五話「ベヒーモス 前編 」
異世界の森は前世に比べてかなり危険だ。
魔獣の強さのレベルが高いから?、森が広大だから?。
全て違う、そんなもの身体強化を使えばどうにでもなる。
なら、何で危険なのか。
それは森には魔素が漂っているからだ。
魔素とは魔力を有する生物から漏れ出た粒子のようなもの。
魔力探知を電波を読み取る技術とするなら、魔素はジャミング。
そのせいで探知が機能せず、魔獣の奇襲を許してしまうのだ。
だから異世界の森は前世と比べて危険度が高い。
アガリック:「魔素が充満しています。魔力探知の精度をできるだけ下げてください」
森の草木を手や足でわけながら、班長が指示を出す。
どうして魔力探知の制度を下げないといけないのか、疑問に思った俺は口にする。
ラウロ:「どうして精度を下げないといけないのですか?」
アガリック:「この魔素の濃度を考えれば敵を探知することは不可能です。それなら、いっそのこと身体強化に集中して魔獣を迎撃した方が効率的です」
確かに。彼の言葉を聞いた俺は素直に納得した。
探知が真面に機能しないのなら、思い切って小細工をやめて迎撃に備える。
合理的だ。
俺は班長の指示に従い、探知の制度を下げ、リソースを身体強化に割く。
すると、横からアレンが話しかけてきた。
アレン:「補足するなら、魔素が充満している空間は魔力の収束を阻害する効果がある。ようするに魔術が使いづれえ」
そうだったのか、だから森での鍛錬で異常に魔術が使いづらかったのか。
過去の経験と教えられた情報を結び、自分なりに頭にたたきつける。
今回の任務で俺は二つの学びを得た。
これだけでも収穫と言えるだろう。
森の草や枝を音をあまり立てず、手で払い歩いていると眼前に広がるのは木も草もない荒野。
そこには一体の大きな巨躯を有している魔獣が寝ていた。
ラウロ:「あれが英雄級の牛獣ですか?」
セレナ:「ええ、書物だと目の前の魔獣であっているわ」
頭には二本の湾曲した角が生え、姿は牛に近い。
あれが英雄級の魔獣、ベヒーモス。
目的の魔獣を確認した班長がジャスチャーで俺たちに指示を出す。
ーーーー”ゆっくり武器を構え、戦闘態勢を取りなさい”
俺らは班長の指示に従い、戦闘態勢を取る。
続けてジャスチャーで
ーーーー”アレン、ラウロ、君たちが同時に奇襲を仕掛けなさい。私は貴方たちの助けをします”
その指示に俺はアレンは互いに頷き、疾走する。
身体強化を使った脚力は車を超え、剣を振り抜こうとしたとき
???:「ガアアアアアアアア‼」
後ろの森の中から大きな影が雄叫びと共に飛び出してきた。
牛に近い骨格を有した巨躯、湾曲した二本の角。
そう、もう一体のベヒーモスが突然現れたのだ。
アレン:「雑魚‼、防御態勢を取ッ」
ラウロ:「いや、迎撃する。俺より強い、お前は目の前のベヒーモスを殺せ‼」
アレンの言葉を遮り、指示を上塗りする。
後ろから奇襲を仕掛けてきたベヒーモスへ迫ろうとする刹那。
アガリック:「大丈夫です。ここは私がどうにかしますので、貴方もアレンと共に奇襲を仕掛けなさい」
班長が跳躍し騎士剣で斬撃を放つことで、奇襲を防ぐ。
さらに二撃目を繰り出すことで班長は二体目のベヒーモスから距離を取る。
あの巨体から放たれる爪は対格差と魔力を考えれば、いくら英雄級の実力者だろうと力負けしてしまう。
だが、班長はその攻撃を騎士剣で弾き、二撃目で距離を離したのだ。
今の戦況は俺とアレンが寝ているベヒーモスを、班長が二対目の相手をしている。
そして、セレナは俺たちの援護をするために弓を構えている。
班長の実力を考えれば二体目の方は考えなくていいだろう。
問題なのは俺たちの方だ。
アレンと戦えと言っても、連携したことがない相手にうまく立ち回れるわけがない。
しかも性格が合わないときた。
これ無理じゃね?
分析すれば、するほど無理という言葉が頭をめぐる。
それでも、やらなければならない。
俺はアレンと共にベヒーモスの下に走り、剣を振り抜く。
対格差を考え大きく飛び、振るった剣は確実にベヒーモスの頭を捉えていた。
速度、軌道、共に完璧だ。
”勝った”、心の中に沸いた勝利の確信。
だが次の瞬間、打ち壊された。
振り下ろした剣は火花と共に高い金属音を奏で弾かれた。
俺とアレンは眼前の光景に瞠目し、距離を取る。
無傷、それどころか衝撃が剣先から手に伝わり、柄をうまく握れない。
奇襲が失敗した。
生身の高度で剣が弾かれたという事実に、頬に汗が伝う。
そんな俺らを無視し、状況は進む。
寝ていたベヒーモスが俺たちの斬撃で身をよじらせ、起き上がる。
目を開けた魔獣は悪鬼の表情を作り、俺らを睨む。
グルルル...ベヒーモスが呻き声を上げながら肉体を隆起させる。
ベヒーモスA:「ガアアアアアアア‼」
大気が震えた。
咆哮が爆発音のように心臓を打ち付け、突風が巻き起こる。
俺とアレンは耳を両手で抑え、音をできるだけ遮断する。
そうしなければ、鼓膜が破れてしまうからだ。
英雄級の牛獣、ベヒーモスが覇気を漲らせ、その猛威を振るう。




