九話「作戦開始」
セレナが誘拐されたと言われて数分、俺はアルフレットに連れられ王室の前まで移動していた。
「まず、ラウロはセレナ様の家系についてどこまで知っている?」
「王を除く貴族の中で一番の地位で、歴代国王の側近をやっている公爵家とか」
俺の言葉にアルフレットは頷き、続きを話す。
「地位の高い貴族の共通点は神器があること。彼女の家「カーリー家」でも同じで
今回の事件は、その神器を狙った犯罪組織のものだ。」
「神器...確か、時を止めることもできる代物があるんですよね。なら、納得がいきますが、
どうして、誘拐された状況を知っているのですか?」
「ガルディアンの中には事件の状況を再現する能力者がいるんだ。」
流石としか言いようがない。
ガルディアンは技術もすごかったが、事件解決にも秀でいているとか、もはや何でも屋だな。
「では、二つ。事件の解決に誰が関わりますか?
それと、彼女を誘拐した組織とはどういったものですか?」
敵の組織について聞いたと同時、アルフレットは焦った顔を強張らせた。
「『空虚の白狼』。今回の事件を起こした能力犯罪組織の名だ。
過去に王都を陥落寸前まで追い込んだ組織で、その時は俺と、ラウス王、ガルディアンの第三部隊で退けた。が、復興には相当時間が掛かった。」
聞かされた事実は衝撃的なものだった。
この世界には常軌を脱している実力者がいる。
だが、国一つを陥落させるくらい強い奴がいるなんて。
「お前、付いて行こうとしているな?」
アルフレットの問いに俺は沈黙で肯定する。
すると、彼は溜息と共に顔を少しだけ緩ませ、言った。
「本来なら怒るところだが、なんか嬉しいな。お前、ここに来るまで他人に無関心だっただろ。」
「そんな風に思っていたのですか?」
確かに、自分と他者をわけていた。それこそ大きな壁で隔てるように。
「変わったなら、それは彼女のおかげです」
「なら、大切にしろよ。ーーー守れなかった記憶は忘れようとしても、心に来る」
俺に助言をするアルフレットの表情はどこか寂しげで、悔やんでいた。
「中に入れ、お前の参加はその時に話す」
王の間。装飾が施されている扉を開け入ると、そこには騎士団と軽装に身を包んだ男たちがいた。
男たちから発せられる強者特有の雰囲気はまるで刃物。
組織の人たちとは会ったことがないが、直感的にわかる。
あれがガルディアンだ。
「揃ったか。では、始めよう」
王室に入ると、目の前には王国の国王であるサラーム王と、周りには鎧を着た騎士団。
何より、軽装以前に服しか着ていない人たちがいた。
「父様、彼らは?」
「ああ、軽装な奴らが『ガルディアンの隊員』だ」
あれが、ガルディアンの隊員。
言われてみれば、隊員から発せられるオーラは全員アルフレットと同等か超えている。
自分より強い人たちを分析していると
「君たちを呼んだのは私の側近「カーリー家」の次女である、セレナが空虚の白狼の団員に攫われたからだ。」
話された事件の内容は騎士の面々は鎧越しでもわかるくらい動揺していた。
だが、敵対組織の名前を言われたからだろうか、ガルディアンの隊員だけは動揺ではなく、
その体から尋常ではない闘志を漲らせていた。
「敵は王都西の廃墟。これは探知系の能力者からの情報だから、確かだろう。」
さらに空気が研ぎ澄まされる。
この空間にあるのはもう空気ではない、質量、圧だ。
空気は重量がない、だが圧縮された濃密な魔力が空気に重さをあたる。
人が人なら、重さに呼吸ができず、倒れるだろう。
現に、俺も車に酔った気持ち悪さを少し感じている。
「この場所に拠点があるってことは、できるだけ早くいかないと救助は不可能になるな。
しかも、空虚の白狼も関わっているなら、結構大ごとになるかもしれない。」
隊員の言葉にサラーム王は顔をしかめ
「うむ、敵に気付かれてほしくないから、少数精鋭で行ってほしい。
ガルディアン、元騎士団長のアルフレットは救助に、現騎士団は街の警備をさらに強めてほしい」
「わかった。ガルディアンなら今二十人くらいは動けるから、全員動かそう」
「俺も動ける。あと、息子のラウロを連れて行こうと思う」
「「「はあ?」」」
アルフレットの言葉にその場にいた俺と彼以外は一斉に驚いた。
「いや、お前馬鹿か?自分の息子をあいつらがいる拠点に連れて行くって、死なせたいのか?」
「今回のは人を確実に殺す任務だ。そんな経験、息子のためにもならないだろ」
正論、一般的な感性を持っている人なら息子を死地に送るような真似はしない。
しかし、これに関しては俺がアルフレットにいったことだ。
決して彼が異常だから、そんなことを言っているわけではない。
「これに関しては私が父様にお願いしたことです。私はセレナ様を助けたい。」
灰色の人生に色を与えてくれた一人。
異世界に転生してから色を与えてくれたのは魔力、剣、最近はセレナになったかな。
図書室での時間はそれほどまで充実していて、彼女の笑顔は太陽のように思えた。
強さを求めるだけだった俺が奇麗だと思えた。失いたくないと思った。
だから、俺は命を張れる。
張る価値がある。
アルフレットが俺の言葉に続いて言う。
「実力は俺が保証する。こいつはとっくに『英雄級』の領域に片足突っ込んでいる。俺やガルディアン、騎士団長を除けば最強の一角だろう」
そういうアルフレットの顔は真剣で、嘘偽りがなかった。
彼は本気で俺の実力を評価しているし、セレナの救出に参加しても問題ないと思っている。
数秒、王の間には静寂が流れた。
「わかった。参加を許可しよう。ただ、私たちが万全の装備を与える。特に戦闘服を着て出ることが条件だ」
その空気を破るかのように、サラーム王は言葉を発する。
「王よ、彼はまだ子供ですよ‼本当に宜しいのですか」
王の言葉に、俺が救出に参加することに騎士団の何人かは反対の声をあげた。
が、「ご配慮痛み入ります。ですが、今動かずして、いつ動くのですか?」と告げると声は一瞬にして止んだ。
「では、今から作戦会議をするので参加者は集まってください」
話が終わったことを察したガルディアンの構成員が、集合を促す。
彼らが用意している地図を目視できる位置へ俺とアルフレットは移動し、作戦会議に参加する。
「今回の作戦はセレナさんの救出が前提だ。相手があいつら(空虚の白狼)とはいえ、やむを納ない場合以外は戦闘を回避。そして、彼女の救出ができれば、即撤退だ。わかったな?」
「「「了解‼」」」
地図を広げた隊員の中でより一層、強いオーラを放つ人物の言葉に構成員は全員口を揃えてそういった。
「十中八九、この廃墟には地下があると思う。突入の際は複数回に分けて行う。
これは全員罠にかかって全滅という状況を避けるためだ。」
「「「了解‼」」」
的確な判断で練られる作戦。
それを聞く隊員達の空気には一切のよどみがない。
流石、世界屈指の防衛組織だ。
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作戦会議が終わり、敵の拠点に移動した俺は息が詰まりそうになった。
廃墟となった木造の建物は今にも崩れそうで、ガラスは所々ひび割れ、死の匂いを漂わせていた。
「作戦通り、班ごとにわかれて突入するぞ」
「ラウロは四班の構成員と一緒に動け」
「わかりました。ご武運を」
アルフレットと言葉を交わし別れる。
構成員は騎士団のように鎧を着ていない。
だが、これは個々人にあった戦闘服を着ているからだ。
「よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ。あいつらは強いから気を抜かないように」
呼吸が荒い、心臓の鼓動が感じ取れる。
魔獣や野盗で実践は積んだが、誰かを助けることは初めてだから緊張してしまう。
「大丈夫。最初は誰だってそうだから。ただ、君なら大丈夫」
そうだろうか、俺は人の救出とか、やったことがないから不安しかない。
しかし、緊張に飲まれて戦えなくなったら話にならないから、徐々に慣れないといけないな。
深く息を吸うことで、呼吸を整え、体の調子を戻す。
「ーーー時間だ」
四班の班長が作戦の時間を告げる。
それを合図に俺たちは敵がいる、闇の中へと足を踏み入れる。




