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番外「ユリウス・アルレッキーノ 後編」

 戦闘が始まってから三十分が経過した。

 皇帝級同士の戦いは、元々荒れ果てていた大地の山をいくつも粉砕ふんさいし、亀裂きれつが入っていた地面を完全に割った。


 金属音が鳴り響く。

 大上段から剣を振り下ろし、受け流され地面に突き刺さった際は持ち手のつかを軸とし、回し蹴りを放つ。

 その攻撃をユリウスは的確に防ぐが、蹴りの威力を殺しきれなかったせいか、地面から足は離れ後方へ下がる。

 剣技に体術をぜたベリオンの戦闘スタイルは、確かにユリウスを高揚こうようさせる、光るものがあった。


 ベリオンの長剣は魔剣でも神器でもない、ただの剣だ。

 だが、彼はそんな武器に無駄なく魔力を流し込むことで、山を粉々にする武器へと昇華しょうかさせている。

 それでも、実力はベリオンの方がユリウスよりも弱い。


 彼の体術は達人の域を超えている。

 ベリオンが振るった長剣をユリウスは笑いながら剣の腹に手をえ、らす。

 弾くではなく、逸らすのだ。

 長剣は質量ともに、目では追えない速度で振るわれ達人でも素手で防ぐことは困難。

 それを逸らしているのだ。

 しかも、ユリウスは軽々と、それこそ羽虫を振り払うかのように剣の腹に手を添え、逸らしてしまう。


 だから、いくらベリオンが長剣に魔力を込め、殺傷能力を上げようとも彼に傷一つ付けることができない。

 それどころか、敵は斬撃の隙間をいながらユリウスは格闘戦を繰り広げ、ベリオンの体に打撃痕だげきこんと裂傷を付けていた。


 ベリオンは長年の戦闘経験から、強者を三種類に分けている。

 能力がただ強い者、魔力の保有量共に能力が強い者、魔力や能力以上に技術や経験が高い者。

 今相対している敵は三種類目、技術や経験が高次元な者。ベリオンが最も苦手とし強いと思う強者だ。

 前者二つは能力が主な強さ故に、それさえ崩してしまえば何もさせずに倒せる。

 だが、技術や経験が高い奴はそうはいかない。


 能力をいくら崩しても、技術と経験で補填ほてんされてしまう。

 というか、技術や経験が高い奴はそもそも崩されることすらない。


ーーー故に能力を使うしかない。


 ユリウスの実力を体感したベリオンは一番使いたくない手札の使用を心の中で決める。

 握っている長剣い手を添え、能力を込めながらすべらす。


「やっと能力を使う気になったな。お互いこれからが本番だ」


 真紅の髪に鎧を着こんだ戦士が、見せる本気。

 強者特有の雰囲気と魔力を肌で感じ取ったユリウスは右手を前に出し別の構えを取る。

 他の長剣に比べ、やや長い紅色の剣はベリオンの能力魔力セカンドが重なり、まるで地獄の炎を想起そうきさせる美しい色へと輝く。

 輝く光は見る人が見る人なら一種の芸術性げいじゅつせいを見出し、価値を付けるほど洗練せんれいされ、力強い。


(構えが変わった...)


 能力を使用したベリオンの構えは最初の上段と違い、剣の刀身を後ろに向けた距離を詰めやすい構え。

 その構えに一切の無駄も隙もなく、ユリウスは脳裏で下手に踏み込んで斬り殺させる自分の姿がよぎった。


(来る‼)


 地面を砕き、空気が爆発したかと錯覚さっかくする現象を起こしながら、ベリオンがユリウスの懐へと踏み入る。

 姿勢が低いせいで、カウンターが打ちずらく、下手に反撃したら死ぬことを察したユリウスは防御へ意識を切り替える。


キーン。


 横薙よこなぎの斬撃を予知したユリウスは、身を低くしているベリオンの膝をみ攻撃の軸をズラスと同時に、上へ体を回転させながら飛ぶ。

 数多の戦闘経験を用いた、紙一重で回避した彼の目が見開かれる。

 斬撃の軌道にあった空間が切断され、二つに分割された空間は斬られた線に沿って滑るようにズレていたのだ。


ーーー”万物乖離ばんぶつかいり”ーーー


 ベリオンが有している皇帝級の能力。

 その能力は物体の強度、能力、概念問わず、切断する文字通り万物を乖離する力。

 鍛え上げた魔力操作と近接格闘術、万物乖離で彼は全世界でも100人しかいない皇帝級の中で高い実力を獲得した。

 過去、彼が隔絶国家の最強となる前、ベリオンは空虚の白狼含めた能力犯罪組織にいる皇帝級の団員二名をたった一人で討伐し、世界に自身の名を刻んだ。

 当時の戦闘を見た者から付けられた二つ名は「真紅の乖離者」。

 世界屈指の戦士が今、刀を剥き出し。


 真紅の乖離者の二撃目が、ユリウスの胴体を断つ...


「万物の乖離か、いいね~。君の実力とこの能力を考えれば幹部は確定だ。

本当に惜しい、戦うのが俺じゃなければ勝てていたかもしれないのに...」


 だが、ユリウスはそれ以上の化物だ。

 同時、長剣を振り抜いた姿勢でいたベリオンの胴体どうたいが長剣ごと斜めに切断された。


ーーー空虚の白狼の幹部は全員が規格外だ。

 確かにベリオンの実力は全世界でも高い、それこそ能力を含めなければ結構の上位に位置する。

 しかし、ユリウスはそれ以上の異次元な強者なのだ。


 ベリオンは理解ができなかった。

 自身の体が切断されたことではない。

 そんなこと二十年も殺し合いをしていれば何度かあった。


...敵に万物乖離が利かなかったことだ。

 確かに防がれた経験はある、受け流された経験もある。

 だが、能力を受けて無傷だった奴は一度も見たことがない。

 しかも、完璧に当たったのに無傷。


 眼前の現実にベリオンの理解が追いつかない。

 地面に上半身だけ前向けに倒れ、顔から汗が流れる。

 残された下半身からはたきのように血が溢れ、口からも地面が血の水溜まりができるほど血が出た。


 胴が切断され、死の間際へと立たされた彼は考え続ける。


「...おま、え、せか、、、い、と」


 重量な器官を切断され、口から赤い血を吐く強者は口にする。

 目の前の強者が有する規格外な能力を。


「凄いね~、歴戦の戦士ってところか。君が今予想したのが俺の能力さ」


 国を攻めてきた敵が発する称賛しょうさん肯定こうてい

 喜べない、悔しい、あと少し、もう少しでいいから話させてくれ。

 それは懇願こんがんだった。

 いち早く、この化物の能力を味方の兵士に伝えないと、伝えさせてくれと。


 だが、現実はどこまでも無常で融通ゆうずうが利かない。

 口から出る血が、最後の言葉の邪魔をする。

 地面に横たわる戦士の意識が徐々に遠退く。

 その身に着ている真紅の鎧とは裏腹に、体からは体温が消え、寒くなる。


 国家を守り続けていた”真紅の乖離者”はこの時、命の炎をなくした。


 戦闘を終えたユリウスは国の外壁へと足を進める。

 ザ、ザ、と足音をたてながら近づく。

 数秒、ある距離まで彼が歩みを進めると、国の外壁が光りだす。

 隔絶国家の最終防衛機構。


 他国が徒党ととうを組み突破しようとして、出来なかった防壁。

 それはベリオンの”万物乖離”を結晶化させた石を外壁中に埋め込み、発動させる機構。

 乖離の能力で外壁と外の空間の狭間はざまを裂き、間に空間の隙間を形成することで外の攻撃を拒絶する絶対防御のシステム。

 さらに、防御壁を展開する能力者たちで壁自体の強度を上げることで誰も突破できないようにした。


 その発動条件は国王が機構を発動させる詠唱をするか、ベリオンの死という二つ。


 外壁の中で防御幕を展開していた兵士たちは戦慄せんりつした。

 たった一人でこの国最強の戦士を打倒したことに。


 ベリオンは兵士たちからしたわれていた。

 強さもさることながら、人格もよく、毎度いつ来るかわからない敵を発見するという非常に退屈な仕事をしているたち兵士たちに気さくに接し、時には悩みを聞いた。

 魔獣が近隣きんりんに発生すれば、真っ先に先頭に立ち自分たちをまとめ、導いてくれた。


 国中の皆が憧れる強者が死んだのだ。

 突きつけられた事実は残った兵士たちの心をむしばむ。

 ”もう駄目だ”そう思う感情が彼ら、彼女らの心に渦巻うずまく。

 だが、逃げない。


「こういうとき、ベリオン様は逃げずに戦う」


 国の英雄がたった一人で、戦い抜いたのだ。

 自分たちが逃げることは許されない。


 震える脚と、手を無視して能力を展開し続ける。


「真の戦士は強さにあらず、か。まったく、どこまで恵まれた国なんだか」


 しかし、再度言うが現実は甘くない。

 ユリウスは横たわるベリオンが発していた色と同じ色をしている外壁に片手を向ける。

 指先の空間が歪み、瞬間。

 彼の手から白い光の柱が発生し、隔絶国家を丸呑まるのみにする。


 その光は、まるで神の一撃を彷彿ほうふつとさせ、周囲の大地が揺れた。

 割れていた大地が崩れ、別のところでは新たに地割れが発生する。

 天変地異が発生するほどの攻撃。


 数秒、それが隔絶国家を包み続けた。


「任務完了」


 残ったのは地面が根こそぎ抉られ、大穴だけだった。

 天にそびえる強固な外壁は、壁の内側で反映していた街。

 このとき、荒れ果てた大地に建てられていた隔絶国家は地図上から消滅した。


ジジーーー。


 隔絶国家を消滅させたユリウスは任務達成の報告のため、遠くにいる部下へ通信を繋ぐ。


「隔絶国家は跡形もなく消滅させたよ。いや~、”真紅の乖離者ベリオン”思った以上に強かったわ」


 言葉とは裏腹にどこまでも軽い一言。

 彼の飄々《ひょうひょう》とした言葉は側近の部下ですら、”本当にそうだったのか?”と思わてしまう。


「任務ご苦労様です。団長が本拠地でお待ちしております」


 ユリウスの言葉を疑いながらも、部下は彼に機械のように応答する。

 

 そして、この事件が彼の名前を空虚の白狼の名前をさらに広める。


ーーー空虚の白狼、”六席:ユリウス・アルレッキーノ”


 もう二章、気づけば数か月が経過してこんなに小説を書き続けられたことに素直に驚いています。

 皆様を楽しませれる”良い作品”を掛けているか毎回投稿する際、不安になりますがこれからも続けていこうと思います。

 もし、よろしければ”もっとこうした方が読みやすい”、”ここがわかりずらい”などがあれば教えてくださると嬉しいです。

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