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課外授業

作者: 神崎玄

食品衛生責任者の資格を取りに行ったときの話。

 あれはバーを開くために食品衛生責任者の資格を取りに行ったときのこと。

 食品衛生責任者というのは一日の講習会で取れる資格で、今はどうか知らないが最後の試験のようなものもなかった。

 講習会がおわったのは夕方のまだ早い時間である。昼飯を軽く済ませていたので近くのファミレスで食事を取ることにした。

 すると、講習会で見かけた若者の一団が入ってきた。

 席に着くと、一人の年長者が言った。

「おめでとう。これで君らも立派なオーナーシェフになれるな」

「はい、先生」

「楽勝でした」

 どうやら、若者たちは料理学校の生徒らしい。

「さて、今日は授業では言えなかったことを伝える。よーく聞くように」

「はい、先生」

「お前ら、人肉焼き肉事件の話は知っているよな」

「あの、アルバイトが焼き肉の材料にされたって事件ですか」

「鍵の付いた冷凍庫の中を見たら死体があってバレたんですよね」

「確か人肉を素材にして儲かりだしたとか」

「そうだ。だが、あの事件の発端は知らないだろう」

 しばし沈黙が続く。

「あれって、利益目的じゃないんですか。儲からない焼き肉屋がアルバイトを雇って次々とさばいていったんですよね」

「それもある。けど、問題の根はもっと深いんだ」

 先生は声をひそめた。

「豆板醤だ」

「豆板醤!」

「ああ。あそこのオーナーは、何年物という古い豆板醤を冷蔵庫の隅に隠していた。それを、若いアルバイトが捨ててしまったんだ。賞味期限切れだからって理由でね。それでオーナーがぶち切れた。発端はそれだ」

「えっ?」

「豆板醤は古い方が味がまろやかになり旨味も増える。酒のアテにもできるほどだ。その熟成させていた商売ネタを捨てられたんだ、たまったものじゃない」

 そう。生鮮食品に関する消費期限とは違って、賞味期限はメーカーが独自に設定している。味が落ちるよりもかなり短かめに設定してあるのだ。そして、「官能試験」、つまり人の五感で確かめることが大切なのだ。食品衛生責任者の講習会でもそう言っていた。

「で、我に返ったオーナーは、死体の処理に困った。冷凍庫の中の場所もとる。そこで、焼き肉の材料にして出したら安さから大人気店になったんだ」

 その時、ウェイトレスが料理を運んできた。

 先生は気配に気づくと話をしめくくった。

「いいかお前ら。冷蔵庫の中に賞味期限の切れた調味料があっても、絶対に勝手に捨てるんじゃないぞ。特に豆板醤はダメだ」

 ウェイトレスは私の前に料理を並べると言った。

「ステーキセットです。ゆっくりおすごしくださいませ」


 



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