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21. 幽霊たちの冬休み

pixivでキャラのイラストを投稿しています→ https://www.pixiv.net/users/73175331/illustrations/%E3%81%82%E3%81%AE%E5%AD%90%E3%81%AF%E3%83%9B%E3%83%AD%E3%82%A6%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AB


「ね? ここに書いてある。トンネルの中で死んだ人は幽霊になるって」

「確かに書いてあるけども…………こんなの迷信だろ」


 隣で本の一文を指差すマナを俺は(いぶか)しげに眺めた。トンネルとは、蕪山の奥にあった、入ると別世界に飛んでしまったあのトンネルのことだ。もう1ヶ月以上前のことになる。


 今は12月末。年末、冬休み前だ。今日は学校の最終日で、放課後はマナと2人で学校の図書室に籠っていた。


 気温はかなり肌寒く、厚着をしても冷気が肌を刺すほどだ。と言ってもそれは屋外の話で、この図書室内は程よく暖房が効いている。


 俺は相変わらずマナや他の幽霊たちと過ごすことが多く、特にマナと一緒に過ごした。この片田舎ではできることに限りがあるが、それでもできる範囲のことをして時間を共有した。


 今日は図書室でマナと一緒に地元の宗教や伝承について調べていた。


「ユウ、これも読んで」


 ――ドサッ


 俺の前に山積みに置かれた数冊の本。


「え、これは……?」

「宿題。冬休みの」


 マナが俺をからかうみたいに薄く微笑んだ。


 これらの本は背表紙を見るだけでわかる。マナが日頃よく読んでいる本たちだ。マナは小説や人文書に限らず、繰り返し同じ本を読んでいることが多々あった。そして時折、こうして俺にも読書するように促してくる。


「これ全部読めって?」

「休み明けにちゃんと読んだかテストするから」


 意地悪く微笑むマナ。マナはいつからこんな笑顔ができるようになったんだ。


「私は少しやることがあるから先に行く…………じゃあ、また後でね」


 去り際に小さく手を振って彼女は図書室を出ていった。一人取り残された俺。


 試しに積まれた本の一番上を手に取る。題名は『慄命宗(りつめいしゅう)軌跡(きせき)』。てきとうなページを開いた。



 ――夕蛇は人間の髪と爪と蜘蛛の巣から生まれた。存在は神の類いである

 ――夕蛇はかつての慄命宗の崇拝対象

 ――夕蛇の誓約うけい



 要所にだけ目を通して飛ばしながら読む。ページをめくり、他のページを見た。



 ――慄命宗の考えでは、夕蛇が31日より先に進まないように時をせき止めてくれている

 ――31日の午前2時頃に参拝する

 ――以前は供物として子供の体の一部を捧げることもあった。しかし、生贄等の命を奪う行いは絶対にしない

 ――生贄を行わないと言っても片田舎の異様な風習には変わりない。しかしそれも昔の話であり、時代の変化とともに廃れていった

 ――1994年頃から新たに新興宗教として復興――――



 さらにページをめくる。



 ――巳函沢市一帯で現れる幽霊の一部は夕蛇により生み出されたものと考えられている。夕蛇により生み出された幽霊は生前の私服姿のことが多いが、それ以外の幽霊は必ず白い死装束を着ている。この理由については、生きていることの尊さを説く夕蛇の精神性によるもので、生きていた頃の姿を重要視していると言われている

 ――夕蛇に生み出された幽霊は決められたある日までしか現世に存在できず、その日に消滅を余儀なくされる



「…………………………」


 この内容が正しいのなら、コマルたちやマナは夕蛇の力で生まれた幽霊だ。そしてこの本の内容が正しいのなら、みんないずれこの世界から消えてしまうということだ。コマル、シラヌラ、杏ばあさん…………そしてマナも。


 俺は本を閉じ、積み上げられた本の上に戻した。時計を見ると午後4時。一人ですることもない俺は図書室を離れた。


 学校の校舎を出た。校舎には薄く白い雪が積もっている。吐く息も白く、すべてが真っ白に染まっている。


「あれ? ユウじゃん」


 横から声をかけられた。振り向くと、


「おお、タケト」


 俺の親友、タケトがいた。親友と言っても、なんだか久しぶりに会ったような気がする。


「帰るとこか?」


 タケトが顔の下半分まで覆っていたネックウォーマーをずらして口を開く。


「ああ、帰ろうぜ」


 俺たちは並んで歩いて校門を出た。歩くたびに積もった白がサクサクと音を立てる。


「今年もあっという間だったなぁ」

「そういえばユウ、卒業後の進路とかどーすんの?」

「うわっ、その話はやめよう。まだなんも考えてねーよ」

「奇遇だな。俺もだよ。やっぱ俺たち気が合うな」


 くだらない会話を続けながら帰路につく。最近はタケトとも素の自分のまま、自分を取り繕わずに話せるようになってきた。そんな俺の変化にタケトは気付いているはずだが、それでも今までと変わらずに俺と接してくれる。


「ユウ、俺は卒業したらアメリカに飛んで大谷翔平の召使いになる。絶対稼げるぞ」

「お前、給料全部闇カジノにでも費やすんだろ」

「じゃあお前は卒業したらどーすんだよ?」

「んー、アメリカに飛んで同性愛者と黒人の権利でも主張しようかな」

「それ声ばっかデカい活動家じゃねぇか!」


 本当に、いい親友を持った。


「そういえば最近、幽霊たちとはどうなんだよ。なんか楽しそうじゃん」

「あー、まあ今まで通り、仲良くやってるよ。今夜もみんなで集まって年末パーティやるし」


 コマルや杏ばあさんたちと交流していることは度々タケトに話していた。タケトがコマルたちと直接関わる機会は一度もなかったが、それでも幽霊たちのことをタケトとの会話のネタにしていた。


「そっか、お前にも友達ができたか………………じゃあ、俺はもう必要ないか?」


 淡く切ない表情を作って俺に見せるタケト。


「なんだよそれ、メンヘラかよ」

「冗談ジョーダン!!」


 ヘラヘラと笑い出すタケト。俺にはこいつがそんな(やわ)いメンタルじゃないことはわかりきっていた。


「でも、どうせならお前も来いよ。年末幽霊パーティ。ユーレイ駄菓子屋でやるんだ。タケトだって幽霊見えるんだし、みんな歓迎してくれるって」

「いや、俺はやめとく………………って、ここでお別れだな。駄菓子屋はあっちだろ?」


 タケトが否定と共に立ち止まった。目線の先の「あっち」は、ユーレイ駄菓子屋のある公園の方だ。


 タケトは今までずっと、幽霊とは距離を置きたがっているような感じだった。いつかの夏の日にはマナのことを調べてみろ、と幽霊と関わるように促してきたくせに。


「そっか、お前にその気がないならまあいいや。じゃあ、またな」

「おう、じゃあな」


 俺たちはあっさりと別れを告げた。俺は駄菓子屋の方に、タケトはまったく別の道を進む。


 少し歩いて公園に着いた。外周を右回りに2周、左回りに1周、もう一度右回りに2周する。


 世界の色が薄く淡くなり、目の前に幽霊駄菓子屋が現れる。木造建築の廃れた建物。『みどうや』の看板が掲げられている。


 集まるのは夜の予定だったが、空を見上げると夕日がまだ沈んでいない。少し来るのが早すぎたかもしれない。


 と言っても他にすることもないから、俺は駄菓子屋に入った。駄菓子が並べられた1階の売り場を抜けて、靴を脱いで座敷に上がり、奥の階段へ進む。2階は居住スペースになっていて、駄菓子屋で集まる時は大体2階に集合する。


 灯りのついていない屋内は薄暗い。階段を上がると、目の前の引き戸の奥から笑い声が聞こえる。引き戸の(ふち)からは黄色い光が漏れていた。


 俺はゆっくり引き戸を開けた――――古びた板張りの床の上に腰を下ろしたコマルやシラヌラと目が合った。マナと、座椅子に腰掛ける杏ばあさんもいる。


「早いな、みんなもう集まってたのかよ」

「違います! リクマさんが遅いんです!」


 そう言って歯を見せて笑うコマル。


「まぁ、俺たちユーレイって暇だかんな。俺とコマルなんて昼間っからここにいるぜェ」

「暇とは違います! 『5時間前行動』ってやつです!」

「あんた、そりゃあ『5分前行動』ってやつさね」


 杏ばあさんが呆れてため息を吐いた。


「で、何やってたんだ?」


 俺は尋ねながらマナと杏ばあさんの間に腰を下ろした。4人は床面に置いた何かを取り囲んで座っていた。


 マナが簡潔に答える。


「ボードゲーム」

「またか」

「うん、また」


 みんなで駄菓子屋に集まった時はいつもボードゲームばかりやっている。幽霊は食事もできないからやれることの選択肢に限りがある。ボードゲームの他にもカードゲームや、時間がある時はテーブルトークRPGなんかもやったりする。


「しゃあ! 俺ァ4マス進むから………………ソーリィ!!」

「――ぁあ!! 私の先鋭コマが!!」


 シラヌラとコマルが盛り上がりを見せる。俺は4人が囲んでいるものを見下ろしながら隣のマナに尋ねた。


「今日は何のゲームやってんの?」

「『ソーリー』だよ」


 ソーリー。俺も以前やったことがある。4人プレイ専用のすごろくだ。1人が持つ駒は4つ。正方形のボードの外周をなぞるように走るマス目を一周し、4つの駒すべてを自分の陣地(ゴール)まで辿り着かせるゲーム。一番早くそれを達成したものが勝者だ。ちなみに他のプレイヤーの駒がいるマスに自分の駒が止まったら、相手の駒は弾かれてスタート地点まで戻される。ちょうど今シラヌラとコマルが盛り上がっていたやつだ。


「はぁーぁ、あたしゃちっと疲れたから外の空気でも吸ってくるよ。リクマ、あたしの駒、引き継ぎな」


 杏ばあさんは座椅子からゆっくりと立ち上がる。そのまま俺の返答も聞かずにベランダの方へとのそのそと歩いて行った。


「………………――ぁ、ありがとう杏ばあさん」


 杏ばあさんの背中に声をかけたが、聞こえているのかいないのか、特に反応も示さず去っていった。


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