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十二話「決着」

血と肉が散る空間で確かに彼らの心は通じ合っていた。

片方はラウロという人間で、もう片方は白銀の白い怪物。


言葉は通じない。


だが、人の理を超えた強さを持つ彼らはそれ故に一般的な常識には当てはまらならい。

そんな彼らがお互い感じ取っていた感情は『高揚感』だった。

人生で最も脅威で強い者と戦っているという事実が彼らに高揚感を与える。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




最初、白い怪物はラウロのことを『腕を振るえば死ぬ、そこらの魔獣と変わらない存在』と

思っていた。

現にほんの少し動けば奴は翻弄ほんろうされ、軽く腕を振るえば奴は瀕死ひんしになった。

実につまらない、不愉快。

だから、瀕死になった奴にとどめを刺ささず、放置したのだ。


しかし、奴は戻ってきた。

以前とは比べ物にならないくらい強くなって。

本気で動いても翻弄されず、本気で腕を振るっても逆に自分が傷つく。

天津さえ彼の謎の技によって体は動かせず今では全身が血まみれ。


人生で初めて出会った脅威に白い怪物は心の奥底から高揚し、同時に彼に勝ちたいと思った。

鎧のような姿で口がなく、表情はとぼしいが確かにそう感じ笑ったのだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ラウロも人生で初めて会った脅威に白い怪物と同じ感情を抱いた。


強い者とは何度も戦ってきた。

アルフレットがそうだ、あの剣士の実力は『英雄級の中でも中間』。

ただ、『命の脅威』を感じたことは今までに一度もない。

そりゃそうだ、自分の息子を本気で殺そうとする親はただの狂人か、それ相応の理由がある

不幸な親だけ。

だからこそ目の前にいる白い怪物に今まで感じたことのない脅威を感じ、

それと同時に高揚感を持ってしまう。


両者人生で初めて会った最も脅威な好敵手を前に一気に心のボルテージが上がる。

その感情は両者の肉体にも作用し、覚醒状態へと至らさせる。


互いに覚醒状態。

どちらも負ける可能性がある殺し合い。


金属が打ち合う甲高かんだかい音と物が破壊される破壊音が夜の森を包み込む。


「「ッッッッッッ‼」」


まるで鎌鼬かまいたちの様に周辺の環境を無視して俺と白い怪物は殺し合う。

互いに好敵手を殺す『死』をまとわせ攻撃を繰り出す。


「ッッッッフ‼」


俺は何度も自身を殺す攻撃を防ぎ、なし、上乗せしてカウンターを放つ。

最高の剣から繰り出される斬撃は鉄の大岩を容易に切断し、ついでに後ろにある木も両断できる。

しかし、白い怪物は俺の驚異的な斬撃を拳で防ぎ、容易に人を殺すことが可能な

拳打や蹴りを放ってくる。


以前の俺ならこの攻撃を防ぎきることができず負けていただろう。

だが、今の俺はこんな攻撃いくらでも防げる。


「シッ‼」


俺は白い怪物の打撃と蹴りを何度も受け流し、そのまま夜桜流の得意技であるカウンターを放つ。

ただ、決め手にはならない。

白い怪物は持ち前の高い直感で自分が死ぬカウンターはすんでで回避してしまう。

どうしたらこの戦いに勝てるのか?

手っ取り早いのはまた白い怪物の体を雷属性の攻撃で感電させること。

感電させ体を動かないようにしたら直感とか関係なく、切り刻むことができる。


けど、サンダースピアで感電させるのはもう無理だろう。

白い怪物のことだ一度受けた攻撃は直感で対策してくる。


多分、絶対。

なら、どうしようか?


ーーーージュゥン


「うぉ‼」


頭の中で好敵手の倒し方を考えていると、白い怪物は俺の顔に目掛け

鈍い風切り音と共に正拳突きを穿つ。

俺は正拳突きを首を少し左に動かすことで避けることができたが後ろの木は腕の太さくらい

奇麗に貫通した。

心の中で(やべぇ~)とその光景に驚きながら、俺と白い怪物は戦況を一気に進める。


森中を駆け巡りながら、手に持っている最高の剣を後ろに向け攻撃を繰り出す。

攻撃された白い怪物も負けじと反撃をしてくる。

しかし、幾度いくどの覚醒で身体スペックが互角になった俺にそんな技術も何もない

打撃は通じない。

俺は白い怪物の打撃全てにカウンターを打ち込み、さらに全身を血まみれにする。


「ッッッッ‼」


でたらめな攻撃は通用しないと思ったのか、白い怪物は近くにあった

普通の木よりやや太い木に身を隠した。

考えたな。

自身の身を木で隠せば考えなしのでたらめな攻撃でも予想しないといけないくらいには厄介になる。


なら、どうしようか?

頭の中でこの状況を打開するための答えを探る、探る、探りまくる。


すると、俺の頭には白い怪物がやった作戦を攻略できる一つの技が思い浮かんだ。


攻略が思い浮かんだ俺はその技を再現するかのように左手に魔力を集中して、

そのまま普通よりやや太い木を殴る。

途端、木の後ろにいた白い怪物は車に跳ねられた人のように空中に放り出され体が感電した。


何をしたのか?

通波衝つうはしょう』、走馬灯を見たときに思い出した前世に存在した中国武術の技の一つ。

物や壁に自身の攻撃を貫通させ相手に攻撃する技。

この技の特徴は達人の域になれば好きなところに好きな強さの攻撃ができるとこ。

俺は『気』とかは使えないから、そこは魔力を使い再現。

さらに、その魔力に雷属性を纏わせることで感電も誘発ゆうはつさせれる。


一度もやったことのない技術だが、成功すると思った。

理由はわからない。

それでも、できた。


「ッガァァァァァーーーー」


夜の空間に無防備に放り出されている白い怪物の左腕、右脇下、右足を最高の剣で両断し

紫色の血を撒き散らせる。

もう戦えない、と普通の人なら考えるだろう。

だが魔術があり、剣術があり、能力があるこの異世界では普通は存在しない。

仮に白い怪物を放置した場合『変異イレギュラー』が起きる可能性がある。

だから、このまま白い怪物(好敵手)を斬り殺す。


ーーーーガガガガガ


「グォォォォォ‼」


錆びた金属が無理やり動かされたときの音と大気を震わせる大声。

口が存在しないはずの白い怪物が目の前の死を退けるためなのか俺が今まで

戦ってきたどの魔獣よりも重く鋭い雄たけびを上げる。


しかし、今そんなことはどうでもいい。

今は目の前の白い怪物を殺すだけだ。


「フゥゥゥ~~~~」


リラックスするために深く息を吸い、深く息を吐く。

そして自身が放てる最速の斬撃を放つため最高の剣をさやに納め、居合いあいの構えを取る。

コンマ0.1秒。


ーーーーチキン


白い怪物の首を斬り落とすために鞘から最高の剣を抜き放つ。

だが、


「ッッ‼」


白い怪物は無理やり感電状態の体を動かし、鞘から最高の剣を抜き放とうとした俺の手を掴み

力の限り俺を蹴り飛ばす。

居合の構えを取っていたこともあり、俺の体は弾丸のように夜の森の中を吹き飛ぶ。

弾丸のように体が吹き飛んでも居合の構えは解かない。


集中しろ、集中しろ、集中しろ。

蹴りを受けたことで全身の骨がきしんでいても一撃に集中するんだ。


ーーーーサッ


弾丸のように吹き飛んでいた俺に追いついた白い怪物は下からその右手を手刀の形に変え、

俺の右脇腹を深く刺す。

炎に焼かれた強烈な痛みが俺の意識を強く打ち付ける。


それと同時に俺は笑い、言った。


「俺の勝ちだ」


子供に言い聞かせるような優しい声音で戦いの勝利宣言をする。

そして


ーーーーシュン


鞘に納めていた最高の剣を抜き放ち、白い怪物の残っていたもう一本の腕も両断。

切断した腕は俺の脇下に刺さったまま、動く俺に合わせブラブラと揺れている。

俺は白い怪物を捉えられるなんて微塵みじんも思っていない。

だから、蹴りを受けた、刺された、そうしたら奴を捉えられる、斬ることができる。


「ッッ~~~~~~‼」


残った腕を両断された白い怪物は悲鳴にもならない声を口の無い顔から発した。

だが、それでも白い怪物の尽きぬ闘争心は斬られ俺の脇下に刺さっている自身の腕に蹴りを入れ

完全に俺の脇下を貫く。


血がゴプっという音をたて、下にバケツがあれば満帆になるような量が幼い体から流れ出る。

意識が遠退きそうになる。

今度は走馬灯ではなく死ぬだろう。

それでも、


「ッアアアアアアアーーーー」


片手に握っていた最高の剣を両手で逆手に持ち、白い怪物の胸目掛け突き刺す。

威力が強かったのか白い怪物の体が地面に叩きつけられ、

心臓を刺し貫く感覚が両手を支配する。


「勝った?」


呆気あっけなかった勝利に疑問符が浮かぶ。

ただ、それは早計だったようだ。


「グググググッッ」


両腕と片足を斬り落とされ、尚且なおかつ胸を刺し貫かれたのに白い怪物は

まだ俺を殺そうと体を動かす。


ーーーーギュルギュルギュル


「ガッッ‼」


白い怪物に「体を再生」させる能力があったのか切断された左腕から腕を生やし

俺の頭を鷲掴わしづかみにする。

普通の人に頭を掴まれも邪魔なだけだが、白い怪物がやれば話は別だ。

頭が潰れる痛みが俺の意識を叩き、諦めそうになる。


だが、勝ちたい。

この好敵手(白い怪物)に勝ちたい。

諦めそうになる心を殺し、白い怪物に鋭い視線を向ける。


「ガアアァァァァ‼」


意識が遠退かないように雄たけびを上げ白い怪物に突き刺した最高の剣を再度強く握り

雷属性の魔力を全力で放出する。


ーーーーバチン、パァン


放出した雷属性の魔力は魔力伝導率が高い最高の剣を伝い、白い怪物の胸から全身に巡る。

暗くどこも照らされていない森全域を照らし、雷が当たった木は爆発音をあげながら真っ二つに割れ、

あまりの出力に地面を砕く。

森中を照らすくらい強い雷を体内に直接送られている白い怪物は全身を強く痙攣けいれんさせ、

それでも俺の頭を潰そうと力を入れる。


なら、いい。

どこまでも付きやってやるよ。


「ここからは全力を出しながらの我慢比べだ。」


互いにもうガス欠に近い状態、互いに瀕死の状態。

残り少ない魔力を惜しみなく、さらに魔力の出力を上げて放出する。


「ギ‼」


出力を上げたことで再生させ俺の頭を掴んでいた腕が消し飛び、目から耳から紫色の血が流れ出る。


「ゥウウウ~~~~‼」


抵抗できなくなった白い怪物は断末魔をあげ、その全身を大きくバタつかせる。

どんなけ雷属性を纏った魔力を送っても白い怪物は死なずに抵抗するから

魔力が暴発するくらいに出力を上げると。


ーーーードォン‼


白い怪物と俺の中心から魔力が暴発し大爆発が起きた。

幸いなことに俺は全身に強化の魔術を掛けていたから最高の剣を離さずに吹き飛ぶことができた。


仮に俺が最高の剣を手放して吹き飛んでいた場合、剣が自身の頭に飛んできて

死んでいた可能性があったし、白い怪物がこの爆発で生きていたなら最高の剣を

手に持って俺を斬っていた可能性だってある。


だから、幸いなんだ。


「って、そんなことを考えている暇はない。」


最悪の可能性を引き当てなかったことに安堵しすぎて目の前の好敵手の安否を確認していなかった。

どうなっている?


「クソ、なんも見えねぇ。」


爆発の煙のせいで白い怪物がどうなっているのか確認できないから歩く。

一歩、また一歩と足を進める。

傷だらけで今にも倒れそうな幼い体にむちを打ち無理やり動かす。

ただ、今の俺は剣を一度振るえるかどうかというくらい、傷だらけで体力もない。

だから、初級雷攻撃魔術の詠唱をうたう。


「”金色の雷、速さの化身、その形を槍へと変え敵を貫け”サンダースピア」


詠唱を終えると俺の背後に空気を叩く音と暗い森を照らす金色の雷が出現。

そのまま白い怪物が倒れているだろう場所目掛け魔術を射出する。

サンダースピアを打ったことで紙面から発生している煙は消え、白い怪物の姿があらわになった。

俺の雷属性を帯びた魔力を受け、爆発にも巻き込まれた白い怪物は原形はとどめているが

体の隅々までボロボロで今にも崩れそうだ。

明らかに死ぬ負傷で姿をしている。


ーーーーガタン


今、何の音がした?

数秒、俺はその場で静止して白い怪物を確認する。


「は?」


俺はその光景に心の奥底から驚いた

なぜなら、白い怪物はなくなっている片足を再生させ立ち上がったのだから。

フラフラで今にも倒れそうだが、それでも俺という敵を殺すために歩きだす。


「ッッ‼」


目の前の白い怪物(好敵手)はもう戦えない体でありながら俺を殺そうと立ち上がり、

戦おうとしている。

こいつは人生をこの世界を本気で生きているんだ。


「もう終わらせよう。」


異世界に転生してからの数年で初めて会った最高の脅威に敬意を払って。

俺が放てる最大の技で。


手に持っている最高の剣を鞘に納め、姿勢を低くして居合の構えを取る。

悲しい気持ち、この戦いが終わる虚無の気持ち、それらすべてを落ち着かせ

この一太刀に全てを掛ける。


「ありがとう」


その一言と共に最高の剣を横から一線。

最高の剣が横に振り切られると白い怪物の頭は胴体と離れ地面に落ちる。

頭が切断された白い怪物は魂が抜けたように地面に倒れ微動だにしない。

それが俺にこの好敵手が死んだという事実を突きつけ、余計に虚無感が俺を襲う。

正直、白い怪物との戦いは面白かった。


最初は一方的に蹂躙じゅうりんされた。

だが、走馬灯から戻ってきて互いに全力で持てる全てを使い殺し合った。

それは剣士、いや戦う者にとっては一種の幸福であり、それが終わったのだ。

虚しさの一つや二つ込み上げたって何の不思議もない。


「これで、俺はさらに強くなった」


虚無感を感じると同時に少し暖かい太陽の光が戦いの勝者を祝うかのようにこの幼い体を照らし、

俺はその太陽にすこし眩しさと神秘さ感じた。


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