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番外「ユリウス・アルレッキーノ 前編」

「はあ、はあ」


 一人の青年がデコボコの足場が悪い地形を歩き続ける。

 辺りは地面が割れ、それが原因で所々にがけが発生している、荒れ果てた大地が広がっている。


 地面が不安定なせいで少しの苛立ちを感じてしまうが、”魔界”よりマシと自分に言い聞かせることで気を逸らす。

 過去に任務で魔界に行ったことがあるが、あの時は最悪だった。

 地形が最悪なんていうのは粗末なことで、地面は真っ赤で木一つ生えていない。

 水もなく、朝から夜に渡り強力な魔獣に襲われ続け、休む暇もない。

 そのくせ地面は普通ではなく、生きているように攻撃を仕掛けてくる。

 ーーー最低策悪な環境なのが”魔界”だ。


ジジーーー。


 目的地まで歩き続けていると、耳に付けている魔道具から雑に金属をこすり合わせた、不快な音が発生する。

 魔道具というのは画期的という言葉が服を着て歩いている存在だ。

 今耳に付けている魔道具は遠くの場所にいる人と話をする道具で、初めてこれを部下に紹介されたときは目が飛び出るくらい驚いた記憶がある。

 だって普通は手紙だよ、手紙。

 これまで遠くの人間と意思疎通をする道具がなかったから、紙に共通語を書いて、届くのに数か月待っていたくらい。

 不便極まりなかったものが、今や必要ないときた。

 まあ、欠点としては笑えるくらい値段がするのと、相手と話す際に金属が擦れた不快な音がするということ。


「ユリウス様、任務の進捗はどうですか?」


「ああ、もう少しで目的に到着するよ。で、アーロノイドの方はどうだったん?」


 軽く、それこそ紙切れのように飄々《ひょうひょう》と質問を返す。

 ただ、気持ちが軽い自分とは違い、魔道具の向こう側の声は重々しかった。

 例えるなら悪いことをした子供が、大人にそれを言えないような態度だ。


「アーロノイド様が請け負っていた、神器の強奪は失敗いたしました」


たった一言、任務の失敗を告げられる。


「え、マジ‼。あいつが任務失敗、何があったの?」


 素直に驚いた。

 アーロノイドは空虚の白狼に入ってから、一度も任務に失敗したことがない。

 その功績もあり、彼は入団してから早くに副席に任命され、団長含め他の幹部は彼に信頼して任務を任せるのだが。

 そんな彼が任務失敗、本当に何があったんだ。


「任務の途中、ガルディアンの第三部隊の副隊長と遭遇。戦いはしたが、止む負えず撤退したことのことです」


 それは仕方がない。

 ガルディアンの幹部クラスは俺らの組織から見ても強者揃きょうしゃぞろい、しかも第三部隊の副隊長ときた。

 あそこの隊は”魔道具”や”魔道施設”などの作る、魔道技術に特化した部隊なのに、幹部たちの強さは組織の中でも上位に位置する。

 現に過去、俺は第三部隊の隊長と副隊長の両方と戦ったことがあるが、一言で評価するなら化物だ。

 特に副隊長は、こと魔力技術、近接戦においては俺より強い。


「相手があいつなら仕方がない。今までの任務達成数を考えれば、今回はお咎めはないよ」


 歩きながら魔道具越しで会話をしていると、目的地が見える。

 崖の向こう側、荒廃こうはいした大地に一つの国家が建てられていた。


「目的地に到着した。最後にアーノロイドに言伝を一つ”ゆっくり体を休めてね”、そう伝えてくれ」


 その言葉に、魔道具の向こう側の団員は「分かりました」と一言の返事の後、通話を切った。


「さて、任務開始と行きますか~」


 まるで、力のこもっていない言葉とは裏腹に彼の体からは逸脱者を超える尋常ではない魔力が漲る。




ーーーーーーーーーーーー




「ふあぁぁぁぁ~」


 国を守る外壁の中、一つの欠伸あくびが響き渡る。

 あまりに間抜けな声に、周囲に笑いが起きた。

 それは外壁の向こうから敵が来ないか、偵察ていさつしていた一般兵から発生したものだ。

 彼ら、彼女らは毎日、来る可能性が極めて低い敵を事前に確認するために仕事している。

 ”今日も敵は来ない”なんていう風に思ってしまうのは、長年勤務して何もなかったことが理由だろう。


隔絶国家かくぜつこっか・オルエン”。


 地面が割れ、がけがたくさんある地形に建てられている国。

 国は天にも届きそうな壁に囲まれ、中には崩壊した大地に似合わない程の美しい街が反映している。

 数十年前の戦争ではこの壁を突破するために多くの国が徒党ととうを組み、攻撃を仕掛けたが突破どころか、傷をつけた者はいない。

 その強度は皇帝級が全力で攻撃しないとヒビも入らず、そこに”ある機能”が加わることで世界に”隔絶国家”と呼ばれるようになった。


「...‼、止まれ‼」


 偵察をしていた兵士の一人が大声を上げえる。

 兵士の顔は困惑に染まっていた。

 初めてだった。

 十年、毎日壁の中から外を偵察していた彼は、人が歩いて来るなんてなかったからだ。


 最初こそ、遠くてぼんやりとしか見えなかったが、徐々にその輪郭りんかくがハッキリとする。

 荒れ地を超え、歩いてくる人物は黒色の中にわずかに白を混ぜた縞模様しまもようの髪に、体には薄着の戦闘服バトル・クローズしか着ていない。

 兵士は怯え、体中から異常なほど汗が流れた。

 わからない。

 目の前にいる相手との魔力量に差がありすぎて、凝視ぎょうしを使っても魔力量どころか、オーラすら見えない。


「戦闘準備‼、今ここにいる英雄級以下の兵士は国中に皇帝級の敵が来たことを伝えろ‼。

あいつは俺一人で相手する」


 壁中に聞こえる大きな声で、オルエンの中で一番強い戦士が的確な指示を出す。

 出された指示に、一人の兵士が否定の声を上げる。


「ベリオン様一人で戦うなど、あまりに危険すぎます」


「心配は無用だ。それより、今君たちがすることは国中、特に国王に皇帝級の実力者が来たと伝えることだ」


 国の中で一番強い人物に使命を与えられた兵士たちは、自身の力の無さを呪いながらも、指名に満ちた”本物の兵士”の顔をして壁を後にする。

 指折りの強者以外、壁から出ていくのも確認すると指示を飛ばした男性は城壁の外へ飛び降りた。

 数秒、耳が風切り音に包まれ、体が浮遊感ふゆうかんを感じ落下する。


「その真紅の髪。お前がベリオンか?」


 投げかけられる質問に、無言で答える。

 その答えに敵の顔は笑みへと変わった。

 敵の笑みを見た途端、怖気おぞけが走り無意識で構えを取ってしまう。


 これまでの人生で幾度も自身より強い敵と相対あいたいしたことはあったが、無意識で構えを取ってしまうのは初めでのことだった。

 本能で感じる、”今まで戦ってきた強敵の中で一番強い”と。


 無意識に使っている凝視で敵を見て目を細める。

 魔力量:6700億。

 やはり、相手の実力は皇帝級の中でも上位の強さを有する実力者だ。


 敵の実力を確認できたことで、漲らせている魔力を切り替える。

 ”能力魔力セカンド”は能力を覚醒させたものが発現する魔力。

 同時に自身が本気を出す際に使う、背中に携えている長剣を抜刀ばっとうし、上段で構える。


ーーー数秒の硬直の後、戦闘は始まった。


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