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十六話「強者に抗う少年」

 辺りの空気が揺れる。

 空間が互いの斬撃で歪むように悲鳴を上げる。

 一つの判断ミスで、命を落とす攻防。

 ああ、思い出す。


 これが死闘だ。

 一秒、一秒、時が流れるほどに体と意識が研ぎ澄まされる。


 いつだって死闘が俺の強さを一段階あげ、強者の領域へと、いざなってくれる。


「いいぞ‼。もっと意識を研ぎ澄ませろ」


 敵の声がうるさい。

 黙って殺し合いができないものかと思ってしまうが、気分が高揚こうようすると、言葉を投げたくなる気持ちもわかる。

 それくらい、死闘は己を極限状態へと誘うのだ。


「ウガァァァァァーーー」


 ただ、今の俺に敵の言葉を悠長ゆうちょうに返す余裕はない。

 雷の特性を応用して、敵をあざき、セレナを回収できたが敵が撤退を阻止してくる。


 敵との実力差を考えて、すぐさま地下から脱出したいのに、それができないことに焦りに似た、苛立つを覚えてしまう。

 隊の人たちも戦いに参加してほしいが、人数を割きすぎて、セレナが敵の手に渡れば状況は振り出しだ。

 考える時間が長ければ、自分たちががけっぷちにいると実感してしまう。


「オラァ‼」


「カッッ」


 やばい、しくじった。

 一瞬の攻防の中、思考にふけりすぎた俺がさらした瞬きの間の隙を敵は見逃さず、脚へ雷をまとわせ、蹴りを放ってきた。

 人をバラバラにできる素の攻撃力に魔力、もしくは能力が付与された攻撃は、火力が尋常ではない。

 間一髪、致命の一撃を防ぐことはできたが、それでも衝撃までは殺すことはできなかった。


 ぶつけられた衝撃に抗えず、地面を野球選手に投げられたボールのように転がる。

 幸いなことに俺が着ている戦闘服バトル・クローズのおかげで、地面に体が擦れても、摩擦まさつで熱が発生するくらいで傷を負うことはない。


「グッッ‼」


 何度も転がった先、壁にぶつかりそうになった俺を班長は受け止めてくれた。

 衝撃で肺の中の空気が一気に口から出て行ったが、おかげで、車の速度で壁にぶつからずに済んだ。

 しかし、このままでは確実に四班は全滅してしまう。


「班長、今ここにいる隊員の情報を教えてください。

特に隊長格の情報を教えていただけないでしょうか?」


 この状況を打破する方法。

 ガルディアンの中でも突出した実力を有する隊長格の存在が必要だ。

 班長もそう思っていたのか、顔を困惑の色に染めながらも、話してくれた。


「隊長は別件で不在だ。ただ、副隊長はこの任務に同行している。

多分、今は地下を探索していると思う。」


 ビンゴ。

 副隊長がいるのなら、後は作戦を模索するだけだ。

 落ち着け、落ち着け、心を沈ませろ。

 死闘で昂った自分の心を沈ませることで、冷静に思案できるようにする。

 策を考えている俺の横で、班長はセレナの護衛をしている隊員二人に目配せすることで、時間を稼ぐようにと指示を飛ばす。


 目くばせされた二人の隊員が、目の前で敵と戦っている中。

 作戦を頭の中で組み立てていく。

 あれでもない、これでもないと思考を漁る。




ーーーーーーーーーーーー




 これだ。

 数分の時間稼ぎのおかげで、一か八かの策ができた。


「班長、この状況を打破する作戦が一つあります...」


「確かに一か八かだが、それしかないな。

わかった、俺はどうすればいい?」


「俺が全力で魔力を放てるよう、敵の意識を分散させてください」


 深く呼吸をすることで、沈めた投資を再び、呼び覚ます。

 時間が経つにつれ、意識が、体が鋭くなる。


「作戦を開始します」


「おう、背中は任せろ‼」


 コンディションを整えた俺と班長は、普通の胴体主力では負えない速度で、一気に駆け出す。

 時間を稼ぐために戦っていた隊員たちと交代する形で、敵へと迫る。

 そこからは、休憩もできないギリギリの攻防が繰り広げられた。

 俺と班長はたがいの隙と立ち位置を変えながら、敵へと剣を振るうが、決定打には到底届かない。


 振出しに戻ったかのように、時間がたつほど、体の傷は増えていく。

 かすり傷程度なら、最初から防ごうとは思わない。

 ここで重要なのは致命傷と、戦闘不可能になるような攻撃だけ、防ぐこと。


 まだ、敵の懐には飛び込めない。

 まだ、まだ、まだ。

 班長と連携して敵の隙を作ろうとしているが、一向に隙は作れない。


 呼吸することが徐々に苦しくなる。

 敵は呼吸のリズムを乱していないのに、こっちはテンポも調律ちょうりつも関係ないと言わんばかりに、乱しまくっている。


 だが、そんな最悪な状況が一つの動きによって打開された。


 俺が攻撃した隙を班長が完璧なタイミングで、刺突することで、敵の体の軸を少しだけ崩してくれたのだ。

 ほんのわずか、数秒の隙だが、絶好のチャンス。

 俺は特殊な剣に今ある魔力を全て込め、敵へと放つ。


 ありったけの魔力が付与されている剣は、敵の腕へ触れると、地下の全てを金色の光が照らす。

 雷の属性を込めているため、周囲に稲妻いなずまが駆け、地面に亀裂を発生させる。


「イイね、いいじゃん、最高だよ。もっと魔力を込めて、俺にぶつけろ」


 俺の今ある魔力をすべて注いだ攻撃すら、敵は魔鋼まこうで強化した肉体で防いでいる。


 ここが正念場だ。

 この地下に魔力をめぐらせれば、巡らせるほど、この死闘の勝率は上がる。

 だから、更に魔力を特殊な剣に流し、斬撃の威力と魔力濃度を高める。


「ハア、ハア、ッアガ」


 声明に必要な魔力を消費しすぎたせいで、全身から力が抜けていく、例えるなら筋トレを限界までやった後の肉体そのものだ。


バアン。


 空間を揺るがす爆音があたりに響く。

 同時に幼い、俺の体も爆発の衝撃で大きく仰け反ってしまう。

 吹き飛んでしまいそうになる体を、地面を強く踏み、磁石じしゃくの特性を付与した電流を流すことで足を引っ付け、踏ん張る。

 ただ、魔力を摩耗まさつしすぎたせいで力が入らず、思わずその場で片膝が崩れる。


「後は、どうなるか運試しだ」


 そう、運試し。

 俺の魔力に気付いてくれるか、一か八かだ。


「いい死闘だった。副席相手にねばったんだ、潔く死ね」


 剣を持つことで精いっぱいな俺に敵は賛辞の言葉を掛け、とどめを刺すため拳を俺に振り抜く。

 戦士を殺せる殺人的な拳は驚異的な速度で迫ってくるが、俺の顔に触れることはなく、その寸前で止まる。

それは、俺の作戦が成功したことを告げていた。


「よぉ~。膨大な魔力の発生源はここか?」


 声が響くと同時、俺ら四班が入ってきたところから、光が走る。


「副隊長‼」


 俺の顔へ拳を寸止めしていた副席は、瞬きのうちに広間の奥へ吹き飛んでいく。

 その速度は速いという事件を超えていて、強者の領域に達している敵ですら反応できていなかった。

 四班の隊員全員が、目の前の現象を起こした人物について叫ぶ。


 彼らの叫びが、確信を強くする。


 命を懸けた作戦は...成功した。

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