表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/3

前編 本当にたまたま偶然見かけたサイトで、ずっと探し求めてた絶版本が普通に売られててマジでビビったという話

前後編の2話形式です。

仕事が嫌になって現実逃避したくて投稿しました。

乱筆乱文な点はご容赦ください。



 運命の女神、フォルトゥーナ。


 彼女は、運命を操るための(かじ)(たずさ)えて、運命が定まらないことを象徴する不安定な球体に乗り、幸運の逃げやすさを象徴する羽根の生えた靴を履き、幸福が満ちることのないことを象徴する底の抜けた壺を持っている。(By ウィキペディア)


 また、チャンスは後からでは掴めないということを表しているため、フォルトゥーナには後ろ髪がなく前髪しかないとされているが、最近ではすべての髪を前で束ねていることにされているらしい。

 やはり女神のイメージ的に、毛がないのはよろしくないのかもしれない。女神からしたら余計なお世話なのかもしれないが。



 つまり、彼女を捕まえるためには、通り過ぎてから気づいたのでは遅いのだ。


 彼女が姿を見せる前に、その気配に気づき、両腕を広げて、彼女を抱きとめる準備をしていなくてはならない。


 つまりこういうことだ。


 さあ、フォルトゥーナ!

 俺の腕の中に、飛び込んでこ――――――い!

 ……こ――――――い!!

 ……――――い!

 ……――い!

 (エコー)




 なーんて、気色の悪い出だしで始めてしまったが、別に薬はキメていない。


 繁忙期間中の俺は、シラフで飛べる。特技である。



 何が言いたいのかというと、気持ち悪いポエムな戯言(ざれごと)をほざきたくなるくらい、本当に偶然というか運命みたいな突然の幸運だった。


 運命の女神が見えたのは繁忙期が見せた春の幻だろう。



 本屋の……というより古書店の話をしたい。

 無駄な前振りを挿入したが、要はそういうことだ。


 もしあなたが暇ならば、俺の戯言(ざれごと)にお付き合い頂こうか。



・・・



 きっかけはクリアファイルだった。


 どんなクリアファイルかというと、美術館のミュージアムショップで買ったクリアファイルだ。


 そこまで美術品に精通しているわけじゃないが、学生の頃から美術館に行くのは好きだった。


 諸事情で剣道部を辞めたあと、仲間のツテで美術部にいさせてもらったことなんかも、理由としてはあるのかもしんない。


 気に入った絵画のクリアファイルは、ついつい買ってしまう。


 でもずっと保管しているわけではなく、クリアファイルなのだから徹底的に使い倒す。


 ボロボロになるまで使って、ここまで使ってやればこいつも本望だろうと思えるくらいに使い倒して捨てる。


 だから結局手元には残らない。

 だって所詮は文房具だ。使ってやるのがやつらに対しての礼儀だと思っている。


 今ちょうど手帳やらシフト表やらメモ帳をぶち込んでいるクリアファイルも、たぶん高校のときに美術館で購入したものだった。


 一目惚れした絵画だったので、ずっと使わないでいたのだが、満を持して出番となった。


 そのクリアファイルが、なんか突然、急に惜しくなった。


 そういやあ、この画家……ちょいと知名度低いよな……。


 もしかしてこのクリアファイル捨てたら、もう二度と手に入らねえんじゃねえの?


 美術専攻してるやつに聞いても、そんな画家知らねって言われるくらいだし。

 まあいいんだけど。

 ……いや、よくねえ。



 気になりだしたら止まらない。


 画家名+クリアファイルで検索する。


 メルカリで1件だけヒットする。

 やべえ、買おうかな……。ちょっとだけ迷った。でもやめる。

 なぜかというと、うちの家族がメルカリ詐欺に遭ったからだ。



 あ! 個展とかやってたら、グッズ売ってるかも。


 画家名+展覧会で検索する。


 うわ、ダメだやってねえ。

 しかも、いつの間にか画家が死んでる。


 嘘だろ……。

 ああでもまあ、じいちゃんだったもんなあ。

 無理もないか。


 じゃ、供養もかねて画集を買ってやろう。


 画家名+画集で(以下略)


 うお。amazonでヒットしたけど画像がなくて中身が全く分かんねえ。怪しすぎ。


 詐欺感全開で、怖すぎて買えない。本当に本物か?

 値段も適正価格なのか不明。


 あー、高校んときにグッズ買い占めときゃ良かった……。どらいもーん!

 だが後悔してももう遅い。



 なんとなく下にスクロールして、amazon以外の他の検索結果を見ていたら、『日本の古本屋』の文字が目に入った。



 なんか、ビビっときた。

 この感覚がきたときは、だいたい『当たり』だ。


 指がそのサイトを触ったのは、謎の引力のようなものだった。



 ……そして、あった。


 きちんと表紙の写真も出ている。

 画集や、個展の図録。

 すんげー古い美術誌までもが……。


 他にもなんか、とんでもなく年代物の書籍が続々と……。



 なんだこれ。やばすぎだろ。

 なんだこのサイトは……。



 おかしな高揚感。

 財宝の入った宝箱を見つけちゃったみたいな心境だ。




 パンを食っていた手が思わず止まる。

 俺は勤務日だが家族にとって今日は休日。もちろん、みんなまだ寝ている。


 だから『食事中にスマホ見んな行儀が悪い』と文句を言うやつはここにはいない。そしてそれを言うのは大概俺だったりする。


 もはや俺の目はスマホに釘付けだ。


 もうパンなんか食ってる場合じゃない。



 もしかして……。


 こんなに古くてマニアックで、誰が買うんだよこんな本……ってのばっかりってことは……。


 もしかして……あの本があんじゃね……?



 俺の頭の中に、ある本のタイトルが浮かんだ。



 もうずっと何年も前から欲しくて欲しくてしょうがなかった本があった。


 その本はもう絶版になっていて、amazonで検索するとプレミア価格になってて、定価の十倍くらいの値段でふっかけられていた。


 しかも本の状態は『悪い』ときている。


『くそ、馬鹿高じゃねえかよ。誰が買うか』と怒りがこみ上げる価格設定になっている。これでもかと足元を見るような態度に腹しか立たない。


 でも毎回ボーナスのたびに、やっぱり買おうかなって揺らいでしまう。だって欲しいんだもん。



 前にどーしても欲しくて、絶版書籍の購入方法を調べたことがあった。


 どうも出版社に直接メールで問い合わせして、倉庫に在庫が残ってないか探してもらうという方法があるらしいのだ。


 本気で出版社にメールしようかなって悩むくらい欲しい本だった。勇気がなくて送れなかったけど。



 一縷(いちる)の望みをかける。



 その『日本の古本屋』サイト内の検索ワードに、その本のタイトルを、おそるおそる入力してみると……。



 出た……。



 うわ。ちゃんと出てきたよ……。

 しかも1冊じゃない……。え、なにこれ。

 神様……っ! 俺……マジで今日、仕事がんばる!! 超さんきゅーっ!


 パンではなく、感動を噛みしめる俺。



 でも本当はそろそろ朝食を食べ終わり、出勤しなければ遅刻する。

 だがまだダメだ。


 心配になって、翻訳者と出版社を調べる。


 実は最近、別の出版社と別の翻訳者で、同じタイトルの作品(正確には一字違う)が新しく市場に出回るようになった。


 もちろん、それは当然買った。

 また絶版になって手に入らなくなったら困るから。


 原著は同じ。


 でも、やっぱりなんか違うのだ。


 最初の翻訳者が紡いだ言葉の流れや空気感と、今出回っている翻訳者が紡ぐ言葉の雰囲気が、同じ作者の言葉を訳してはいるけれど、全然違うのだ。


 うまく説明できないけど俺にとってその2冊は明らかに違うもので、俺が欲しいのは、やっぱり最初に読んだ方の書籍だった。



 そして、今検索結果として表示された書籍は、間違いなく、県立図書館まで探しに行って、限界いっぱい延長貸出してもらって、こっそり会社のコピー機でコピーしまくって、きりがなくて途中で嫌になってコピーすんのやめた、あの絶版本だった。


 そういやあ、コピーした紙どこいったんだろ。

 まあいいや。



 しかも初版本まで取り扱ってる店まである……。


 やべえ。


 全国の古本屋さんが本気を出すと、amazonなんか目じゃねえ。



 買うしかねえ! 即買いだ!!



 そのためにはまず新規登録だ。


 やべえ。もたもたしてると電車の時間が……!



 パンをむりやり口に押し込み、コーヒーで流し込んだ。

 そして本を買い物かごにぶち込んだ。速攻で決済だ。


 ……ん?

 在庫確認してから決済なのか。なるほど。


 とりあえず購入予約はできたらしい。


 詳しい説明は電車で読もう。


 よっしゃ仕事だ!


 今日はどんなに激混みでも、外来が全然終わらなくても超笑顔で仕事できる自信がある。


 その日は朝は、本当に最高の朝だった。


後編は本が届いたあとの話です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] わかります~( ´艸`) さらに特定のジャンルに特化した古本屋さんは神°・(ノД`)・°・  ほとんど出回っていないはずの自費出版まであったりしますからね。 ずっと残ってほしい世界です!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ