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28. タイムリミット

pixivでキャラのイラストを投稿しています→ https://www.pixiv.net/users/73175331/illustrations/%E3%81%82%E3%81%AE%E5%AD%90%E3%81%AF%E3%83%9B%E3%83%AD%E3%82%A6%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AB


 あの日、ユウが過去の記憶を思い出して私を殺そうとした寒い年末の日から3か月以上が経過した。今日は4月10日。命まで凍らせる冷たい季節は過ぎ去り、徐々に暖かさを取り戻しつつある日々。そうは言ってもまだ肌寒くて長袖は手放せない。


 あの日以降、私とユウの関係に特に大きな変化はない。放課後は一緒に過ごし、休日はコマルちゃんたちとも時間を共にした。変化があるとすれば、それは私たちが互いに抱いている強い想いを共有していることくらいだ。


 ユウは自分が幽霊だと気づいてからも2年生の終わりまでは今まで通り学校に通っていた。でも、学年が上がって3年生。ユウは学校に来なくなった。準備で忙しいから。


 準備とは、幽霊の消滅のために必要なものを集める作業だ。


 ユウやコマルちゃんたち、夕蛇様に生み出された幽霊は決められたある日までしか現世に存在できない。その日が来てから自ら消滅する選択をしないと、幽霊は精神が崩壊したまま永遠と現世を彷徨い続けることになる。それは、死や消滅よりも恐ろしい。


 自ら消滅するためには3つのものが必要になる。『舟旅(ふなたび)稲穂(いなほ)』、『許蛇(きょだ)短刀(たんとう)』、『氷眠鈴(ひょうみんすず)』の3つだ。鈴を短刀の柄に付けて、稲穂を飲み込み、短刀で体を貫くと幽霊は消滅する。


 そして夕蛇様が過去に定めた幽霊が消滅する日は今年の4月12日。明後日だ――――もう、私たちには時間がない。



 私とユウは、いつかのコマルちゃんのかくれんぼで訪れた山の中の廃神社に来ていた。鬱蒼とした木々が生い茂る境内の中、一部だけ木々がない見晴らしの良いところにあるベンチに2人で座っていた。温もりも感じないのに、2人で手を重ねて。


 学校の放課後。日が傾き始めて空は薄オレンジに染まっている。見渡すと私たちの住んでいる街が一望できる。手前に広がる住宅街や、その奥に横に伸びる広い県道。さらに奥には街を取り囲む山々が連なっている。


「ねぇ、明日も学校には来れないの?」


 私が尋ねるとユウはバツが悪そうに目を細めて微笑んだ。


「ああ、悪いな。準備で忙しくて。他のみんなも」


 他のみんなとはコマルちゃんたちのことだ。彼女らともここ最近は顔を合わせることが減った。そのせいか、最近は今まで感じなかった孤独感を覚えることが多い。


 見晴らしの良い眺望。眼下には、山の麓からこの境内周辺まで広がった桜の木々が見下ろせる。桜は散り始めていてその色は薄い。


 それから私は、隣にいるユウの横顔に目を移す。ユウの瞳は目の前に広がる景色に捉われていた。心を奪われていた。この世界の最後の景色を記憶に焼き付けるみたいに。


「ユウ。じゃあ、今日もいい?」


 私はユウが景色に夢中なのが何か気に食わなくて、ユウを景色から引き剥がしたくて声をかけた。


 自身の制服のボタンを外しながら。


 こんな山奥だし日は暮れかけているけど、一応人目につかない木陰に移動する。隅にある岩に腰を下ろした。


「こんなところで?」


 ユウはそう言って微笑んだ。少し戸惑ってはいるが、まんざらでもない顔をしている。


 私はブレザーを脱ぎ、畳んで傍に置く。それから白いシャツのボタンに手を掛けた。


「大丈夫。この神社はもう空き家だから」


 ユウは微笑みから少し真剣な表情になってベンチから腰を上げ、私の元に歩み寄った。







 §







 夜になった。神社でユウと別れて山を下りた。帰り道にスーパーで割引になった弁当を買って帰宅。


 家に帰って奥のリビングに目を向けると、台所の灯りだけ点いている。お母さんがいる気配がするが、そろそろ寝る時間だろう。お父さんは多分まだ仕事から帰ってきていない。


 疲れ果てた私は2階に上がった。自室で買ってきた割引弁当を食べる。


 早々に食べ終えて、すぐに絵画に取り掛かった。


 ユウが自分が幽霊だと気づいたあの日以降、私は彼をこの部屋に招いて描いた絵を見せたりしていた。初めて自分以外の誰かに自分の絵を見せる経験で最初はかなり緊張したけど、ユウは高評してくれて、本当に嬉しかった。安い表現になるかもしれないけど、今までの人生で一番嬉しいことだったかもしれない。


 それ以降、私は他にも幾つもの絵をユウに見せた。自分の描いたものから私の好きな画家の作品まで。ユウはその度にじっくりと作品を眺め、細かいところまで目を通した実のある感想を残してくれた。私の好きなものに、彼は真剣に向き合ってくれた。


 次第にユウ自身も絵画や芸術の知識を深めていき、ユウが想像したものを私が描いて絵にしたり、幽霊の彼にも筆を持ってもらって絵を描いてもらった。誰かと自分の趣味を共有できることがこんなに楽しいことだったなんて初めて知った。この時間が幸せで、ずっと続けばいいなんて……………………でも、現実はそれを許さない。ユウは明後日には消えてしまう。


 今描いている絵は、私が描く絵で彼に見せられる最後の絵になるだろう。だから、私は普段以上に気を張り詰めてキャンバスに向かっていた。筆が重たい。


 ユウや他の幽霊たちが消えてしまったら私はまた独りになってしまう。そうなったら否応にも現実を見ないといけない。私はもう高校3年生。卒業後の将来を考えないといけない年。このままひたすらに絵を描き続けて画家になるための道を模索するか…………それとも無難なところに就職するか、もしくは今から学校の勉強を頑張って進学するか。


 私はそんなのは嫌だ。私は何者かに、特別な存在になりたい。特別になればそれでやっと、普通の人に追いつける気がするから。早くまともな人に追いつきたい。ただ生きているだけじゃ何も満たされないんだ………………。



 ダメだ。いろいろなことが脳裏にチラついて頭がおかしくなる。筆を動かす手が止まってしまう。


 いつもこうだ。自分の人生についてあれこれ考え始めて何も進まなくなってしまう。不安と焦りだけで頭がいっぱいになって体が動かない。私は頑張らないといけないのに、また、折れてしまう。


 …………私は、努力できないダメ人間なんだ。


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