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Act.04 祈りは届きましたか?

 ――旧街道。



「僕は軍には戻らない!」



 ミカエルは精一杯の力を込めて、兄・ラファエルにそう叫んだ。


「そうか……。残念だよ、ミカ」


 心底残念そうに言い、ラファエルは詠唱を始める。

 彼にとっても、ミカエルは大事な唯一の肉親だった。

 たったひとりの、双子の弟。

 だが……決別してしまった今、敵として倒すしかない。


「――“天堕つる閃光よ,射ち放て!! 『ブレイクアロー』”!!」


「……っ――“漆黒よ,其の存在を破壊せよ!! 『ダークネスザイン』”!!」


 とっさに唱えたカルマの魔法が、ラファエルの光属性の魔法を防ぐ。

 カルマの属性は闇だ。すべてを覆い尽くすほどの漆黒の闇が、光の矢を破壊した。

 それに呼応するかのように、他の“I'll(アイル)”の面々も動き出す。ラファエルと共に来た政府軍を止めるためだ。


「へえ……。やるじゃん、お前」


 ラファエルは心底驚いたようで、カルマを誉めた。


「……なめてもらっては困る」


「ふーん……。面白い」


 戦い甲斐がある、とニヤリと笑って、ラファエルは再度呪文を唱える。


「――“荘厳なる光よ,此の地に降り注げ!! 『クラッシュレイン』”!!」


 すると、いくつもの光がどこからともなく降り注いだ。光がその場の全てを焼き尽くそうとする。


「――“怒れる闇よ,全てを裁き給え!! 『ヘル・シュルディッヒ』”!!」


 だがカルマの魔法がその攻撃を防ぎ、闇は光を覆い尽くした。


「っ!?」


 彼の足元に展開された魔法陣から鎖のように飛び出した黒い魔力の塊たち。

 なんとかそれを避けたラファエルは、もう一度詠唱しようと腕を翳した。


「まだだ!

 ――“天堕つる残光よ,解き放て!! 『ブレイクルイン』”!!」


 敵を穿つために生まれた、巨大な光の刃。

 上空から急速に落ちてくるそれを、カルマは動じることなく見やり……駆けてくる足音に、ふっと薄く笑みを浮かべた。


「させません! ――『火焔舞連撃』!!」


 光の刃を、炎を纏わせた刀身で受け止めたのは——桜散(サチ)だった。

 人工の天使と戦うカルマに加勢すべく、相手をしていた政府軍を斬り捨て駆けつけたのだ。


「いけるか、桜散」


「当然です。前衛は任せてください」


 カルマとの短いやり取りの間に、刀を構え直す桜散。

 息のあった二人は、お互いを信頼しているのだろう。

 駆け出す桜散を見送って、詠唱を始めたカルマの姿を見て……そして、二人を倒そうと同じく詠唱をする兄を視界に映して、ミカエルは胸元を握りしめた。

 ……しかし。


「……ラファ! そこまでだ。

 おとり部隊が全滅したらしい。俺たちも撤収だ」


 他のメンバーの相手をしていた黒髪の少年が、桜散の刀を受け止めつつ、ラファエルにストップをかけた。


「はあ!? 何だよそれッ! どーなってんだよケイジ!」


「他のレジスタンス……あるいはこいつらの仲間にやられたんだろう。……命令だ。従うしかない」


「……ちっ! 命拾いしたな、ミカ。……それと、オッドアイの魔術師に、刀使い」


 ラファエルはカルマたちをきつく睨み、“ケイジ”と呼ばれた黒髪の少年が呪文を唱えた。


「――“彼の場所へ我らを導け! 『イレイズ』”!」


 その瞬間、戦場に残っていた政府軍が一瞬で消えた。

 それは広範囲の転移魔法。目的の場所まで近ければ近いほど、対象範囲を広げることができる魔法だった。


「あっ、こらーっ! 待ちなさいよー!」


「逃げ足早ッ!!」


 消えた政府軍の相手をしていたフィーネとジュリアが、咄嗟に声を荒らげる。当然彼らには届くことはなかったのだが。


「……大丈夫ですか? ミカエル……」


 騒ぐ彼女たちを横目に、桜散がミカエルを気遣い声をかけた。天使は俯いていた顔を上げ、苦しげながらも笑ってみせた。


「……はい。大丈夫、です……」


「……オレたちも帰るぞ」


 そんな二人を見やり、ハリアは歩き出す。空を夕陽が彩っていた。


「ふあー、撤収ですねー」


「皆さん、お疲れさまでした」


「あー、お腹すいたー」


 リーダーである彼に続くように、ジュリアとミライ、フィーネの女性陣も帰路につく。


「ミカエル、私たちも……」


「おい、お前!」


 行きましょう、と続くはずだった桜散の言葉を遮り、フィリアがミカエルに声をかけた。


「な、なんです、か?」


 おどおどと自分を見るミカエルに、フィリアは困ったようにさっと視線を外す。


「さ、さっきは……キツいこと言って悪かったな。

 ……お前も、辛いんだよ、な。兄貴と敵対する、なんて」


 先ほど……政府軍が来る前に、ミカエルを信用せずきつく当たってしまったこと。彼はそれを素直に謝罪したのだった。

 フィリアのその言葉に、ミカエルは少し驚いてから、ふわりと微笑んだ。


「大丈夫です、気にしてませんよ。

 ……信じてもらえて……力を貸してくださるなんて、僕も思ってませんでしたから」


 ありがとうございます、と笑うミカエルにつられて、フィリアも優しく笑った。



 ――……ラファエル……僕は必ず、君を止めてみせる。



 胸に秘めた決意。ミカエルは空を見上げる。

 逃げ出す前は見れなかったそのどこまでも広い世界に、ぎゅっと手を握りしめた。

 夕焼けに染まった空は、双子の天使を引き裂いて。


 祈りはいつも、届かない。



 Act.04:終

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