十四話「少女の過去」
心が割れそうになるって、こういう感じなのだろうか。
彼女ーーセレナの言葉が俺の心にヒビを入れる。
不純のない、透き通った声。
それが、ここまで残酷になることなど、そうそうないだろう。
「セレナ、何を言って」
逃げて?
俺が言われたのか?
敵に怯えている彼女の言葉を、もう一度確かめるために問いかける。
「逃げてって言ったの。ラウロには死んでほしくない」
セレナの心配が心に刺さる。
だが、同時に怒りもわいてくる。
あれは多分、本心ではないのだろう。
図書室で初めて会った時から、感じていた。
セレナは人に助けを求めないのだ。
わからないことがあったり、できないことがあれば普通は誰かに助けを求める。
彼女の場合、それがない。
というより、助けを求めることに恐れているというのが適切だ。
「君は、そうやって誰にも助けを求めないのか?」
「助けは、必要ない。私は人に頼ってはいけない」
そう、私には必要ない。
王国の中でも高い地位を築いている貴族で生まれ、人より恵まれている私には...
「それって頼りたいけど、頼れないってことだよね」
「‼」
「人に頼りければ、頼ったっていいんだよ」
ラウロの言葉は的確だった。
その言葉が呼吸を忘れてしまうほど、心に響く。
いつからだろう...
人に頼らなくなったのだろう。
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私は基本何でもできた。
和平王国の中でも特に高い地位を持つ「カーリー家」に生まれ、不自由なく育った。
魔術書と剣術書はその専門性から、高価なものとして扱われている。
だが、私の家なら月に何冊も変えてしまう。
勉強が好きだった私は図書室に行き、知識を吸収した。
戦闘も指南役やガルディアンの隊員に教わり、同年代の剣士より戦えるようになった。
でも、いくら努力しようが、できないことだってある。
私だって人であり、それは当然だと思う。
あの時までは、そう思えた。
「ふざけないで、セレナにできないことなんてない。」
怒号だった。
苦手な料理について同級生の女の子に頼った。
全身が熱くなるような、恥ずかしさを感じながら言った言葉。
この時の私を鏡で見れば、たぶん頬を赤らめていただろう。
その人とは学院に入ってからずっと同じ教室で話し合っていたか。
だからこそ、突然の拒絶に戸惑った。
「貴方は私たちの憧れで、何でもできる。
魔術だって、剣術だって、家柄だって、完璧なのに、私たちに頼らないで‼」
私は、その言葉に納得してしまった。
確かに、恵まれている私が人に助けを求めるのは良くないのかもしれない。
逆なのだ。
助ける側でなければいけない。
けど...悲しかった。
事実だとしても、言われた言葉は私の心を深く抉った。
どの後の記憶は曖昧だけど、自分の部屋でずっと泣いていた記憶がある。
結局、同級生の女の子とは疎遠になった。
でも、ラウロは他の人とはどこか違う。
私の家柄を気にするかと思えば、”どうでもいい”と言ってくれた。
まあ、言い方は悪かったけど。
そこからかな。
彼と一緒にいる時間が大切になったのは。
けど、そんな時間は長くは続かなかった。
私は敵に何もできず、誘拐され、ラウロたちに迷惑をかけた。
今の状況を飲み込めば飲み込むほど、あの同級生が放った言葉を否定したくなる。
”この状況を見ても、私は完璧ですか?”って。
でも、目の前の光景を考えれば、この程度の感情は匙に過ぎない。
ラウロが私のせいで死にそうになっている。
助けるはずの私が助けられている。
無力感、怒り。
こんな感情、終わりにしたい...
だからーーーもう、見捨ててほしい。
だけど、君は見捨ててくれないんだね。




