五話「特殊訓練」
両親から剣術を教えてもらってさらに半年
俺がこの世界に生まれた日まで経った
どうやらこの世界には誕生日に近いものがあるらしい
3歳というか物心がついたころ自分の子供にこの世界に生まれた祝福
要はプレゼントやパーティーをするのだ
俺はそういった行事がこの世界にあることを知らず
何でアルフレットたちが慌ただしいのか不思議だった
正直パーティーは少し苦手だ
友達などは気を使わなくて楽だが、家族となると少し気を使うから逆に億劫になる
だが、そんな考えを無視するかのように夜まで両親と剣術の鍛錬をして
パーティーが始まる
「よ~し、俺とエミリオの息子ラウロの誕生の日に」
「「「「乾杯」」」」
俺以外の両親と使用人がアニメでよくあるような木で作られた酒のコップを勢いよく打ち付け合う
「ラウロ、以前あなたが欲しいと言っていた本だわ」
エミリオには前から欲しいと思っていた「この世界の剣術と魔法を支配しよう」という本をもらった
この本は各流派の型と基本的な魔術についての情報が載っている本で強くなるためには
打ってつけだと思い以前から欲しいと思っていた本だ
「俺からの品物は以前から話していた通り、今度鍛冶屋に行きそこから選ぶことにする」
アルフレットからは以前から話し合っていた通りに鍛冶屋に行き
そこで実際にオーダーを取り、作ってもらった剣をプレゼントにするというもの
そして執事であるシルバリルにはどこにでも売っているような普通の剣よりやや短い剣をもらい
メイドのレリアからは短剣をプレゼントされた
正直嬉しかった、人生で本物の剣を持ったことがなかったから
その事実に心の中でタップダンスをしてしまう
剣をもらい興奮している俺にアルフレットが突然のことを言ってくる
「ラウロ、剣のオーダーと共にお前は今日から中級剣士を名乗れ」
「え‼」
一瞬思考が停止した
だっていきなりだもん、いきなり中級剣士の実力があるよ
なんて言われたら驚くだろ?
中級、今の俺の実力はある程度の岩なら切ったり、粉砕することができる
前世で求めていた人間の限界を超える実力を得るというのは達成できた
達成感と同時にこれで1か月前から計画していた「異世界流の特殊訓練」ができる
前世で見た結構有名なアニメ「f○te」で一般人から逸脱した実力を持つ者たちのほとんどが
山で育っていることから通称「YAMASODATI」と呼ばれていた
前世では神秘もクソもない地球だったから試さなかったが、魔法や剣術があるこの世界なら話は別だ
そう思った俺は山でトレーニングや魔獣との実践をする訓練を思いついた
それが「異世界用特殊訓練」だ
今までは本物の剣と俺の実力が魔獣を倒すほど高くないからやらなかったが、
今日のパーティーでシルバリルから本物の剣をもらい、
アルフレットには中級剣士の実力があると言われた
ーーーこれでようやく実行できるぜ‼
そう思うとなんとも言えない高揚感が湧き出てくる
アルフレットたちとの鍛錬もいいが、実践では鍛錬以上に俺を強くしてくれると思う
そう思えば吉日
ーーー今日の深夜に早速取り掛かろう
パーティーは終わり両親や使用人と寝る前の挨拶をした後
俺は使用人たちからもらった剣と一振りのナイフを持ち家の窓から外に出た
今日のやることはトレーニング器具の作成と周辺の魔獣の調査
簡単な話、明日の訓練の準備と言ったところだ
にしてもワクワクするよ
前世では魔獣と戦ったことはないし、本物の剣を振るったこともない
なにより、場合によっては今の課題である「上級の実力者」になるまでの時間が
一気に短縮される可能性がある
そう考えていると目的の山についた
ーーーよし、早速取り掛かろう
俺は山の中でも大岩がいっぱいあるところを目指し走った
今から作るのはダンベルやベンチプレス、などのトレーニング器具
生前、家の近くにあるジムに通っていたから器具の形などは想像することができる
山中を走り回っているといい感じの岩がゴロゴロ転がっている場所を見つけた
イイ感じの岩を見つけた俺は手に持っている剣を鞘から抜き岩を斬る
アルフレットの下で鍛えた闘神流の剣技、それを駆使して
岩を丸く、大きく、奇麗に
そうして何時間かたった頃、ダンベルやベンチプレス、台を作ることに成功した
「あらかたの器具は作れたから、周辺の魔獣の調査をするか」
「俺らが知っている犬型の魔獣とかいるのかな?」
アニメでよくある犬やコウモリの形をしたオーソドックスの魔獣なのか
はたまた、どこかの神話生物のような異形の姿か
今から自分が見る魔獣の姿を想像する
いつでも剣を抜くことができるよう柄を握って
歩く、歩く、歩き続ける
目を凝らさないと見えない暗闇の空間の中で目的の魔獣を見つけるため
そうして何分かたち、ある程度の距離を歩いた時に突然
目の前に黒い物体が動く
辺りが暗いせいかはっきりと見えないが確かに何かが動いた
アルフレットとの鍛錬のおかげか、黒い物体の正体はわからないが
それが危険なものだと直感で感じ取ることはできる
俺は感じた直感に従い闘神流の構えで臨戦態勢をとる
一歩、また一歩と構えを解かず距離を詰めると
次の瞬間、黒い物体が俺めがけて驚異的な速度で接近し飛んで攻撃を仕掛けてきた
確かにその姿は細かく確認できないがある程度の大きさはわかる
俺は黒い物体からの攻撃をその大きさ以上に横に飛ぶことで回避し、
カウンターに鋭く踏み込み、上から下へ剣を振り下ろす
その物体は飛んで空中にいたせいか俺の斬撃を回避することはできず
肉が裂ける感触と共に黒い物体は半分に真っ二つになり地面に転がる
初めて剣で肉を切った感触に驚くがそれより自分が斬ったものを確認するために近づく
ある程度近づけたことで黒い物体の姿を確認することができた
その姿を一言で表すなら「醜い」と言ったところか
体と顔の形はオオカミに近いが体の所々には紫色の「ザッ毒‼」みたいな棘がたくさん生えており
口の牙の長さは揃っておらず、明らかに口を閉じることはできない
そして、俺が切った断面からはオレンジ色の液体が流れている
ーーー正直気持ち悪い
率直にそう思ってしまうほど醜い
しかし、そんなことを考えている暇ないそうだ
この魔獣に嫌悪感を向けていたら辺り一帯に同じ魔獣がよだれを垂らしこちらを見ている
まるで空腹の狼が今日の晩餐を見つけたかのような
前世の言葉で今の状況を表現するなら「絶体絶命の危機」というべきか
「だが、俺は強くなる」
「そのためにお前らを全員殺してあの境地に行く」
そう、俺はあの境地へ行きたい
全てを無に帰す、理不尽ともいえる全てをあざ笑うかのような「絶対的な領域」へ
そのためには魔獣の群れから引くことはできない
俺が求める領域にいる奴らはそんなことをしないからだ
ーーーだから...
俺はその手に剣を握り魔獣の群れへと走る
先頭にいる魔獣との距離を一気に詰め、その速度に魔獣が対応する前に剣で頭を切断
すぐ隣にいた魔獣は顔面を全力の打撃でグシャグシャに
仲間を殺され複数で襲い掛かってきた魔獣を修行した剣技と足運びを駆使して切り裂く
ーーーまだ多い...
今ので何体か魔獣を屠ることに成功するがそれでも数は多い
あと二十匹くらいか
魔獣の群れを数え終えた俺はその群れへ突っ込む
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あれから何分、いや何時間が経っただろうか
気が付いたら俺の体は朝の太陽に照らされていた
辺りには俺が殺した魔獣たちの残骸
体には魔獣の血と思えるオレンジ色の液体がベッタリついて
その匂いに少し吐き気を催す
体は傷だらけで剣を持つだけでも体力が消耗する
これが実践、相手を殺し逆に殺されそうになる極限の行為
俺は体の傷と体力の消耗から少し地面に座った
そういえば、太陽が出ている
「太陽が出ている‼」
やばい、親に特殊訓練がばれたら絶対に怒られてしまう
さすがに魔獣が出る危険な森で訓練をしていたと知られたら
普段はフランクで同級生の男子のようなアルフレットでも怒ると思う
まずい、まずい、まずい
傷は痛む、息は上がっている
だが、今は関係ない家に帰らないと親にばれてしまう
そう思った俺は全速力で山を下り家へ向かう
ーーー明日も特殊訓練をしよう
心の中でそう思って