六話「魔術を習得しよう 前編」
昨日の特殊訓練は実戦の経験としては最高と言えたが
魔獣の群れが思ったより数が多く時間が掛かった
正直ヤバかった、いや本当に
体の傷も相まって、あと一歩遅かったら家の人たちにバレていたはずだ
ーーーこれは対策が必要だな
当たり前だが時間を考えて相手を選ぶこと
そして自身の傷を治す術を得る、これらが今の俺に必要なことだろう
一つ目は意識すれば解決する問題だが、二つ目はそうはいかない
これは一朝一夕で身に着けられるかは不明だ
ただ、やる価値はある
そう思った俺は昨日の夜にエミリオから貰った本を読む
今日は魔術について勉強し身に着けることを主な訓練としよう
正直、昨日の訓練のダメージが今も残っていて真面に動ない
だから剣を振ることはできても、異世界の剣士のオーソドックスと言える
アクロバティックな動きは取れない、というかそんな動きをしようとしたら絶叫をあげてしまう
それくらいには今の俺の体にはダメージが残っている
だが、そんなことを理由に何もしないわけにはいかない
人生は1秒ずつ消費されているのだから
机の中に入っている本を取り出し、ページを開き読み漁る
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本を読み始めてから、かれこれ数時間が経った
読み始めたときは空は水色で奇麗だったのに、気づいた時には空はオレンジ色で朝より太陽が明るい
数時間に渡りエミリオから貰った本を読んでわかったことがある
この世界の魔術は結構特殊だ
まず、魔術を行使するためには人体に二つくらい特殊な器官が必要だそう
一つ目は魔術臓器
これは魔術を練るための臓器でそれが骨だったり腸などの臓器に存在する
そして極少数の割合だが、この臓器を二つ有する人もいるらしい
というか、どうしてそんなものが魔術師にあるってわかったのだろうか不思議だ
まあ、予想することはできるがこの疑問は触れない方が俺のためになりそうだと思うから触れないでおく
二つ目は魔術回路
練った魔術を伝達するための回線のような物で、この器官を通して体や外に魔術を行使することができる
要は魔術師しか持っていない神経だと思う
そして魔術を行使する際はその魔法の詠唱を唱え魔法を
名前を言わないといけない
「詠唱破棄」という魔法の名前だけを言って魔術を発動する技術もあるそうだが、
その技術は魔術師本人の練度が高くないとできないとのことだから一旦除外しておく
これらが魔術を行使するためのメカニズムだ
そして魔術は5個の系統がある
属性魔術
主に地水火風と特殊な属性を操る魔術
人によって得意な属性は違うので最初は自身に合った属性を調べる必要があるが
攻撃系の魔術が最も多いと言われる魔術であり、魔術師が一番使う魔術となっているらしい
強化魔術
体や物に魔術の網を張り巡らせ強化する魔術
基本は強度を上げるを主とした魔術だが、練度によってはその概念を強化することもでき
剣士は無意識にこの魔術を体に掛け、身体強化をしている
陣魔式
魔術を発動させる陣を紙や壁に書き、それを媒体に発動させる魔術
属性魔術や強化魔術と違い正確に陣を書くことさえできれば魔術を発動させることができるので
結構使われるらしい
そして陣魔式を使える魔術師が紙に陣を書き、魔術を使えない人に高値で売買することがあるとか
石器魔術
石に特殊な魔術の式を書き、その石を砕くことで発動できる魔術
前世で例えると「ルーン魔術」だ
陣魔式と違いある程度知識がないと発動できない
ただ、魔術の伝導率が高い宝石などの石を使えば簡単に魔術の威力をあげることができる
治療魔術
自身や他者の体を癒す魔術
使うためには高い集中力と技術が必要なことから特に難しい魔術で
この魔術を使える人物は国からしても貴重らしく、重宝される
これらがエミリオから貰った本に書いてあった魔術
ーーー収穫だ、すごい収穫だ‼
何時間も読み続けて得た情報
今ある問題を解決するための手段が書かれている
それを読んだ俺は早速魔術を行使するための魔力を練る方法をページをめくり探す
「あった‼」
目的の情報が書いてあるページを見つけ、すぐに読み始める
数分、読み切るのに時間が掛かったが魔力を練る方法が分かった
どうやら魔力を練る必要はないらしい
正確に言うと魔術師の素養がある人は元々魔力が練られているらしく、そこから魔術を行使できるとのこと
ただ、元々ある魔力の量は個人差があり日々魔術を使えばある程度魔力の総量をあげることはできるが
ほとんどは才能に左右されると書いてある
「マジかよ」
やめてくれよ、魔力の才能がなくて魔術が使えませんとか
もし、そうなったら泣くかもしれない
まあ現実は変わらないから、試して白黒つけないといけないんだが
「よし、見つけた」
数十枚の紙をめくり見つけた魔術師の適正がある者ならだれでも発動できる
属性魔法の適性を調べる魔術
魔術師にとっては入門のような魔術で何の技術もいらない、ただ詠唱を唱えるだけで
発動できる魔術らしく
この魔術を発動すると自身がどの属性に適しているのか色で現れるらしい
ただ、白が出た場合は魔術の才能なしとのこと
正直不安はある
俺に魔術の適正がなかった場合、中級以上は強くなれない
中級より上は無意識に強化魔術を使い強くなっているから
魔術の適正がないとそこでお終いだ
だが、ここで立ち止まっていても何も起こらない
だから進み続けないといけない、それが絶望だとしても
そう自分を鼓舞した俺は本を地面に置いて両手を前に出し、魔術の適正を調べるための魔術の詠唱を読む
「人知の外、神秘の扉、今この時私は理の外へと触れる、リーニング」
魔術の詠唱と名前を唱えた突端、前に出していた両手の中心に光が現れた
どんな色だろう?
光の色を確認するために俺は地面に向けていた顔をあげた
目の前の光には二つの色がある
俺の前にある光を奇麗な球体と例えるなら、その4割は黄色で残りの6割が真っ黒だ
ーーー黄色と黒、黄色と黒、黄色と黒
適性があると思われる属性をお玉の中で反復して覚え、床に置いた本に手を伸ばす
途端、目の前にあった光は淡く散り散りになり奇麗に消えた
床に置いてあった本のページをめくり探す
あった、何枚も何枚もページをめくってようやく目当ての情報を見つけた
黄色とはどうやら雷属性を表す色であるらしく、俺はこの属性の才能を有しているらしい
ただ、黒色がわからない
いくら本のページをめくり調べても書いてはいない
ーーー本当にどういうことだ?
最終的になんにもわからなかったから、一階にいると思われる両親に聞くことにした
一階に降りるために体を起こし立ち上がる
何時間も寝転がっていたせいか少し体は重たく怠い
だが、そんなことを今の俺からしたら小さいことで、そのまま歩き階段を下りる
アルフレットやエミリオがいないか辺りを見渡す
その時、外から木と木がぶつかり合う音が聞こえた
あれは木刀だ、アルフレットと何度も木刀で撃ち合っているからわかる
多分、アルフレットたちは庭で鍛錬をしているのだろう
そう思った俺は庭に出るための扉を開けた
やっぱりいた、アルフレットとエミリオはお互いに木刀を撃ち合い戦っている
彼らの太刀筋はあまりに洗礼され、歩法術を主とするエミリオの動きは
まるで美しい舞のようだ
正直ずっと見ていたいくらい参考になる鍛錬だが、
声をかけず見ていたらずっと終わらなそうだから致し方なし
「すいません、父様、母様」
その言葉を聞いたアルフレットとエミリオの動きは止まり、手に持っていた木刀を下に向ける
「どうしたんだ、ラウロ?」
「鍛錬の途中で申し訳ございません、以前母様から貰った本でわからないことがありまして」
本のことについて聞きたいという言葉を聞いたエミリオは俺がわからないところを聞いてきた
「どこの部分がわからなかったの?」
「この魔術についてなのですが」
そういって俺は事の次第をエミリオに伝える
「そう、多分だけど黒くなったってことはあなたの魔術の才能の6割は「特殊属性」に
適しているんだと思うわ」
「その特殊属性って何ですか?」
「特殊属性っていうのはね」
そこから彼女は俺に特殊属性について教えてくれた
どうやら特殊属性というのは自身に宿っている「能力」に由来する魔術らしい
そして特殊属性の魔術はどれも既存の魔術を逸脱していて強力とのこと
しかし、欠点も存在している
当たり前だが、既存の魔術に類していないのが特殊属性だから、既存に属している魔術は使えず
一から魔術を探求しないといけない
これが特殊属性の欠点だと
要は先人の知恵を借りることはほぼ不可能ということだ
エミリオが説明を終えるとアルフレットが
「どうやら、お前には俺たちと一緒で能力が宿っているらしいな」
「そうんですか‼」
「ああ、ラウロに能力が宿っていないと特殊属性の適正なんて生まれないだろ?」
「確かにそうですね」
「というか、父様たちは能力が宿っているのですか?」
「そうだぞ、俺は物質を生成する能力がある」
「エミリオにも能力が宿っているぞ」
「すごいですね」
マジか、この世界は剣術と魔術はあるが「能力」はないと思っていた
しかし、あるらしい
異世界と言ったらというか、世の男子たちが一度は望んだことが
男子たちの黒歴史、そう中二病の時に心の底から望んだ「能力者になりたい」という願いがこの世界では叶うらしい
ーーー本当によかった~
死んだときは最悪だと思ったがこの世界に転生できて前世の不幸が消し飛ぶくらい今の俺は幸運だ
前世で願ったことが叶ったのとまだ俺は強くなれることに安堵し
魔術が使えるエミリオに魔術についてもっと教えてもらおうと思った俺はエミリオに頼みをする
「母様、僕に魔術を教えてください」
「ごめんなさい、私はあなたに魔術を教えられないわ」
「え‼」
断られることも考慮していたが、
こうも何のためらいもなく一瞬で断られることは予想してはいなかった