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二話「変化」

アルフレットたちに森での訓練がばれて一週間。


「いいわよ、ラウロ‼」


「まだまだ」


俺はエミリオと剣の鍛錬をしている。

互いに夜桜流特有の緩やかな足運びと緩やかな太刀筋は弧を描き、戦いを一種の芸術へと昇華させる。

三年前の俺なら手加減しているエミリオ相手に一方的にやられていただろう。

だが今は


「ここまで‼」


鍛錬のたびに聞くアルフレットの言葉により戦っていた俺たちは体をピタリと停止、

芸術へと昇華されていた戦いは終了した。

いくら激しい鍛錬をしていても毎度この言葉を聞くと時が止まったように体が止まる。

まあ、何年も毎日鍛錬をした結果、染みついたんだう。

張りつめていた空気は一気に緩み、そこには穏やかな風と温かな太陽の日差だけが残される。


「ふう~」


「やるようになったわね、ラウロ」


呼吸を整えようと長めに息を吐く俺にエミリオがそんな言葉を投げかけてくる。

確かにここ三年間での成長は目覚ましい。

驕るつもりはないがあと二年鍛錬を続ければ上級どころかアルフレットたち同様

英雄級の実力まで登れるだろう。

実際、ここ三年で雷の攻撃魔術を上級まで、闘神流と夜桜流も上級まで習得し、

彼らとある程度戦えるようになった。

しかし、それでもアルフレットなどの英雄級には勝てない。


「英雄級って、どんなけ強いんだよ」


彼ら英雄級の化物じみた強さに思わず愚痴のようなセリフが口から出てしまう。

だが、転生したこの世界で憧れた実力者になると決めた俺としては高みがあるというのは逆に燃える。

前世ではこういったギリギリの目標というのはなかったから新鮮しんせんだ。


「そういえばラウロ、聞き忘れていたことがある」


「聞き忘れていたこと?」


アルフレットはいつものようなケロッとした態度で突然そんなことを言ってきた。


「お前が生まれる前に住んでいた和平王国の『王都』に行こうと思うんだが、お前はどうする?」


「そもそも『和平王国』ってなんですか?」


俺の疑問にアルフレットはハッとした顔をして、俺が今いる国について話し始めた。


まず、この異世界には人間以外にも『亜人』と呼ばれるドワーフやエルフ、

小人などがいて各種族ごとに得意分野がある。

ドワーフなら鍛冶がエルフなら魔術適正が小人なら集団生活が得意など、挙げればキリがない。

ただ一見するとファンタジーぽくて興奮する設定だが、

ここで問題なのがこの異世界には『人を食う亜人』もいるということだ。

俺が知っている中で挙げるなら鬼族、吸血鬼などがいる。


そして、人を食う種族には共通する部分があり、それは”他種族より圧倒的に戦闘力が高い”というとこ。

吸血鬼に至ってはアルフレットやエミリオ曰く英雄級くらいの実力者ならゴロゴロいるとのこと。

『人を食う、他種族よりも圧倒的に強い』という理由で過去に人間や他の亜人たちと戦争もしたらしい。

確かその戦争には名前があったが、どうでもよすぎて覚えていない。


ただ初代の和平王国を作った王様は種族の特性が理由で争ってしまうことになげき、

手を取り合う手段を探し始めたそうで

その努力の甲斐あって吸血種を除いたほどんどの『亜人』と手を取り合うことに成功。

そのまま国を作り、互いに互いの強みを生かして国に住む市民たちを助け合う理想の国を作ったらしい。

これがアルフレットの口から話された和平王国の歴史だ。

ちなみにこの世界には国ごとにキャッチコピーみたいなものがあるらしく、

和平王国は人と亜人が友好的なことから「人と亜人が手を取り合う国」と呼ばれている。


「でも、どうして『王都』に行こうなんて話になったのですか?」


「それはラウロ、お前生まれてこの方俺ら以外とまともに話したことないだろ?」


アルフレットに言われて気付いた、今思い返してみれば確かにそうだ。

夜に魔獣が出る森に行くことはあれど、真面に喋った人と言えばドワーフの『ドーガ』くらいだったな。

そう思えば彼の言うことはごもっとも、俺が親ならアルフレットと同じことをするだろう。


「そういうことなら、僕も行きたいです」


「それじゃあ決まりだな」


まあ、家に籠っていても強くなることはない。

それと、田舎よりも王都の方が色んなものがあるだろう。

例えば戦闘について書かれている本があったりするかもしれない、

王都というのは前世でいうところの都会だからな。


ただ、この世界の時代は中世なので当然車はなく、基本馬車だ。

そうなると王都に着くまで、一体何日かかるのだろうか?


「父様、和平王国の王都まで馬車で一体何日かかりますか?」


「大体、一週間くらいか」


あまり掛からないな、俺が前世で読んだとある有名なラノベの作品だと別の都市に行く場合、

一年かかるのは当たり前だったからな。

それと比べると一週間というのはかなり短い。

この世界の常識がどうなのかは知らないが。


「今から行く感じですかね」


「今から‼いや、旅の準備も必要だから明日に行く予定かな」


明日かよ。

なら、その間に剣の手入れや装備品の調整などしないといけない。

けど今は


「父様、剣の手合わせをお願いします」


「おい、準備を。まあいいか、よし掛かってこい」


今は剣の鍛錬を全力でやろう。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




朝の陽ざしが俺の顔を照らす。

朝日の眩しさと小鳥のさえずりで思わず閉じていた瞳を開いてしまう。

昨日は剣の鍛錬を終えた後、アルフレットに大きなバックを渡され荷物を詰めていたら

寝落ちしてしまった。

渡されたバックの見た目はごく普通だが、全体の大きさはバランスボールくらいか。

とにかくデカい。


「お~い、旅の準備はできたか~」


「もう少し待ってください」


やっべえ。

寝落ちしたせいで準備の途中だ。

しかし、幸いなことに後はバックの中を整理するだけの簡単な仕事。

すぐに終わらせられる。


「魔力で体を強化して」


世界一くだらない魔力の使い方だが、使える力は使う方がいいだろう。

魔力で一気に体を強化し、動きを人間以上にする。

体に魔力を掛けると普通の人なら十分かかるだろう作業も数秒で終わらせられる。


「よし、準備完了」


準備が終わった俺はバックを担ぎ、そのまま部屋を出てアルフレットたちがいる下の広間に出る。

すると、アルフレットたちはバックやテント用具など旅に必要な用具一式を背負い

ドアを開けようとしていた。


「坊ちゃま、準備できたか?」


「はい‼」


俺を見た執事のシルバリルはそんなことを聞いてきたが、準備ができていたので

彼らの後に続いて家を出る。

目の前には縄でつながれている二頭の馬に後ろには台車がついている馬車があった。

馬車にドアは付いていない、いかにも安物だ。

だが、それがいい。

旅をするぞって感じで俺の心を躍らせる。


「いくぞ」


アルフレットが出発の掛け声のようなことを言ってきた。

その言葉に俺はふと後ろに振り返り、今から出て行く自分の家を見る。

いつも見た家だが、いざ出ていこうとすると少し新鮮な気持ちになってしまう。


「母様、戸締とじまりの方はどうなさいますか?」


ふと、ごく当たり前の疑問が俺の頭を横切った。

一週間の旅、しかも留守番るすばんなしで全員が旅に出るのだ。

その間に盗賊とうぞくが入ったらどうするのだろうか。

俺の疑問にエミリオは元々美しい顔を笑顔に変え


「それなら大丈夫、レリアがいるもの」


「はい、奥様」


すると、メイドのレリアが家全体を四角形に例えるなら、その中心に立ち

一つの小石を右ポケットから取り出すと

彼女はその石に魔力を流し込み、家を包み込む魔力の壁を作り出す。

あれは多分、石器魔術だろう。

石器魔術とは石に魔力を込め魔術を行使する魔術系統の一種。

この魔術のメリットとしては魔術の行使は簡単だが、逆に魔力の消費量が

ちょっと多いと聞いたことがある。

ただ、それを踏まえても便利な魔術なので使う人が多いらしい。


「これで大丈夫です」


気付いたらレリアは家と敷地に結界を張り終えたようで奇麗な歩き方で俺らの方まで歩いてくる。


「行きましょう」


彼女が来たのを確認した俺はそんなアニメにありそうなセリフを言い。

アルフレットたちと一緒に馬車に乗った。


車輪がガラガラと鳴る音を聞きながら、徐々に家が遠くなって小さくなる光景に

今俺は旅をしている実感を抱く。


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