ときに呪った。
それらの力関係はいつの時代も均衡を保っており、人も、人ならざるものも、どちらかが一方的に国を支配することはない。
しかし、決して交わることもなかった。
長い花国の歴史の中で幾度となく繰り返されてきた戦いにより、人と人ならざるものは相容れないものであると双方の遺伝子に深く刻みこまれているのだ。
二つの種族の間には大きな溝が横たわっている。手を取り合って生きることなどできるはずがない。
誰もがそう思っていた。
――一人の少女が生まれるまでは。
これは、人と人ならざるものの間に産み落とされた少女が起こす、革命前夜の物語である。