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12. 紅葉シーズン

pixivでキャラのイラストを投稿しています→ https://www.pixiv.net/users/73175331/illustrations/%E3%81%82%E3%81%AE%E5%AD%90%E3%81%AF%E3%83%9B%E3%83%AD%E3%82%A6%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AB


 放課後の教室、自分の席に座っていると、クラスメイトの女子たちのうわさ話が聞こえてきた。


「ねえ聞いた? あの話。この学校の生徒が行方不明になったってやつ」

「え……そうなの?」

「知ってるよ! 男子生徒がいなくなっちゃったんでしょ!?」


 2人の女子生徒が話に食い付く。


「そう。その生徒はサッカー部なんだけど、放課後の練習中にいつの間にかいなくなってて、ここ数日学校にも来てないみたい。警察が捜索してるみたいだけどまだ見つかってなくて………………大勢の部員が見ている中で突然いなくなるなんて不自然だよね。神隠しみたい」

「まさか、前に話したこの学校に出る幽霊に攫われた…………とか?」

「……………………そうかもしれないね」

「こわっ!! 怖すぎるんですがっ!!」


 生徒を連れ去る幽霊のうわさ。その幽霊の正体、霊が見える俺には心当たりがないわけではないが、今はそんな身内を疑うようなことはやめておこう。


「ユウ! 帰ろーぜ!!」


 廊下の方から声がした。見ると、教室の開いた引き戸の奥に親友の猛人(タケト)が立っていた。ご機嫌な笑顔でこっちに手を振っている。


「ああ! 今行く!!」


 俺は席を立って教室を後にした。


 春野と月鐘ヶ丘美術館に2人きりの修学旅行に行き、あれから一か月半ほど経ち、今は11月の中旬。晩秋の候。涼しい秋から、いつの間にか肌寒い冬へと移り行こうとしている。


 校門を出る。今日は学校が早く終わり、時刻はまだ午後2時頃だ。辺りには帰路につく生徒の姿があり、その中には制服のブレザーの下にカーディガンを着て真冬の防寒対策の者もいる。それでも暑苦しくないくらいに最近は急激に冷え込んでいる。


 あれから俺は春野と親しくなり、学校の日も休みの日も、毎日会うくらいに仲良くなった。春野は教室ではあまり話さないが、昼休みや放課後は学校の図書室や校舎の屋上にいることが多く、教室に彼女の姿が無い時はそれらの場所に出向いた。


「ユウ、お前最近あの子にベッタリだな。人と幽霊の恋愛は難しいぞ?」

「付き合ってねーよ!!!!」


 こうやってタケトにいつも揶揄(からか)われるくらい俺は春野と親しくなっていた。


 春野は図書室や屋上などで2人きりでいる時は今までよりもよく話すようになった。休日になれば一緒に近所の公園やユーレイ駄菓子屋、街の図書館や山の廃れた神社、地元のちょっとした有名スポットなどを散策したりする。


 特に彼女は図書館によく行きたがり、本の知識を得ることに熱心だ。彼女の隣に座り、一緒に一冊の本を眺めて知識を共有する時間が俺は好きだ。いつの間にかそれがここ最近の一番の楽しみにすらなっていると感じる。春野が本の知識に触れてささやかな一喜一憂をしている様を見るのが楽しいし、きっと彼女もそんなひと時を俺と同じように楽しんでいるはずだ。春野は俺が知らないこと、特に芸術や歴史や文学の知識を揚々と教えてくれる。


「それもう付き合ってるじゃん」

「だから付き合ってねーって!!」


 このことをタケトに話すといつもこう言われてしまう。春野を見ている限り、俺はともかく、彼女には恋愛感情みたいなものはないように感じる。俺に向けているのは友人に向ける普通の好意だけだ。


 でも……………………


 ここ数日は、春野は俺との間に見えない心の壁を作っているように感じる。声をかけても素っ気ないし、何なら避けられているようにすら思える。放課後に一緒に過ごしても態度は冷たいし、そもそも会う約束を取り付ける隙も無くどこかに行ってしまうことも多い。


 だが、そんな春野と今日は会う約束をしている。春野だけではなく、コマル、杏ばあさん、シラヌラもだ。コマルがかくれんぼで行方不明になった件の日以降、この3人ともよく一緒に集まるようになっていた。俺の周りは幽霊だらけ。今日は住宅地の外れの廃れた資材置き場に集まる予定だ。


 ちなみに後から本人に聞いた話だが、シラヌラの本名は『シラヌラリョウ』。漢字表記だと『不知良(シラヌラ)(リョウ)』と書くらしい。


 分かれ道に来てタケトが俺に手を振る。


「じゃ、今日は用事あるから。また月曜な」

「じゃあなタケト!!」


 分岐路を右に曲がっても手を振り続けるタケトの後ろ姿に言葉を返した。


 タケトと別れた俺は建設材料の資材置き場を目指す。資材置き場はここから結構近い位置にある。


 数分かけて住宅街を進み、外れまで来たところで目的の資材置き場に到着した。


 錆びた青いフェンスに囲われた資材置き場。鉄パイプや角材、鋼材などが束になって積み上げられていたり、隅の方にはプレハブ小屋がいくつか並んでいる。束になった資材やプレハブ小屋には緑のツタが絡まり、土や砂を被って汚れている。しばらく、ここ数年は人が使った形成が無い、廃れた資材置き場だ。


 立ち入り禁止の看板とカラーコーンで入り口が塞がれている。カラーコーンに渡したバーを(また)いで俺は中に立ち入った。


 見渡すと奥に、廃棄された大型のクレーン車があった。アームが地上10メートルくらいの高さまで伸び、そこから先はアームが折れて地面と平行の向きに伸びている。


 そのアームの上に3人がいた。右から、シラヌラ、コマル、春野だ。仲良く3人並んでアームの上に座っている。


「………………ぉおッ!? ヤバいやばいやバイッ!!!!」


 今まで平然と座っていたシラヌラが急に慌て始めて、


「うおッ! 落ちるッ!!!!」


 バランスを崩したシラヌラは間抜けな悲鳴と共にアームから落ち、鈍い音を上げて地面に叩きつけられた。


 コマルはそれを冷めた目で一瞥すると、すぐに視線を春野に向けて、笑顔を作って会話を始めた。


 シラヌラのお家芸とコマルの呆れた対応。いつも通りの2人の光景だ。


「あァッ! リクマッ!!」


 俺の存在に気づいたシラヌラ。地面に寝そべっていた状態から起きて、背筋をシャキッと伸ばす。それから立ち上がって俺の元に猛ダッシュで走ってきた。


 俺の目の前で急ブレーキをかけて止まる。活舌が悪くザラザラした声を上げた。


「やっっっと来たかァリクマ、もうみんな集まってるぜぇ」

「悪いな遅れて…………ん、みんな? 杏ばあさんは?」


 杏ばあさんの姿だけ見当たらない。俺がキョロキョロしていると、


「ん、あっちダ」


 シラヌラが顎で方向を示した。


 シラヌラの言う「あっち」の方に目を向けると、先には小さいプレハブ小屋があり、小屋の中から窓越しに俺たちを見ていた。いつもの小難しい仏頂面で。差し詰めシラヌラを監視しているのだろう。また奴が暴走してコマルを巻き込んだりしないように。


「来ましたね、リクマさん!」


 幼気な声がする。振り返ると、いつの間にかクレーン車のアームから降りてきていたコマルと春野がいた。春野はさっき見た学生と同じように制服の下に白いカーディガンを着ている。


「待たせたな、コマル、春野。――――で、コマル。今日は何で俺たちを呼んだんだ?」


 今日この資材置き場で集まろうと言い始めたのはコマルだった。


「最近寒くなってきて、周りの山の木が色付いてきたから、皆で紅葉を見に行きたいと思ったんです!」

「コーヨウ! いいじゃねェか!!」


 シラヌラが好感を示した。


 たしかに周囲の山々を眺めると部分的に赤やオレンジに染まっている。


「最初は廃神社のあったあの山で紅葉を見ようと思ってたんです。でも、さっき春野さんと話してて…………」


 コマルが春野を見上げる。続きは春野に喋ってほしいようだ。


 ぼーっとコマルを見つめ返す春野。一瞬の沈黙が生じる。そしてすぐに、コマルの意図を理解したらしい春野は我に返って口を開いた。


「あっ、えっと…………。月鐘ヶ丘の方が紅葉綺麗に見えるから、そっちの方がいいんじゃないかって話して………………今日はまだ時間もあるから」

「なるほどな、じゃあまたバスに乗って、今日はみんなで行くか! 月鐘ヶ丘!」


 春野は口を結び、控えめに小さく頷いた。


「――ッ! シャアァ!! そうと決まればすぐ出発だァ! 杏ばあ叩き出してくるぜ!!」


 気合十分のシラヌラは杏ばあさんのいるプレハブに走っていった。


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