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33. 調節

pixivでキャラのイラストを投稿しています→ https://www.pixiv.net/users/73175331/illustrations/%E3%81%82%E3%81%AE%E5%AD%90%E3%81%AF%E3%83%9B%E3%83%AD%E3%82%A6%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AB


 今年の夏はまた、一段と暑い。


 あの2人が旅立ってから3ヶ月が経つ。7月の中旬。蝉の声が聞こえ始める頃。強い日差しが遠くの景色を歪ませるのを見ると夏の到来を身に染みて感じる。


 ここは我の家。蕪山、慄命宗、御這光寺。山の中というのは夏という季節をより一層強調させる。


「ふぅ……、今年も暑いのう」


 我は人間ほどではないが、人間と同じように気温を感じる。特に、湿気のある蒸した暑さには滅法(めっぽう)弱い。外よりは涼しい本堂の中にいるが、それでも暑いことには変わりない。


 そんな少々息苦しい環境下で、我は()()()()に精を出していた。


「其方はどうじゃ?」


 目の前にいる、白い死に装束に身を包んだ幽霊に尋ねた。比較的にまだ若い、女の幽霊じゃ。


 女は肩まで伸びた黒い髪を揺らして首を横に振った。


「そうか。では下がれ」


 女は背を向けて踵を返した。次に、女の後ろにいた中年の男の霊が前に出る。そのさらに後ろには死に装束の幽霊が長蛇の列を作っていた。


「其方は?」


 男に尋ねる。首に青い(あざ)がある男。静かに一度だけ頷いた。


「承知した。そこに座り、(こうべ)を垂れるのじゃ」


 言われたとおりに座って頭を下げる男。この男は以前、我が延命措置をした幽霊じゃ。


 我は右手に気を宿し、頭に触れた。


 幽霊の男の内に宿る気力を抜いていく。徐々に体の色が薄く透明に近づいていく幽霊の男。やがて、30秒と経たぬうちに男の体は死に装束ごと透明に消えていった。男はこの世界から()()した。


 否、我が消滅させたのじゃ。


「次の者。前に出よ」


 男の後ろに並んでいた別の幽霊を呼んだ。


 不意に、壁に飾られた一点の絵画に目を奪われた。3ヶ月前、この世を旅立った2人の内の片方、その女が現世に残していったものだ。彼女が生前、命を断つ間際に、最後に描き残した作品。訳あって我の家に飾っている。日本の建造物には似合わぬ西洋美術の画風の絵画じゃが、仕方なく飾っている。


 訳というのは、消滅した彼女のいたところに残っていた一通の手紙の内容に起因する。手紙は彼女の所有物であるが彼女の消滅と同時に消えなかった。ということはその手紙はまだこの世で役目を果たしていないということじゃ。


 我はその手紙を拾った。封筒にも入っていない剥き出しの便箋(びんせん)。白紙に黒い罫線のみが横に走っている極めて単調なもの。


 四つ折りにしてあったものを開いて内容に目を通した。




 ――夕蛇様へ


 雑な字で申し訳ありません。今後どういう道を辿ろうと私はこの世にはいないと思います。ですので、夕蛇様に伝えたいことを、時間もないので簡潔に書いていきます。


 まずは感謝を。私とユウが心から信頼し合える関係になれるように私たちに試練を与え、私たちの望む方へと導いていただいたこと。ユウとの付き合いにより人間の私に生きる希望を見出してほしいと願ってくれていたこと。


 次に謝罪を。そんな夕蛇様の慈悲を、思いを裏切る形になってしまったこと。夕蛇様の信念に泥を塗る行為をしてしまうこと。


 最後に、私が人生で最後に描いた絵を夕蛇様に譲り受けていただきたいです。自室のスタンドに今も立ててあります。私の最高傑作ですが貰ってほしい相手も他におらず、放っておいたらいずれ捨てられてしまうだろうから、よかったら夕蛇様に貰ってほしいです。


 伝えたいことは以上です。さようなら。お世話になりました。


                   春野




 時間がないからと書いてあるように、走り書きの汚い字。それでも漢字は正しく書けている。時間があれば丁寧で綺麗な字を書ける子だということが窺える。


 まったく、人間の身分で。そこまで我の思惑を見透かしていたなど小賢しい。それに、この世に生を受けて数百年になる我の感性に真っ向から対抗してくるなど。じゃが、不思議と嫌な気分はしない。


 あの少女が他者の考えを推し量れるように成長したことは素直に喜ばしい。本来なら現世(うつしよ)幽世(かくりよ)の狭間であるあの場で自殺などしたら黒い怨霊になりかねなかったが、普通の幽霊になれるように取り計らったあの時の我の判断は、今となって振り返れば正解だったと確信が持てる。


 我は再度、壁に飾った絵画に目を向けた。細部までよく観察する。


 薄暗い夜の元に広がる草原。中央には黒い長髪を後ろで縛った少女がいる。歳は見たところ10代前半。全身に紫の(いばら)が絡まって身動きが取れない様子。手足すらも動かせない。さらに下顎が切り落とされていて赤い血が滴り、眼球はくり抜かれて黒い空洞となっている。


 そこに空から黄金色の光が降り、周囲を(かす)かに照らす。そして上空から、白い両翼を背に生やして頭上に白い光の()を浮かべた人間が舞い降りる。髪は鮮やかな緑色で顔がない青年。さながら、異界から少女を迎えに来た天の使い。少女は身動きの取れない体で必死に使いに顔を伸ばし、使いは上空から少女に向けて手を伸ばす。互いに見えない引力で惹かれ合っている。


 ぼんやりと眺めていると動かない一枚の絵画であるはずなのに、その中にストーリー性を頭の中で無意識に見出(みいだ)してしまう。


 最後に、我はこの傑作を描いた作者の手紙の裏に書かれていた、この作品のタイトルと思しき一文を思い出した。


 思い出し、この絵画と、それからこの作者の人生に重ね合わせる。


 タイトルは、





 ――――――あの子は虚ろな天使(ホロウエンジェル)








fin.



最後まで読んでいただきありがとうございました。明日あとがきを投稿して完結とします。


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