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一話「最悪だ...」

ーーーああ、うるせえ


 頭から命の暖を思わせるような液体が流れ

 昔、ゲームをやりすぎたことによって訪れたラグのような意識の混濁を

久しぶりに味わっている


ーーーなぜこうなったのか、なぜこうなったのか


 そうだ、いきなり頭に何かの塊が落ちてきたんだ。

 仕事を終え、家に帰る途中で疲れていたこともあり,頭上に意識を向けていなかったことが

今の状況だ。


ーーーああ、くそ


 俺は今、治療室に行くための台に乗っている。

 周りには一切の穢れがない、純白を思わせる白装束を着た医者たちが騒いでいる。


 ふと横を見ると隣には俺と同様の個所に負傷を負ったスーツ姿をした男性が寝転がっていた。

 瞼は少し赤く、スーツだから一見わかりずらいが一般男性より痩せている体

まるでブラック企業に勤めている会社員のようだ。


ーーーどうやら治療室についたようだ


 治療室に付いた時、俺の頭の中にほんの僅か最悪な考察が思い浮かんだ。

 その考察はあまりにも最悪だったため、今までにないくらいの勢いで頭から消した

だって、この考察を認めた場合、心の底からふざけんなって言いたくなるから。


 しかし、周りの白装束を着た医者たちは無慈悲にこの考察に終止符を打つ。


「そこの会社員が飛び降り自殺を実行したところ、その巻き添えで頭を酷く負傷している」

「もう助からない」


ーーーまじか、本当に最悪だ


 仮にブラック企業に勤めて死にたいと思い、自殺しようと飛び降りたとしたら

 それを止めることはできない。

 なぜなら他者の「死を止める権利」を俺は持っていないから

 だが、せめて人に迷惑が掛からないように死んでほしいと思う。

 もし君が助かった場合、そのことを切に願うよ。

 俺は助からないらしいからね。


ーーーああ、最悪だ


 リ○ロを最後まで読みたかった、f○oを最終章までプレイしたかった。

 この何にもない人生に一つは何かを成し遂げたかった。


「ああ、ほん、とう、に」


 口惜しさと諦め、俺が最も嫌う感情が体の内側を駆け巡り

厭悪の感情が体を支配する。

 走馬灯という名の死の実証を開始しながら。


ーーー死にたくない


 ただ、悲しいかな。

 現実は生物が抱く普通の願いを聞かず、ただ結果を残す。


 このとき、俺の命は「地球」という名の舞台から落ちた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 何もない、あたり一帯が底なしの深淵で

俺の体はなく、空気のように軽い。


 死んだことは理解できる。

 死ぬ時の事象を俺はオールしたからな。


ーーーだが、ここはどこだ


 前を歩こうとするが、体は動かない。

 というか体はない、しかし前に動かない俺の体は周りを確認するために回ることはできる。

 だが、深淵の空間のせいで自分がどれだけ回ったのか認識することができない。

 これはヤバい。

 死後の世界は「無」であるという仮説があったが本当だったのか?

 いやだ、一人で何もない空間にずっといたくない。

 暇をつぶすことができない所にずっといたら発狂する。


 そう思った途端、目の前が明かりで照らされる。

 いや違う、明るくはない。

 ただ深淵の空間でもわかるような、どす黒い闇が光っている。


ーーーなんだ、これは?


 理由はなく無意識だった、説明がつかないその深淵より黒い光に

手を伸ばす、伸ばし続ける。

 俺の体は動かないが、何もない空間に見える他よりどす黒い光を手に取ろうと。


ーーーえ、ちょ


 その時、動かない俺の体が自分の意識以上に前に進んだ。


ーーー違う、俺の動きじゃねえ‼


 動くための行動をやめても前に進み続けるのだ。

 何かの力が働いて俺は前に進んでいる事がわかる。

 意識が反射的に止まろうとしても無駄で俺は黒い光に突っ込む。


ーーーっっ


 驚く暇もなく黒い光にぶつかった。

 瞬間、目の前に光が差し込む。

 今度は黒くない、きちんとした体を照らすことができる光が。


ーーーどうなっている


 明るい、そして体がある。

 それは体がなく、質量がなかった空間にいたせいか

一瞬で分かった。

 困惑しているが一旦周りを確認する、机、椅子、古臭い鏡

そして男性がいる。

 髪の毛は赤く、見た目は少しチャラいが顔は整っている。

 うん、イケメンだ。

 そんな男性が変な顔をしながら笑って、俺に顔を近づけてくる。

 まるで、赤ちゃんに精一杯の愛情を注ぐように。


ーーーやめろ、意味不明な死に方をした後に気持ち悪い笑みを浮かべて近寄るな


 抵抗しようとしても、なぜか俺の手足は短く成すがままにキスをされてしまう。


ーーー泣きそう


 キスが終わったイケメンは満足したのか、隣にいる桃色の髪をした女性に俺を渡す。

 すげえな、成人している俺の体をこうも軽々と、まさにギリシャのバーサーカー

隣にいる女性も軽々と受け取り満面な笑みを俺に向ける。

 その人外レベルな筋力に驚いているが、顔が整っているからなのかその笑みに一瞬見惚れてしまう

そして俺の額にキスをした。


ーーーなんかいいな‼


 女性は苦手な俺だが、満更でもない。

 というか最高‼

 そう思っていると美人の女性が俺の体を持ち上げたせいか

俺の体が一瞬、鏡に映る。


ーーーえ!!!!


 俺は人生で味わったことがないくらい驚いた。

 それはそうだ。

 だって俺の体は赤子だからな。


「ーーー!!!」


 そして現状を理解したとき、耐え切れなくなった俺は泣いた。


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