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十八話「戦いの終わりと新たな成長」

 何も見えない。

 どこまでも底の無い闇が、辺りに広がり、空間の中心に体が浮遊ふゆうしている。

 鳥と違い空を飛べない人間である俺は、この浮遊感は聞き手でない手でペンを握るような違和感を覚えてしまう。

 この光景と感覚は以前も味わったことがある。


 あれは、いつだったか...。

 異世界に転生してからの約八年間の記憶を呼び起こす。

 剣を初めて見た記憶、森で魔獣を繰り広げた記憶。

 そうだ。


 思い出した。

 俺が転生する直前と白い怪物と戦った後に、この場所を知り、この不快感を味わった。


「ッ‼」


 記憶から今いる場所について思い出すと、辺りがさらに暗くなった。

 先ほどとは違い、周囲の色は例えるなら”人の醜い心”を体現しているようで、体中から悪寒と嫌悪けんお感が襲い掛かる。

 最低最悪の感覚に顔をしかめ、歯を食いしばり、拳を強く握っていると、そいつは現れた。


 悪寒、嫌悪、恐怖、憎悪、と言うには生易しい、本能が拒否反応を示す怪物が。

 ゆうに20mを超える巨体に、ドラゴンに歪さを足した禍々《まがまが》しい姿、全てを嫌い、憎んでいる純粋な悪意を乗せた顔。

 まるで、悪そのものを体現しているような。


 全ての要素が俺の本能に危険信号を放つ。

 ”こいつはヤバい”と。

 まるで、人がクトゥルフ神話の神に対面したかのような...


 ガゴン。


 目の前にいる得体の知れない、ヤバい奴が不定形な牙を開く。

 口は広く、大きく、それこそ一度に十人を丸呑みするなんて容易たやすいほどに。

 動けない、動けない、何故か体を動かせない。


 絶叫しそうになる心を死ぬ気でい留め、意識を極限まで集中させる。

 握る手は、あまりの強さに血がしたたり、全身からはたきのように油汗が湧く。


 ”死んだ”俺の脳裏に前世含め、二度目の死が近づいてくる。

 死ぬときはいつも唐突とうとつで、恐怖を抱く時間すらない。


 ああ、、、もっと強くなりたい。




ーーーーーーーーーーーー




 知らない天井てんじょう

 少し暖かい、一日の初めを告げる眩しい太陽の光。

 目覚めると俺は綿わたのような、ふかふかなベッドの上で寝ていた。


 隣には茶色の髪をなびかせ、桃色のくちびるに服装が服装なら男性と間違えられそうな整った顔の少女。

 セレナがベッドに突っ伏するように寝ていた。

 俺が寝ているベッドに彼女がいる理由がわからず、数秒時を止めたかのように思考停止フリーズしてしまう。

 予想外を超えて、何でという考えが頭をめぐる。

 どうしてこうなったのか、理解するために洞窟どうくつを出た直後の記憶を掘り起こす。


 そうだ、俺は副隊長が敵幹部と交戦している間に班長にかつがれて、戦線を離脱。

 戦場から離れ、気が緩んだせいでマナ・オーバーを引き起こし、気絶してしまったんだ。

 敵に全く歯が立たず、人に他力本願した屈辱的な記憶を掘り起こして、心の中に自身の情けなさを呪う感情がうず巻く。


「ッう~ん」


 自身の弱さに憤り感じていると、ふと少女から声が聞こえた。

 小さく鈴のように、どこまでも聞きやすい声が響く。

 俺と同じようにセレナも太陽の光で起きたようだ。


「え、ラウロ‼」


 起きたばかりの彼女は俺を見るなり、徐々に顔色を変え、最終的には驚愕きょうがくに染まる。

 まるで、ありえない現実に直面したようだ。


 ただ、それもすぐに収まり、冷静さを取り戻したセレナは部屋を出て行った。

 何の説明もなしに出て行った彼女に困惑しながらも、今はベッドの気持ちよさに身を任せる。

 それからは早かった。


 セレナが連れてきた治療師、前世で例えるなら医者が負傷した体の診断をしてもらい。

 途中、彼女からなんで誘拐されたのか、俺が気絶した後のことを話してもらった。


1,セレナが誘拐された理由。


 図書室で一緒に本を読んだ後、屋敷に帰った彼女は見知っている使用人とは違う人物を見つけ追いかけた。

 そして、不審人物が「カーリー家」が保管している神器がある部屋の扉を開こうとした所を阻止するために挑んだが、敗北し連れ去れたとのこと。


 他者視点で意見を言うなら”助けを呼べよ”と思うが。

 実際、こうなった場合、助けを求める暇などないのだ。

 その点、自分で考え最善を尽くそうとした彼女の行動は評価されるべきだろう。


2,俺が意識を失った後。


 俺が意識を失った後はほとんどが事後処理になったそうだ。

 副隊長は幹部を取り逃したが情報を入手したらしい。


 俺たち四班が戦った強敵の名前は”アーロノイド”、空虚の白狼”六ノ牙”の副席。

 強さは副隊長曰く、軽く見積もっても逸脱者の中でも最強格、自滅覚悟で力を開放した場合に限り、

皇帝級の中間くらいの実力はあるらしい。

 要するに平常時では一般の軍施設を数秒で落とせる実力があり、本気を出した場合”核爆弾”と同格以上の戦闘能力があると考えればいいだろう。


 ちなみに、俺が気絶してから目覚めるまで、軽く一週間が経過したらしい。

 治療室に運び込まれたとき全身の骨にヒビもしく割れが起きていて、そこに極度のマナ・オーバーも重なって医者曰く、生きているのが奇跡とのこと。


 セレナの報告に顔をしかめていると、突然、部屋の扉が開かれた。

 扉が開く際の摩擦まさつ音と共に、一人の男性が入ってくる。


 太陽のような金色な髪と男らしさがある整った顔、今は戦場ではないが故の私服姿の人物。

 あの時俺たちをかばってくれた、ガルディアンの副隊長が部屋に訪れた。


「よお、起きたか少年」


 投げかけられる言葉はどこか飄々《ひょうひょう》としており、戦場で初めて会った時の空気を割るような雰囲気からはかけ離れている。

 それについて聞いてみたが、本人曰く”戦場だったから”らしい。


「今日、俺がここに来たのはお前を勧誘するためだ」


 勧誘?それって、俺がガルディアンに入団するってことか?

 いきなりの発言に理解が追いつけず、本日二度目のフリーズが起きてしまう。

 何故か、困惑している俺と違い、セレナは”当然だな”みたいな顔をしていたのは不思議だったが。


「今回の君の活躍は四班の班長から聞いた。才能の種を捨ておく真似はしたくない。

もし、君が良ければ体が回復次第。訓練と任務をしていきたいが」


 異世界に転生してからの目標、”圧倒的な強者”になること。

 人生において最も重要な目標を達成することを考えれば、強者の側にいる人に教えてもらえるのは絶好の機会だ。

 欲を言えば副隊長、幹部クラスの人に指南してもらえれば最高なのだが。

 これは今、聞かないといけないことだ。


「もし、ガルディアンに入るとして訓練などは、あなたがしてくれますか?」


 副隊長はここが戦場ではないのに、整った顔を獰猛どうもうな笑みへ変える。

 いつも戦士はそうだ。

 自分の予想外なことや面白いことがあると、捕食者の顔へ変わる。

 父のアルフレットや母のエミリオもその例外ではない。

 まったく、戦闘大好き野郎バトル・ジャンキーどもが。


「ああ、お前は見込みがあるから俺が直接鍛える。

そして、今の言葉的に答えは決まっているようだな」


 なら、答えは決まっている。


「はい、僕は貴方の下で鍛え、強くなります。

親は説得しますし、仮に説得できなくても勝手にやりますのでご安心を」


 そう、俺の目標は誰にも邪魔はさせない。

 両親には悪いが、こればかりは決して譲れない。


 交渉が成立したことで、俺と副隊長は互いに手を差し出し握手を交わす。


「俺の名前は”ディアン”、ガルディアン第三部隊の副隊長だ。

よろしく。」


「僕の名前は”ラウロ”、ラウロ・ソルフリーです。

これから、よろしくお願いします」


 互いに名前を交わし合い、師弟関係が成立した場。

 セレナだけが話に置いてきぼりになっていた。


 ただ、彼女の心の中にあるのは不満でも心配でもない。

 ラウロが目覚めたことの安堵あんどと、彼と一緒にいたいと言う感情だけだった。


 異世界に転生した少年ラウロの物語は、今やっと進みだした。

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