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五話「王都」

 あれからもう四日が経った。

 剣士たちの襲撃を何とかした俺らはザラの村の宿を借りて、そこで一日休息を取り

ついに王都の城門まで移動することができた。

 旅路は安全とは言えなかったが結果的に楽しい旅になったと言えるだろう。


「もうそろそろ王都に着きますね」


「だな、王都に着いたら。ちと王城に用事があるから付き合ってくれ」


 王城に何かあったか?

 いや、アルフレットやエミリオたちの用事であって、俺の用事ではないのだろう。

 しかし、やっぱ王都でけえな。

 先に広がるのは大体三十メートルくらいある高さをした茶色の外壁と、中にはそれを突き破る建設物がたくさん確認することができた。


「そこの人、通行証を出してください」


 門番と思われる人物は高身長で全身を銀色の一般的な鎧に包み、腰にはレイピアに近い剣を

掛けていた。

 鎧のせいで性別はわからないが門番は慣れた手つきで俺らの前に並んでいる人達の

通行証を確認していく。

 ただ、見た目に反して仕事に飽きているのか、どこか気だるな態度だが動きには一切の無駄がなく、

一人、また一人と確認を終える。

 そして最後尾にいた俺たちまで門番が来ると突然、眉間にしわを寄せた。

 いや、兜のせいで顔の表情は見えないが、それくらい驚いていた。


「門番さん、どうしたのですか?父様たち何かやっちゃいました。」


「おい、俺らを犯罪者みたいに言わないでくれ」


 犯罪はしていないと思うが、門番の態度が明らかにおかしい。

 数秒門番は俺らの通行証を見ながら硬直していたが、気だるげな態度をすぐさま整え、まるで軍隊の

敬礼のような美しい姿勢をして


「お疲れ様です。アルフレット様、エミリオ様、シルバリル様、レリア様」


 すると、門番は何故かアルフレットと、それ以外の家族の名前を様付けで呼び出した。

 鎧で分からなかったが声的には女性だ。

 ていうか、本当になんでだ?

 通行証を見せたアルフレットの名前が呼ばれるのはわかる。

 だが、それ以外の人の名前まで読んだ、しかも様付けで。


「レリアさん、父様たちは王都で有名なんですか?」


「はい、昔ですが私とシルバリル、ご主人は王都で近衛騎士をやっていたのです」


 要はアルフレットたちは俺が生まれる前まで騎士をやっていて、かなりの地位にいたということか。

 それこそ、門番ですら知っているくらいの。


 通行が許可され城門を通ると、そこには中世とは思えない光景が広がっていた。

 前世の1900年代に作られた車「フォード・モデルT」や王都の中央にそびえる一番大きな建設物

「時計塔」など、中世が基本であるこの世界では最先端な技術が結集していた。


 その光景に不覚にも俺は時間を止められたかのよう錯覚と共に見入ってしまった。

 約七年、この世界の技術に半ば諦めていた俺だが、これ凄まじい。

 俺はこの光景を見ながら『やっぱどの世界にも世界を革新させる天才はいるものだな』と思っていると

馬車を運転していたシルバリルが


「皆様大丈夫ですか?宜しければ、王城まで馬車で移動します」


 と、最終確認をしてきたが、俺らが問題ないというと馬車を王城に向けて移動し始める。

 馬車の移動速度は町中で人もいるからなのか旅の時よりも少しだけ遅いが、王都の景色に見入っている俺にはさじでしかならなかった。

 生前、東京などの都会に行ったことがなかったから、こういった場所はなんだか新鮮だ。

 どこまでも広がる青空、大勢で築かれている生活の営み、異種族たちが互いに手を取り合っている

光景。

 目の前に広がっている光景はまさに「人と亜人が手を取り合う国」呼べるものだった。


「十人の超越者が世界を調停し~」


 すると、どこからか透き通った美しい声と一緒に歌が聞こえた。

 吟遊詩人だろうか、この世界にもそういった人はいると聞いたことがある。

 にしても、超越者とは一体何だろうか?

 この世界の強さの段階は初級→中級→上級→英雄級→逸脱者→皇帝級→神話級の七段階であり、

超越者なんて言うものは存在しない。

 なら、超越者とはこの七段階の中で特に強い連中の事を指しているのだろうか?


「レリアさん、超越者っていったい何ですか?」


「超越者?聞いたことがありませんね。もしかしたら神話級の中で特に強い力を持った者たちなのかもしれません」


 彼女でもわからないか、なら俺はもっと分からない。

 レリアは元々は獣人の村でヤンチャに過ごしていたそうだが、アルフレットたちと出会った後、

外の世界に触れた彼女は色んな事に興味を持ち

 気付けばシルバリル達よりも物知りとなっていたそうだ。

 そんな彼女でもわからないことは存在する。

 まあ、少ないが。


「皆様、王城に着きますよ」


 そうこう話していると目的地の王城の正門まで移動していた。

 王がいる城ということもあり、辺りには銀色の鎧を着こんだ兵士が確認できるだけでも二十くらいは

警備していて、仮に王城に侵入しようとしたら結構骨が折れることが分かる。

 しかも、数だけでも厄介なのに見た感じ徘徊している騎士たちの実力はどれもが数日前に戦った

黒服の剣士たちよりも強い。


「王に謁見する予定があるシルバリルです」


 シルバリルは懐にあった剣の紋章が入った銀色の首飾りを取り出し、門番に見せた。


「お話は聞いております。長い旅ご苦労様でした、場内で王がお待ちしております」


「分かりました、ありがとうございます」


 一連の会話が終わるのと同時に目の前の正門がガラガラと音をたて、門が上に上がることで王城までの道が開ける。

 人力なのか、はたまた魔術を応用して空けているのか、気にはなるが今は知る必要はないだろう。

 正門を通った後、城内にある馬車置き場に馬車を置き、城の中に入る。


 和平王国の王城は全部で二階あり、一階には外の景色を楽しむ庭園などがあったがそれ以外は特に何もなかったが、二階からは話は別で廊下には赤を基調とした奇麗な装飾が施され、貴族たちが踊り、遊ぶ大広間とその奥には王の玉座があった。

 ちなみに前世、ただの興味本位から王城について調べたことがあるが、普通は謁見室と玉座は別々だがこの城はそれらが同じ部屋らしい。


 俺は初めてみた王城に心が躍っていると、あっという間にこの国の王がいる部屋の前まで来てしまった。

 玉座の門は赤々として、立ち入る人たちに緊張と見入らせる魅力を放っている。

 その横には城門や一階にいた兵士と違い赤い門と同じ色をした鎧を着ている騎士が立っており、俺らが門の前まで行くとすぐさま取っ手を掴み力いっぱい門を前へと動かしてくれた。

 開かれる門からはギギと重たいものを動かすときの音が聞こえ、開かれた門の隙間から廊下の日にはならない程美しく芸術的な光景が広がっていた。


「また会えてうれしいよ、『アル』」


 広い部屋に伝わる渋い男らしい声、別に大声ではないが雰囲気からか妙にハッキリと聞こえる。

 そして、俺は言葉を発した人物を知らないが確信を持って言える。

 目の前にいる赤と白の服を着た老けた男がこの国の王だと。

 それと王の周りには先ほど門を開けてくれた騎士と同様の鎧を着ている人たちと、一人の女性と見るからに騎士ではない男性が十二人いた。

 いや、一人だけ王の隣にいる騎士だけは紫色の鎧を着ていて、ここまで見てきた騎士たちとは体から

発しているオーラと言い何もかもが違う。


「数年ぶりです。サラーム王」


「やめてくれよ。そんなかしまった言い方じゃなくて昔みたいに砕けた態度で『ラウス』って呼んでくれ」


 自分より立場が上の人物に畏まったアルフレットに対して、目の前の王はその態度に

辟易へきえきしている。

 彼らの愛称や会話的に昔友人だったのかもしれない。

 でか、シルバリル曰く昔アルフレットたちはこの国の騎士をやっていたらしいから、この態度も打倒なのか?


「で、今回は何で遥々苦労して王都まで来たんだ?」


「いやさ、ラウロって村以外の人と接したことがないから、もっと広い所で人と接してほしいと思ったから来たんだ」


 さっきまで畏まっていたアルフレットは硬い態度を崩し話始める。

 本当に王とアルフレットの態度は友人などに対する態度そのものだ。


「そうか、そうか。久びりだなラウロ、私のことは覚えているわけないな」


「はい、王への不敬をお許しください」


「不敬というが、会ったのはお前が生まれた瞬間だからな。そりゃ、覚えてないのは当たり前だ」


 そうだったのか、それは知らないわけだ。

 俺が転生したときこの体は髪の毛が生えていた。

 ということは、俺がこの体に転生したのは生まれてから数週間くらい後のことだ。


「まずは自己紹介、私はこの和平王国の王をやっている『サラーム・ラウス・ノスフェラトゥ』だ」


「こちらも初めまして王。我が父アルフレットの息子、ラウロ・ソルフリーと申します」


 頭を下げながら名乗り上げる。

 この国の礼の仕方はわからないので前世でおしえられた、腰を後ろに上半身を倒す方法で礼をした。

 周りにいる人たちに礼の仕方がなっていないと怒られるかもしれないが、教えられていないものは

わからないので仮に不敬と言われたら素直に謝罪しよう。


「ふむ、アルよ。礼の仕方を教えていないのか?」


「悪い、普通に忘れていたわ」


「お前な、だが礼の仕方を知らないなりに相手に最大限の誠意向けようと心掛けている礼だから不敬ではないがな」


 サラーム王は口を緩ませ笑顔を作る。

 顔が整っていることもあり、見る人が見る人なら魅了されてしまうだろう。


「それに、君たちには親友のような関係でいたいからそんなに畏まってほしくない」


「わかりました。これから心掛けます」


 王という立場的に友人として接しろというのは良くないと思うが、昔の友人とその身内に畏まられると

心を許した人物が遠い人になった気分になって悲しくなるのかな。

 この世界は魔術という神秘があるせいで人が簡単に死んでしまう過酷な世界だ。

 現に俺は転生して魔力を得たから異世界でも生きていけるが、もし魔力なしで生きないといけなくなったら三年も生きれたか怪しい。

 そんな過酷な世界だからこそ、王は友人という対等な立場の人との関係を大切にしたいのだろう。


「そういえば聞き忘れていたが、アルたちは泊まる宿とかは手配しているのか?」


「宿は取っていない。この後に宿の手配をするところだ」


「なら、いっそのこと王城に泊まるか?」


 王の予想外の言葉にアルフレットは面食らった顔になり、動揺で体をビクリと震わす。

 それは、彼だけではない俺ら家族全員がそれぞれ表情は違うが驚いている。

 だって、いきなり王城暮らしだぞ?急展開すぎるだろ。

 しかし、時は動揺している俺らなんて知ったことではないらしい。


「いいのか?俺らは友人とはいえ、そこまでは」


「何言ってんだ、友人だから私は力になりたいのだ。逆に友人のために王の力を使わないのならいつ使う?」


 その言葉に一切の裏表はない本音なんだろう。

 ここに来るまでの会話でサラーム王をたたえる会話がいくつかあったが

 なるほど、そりゃあ慕われるわけだ。

 人に無条件で善意を向けられる人物はまれであり、そういった人は相手に信頼される。

 目の前にいる王はそれを最も体現している人物なんだと思う。

 だから、アルフレットは最初こそ敬っていたが今では軽口をたたいているし、他の人たちもそのことについて咎めないのだ。


「わかった。お前を頼らせてもらうよ。」


「そうか、そうか。なら今から部屋の準備をさせるから、それまで他愛のない話をしよう」


 そういった後、軽く雑談っぽくサラーム王とアルフレットたちは話し合った。

 これまでの出来事、親になった気持ち、自分の息子に対する気持ち。

 王も子供を持つ一人の親だから話は盛り上がり、泊まる部屋の準備をしていた人が来るまで終わる気配がない。


「わかるよアル。子供の成長っていくら疲れていても気にならないくらい嬉しいものだよね」


「ほんとそれ、まあ、ラウロは赤ん坊の時から落ち着いていたからこれと言って苦労したことはないがな」


「へえ~、私の子供たちは逆に活発的で体力が追いつけず何度も倒れかけた、おっと。」


 二人が楽しく話していると、後ろの方から扉が開く音とその向こう側からメイド服に身を包んだ一人の女性が出てきた。

 白色の髪の毛に瞳は前髪で隠れているが顔の骨格は美しく整っており、一目で彼女が美人だと感じることができる。

 メイド姿の美しい女性はアルフレットとサラーム王の会話を打ち切ることに気負いしながら


「お二人方、話を遮る様で申し訳ございません。お客が止まるための部屋をご用意できましたのでその報告をと」


「わたっか、ありがとうセレナ。あともう一つ、アルたちをその部屋まで案内してやってくれ」


「分かりました王よ。では、こちらへ」


 手を扉の無効へ向けてセレナさんが案内をする際の定番なセリフを俺たちに向けていってくる。

 彼女の動作一つ一つは途轍もなく洗練されていて、いちいち意識が持っていかれてしまう。


「ありがとう。ラウロ、彼女について行こう」


「また明日、アル」


「ああ、またな。ラウス」


 親たちの挨拶が終わるとメイドに指示されるがまま俺らは王の玉座を後にした。

 数分歩いた後、俺らは用意された部屋に入り、旅の疲れもあってそのまま寝た。


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