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六話「鍛錬の間」

チュン、チュン


小鳥のさえずり、朝のざし、気持ちのいい風。

そのすべてが俺を快適な目覚めに誘う。


「お、起きたか?」


「父様、おはようございます」


目覚めると眼前にはアルフレットがおり、服を着替えている。

彼が今着ようとしている服は、いつも戦闘をする際にきている黒い服で、今から鍛錬に行くことが予想できる。


「今から鍛錬に行くけど、ラウロはどうする?」


「でしたら、僕も行きます」


幼い体に魔力を流し、わずか十秒のうちに着替えを済ませ部屋を出る。

扉の向こうは城ということもあり、廊下がどこまでも広がっていて、向こう側からアルフレットが手を振っていた。


俺は手を振っているアルフレットの方に早歩きで足を進める。

数秒歩くとようやく彼に追いつくことができ、俺の姿を近くで確認できたアルフレットは話しかけてくる。


「今回の鍛錬は王都にいる騎士たちと一緒にするぞ」


「騎士たちと、どうしてですか?」


「そりゃあ、王都だぞ。いつもと違う鍛錬ができるのにやらないのはもったいないだろ?」


彼の言うことは正しい、村より明らかに広く、あらゆる技術が豊富な王都でいつもと変わらない鍛錬だと、せっかくのチャンスが水の泡だ。

そうこう話していると、外から強く、重みがある声が発せられる。


「全員、静粛に‼。今回はある人に鍛錬をしてもらう」


アルフレットはその声を聴いた途端、走り出した。

焦る彼を見て、(ある人ってお前かよ‼)と思いながら、俺も走る。

外と内を隔てている段差を飛び越え、整列している騎士たちもう色に移動し、背筋を伸ばす。


「え~、騎士団長から聞いていると思いますが、私は元騎士団長アルフレットと言います。

鍛錬の内容は騎士団長から聞いています。最初は基礎鍛錬から」


俺とは逆にアルフレットは今の騎士団長らしい人物の横に行き、鍛錬の開始を告げる。

合図を起点に、騎士団の人たちと行動で鍛錬が始まった。

鍛錬の内容はいたってシンプル、城内を走り回り、木剣を振り、打ち合う。

これらを軽く数時間やった後、


「全員、やめ‼。体も温まったし、今から『鍛錬の間』で鍛錬をしようと思います」


「「「はい、お願いします‼」」」


鍛錬の間ってなんだ?

俺は初めて聞いた単語に、頭の中で疑問符が浮かんだ。

と、横にいる一般騎士が俺の疑問符を察してくれたのか


「ラウロ様、『鍛錬の間』というのは能力と魔術を掛け合わせて作られたもので、

その効果は死んでも、それまでの傷を完全に治癒した状態で蘇生する、といった和平王国の技術を結集させた鍛錬場です」


「それは、また凄いですね。もし、宜しければ『鍛錬の間」が作られた経緯とかも教えてもらえますか?」


鍛錬の間について教えてくれた騎士に、お願いすると鎧姿でもわかるくらい喜び、教えてくれた。

騎士の話を要約すると、俺が今いる異世界には能力を用いた犯罪を取り締まる組織があり、

名前を『ガルディアン』というらしい。


正式名称は『能力犯罪対策部隊 ガルディアン』、組織の戦力は極めて高く、幹部クラスになると皇帝級や神話級の実力を有しているのは当たり前。

そして、王国にはガルディアンの中でも特に科学・能力の技術に特化している『第三部隊』の拠点が設立されていて、王国は騎士団の戦闘力をあげるため、『第三部隊』と共同で鍛錬の間を作った。


「ここまでが『鍛錬の間』が作られた経緯となります。」


「説明、ありがとうございます。にしても、ガルディアンという組織、凄いですね」


「私も一度、第三部隊隊長とお会いしたことがありますが、彼女から発せられる次元の違う魔力濃度に立つことがやっとでした」


彼女ということは第三部隊隊長は女性なのか。

一体どういう人物だろう、白装束に身を包んで眼鏡をかけている「ザ・研究者」みたいな人なのかな?

第三部隊隊長の姿を頭の中で想像していると、鍛錬の間について教えてくれた騎士が目の前にある建物を見て


「あれが『鍛錬の間』です」


「へえ~、あれが」


一言で言うと、四角形。

鍛錬の間と呼ばれている建物の外壁は、特徴的な装飾はない白色の四角形だ。

中は外壁と同じ色をした二つの部屋に分かれており、騎士が言うには、二つあるうちの一つ全体の九割を占めている部屋は戦闘を目的とした部屋で、残りの一割は戦闘を観戦するための部屋となっているらしい。


ただ、用途が違う二つの部屋だが、共通していることもあり、それは「部屋に何の装飾も施されていない」ということ。


いや、本当に何もないんだ。

真っ平らな壁と地面しかない、あっても戦闘を観戦する部屋に机と椅子があるくらい。

建物の設計者は戦闘以外、何も考慮していないことが分かる。


「ここで、どうやって鍛錬をするのですか?」


「それは、今から私が説明します」


先ほどの騎士がそう言いながら、戦闘用の部屋へと足を向ける。

俺も後に続き、騎士が入った部屋へと入り、説明を受ける。


「鍛錬を始める前に、ここに魔力を流します。どれくらい流すかというと、前にある紋章が光きるまでです。」


「わかりました。ここは僕が魔力を流します」


ほこらにめがけて手をかざし、魔力を流す。

魔力がなくなる、吸い取られると言った方が適切か。

少しの脱力感を感じながら、紋章が光る光景を目に入れる。

黄緑色に輝く紋章、それは温かな、まるで平和の象徴のような色だった。


「もう、大丈夫です。魔力の残り残量はどのくらいですか?」


「九割は残っているので、大丈夫です」


「九割‼。私が紋章に魔力を注げば、三割は持っていかれるのに」


そうなのか?

魔力量だけなら騎士の方が多いと思うが、魔力の運用方法が違うのかな。

俺は魔力を消費する際、魔力を分割して消費している。

もっと詳しく説明すると、一の魔力を消費する際、魔力を半分に分割する。

そして、分割した魔力を原子の結合ようにし、威力を上昇させ、一の魔力と同じ出力にしてから消費している。

結果、消費している魔力は半分で、出力される魔力は二倍と良いこと尽くめ。


「さすが、アルフレットさんの一人息子、才能が違いますね」


「違いますよ。これは潜在能力ではなく、ただの技術です」


そう、ただの技術。

異世界に転生してから一日も無駄にせず、思考し、努力した結果、今の俺がある。


「これで、鍛錬の間は機能しますか?」


「はい、魔力は満たされているので、もう機能しています。後は、放送されます」


同時に、アルフレットの声が戦闘用の部屋に行き渡る。

機械越しの声、これは前世であった『スピーカー』だ。

彼の男らしい声が次の言葉を発する。


「準備できたらしいので、今から鍛錬を開始する。両者、構えて」


鍛錬をする際に、いつも言われているセリフを言われた俺は意識を戦闘用に切り替え、剣を抜き、構える。

騎士も構えており、構え方は闘神流。


「聞いていると思うが、鍛錬の間は蘇生の能力が付与されているから、相手を殺害しても問題ない。

では、開始‼」


開始の合図があげられ、俺と相手の騎士は体に魔力を流して、開いていた間合いを一気に詰める。

互いに剣が当たる距離。

しかし、相手の騎士は腕が長いことを利用し、少し下がるだけで俺の間合いから外れるギリギリの距離で体を停止。

日々実践をしている騎士、相手の間合いを瞬時に把握し、自身の有利な間合いで停止する判断力には驚嘆しかない。

今、騎士は何を考えているのだろうか。

戦いとは相手の考えを読み、対策したら勝つことができる。

例外として、肉体スペックなどのパラメーターが開きすぎていると、動きを読んでいてもゴリ押しで負ける。


幸いなことに、俺と騎士の肉体スペックは同じくらいだ。

ということは、勝敗をわける要素は『予測』。

相手の動きと攻撃を読んで、防ぎ。

自身の攻撃を相手がどう対処するのか予想し、欺く。

それらの行為が相手より一枚上手な奴が、勝つ。


「「フッッ‼」」


俺は片手で、騎士は両手で、互いの首めがけて剣を振るう。

剣は美しく弧を描き、最適なルートで相手の生命を絶とうと迫る。

このままいけば剣は俺と騎士の首を同時に切断して、両者死ぬだろう。

だが、騎士はそうはならないと言わんばかりに剣を止め、身をひるがえす。

フェイント。騎士は今の状況を予想し、フェイント前提で動いていたのだ。

結果、俺の剣は騎士の首を外れ、逆に騎士が放った剣は再度、俺の首を迫る。


(きた‼)


俺は予想していた。

目の前の騎士が俺の剣を避け、逆に俺の首へと剣を放つことを。

騎士が放つ剣が美しく、弧を描き、最適で最短なルートで俺の首へと迫ることを。

ここで闘神流の弱点を一つ。

闘神流は敵が攻撃する前に殺す。という攻撃こそ、防御という剣術。

だからだろうか、読みやすいのだ。

確かに洗礼されているし、闘神流の攻撃は脅威そのもの。

しかし、洗礼されすぎていて読めてしまうのだ。

次の一手が、どこに来るのか。


ーーーーガギン。


金属と金属がぶつかり、弾ける音。

俺は首に迫った剣を余っている手でナイフを握り、そのナイフで騎士が放った剣を受け流す。

騎士は確実に当たると思った、剣が弾かれたことで、目を見開いていた。

剣を弾くことができた俺は、空を描いている剣を停止、手を器用に動かし、柄を再度持ち直す。

そして、俺は先ほどとは逆方向に騎士の首めがけ剣を振るう。




ーーーーーーーーーーーーーー




銀色の剣が首へと迫る。

相手が八歳くらいの子供だからって、油断はしていなかった。

なにしろ、相手はあの元騎士団長である、アルフレットさんの息子だから。

だが、どこか『こんな子供に負けるわけがない』と思っていたかもしれない。

結果として全力で挑み、今自分の首にラウロさんの剣が迫っている。


今までの人生が脳裏をよぎる。

体感時間として、五秒と言ったところだろうか。

その間、自分の首に迫る剣をどう対処するか思考し、

意識が途絶えた。


「そこまで‼」


アルフレットの声が部屋中に響く。

目の前には首が切断され、血を流している騎士の姿がある。

切断された首は鎧の中に入った状態で血が流れ、頭部という重要なものを喪失した胴体から哀愁あいしゅうを放たれる。


「勝者、ラウロ‼」


アルフレットが戦いの終了を告げると、首が切断され、死んだ騎士の体が光に包まれた。

光の色は先ほど俺が魔力を込めた紋章と同じ薄い緑色。

数秒の後、騎士は蘇った。

これが鍛錬の間の効果、『鍛錬場にいる人、限定の蘇生」というやつか。

目の前の光景に驚いている俺に、再度放送越しでアルフレットが声をかける。


「ラウロ、『鍛錬の間』はどうだ?」


「素晴らしいです。正直、もっとここで戦いたいです」


「わかった、事前に騎士たちには了承は得ているから、このまま鍛錬を続行する」


そう言うと、さっき俺が殺した騎士が下がり、別の騎士が部屋の扉を開け入ってきた。

俺と騎士、両者が定位置に着くと再度放送は流れ、数時間にわたって鍛錬の間で殺し合いをした。

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