九話「白い怪物」
あれから数週間が経った
夜にアルフレットたちの目を盗み、近くの山で魔獣と戦う訓練をしている際
ドーガに打ってもらった剣で戦い、その完成度に何度も驚いた。
少し力を入れ、横方向に斬撃するだけ魔獣が豆腐のように切断され
魔力伝統率が高いおかげで強化の魔術も付与しやすい。
そのおかげで、ただでさえ異常な切れ味がより鋭利になり、魔獣を切断するだけにと止まらず
後ろの木も同時に切断してしまう有様だ。
正直この剣を使えば上級、英雄級の強さを持つ大型魔獣なら難なく倒せるだろう。
だが、それでは駄目だ。
こんな武器のステータスだけで戦っていても強くなることができない。
俺の思う強さとは、【心・技・体】全てが揃っていること、
心が強ければどんな苦難でも対策し攻略できる。
技術があれば自分より強い腕力を持っている相手にも勝てる、
体が強ければ精神はもちろん高度な技術も扱える。
その点、ドーガが打ってくれた剣は確かに強いが勿体ない。
だから、この剣は俺が本当の窮地に立った時にしか使わないようにしようと
心の中で誓った。
そして今日もアルフレットと木剣で鍛錬に打ち込む。
鍛錬の内容は少し変わりいつもは木剣だけで打ち合っていたが
俺が魔術を使えるようになったおかげで近接戦闘で魔術を使えるようにする
訓練の意味を込めアルフレットに魔術の使用許可が出た。
まあ、威力を押さえないといけなく、彼の技量も相まって威力が弱い魔術を打っても
羽虫のように叩き落されるが。
しかし成果もあった。雷魔術の威力を減らしたおかげで破壊力はなくなったが速度は驚異的に上がり、
あのアルフレットでも初見の時はめちゃくちゃ驚いていた。
ただそれも初見の話で歴戦の猛者相手だとすぐに対応されてしまう。
そして、今日も今日とてアルフレットに戦闘で勝つことはできない。
「ラウロ‼、踏み込みが甘いぞ」
「うわッッッ」
アルフレットの強い踏み込みからの一撃は幼い俺の体を容易に吹き飛ばす威力で
俺は彼の攻撃で体制を崩さないように体に強化の魔術を掛けいたが手に持っていた
木剣は手から弾かれてしまう。
その手から離れた木剣を見て(マジで、威力が人外すぎるだろ‼)と心の中で思いながらすぐさま弾かれた木剣を回収し、闘神流の初撃を狙う構えを取る。
正直、魔術を使えるようになったがアルフレットに勝てるビジョンが全く浮かばない。
それでも彼に勝つために
「”金色の雷、速さの化身、その形を槍へと変え敵を貫け”、サンダースピア」
詠唱の終わりと共に俺の背後には15本の槍の形状をした雷が出現し、アルフレットに襲い掛かる。
威力はない、その代わりに速度を大幅に上げたサンダースピア。
一発目は彼の体の態勢を崩すために足を狙う、が軽くたたき落とされてしまう。
すかさず、二発目で斬撃を放ったばかりのアルフレットの態勢をここで崩すために
いつも以上に速度に重視した雷を放つ。
「うぉッ」
「ハァーーー‼」
その狙いは見事に成功し、アルフレットはぎりぎりで二発目の雷を防ぐことはできたが体勢を崩す。
同時に俺は掛け声と同時に残りの雷の槍を時間差で射出し、俺は強く地面を踏みこみアルフレットに
接近する。
アルフレットは雷の槍と俺の斬撃を同時に防がないといけないせいで反撃に出ることができない。
それを見た俺はさらに木剣での攻撃の速度を上げ、このままアルフレットを倒す勢いで攻める。
速度はいい、剣の筋もいい、威力もいい、手数も最高。
「戦術の立て方は良い、だが甘い‼」
「うわッッッ」
だが、それでもアルフレットに届くことはできないらしく、俺はほんの一瞬の隙をつかれ
俺が放った木剣の一撃は彼の木剣の見事な回し受けて斜めに剣の軌道をずらされ、
がら空きになった足に木剣の一撃を受け地に伏した。
「良い線は言っていたんだがな。お前【並行詠唱】はできないのか?」
「ハァ、ハァ」
息を荒くしてアルフレットの一撃で地に伏している俺に彼はそう言ってきた。
【並行詠唱】、近接戦闘を行いながら魔術の詠唱を同時にする剣の四大流派の一つ【魔道流】の
少し高度な技術。
一見簡単そうな技術に思えるが、実際に近接戦闘をしながら詠唱するというのは難しい。
状況が毎秒変わり、それに臨機応変に対応して敵を倒す戦闘である近接戦闘というもの。
それをしながら詠唱するというのは”短い歌を歌いながら高速で情報処理をするに等しい行為”と
言えるだろう。
簡単なわけがない、だが俺が強くなるためには必ず会得しないといけない技術の一つと言える。
「今後の目標としては並行詠唱をできるようにするってところだな」
「お、今後の目標が決まったか?」
「はい、やはり今の僕は攻撃手段を多く持っていてもそれを連結する手段がないんです」
「確かにそうだな、雷の攻撃魔術に闘神流と夜桜流、手数は多いな」
アルフレットと今後の目標について話している間、今戦闘で使える手札を頭の中で整理する。
まず、剣術は攻めを最も重視した【闘神流】と守りに重きを置く【夜桜流】この二つ。
武器は使用人たちから貰ったナイフと剣、そして前にドーガに打ってもらった【最高の剣】がある。
魔術の方は雷の初級攻撃魔術である【サンダースピア】、そして基礎的な強化の魔術と治癒魔術の
中級を覚えた。
正直、四歳(多分)のこの身でここまでできるようになったことは凄いことだと思う
しかし、この手札では足りない実際アルフレットには勝てなかったしな
確かに手札は多い、だがこれを【連結】する手段がない。
これら多い手札を連結する手段を【並行詠唱】だと俺は認識をしている。
「だから、並行詠唱は会得しないといけないな」
そう、誰にも聞こえない声で呟いた。
あらゆるものを照らす光が完全に落ちが時間、魔獣が潜む森に行き
特殊訓練を開始する。
何日も特殊訓練をしてわかったことが一つあった。
それは魔獣の死体に魔獣は呼び寄せられるということだ。
知ったのは俺が殺した魔獣を土に埋めずに放置したら、どうなるのか少し気になったことに起因する。
その疑問を解消すべく殺した魔獣を地面に埋めず、放置してみたとこ何十分した後、
死体に魔獣が群れ捕食しだした。
これを利用し、まずは円を作りそこに殺した魔獣の群れの死体を集め、
それに引き寄せられた魔獣と殺し合う一種の「戦いの聖域」を作った。
今日も今日とてある程度筋トレを終え、戦いの聖域に行く。
戦いの聖地に集まった魔獣はどれもこれも小型の魔獣しかおらず中型は数匹しいない、
これでは歯ごたえがない。
しかし、訓練は訓練だ。
そう思いながら何十匹も要る魔獣たちと戦闘をする。
「フッッッ」
息を一気に肺の外に出し接近、あまりの速さに魔獣は反応できずその隙を使用人から貰った剣で縦切り。
斬られた小型魔獣は真っ二つになり、地面に転がる。
その光景に他の小型魔獣は後ずさるが、中型魔獣だけはそうではなく俺を脅威として
一気に叩き潰そうと襲い掛かってきた。
俺はそれに対し剣を下に足をしっかり地面に置く闘神流の構えを取り中型魔獣を迎撃する。
中型魔獣の脚力は驚異的でその図体に反して速度は車を超え、爪の威力は多分そこらの
デカい岩石くらいなら粉々にできるだろう。
だが、それだけだ。
奴には技術がない、奴には本能だけで知能がない。
だから俺には勝てない、俺には敵を殺すための技術をたくさん持っている。
中型魔獣の爪は確実にこの幼い体を捉えていた。
しかし、俺は魔獣の攻撃を身を地面スレスレで低くし回避、低い体勢を利用し深い踏み込みから
驚異的な速度で一気に魔獣の懐に入り右足、右手を切断。
そのまま速度を殺さず、そのまま切った魔獣を通り過ぎ後ろにいたもう一匹の魔獣に迫る。
普通の人からすれば目で追えない速度だが、中型魔獣からしたら少し早いだけの速度で接近する
俺の体を嚙み切ろうと口を開けるが
それを確認した俺は闘神流の構えから夜桜流の構えに切り替え、
食らったら即死するような噛みつき攻撃を緩やかな水の流れのように手に持っている
剣を振り、軌道を変え攻撃を上の方向に受け流す。
受け流された顔は上へあがり、首は一気に攻撃し放題の無防備状態となった。
俺はその無防備な首を下から上へ横なぎに一線、斬られたその首は断頭台でギロチンを
落とされた人のように首が胴から離れ、
ーーーーグチャ。
液体に濡れた肉が落ちる音と同時に生命活動に必要な頭がなくなったことで
糸が切れた人形のように中型魔獣は地面に倒れた。
一匹の中型魔獣の死亡を確認した俺は周りにいる魔獣を一掃すべく駆け抜ける。
遠くで火を放とうとしたオオカミの魔獣を手に持っていた剣を顔に投げ、
人が投げる剣の速度を超えた殺人の一撃を小型魔獣は避けることができず顔に剣が刺さった魔獣は即死。
剣を投げ何も持っていないことを好機と捉えた三匹の小型魔獣は一気に迫り食欲のまま
噛み殺そうと口を開けるが
俺は腰に携えていた二本目の少し小さく殺傷力にたけたナイフを逆手に抜き、
そのまま迫ってきた3匹の小型魔獣のうち
先頭にいた魔獣の頭を切り裂き、残った二匹の魔獣を体術で相手にする。
二匹のうち一匹の魔獣の攻撃をエミリオとの鍛錬で会得した足運びで避け、顔面を肘で打ち付ける。
その威力は強化の魔術で身体を強化しているおかげか、肘の打ち込みが魔獣の顔面どころか
頭そのものをバラバラに砕く。
残りの迫ってきた魔獣は胴体に攻撃をよけえると同時に下から上へ蹴りを入れ骨ごと重要な
内臓を潰し死亡させる。
俺を殺そうと迫ってきた魔獣を一通り一掃し、俺はまだ残っている魔獣を殺すべく呼吸を整え
振り返ると思わず息をのんでしまう光景が広がっていた。
そこには何十匹もいた魔獣が体を大きく引き裂かれた状態でその場に転がっていたのだ。
俺が中型2体と小型3体と戦っていた間に。
誰もが息を呑むような衝撃的な光景の中心には何かの影が佇んでいた。
俺は直感的にさっき投げた剣を取りに、特に足に強化の魔術を強く掛け飛び退く。
途端、
ーーーーヒュ。
剣が刺さっている魔獣に近づいた途端、それを阻止するかのように魔獣の死体の中心で佇んでいた
影は俺の強化の魔術で上げた動体視力を容易に超え、鋭い一撃を放ってきた。
「ッ、危ねえ‼」
影の攻撃を察知した俺はギリギリのところで体を回転させ、その攻撃を回避することに成功したが
魔獣の死体はそうはいかず、残っていた魔獣を殲滅した影の一撃で跡形もなく消し飛んでしまった。
人体を容易く消し飛ばす人の理を容易に超えている攻撃を見て再度思わず息をのんでしまう。
その時近づいてきた影は美しい夜の光に照らされ、暗闇で見えていなかった俺に体を映し出す。
「・・・人?」
目はどこまでも広い空のように青く光っていて、その見た目は肉体というよりかは
白と銀を混ぜたような鎧に身を包んだ人間と言ったところか。
口はないが手と足の指は5本あり物を突き刺すことができるくらい鋭い。
この「白い怪物」を見たとき、この光景を作ったのは”こいつ”だと直感で感じられるくらい
強者特有のオーラを放っていた。
「ヤバいな~」
そうヤバい、非常にヤバい。
このオーラは一度味わったことがある。
アルフレットとの鍛錬中に一度だけ本気で戦ってもらった時がった。
結果は瞬殺だったが、その際に彼が体から発していたオーラに近いものを感じる
先ほどまで頭の片隅で逃げることを考えていた。
しかし、そのオーラを感じ取った俺は逃げることはほぼ不可能、というか多分逃げようとしたら
普通に追いつかれて殺されてしまうだろう。
と直感で感じとり、逃げることを断念。
「仕方がない」
今日の不運を吐露し、逃げることを諦め手に持っている剣を再度強く握りしめる。
「白い怪物」は剣を強く握る俺を見たからなのか、実戦で培った独自の構えを取り始め
互いに無暗に動かない硬直状態になる。
数秒、数十秒、数分、時が経つごとに変な汗が体から出ていき、焦燥感が俺を襲う。
しかし、そんな誰から見てもつまらない状況を破壊するかのようにどこからか試合の合図のように
水滴が地面に落ち、白い怪物と俺は命のやり取りを開始する。