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十七話「強者の領域」

 体が重たい。

 うまく息が吸えず、嘔吐おうと感が喉の奥から湧いてくる。

 あまりの疲労に片膝をつき、視界がかすんでしまう。


 俺が考えた作戦は一言で言うと”他力本願”だ。

 勝てない敵に、勝てる見方をぶつける至極単純な作戦。


 班長は地下中にただよう魔力を探知して、セレナのところまで一直線で走った。

 俺にはできない技術を使う班長でも幹部クラスではなく、一般隊員として扱わている。

 なら、必然的に副隊長、隊長は魔力を探知する技術を有していてもおかしくない。


 だから、地下全体に魔力を放出した。

 同じ任務に同行してる副隊長に気付いてもらい、俺らが戦っている広間に来てもらうために。

 ここで重要なのはできるだけ敵に張り付いて魔力を放出すること。

 なぜなら、仮に遠くで魔力を放出しても、雷の斬撃を放たれたら殺されるからだ。

 その要素を考え、鍔迫つばぜり合いに持ち込んで、攻撃を打たせないようにした。


 結果、魔力は限りなく消費し、体は傷だらけだが作戦は成功した。


「おい、地下空間を全て照らす魔力を放出した奴は誰だ」


 太陽の光のような金色こんじきな髪に、男らしさがある整った顔、白を貴重として所々に黄色のラインが引いてある戦闘服バトル・クローズ、腰には長めのコイル(腰巻、モ○ハンの腰部分の装備だとわかりやすい)を付けて光をまとい、敵を弾き飛ばした人物。


 副隊長は辺りを確認するなり、重々しい声で質問を投げかけてくる。

 俺は体力が尽きていたこともあり答えられず、代わりに班長が答えてくれた。


「私の横にいる少年が考え、実行しました」


 その答えに副隊長はまぶたを閉じる間だけ、驚きの表情を作り、すぐさま口角を上げた。

 鋭く、獰猛でわかりやすく言うなら殺人者の笑み。

 どっちが敵なのか判らなくなるような様子に、俺は思わず顔をひきつらせてしまう。


「へえ~、お前が戦場についてきたガキか。理不尽に屈せず、剣を掲げる奴は嫌いじゃねえ。

にしても...」


 俺がやったと知った副隊長は上機嫌になったが、すぐさま体から冷え切った殺意に近い雰囲気を出し、

四班の隊員にいらだちを隠さず目を向ける。


「情けねえ。てめえら、戦場とはいえガキにだけ綱渡らせて何考えてやがる。

俺らは悪から人を守る防波堤ぼうはていであって、ガキに綱渡りさせる馬鹿じゃねえぞ」


 心底不愉快な、怒りに染まった重々しい怒号。

 彼らの矜持きょうじを考えると、言っていることは正しいのだろう。

 しかし、俺からしたら間違いだ。


「貴方たちの矜持を考えると、そう考えるかもしれません。

ですが、俺も剣を取った男だ。自分が綱渡つなわりすることで敵に勝てるなら何度でもする」


 初めて剣を握った日に母と交わした誓い。

 そして、強さを初めて見たときに心に決めた覚悟。


 俺の答えは副隊長のドストライクだったのか、さらに笑みを深める。

 実に愉快ゆかいそうに、自分の常識と起きている現実の食い違いを楽しむように。


「いいじゃねえか。お前、ここは俺が引き受けるから、ガルディアンに興味があるなら第三市部に来い。

俺が、隊長に話して推薦してやるよ」


 ありがたい話だ。

 副隊長本人に推薦されることのすごさは分からないが、渡りに船だ。

 だが、ここで死んでしまったら、何もかも無意味に終わる。

 幹部同士の戦い、非常に参考になるから最後まで見たいが、今は退こう。


「セレナ、走れるか?」


「うん。脚に力は入るから大丈夫」


 まあ、俺は魔力の使い過ぎで体に力が入らないのだが。

 それを班長に体が動かないことを伝えると、背中におんぶの形で背負い。


「よし、今から地下から脱出する。ついて来い」


 広間を出る前に、後ろを振り向くと異次元の戦闘が繰り広げられていた。

 光を纏い攻撃を放つ副隊長、体を雷と化し拳打けんだを放つ副席。

 目では追えない圧倒的な攻防、光と雷の衝突は俺に次の次元と可能性を見せてくれる。

 意識が朦朧もうろうとしながら、それでも目の前の可能性を見続けたいと、心が叫ぶ。


 しかし、現実は残酷だ。

 ほんの数分、強者と戦い死に掛けた俺に見る資格すらなく、班長に担がれながら広場を後にする。

 道中、敵団員に何度も遭遇したが、そのたびに四班の隊員が全員倒し、地上に出たころには全員ボロボロで疲れていた。

 けど、死人は一人もおらず皆、無事に脱出できた。


 数時間ぶりの地上は夜の闇に包まれていて、星空が神秘的に光り輝いていた。

 星座の知識があれば、もっと楽しめていたと思うと前世で勉強をするべきだったと少し後悔してしまう。


「ッう‼」


 戦闘が終え、張りつめていた意識がほどけると同時。

 急に体中に耐え難い倦怠けんたい感が降り注ぐ。

 セレナが焦りながら声をかけてくれるが、耳が遠のいているせいで、うまく聞き取れない。


 ”マナ・オーバー”。

 魔力を使いすぎたことで体の魔力が枯渇し、健康に不調をきたす現象。

 これが起きると倦怠感、嘔吐感など様々な不調が起こり、最悪な場合死亡してしまう。

 王都に来る前、独自の鍛錬をしていたころ、何度もこの症状を起こしたことがあった。


 今まで以上のマナ・オーバーに体の制御を失い、班長の首に回していた腕が振りほどけ、後ろに体を落としてしまう。

 ああ...死ぬのかな。

 意識が途切れる寸前、頭の中でそんなことを思った。


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