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後編 欲しかった本がようやく届いて開封してみたら、本屋さんが本を超大切にしてる想いが伝わってきてマジで感動したという話

 発送しましたとメッセージが届き、楽しみにしていた本が届いた。


 梱包している包装紙(というかなにかの雑誌のページ?)に、まずは何より目を惹かれる。


 なにやら茶の湯文化についての考察が書かれている。

 焼き物のこととか利休のこととか……。


 ちょっと待て。なんだこの濃ゆい考察は!

 読みたい! でもテープがめちゃくちゃ頑丈に貼りまくってあって……くっ! だめか……やっぱり破れた……。ああ……読みたかったのに……!



 きっと葛飾北斎の絵が梱包材として荷物と一緒に届けられたのを目撃した海外の方は、こんな気持ちだったのかもしれない……なんて妄想が脳裏によぎる。



 絶対に「じーざす!」とか「まーじぃ!」とか「ぺぺぺぺぺ!」とか、言っちゃったんじゃねえかな。古いしマニアックで意味わかんねえか。



 とにかく大事なのは本だ。

 包み紙を守るために本を傷つけてはいけない。


 非常に高い防御力を誇る包装紙と、その紙すら凌駕するほど頑丈なテープ。

 なんて防御力だ。手も足も出ねえ。


 仕方がないのでハサミを出した。


 囚われの(ひめ)を救い出さねば!


 利休に信楽……! お前らの犠牲……無駄にはしないぜ!



 でもガンガン攻めて、本が傷ついたら嫌だ。


 超超超ていねいに、そして慎重にテープに切り込みを入れて、ちびちびと開封していく。


 作戦名は『本を大事に』だ。


 まるで爆弾処理班になったかのような緊張感。



 長い戦いを終え、包装紙をはがすと次の敵が現れた。



 ラップがあらわれた!


 どうする?   ▶たたかう にげる

          もやす とかす 



 水濡れ防止のため、これまたガッチリとラップが厳重に巻かれている。

 柔らかいラップなので、今度は最初から手でむいていく。


 ついに本の表紙と感動のご対面だ。



 だいぶ色褪せている。やっぱり古い本だからだろう。



 そう思った自分は浅はかだった。



 うえ!? ちょっと待って、これトレーシングペーパー? しかもブックカバー!?

 透けてんじゃん! 超エロ……じゃねえや! 超オシャレ!


 なにこれ素敵っ!


 表紙が透けて見えるけど、本が傷つかない!

 カバーしてるのに背表紙で何の本か分かる!

 愛が深い!! 頭いい!


 なにこれ素敵っ!

 早速うちの本全部にこれ真似しよう!



 このブックカバーの紙の材質を調べてたら、ブックカバーという文化は、古書店が発祥なのだということが判明した。


 そしてカバーの素材はグラシン紙。


 グラシン紙のブックカバーは、水にも油にも日焼けにも強い。


 まさに本の守り神ならぬ守り紙なのである。


 今まで古本屋はブックオフとamazonでしか利用してなかったから、こんなに素敵なブックカバーの存在を全然知らなかった。


 そんなことも知らないで、本が好きだなんてほざいてた自分……浅はかだったぜ。



 すっげえ、古書店すっげえ。

 もう足を向けて寝らんねえ。



 本屋さんの愛を感じる。




 ゜・*:.。..。.:*・゜゜・*:.。..。.:*・゜゜・




 店長:『いいかい。買ってもらったお家で大切にしてもらうんだよ』


 本:『はい。店長さん……今まで私のことを大切に保管してくださってありがとうございます。

 私……いっぱい読んでもらいますね……!』


 店長:『つらくなったら……いつでも帰ってきていいんだよ……!(ぐすん)』


 本:『店長さん……! 泣かないで……!

 店長さんに泣かれたら……私……買われたくなくなっちゃう……!』


 店長:『それはだめだ。お前を望んでいる買い主に渡すのが私の仕事だからね……。達者で……暮らすんだよ……! ううっ!(涙&鼻水)』


 本:『店長さんっ!』


 店長:『うちの本っ!』


 ひしっ!




 ゜・*:.。..。.:*・゜゜・*:.。..。.:*・゜゜・




 なんてシーンが頭の中をよぎる。泣ける。




 任せろ店長。

 彼女は俺が責任持って大切にする。



 愛の詰まったブックカバーをなでながら、俺は彼女を胸に抱き寄せた。

 すごく責任の重いバトンタッチを受けとったような気持ちになった。


 そう、例えるならバージンロードを歩いてきた花嫁を、お義父さんから引き継ぐ時のような……。


 さしづめグラシン紙のブックカバーは、純白のウェディングドレスか……。ふっ。



 妄想が止まらん。



 とりあえず明日どっかでクッキングシートを買おう。たしかグラシン紙だったはずだ。


 俺の本たちに片っ端からカバーをかけてやるぜ。



 仕事の疲れが一瞬でぶっ飛んだ。


『手仕事』なんて言葉があるけど、人の手が加えられてると、なんだか心があったかくなる。


 コンビニおにぎりより、その辺のおばちゃん(おっちゃんでも可)が握ったやつのほうが『このおにぎり最強かよっ!』ってくらいうまい。

 そういうのに近いかもしんない。



 余談だが父の影響で、風景写真のカレンダーをスクラップしてブックカバーにしている。

 本のサイズに合わせて、カレンダーを丁寧に折ったりなんかしてると、なんとなくものを大切にする気持ちってやつを自覚する。



 たかがブックカバーかもしれない。

 だけど本に愛情を持って働いている人の気配が伝わってきて、なんだかすごく胸の中があったかくなった。


 こんなふうに人の気持ちをあったかくできる仕事を、自分もしていきたい。


 そんなことを思わせてくれる一日の締めくくりだった。






 後日談。


 クッキングシートを買ってきてブックカバーにしてみた。

 ……でもなんか思った通りにいかない。



 クッキングシートの材質を確認してみる。


 材質/グラシン紙、シリコーン樹脂


 ……もしかして、シリコンいらなくね?



 妙に分厚くて、つるつるしすぎてて、カバーがかけづらい。


 購入した本にかけられているグラシン紙のカバーの手触りは薄くてシャリシャリしている。



 やっぱ、グラシン紙しか勝たん。


 でかい文具店ならきっと売ってんだろうけど、近くにねえしなあ。


 TSUTAYA→なかった!

 ホームセンター→にゃかった!


 すっげえシャレてるグラシン紙専門店のサイトも見つけちったけど、取り扱ってるサイズが小さいんだよなあ。

 すげえ気にはなるけど。そのうち文庫カバー買ってみよっかな。



 くそ、やっぱamazonかよ……。

 せっかくamazon依存から脱却しようと思ったのに。どっか他で売ってねえかなあ。





 後日談の後日談。


 薬局にある薬包紙とにらめっこ。


 これ、薄さと透け感がすげーちょうどいい。

 いかんせん、ちっちぇえけど。


 薬包紙の材質はパラフィン紙。


 パラフィン紙とは。

 グラシン紙にろうをかけ、片面だけツルツルにしたものである。

 別名ワックスペーパーという。


 ん? ワックスペーパー……?


 それなら百均にあんじゃね?



 某百均。

 製菓コーナーのワックスペーパーは幅が狭すぎた。これじゃ文庫本のカバーにすらならないので却下。


 ラッピングコーナーも探す。

 グラシン紙! 出てこいや!


 返事がない。ただの紙のようだ。


 でもワックスペーパーの包装紙は見つけたので買って帰る。


 んで早速カバーかけてみた。



 結果!




 カバーの音がうるさい。音が邪魔。ワックスいらねえ。シリコンよりはマシだけど。


 やっぱグラシン紙しか勝たん!




 ※ワックスペーパーのブックカバーは見た目だけはオシャレでした。

 でも読むのには向かない。


 ご参考まで。



 挿絵(By みてみん)

 

ちなみに真ん中の本は別のエッセイで紹介したブックラウンジで衝動買いした本で、右隣が前編で出てきた画集です。5000円で買いました。

背表紙だけで画家が分かった人……いるわけねえか。

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