四話「阿鼻叫喚の地獄絵図」
今、俺は馬車に乗り、とある村に向かっている。
数時間前、俺たち含め一班は早々に任務の指令が渡り、馬車で移動を始めた。
任務内容は英雄級の牛獣魔獣”ベヒーモス”の討伐。
近隣の村に突如出現した英雄級の牛獣は村の衛兵を何人か殺し、家などの建物をいくつか壊した後、村の近くの森へと去っていったそうだ。
俺たちがやることは再度、その魔獣が村を襲う前に討伐すること。
任務について振り返っていると、一人の女性が声を上げる。
セレナ:「みんな、今日から同じ班。仲間になるのだから自己紹介しようよ」
同じ班のメンバーとなったセレナが陽気に馬車にいる全員に話しかける。
彼女らしい言葉に少し安心感を覚え、口を開けようとするがアレンが割って話す。
アレン:「雑魚に名前を教えて何になる。仲良しこよしなら、他所でやれ。今の俺らに必要なのは強くなることだ」
少し言いすぎだ。
確かに今は慣れ合うことではなく、互いに強くなることだが、言葉があまりに鋭い。
セレナの顔を見ると眦に涙が溜まり、悲しい表情を浮かべていた。
そりゃ、そうだ。
友好的であろうとしたら、いきなりナイフで刺されるようなものだ。
にしても、彼女が悲しい表情をすると、なぜかイラついてしまう。
理由はわからない、何故かそうなってしまうのだ。
ラウロ:「おい、さっきから言葉が鋭い。そこまで言う必要はねえだろ、もっと考えて喋れ」
異世界に転生して初めて威圧した言葉を発してしまった。
その事実に自分でも心の中で驚いていると
アガリック:「はいはい、喧嘩はおしまい。今から行くのは戦場です。その調子だと死にますよ」
極めて冷静に俺たちを止めているが、体から迸らせている魔力は馬車の内側を圧迫する。
その魔力に当てられたセレナの顔は青ざめ、アレンは顔を微動だにしない。
俺も微動だにはしない。
一ヵ月前なら班長の魔力に臨戦態勢をとっていたが、副隊長の殺意を浴びた後だと脅威にすら感じられない。
そうして最悪な空間が馬車の中を渦巻き、目的の村に着くまで沈黙が訪れた。
あれから軽く三時間が経過し、ようやく目的地の村に着いた。
村の近くには確かに大きな森があったが、俺たちはそんなことに意識を向けることができなかった。
向かった村の光景に一班全員が瞠目してしまう。
なぜなら、任務の報告と実際の状況が大きく違っていたのだ。
目の前に広がる光景は村の住民が迫りくる小型魔獣から逃げ惑う。
そして、地面には人だった残骸と悲鳴が広がる、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
村を襲っている魔獣は大きく二種類に分けられている。
空を飛行する大鷹の魔獣、四足歩行で湾曲した角を生やし村人を襲っている魔獣の二種類が暴れていた。
衛兵も魔獣をどうにかしようと武器を振るうが、敵の数が多すぎて何人か血を流しながら地面に転がっている。
アガリック:「一班、戦闘態ッ‼」
セレナ:「前の魔獣は私が蹴散らす」
ラウロ:「なら、俺は村人を襲っている魔獣を優先する」
アレン:「てめえらが始末しこのった奴らは俺がやる。足手まといになるなよ、雑魚ども‼」
班長が指示を出す前に俺たち三人はそれぞれ状況を分析し、戦闘を開始する。
俺とアレンは村へ全速力で走り、セレナはその場に立ち止まった。
地面を強く踏み、驚異的な速度で走る俺たちの横を六つの矢が走った。
それらは的確に空を飛ぶ大鷹の魔獣と爪を振るおうとする牛獣へ突き刺さり、爆発する。
轟音を立て爆発した魔獣たちは肉片だけ残し絶命。
後ろを見るとセレナが弓を持ち、次の狙撃の準備に差し掛かっていた。
それを見た俺はアレンより先頭を走り、村人の命を奪おうとする大鷹と牛獣たちへ接近。
ーーーー”蓮華”‼
闘神流の連続で斬撃を放つ技。
俺が放った技は魔獣たちが攻撃を放つ前に首を切断し、絶命させる。
頭をなくした魔獣たちは、糸が切れた人形のように地面に倒れ伏す。
さらに、アレンは斬撃を放った俺を追い越し、魔獣の中心へ着地。
手から取り出されるのは全長140㎝の一般より長い西洋剣。
アレンはそれを振り回した。
ただ、魔獣たちがいる場所は約180㎝先、斬撃の射程範囲外だった。
届かない攻撃を放たれた魔獣たちは、無暗に剣を振り回すアレンに驚き停止する。
だが、その判断が魔獣たちの命運を分けた。
眼前の状況の飲めず、硬直していた魔獣の体はバラバラになり、地面に転がる。
見ると、先ほどまで西洋剣の形をしていた武器は、刀身が分裂し、中心に糸のようなものが付いている。
”蛇腹剣”、その言葉が俺の頭に思い浮かぶ。
アレン:「閉じろ、”隻の尾”」
その一言で蛇腹になっていた刀身は、普通の西洋剣へと戻った。
村を襲撃していた魔獣を掃討した俺たちは、村人のところへ向かう。
しかし、眼前に広がっていた光景は最悪なものだった。
老けた村人A:「なんで、もっと早く来てくれなかった‼」
老婆の村人B:「貴方たちのせいで、私の孫や娘は...。ま、魔獣に食い殺された」
そこにあったのは、俺たちに対する罵詈雑言。
助けてもらったお礼ではなく、小石を投げ、罵倒を浴びせる一種の尊厳破壊の光景だった。
降り注ぐ小石は、まるで村人の呪詛が物体になったと錯覚を与えてくる。
班長はセレナを守るため少し前の位置に出て、俺とアレンは投げられる石を防ぐことをせず、呪詛という凶器を受け続ける。
無防備のまま班長の下へ行こうとした、その時
アレン:「反吐が出る」
アレンが村人に対して、無慈悲で冷徹な言葉を浴びせる。
その言葉を聞いた村人はさらに頭に血を登らせ、中には刃物を取るものまで現れた。
ラウロ:「アレン」
アレン:「泣き叫ぶだけで、何も抵抗できず、ガキに助けられて結果がこれかよ。お前らなんで生きてんだ」
男性の村人:「俺はお前たちのように強くないんだ‼」
便乗するかのように周囲にいる村人は「そうだ」とか「強さを押し付けるな」などを言ってきたが
アレン:「強くなることを放棄しただけだろうが」
アレンの言葉はどこまでも残酷で、正論だった。
前世では”力ある者の暴論”と言われるだろう言葉。
だが、ここは異世界だ。
神秘があり、武器があり、超人になれる手段がいくらでもある世界だ。
そんな世界で強くなることをせず、日々を無為に過ごしていた奴はただ奪われる。
アレン:「お前らみたいに弱えくせに、笑って日々を無駄に過ごしている奴が気持ちわりい。なんで何も守れねえくらい弱えのに笑える、安心できる。強くなることを放棄した時点で、全て自業自得だ」
アレンの言葉に先ほど石を投げていた村人や傷を負っている村人が涙を流す。
村を守る役割を負った衛兵も悔しそうな、堕落していた自分を呪うような表情で拳を握る。
アガリック:「私たちが遅れたことで、貴方たちを守れなかこと。深くお詫び申し上げます」
会話が終わった所を班長が謝罪を告げる。
それは彼なりの優しさであり、覚悟なんだと思う。
アガリック:「ですが、これ以上犠牲がでないよう英雄級の牛獣を討伐します。今しばらくお待ちください」
誠心誠意の謝罪と誓い。
長年、ガルディアンの隊員をやっている班長は何度も経験をしたのだろう。
助けられたこと、助けられなかったこと。
その両方を。
ラウロ:「班長、早く任務を遂行しましょう」
アレン:「さっさと終わらせるぞ」
セレナ:「もう、こんな悲しいこと繰り返させない」
俺たちの言葉に班長は曲げた腰を上げ、歩く。
目的地は村近くの森。
村を襲撃した目的の魔獣が去ったと言われている場所へ...




