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一話「緊急事態」

白い怪物との殺し合いに勝ってから気付くと三年が経っていた。

今日も今日とて朝の鍛錬を終え、夜には魔獣が出てくる森にて実践訓練をする。

いつもと変わらない。

ただ、今日は俺にとって大きな出来事が起きた。


それは、バレたのだ。

何がって、俺がばれてヤバいと思うことはたった一つ。

森での訓練だ。

今日それがアルフレットたちにバレた。


まあ、いきなり言っても状況を飲み込めないだろう。

あれは数時間前。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ーーーーグチャァ


切り裂かれた肉が地面に落ちる音が耳を通る。

最初はこの音に少し不快感のようなもの感じていた。

しかし、今ではこんなの道端に落ちているホコリ程度にしか感じない。


「ふぅ~。」


何十匹もいた魔獣の群れを蹂躙じゅうりんした俺は普段より長く息を吐き呼吸を整える。

そうするとバクバクしていた心臓が落ち着き体力が少し戻った。


「もうこんな時間か」


気付くと空を包んでいた奇麗な夜も、全てを照らす太陽によって明るくなっている。

時間にするなら六時くらいか、この時間帯はまだアルフレットたちも寝ているから

今自宅に帰ればバレずに済む。


「少し走ろう」


俺は体に強化の魔術を掛け、人外の速度で走り森を出る。

今の俺の速さを前世基準で例えるならスポーツカーと言ったところだろうか。

魔力というのは使い方次第で人間の限界値を超えることだってできる。

結果、俺は人外の速度で走れるというわけだ。


そこから五分くらいだろうか、森を出て歩けば本来1時間くらいの距離を俺は五分で完走。

いつもと変わらない自宅につく。

自宅についた俺は少しの安堵感あんどかんを抱いたが、

そんなものは目の前の出来事に一瞬にして粉砕された。


「え、なんでここに?」


「よお、ラウロ。お前何をしていた?」


そこにはこの世界での俺の父親アルフレットがいた。

彼は目に見えて不機嫌、もっと適切な言葉で説明するなら怒っている。


「何をしていたのかと聞いているんだ‼」


いつもはお茶らけているアルフレットは初めて俺の前で怒りに声を荒げた。

体からは戦闘の際にも感じられた闘志が漲り、今にも俺を殴りそうだ。

今の状況を正確に理解した俺は慎重に話す。


「はい、森で魔獣と殺し合っていました」


正直に答える。

ここで噓を付くと返って状況が最悪になってしまう。

前世でも異世界でもそこの部分は変わらない。


「どうして魔獣と殺し合っていたんだ?」


「それは、早く強くなりたかったからです」


これだけは強く答えた、声は荒げないまま意志を強くして俺は言った。

俺の言葉を聞いたアルフレットから怒りは消え、苦虫を嚙み潰したかのような顔を浮かべ、さらに質問を投げかけてくる。


「どうして、そんなに強くなりたい?」


アルフレットの質問に俺は打算も嘘偽りもない答えを発す。

嘘は付けない、この思いに噓をついたら俺はもう何も大切に

することができなくなるから。


「憧れたからです。」


憧れたのだ。

人の理を超えた力に、その存在達に。

前世の色褪いろあせた人生に落とされた一筋の色に俺は憧れたんだ。

だから、目指す。

そのためならなんだって捨ててやる。


「だからとって、こんな危ないことをしなくたっていいだろう‼」


「そうだと思います。ですが、僕はこの選択に後悔はありません」


俺の言葉を聞いたアルフレットの体からは溢れていた怒りは完全に消え。


「もういい、今は体を休めなさい」


そういったアルフレットは家の扉を開け入っていった。

俺もそれに続いて家に入り、濡らしたタオルで体を拭いた後部屋に戻る。


「どうしようか」


自分の部屋に戻った俺は少しベッドに腰を掛け今後の活動について

どうするか思考を巡らす。

その後、俺抜きの家族会議が行われた。


ーーーー会議中のアルフレット視点。


いつも食事する部屋にアルフレットはラウロを除いた家族全員を呼び集めた。

呼ばれた妻のエミリオや使用人たちは長方形の机を囲うように椅子に座り、

アルフレットを見る。

アルフレットの隣の椅子に座るのは妻のエミリオで真正面の位置にいるのは執事、

その隣にはメイドが据わる。


「ご主人様、どうなさいましたか?」


真正面にいる執事のシルバリルがアルフレットの顔を見ていぶかしげな顔で尋ねる。


「シルバリル、今は執事ではなく昔のようにしてくれ」


今は執事の彼ではなく、一人のシルバリルとしての意見が聞きたい。

その意図を察してくれたのか俺の言葉を聞いたシルバリルは執事特有の雰囲気や喋り方を崩し、仮面も何もつけていない彼本来の状態でもう一度質問を投げる。


「で、どうしたんだ?」


「今日、ラウロが森で魔獣と殺し合っていたことを知った」


「「「え?」」」


俺の言葉はその場にいたエミリオ含めいつも冷静沈着なメイドのレリア、

シルバリルすら素っ頓狂な言葉を出させるには十分な言葉だった。

正直最初に聞いた俺も一瞬息子の前で素っ頓狂な声を出しそうになったんだ。

彼らの反応は普通だ。


「本当にラウロは森で魔獣と殺し合っていたの?」


エミリオは俺の言葉を信用できないようで、事実確認を取る。

いや信用はしているがそれでも信じたくないと言ったところか。

俺だっていきなりそう言われたら彼女と同じ反応をしてしまうだろう。


「ああ、ラウロ本人から聞いたし、あいつの体には魔獣特有の

紫色の血と匂いがついていた」


「そう、なのね」


エミリオは目に見えて落ち込んだ。


「で、そもそもどうしてラウロはそんなことをしたんだ?」


シルバリルは問題を解決するために原因を聞いてきた。


「強さに憧れたからだそうだ」


「本当に?」


「ああ、そうだ」


あれは嘘ではないだろう。

自分でもいつもお茶らけていると自覚している俺だが、そんな俺が

お茶らけられないほど強い意思を息子からは感じた。


「前々から感じていたんだ。

ラウロはどこか行き急いでいるとね」


「確かにそうだな、私たちが子供の頃なんか物事さぼって自由にしていたくらいだ」


そりゃそう。

二十年前の俺たちなんて親の言いつけを破ってはやんちゃしていたクソガキだ。

まあ、シルバリルは少し違うが。


「気付いた理由は最近、ラウロの成長が異常だったからだ。

それはみんなも薄々気づいていただろ?」


「ええ、今のラウロ様は実力でいうなら上級の中でも三本指にも入る。

もしかしたら英雄級になっておられるかもしれません。」


メイドのレリアの言うことは的を得ていた。

ラウロなら上級の実力を有している奴、何なら俺にも勝てる可能性が大いにある。

今は俺に勝つのは可能性という話だが、このまま五年経って戦えば

確実に俺はラウロに負けるだろう。


「ラウロはとても危ない。確かに強い、あの年にしては凄まじい実力を持っている。

しかし、自分の命をあいつは紙かなんかだと思っている。」


「でも、ラウロは...」


エミリオが不安な顔をしながら言葉を発しようとするが途中で止まってしまう。

彼女にも心当たりがあるのだろう。


「今のあいつに必要なものは『大切なもの』。

現に俺はエミリオ、お前に出会って大切な人ができて復讐といった行動をやめた。

だから、俺らの今後の課題はラウロに、息子に大切な何かを持ってもらうことだと思う。」


「なら、今後の活動をしっかり決めましょう」


こういう時にいつも冷静なメイドのレリアがいてくれることはありがたい。


「まず、ラウロに今後一人で森に行くことを禁止させる。

仮に森に行く場合は俺やエミリオ、レリアやシルバリルが付いて行くこと。」


「そうね、あと今のあの子には人と触れ合う機会が大切だと思うの。

あの子が今まで触れ合ってきた人は私たちのような家族だけだったから。

少し、家族以外と触れ合えばあの子の危ない部分も少しは良くなるかもしれないわ」


俺の愛する妻と使用人たちはいつだって頼りになる。

そう心の中で思いながら、


「なら、今後ちょくちょく「王国」にラウロを連れて行くか」


「それは、いい案だな」


「よし‼、今後の方針も決まったことだし家族会議終了。

寝ているかわからないが今からラウロにこのことを伝えに行ってくる」


その言葉にエミリオは俺に不安な顔を向けてゆっくりと言葉を紡ぐ。


「大丈夫、代わりに私が行きましょうか?」


彼女は周りの人に優しさを振りまける。

ただ、自分一人で背負い込もうとする悪癖もあるから

そこは俺が何とかしないとな。


「いや、俺が直接伝えるよ。

それに、あいつと腹割って話したことがあまりないから」


「そう、私はいつもアルフレットが夫で良かったと思うわ」


俺はその言葉に心の中で(俺こそ、いつもありがとう)と感謝をし、

息子の部屋へ足を運ぶ。


ーーーー視点は戻り。


親に森での訓練がバレて数時間後、アルフレットが俺の部屋に来た。

その顔には先ほどのような怒りはない、あるのは子供に

言い聞かせるような穏やかな顔。

俺はその顔に嫌な予感を覚えるが、今は良いだろう。

アルフレットはそのまま俺が座っているベッドの左横隣りにゆっくりと座り、

言葉を発する。


「ラウロ、どうして俺が少し怒ったのかわかるな?」


「はい、僕が命を落としかねない危険な行為をしていたからです」


流石というべきか、ラウロは昔から普通の子供よりも頭が回るところがある。

時々、大人である俺すら驚くような考えで何度も助けられた。

だからだろうか、今回のラウロの行いは怒らないといけないものだが、

少し安心したのだ。

(ああ~、ちゃんと子供なんだな)って。

それがどこか嬉しい、まあいけないことは、いけないと言わないといけないが。


「今回のことでラウロ、お前は一人で魔獣が出る森に行くことを禁ずる」


アルフレットの言うことは妥当な判断だろう。

剣を握ることを禁ずると言われたらそれこそ絶望ものだ。

まあ、剣を握れなくても魔術の特訓はできるから大丈夫だけど。


「わかりました、魔獣の森には行きません」


「ああ、そうしてくれるとありがたいよ。

はい‼、これで辛気臭い話は終わり。」


そういった彼は口角を緩ませ、笑顔を俺に向ける。

安堵感と言ったところだろうか、多分今のアルフレットは

安堵感を感じているのだろう。


「今回のことは本当に申し訳ありません」


「そこまで謝らなくていいよ、今度から気を付ければいいから」


アルフレットは真剣な面持ちから、いつものお茶らけた態度に変え話す。


「剣の鍛錬とかは今まで通りしてもいいということでしょうか?」


「それは良いよ、やっぱお前は真面目だな。

ただ、線引きはしっかりしないといけないぞ?」


「わかりました」


よし、剣を握れないのは嫌だ。

一日握れないだけで剣筋は結構ぶれる。


「でしたら、一つお願いがあるのですが?」


「うん?、どうした?」


森に行けないのなら、これからは行けない分何かで代用しないといけない。

だから、俺はアルフレットにお願いするのだ。


「次から剣の鍛錬をもっと厳しくしてほしいです」


「それは、強くなりたいからか」


「そうです」


アルフレットは顎に手を置き数秒悩む。


「わかった、今度から剣の鍛錬を今以上厳しくする。

なんなら、今のラウロの実力なら闘神流の技のいくつかを教えられると思う」


「ありがとうございます」


すると、重たい話は終わり彼は少し不安な何か悲しいことが

あったような顔をする。


「ここからは腹を割って話そう。実は俺さ、結構不安だったんだ」


「不安、ですか?」


その言葉に俺は内心(いきなり何を言っているのだろうか?)と思ってしまうが

今はよそう。

彼は親としてではなく腹を割って俺と向き合おうとしているのだ。

俺もそれに答えなくては失礼だ。


「ラウロはその年で普通の大人よりも物事を考えられる。

時には俺以上に考えて、助けてくれる。」


「そんなことないと思いますが」


俺にそんな感覚はない。

しかし、アルフレットはそう思ってしまうのだろう。

多分、エミリオも。


「だから不安だったんだ。

ラウロには親は必要ないものなんじゃないかって」


「.....」


黙ることしかできない。

アルフレットの不安は親ならだれもが思うことだと思うから。

実際、自分の息子が自分以上に物事考えて行動出来たら、

(俺、いらない奴なんじゃね)ってなると思う。


「だから、今回のことは心配だったが少し嬉しいんだ。

お前も子供なんだなって感じられたから」


安堵感、今の彼からは確かな安堵感を感じる。

それは、自身がいる意味があるっていうのは彼に一種の

安堵感を抱かせるのだろう。


「僕は父様たちを必要ないと思ったことはありません。

実際に闘神流や夜桜流などの剣術を扱えるようになったのは

父様や母様のおかげです。

だから、そう思わないでください。」


嘘偽りのない答え。

俺が人外の強さを得たのも、剣に憧れたのもすべてアルフレットたちのお陰だ。

だから、そんなことは言わないでほしい。


「ッッ‼」


ふと、俺は彼の顔を見る。

身長差もあり俺は上を見上げる体制だが。

アルフレットの顔からは涙がこぼれていた。

大粒ではなく、ポタポタと多くもなく、少なくもない普通の量の

涙がこぼれていたのだ。


「ありがとう、お前が息子で俺は本当によかった」


そういったアルフレットは俺の体に手を回し抱きついてきた。

力を弱く、まるで綿あめを手で包み込むような力加減。


「僕も父様や母様が親で幸せです」


互いにそう言って抱き合った。


互いに互いの存在に感謝して、ただ抱きあった。


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