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その日の夜。
いつも通り並んで横になるベッドで。
「終わったよ、キーラ」
静かに、レナートが言った。
「終わった?」
「ああ。ボイドとアーチーの死刑が執行された」
「!」
「怖い話をしてすまない」
「いいえ。教えてくださり、ありがとうございます……」
「メレランドは、もう手続きが終わって王太子直轄領となった。明日、王太子殿下がいらっしゃる」
「はい」
「色々準備した行事は、残念だが」
「中止ですね。あーあ、試合だけでも見たかったな」
「ん?」
「だって、一番隊のみんな練習がんばってたし。私、剣で戦うところ見たことないし」
――レナートの強いところが見たい、とは恥ずかしくて言えない。
「ふむ……ボジェク殿が、来た甲斐がないと嘆いていらしてな。存在だけで十分お役目は果たされているのだが」
「じゃ、練習試合とか!」
「うん。良いかもしれん。一番隊の連中も落ち込んでいるしな。明日早速王太子殿下に上奏してみよう」
「嬉しいです! ふふふ。レナート様ってすごい」
「ん?」
「いつも、私の意見を聞いてくれるから」
「キーラが良いことを言ってくれるからだ……あー」
「あー?」
「気になっていたんだが、海軍大将閣下が『さん』なのに、俺が『様』っていうのが」
「あ、たしかに」
「キーラは、全員呼び捨てで良いんだぞ」
「え! じゃあ……レナート?」
「ああ」
「うひゃあーーー」
思わずシーツの中に丸まってしまった。
恥ずかしい!
「こら、寒い」
「ひゃああああ」
ぐるっと寝返りを打ったら、どうやら巻き取ってしまったようです。
「こらこら。寒いんだが。シーツを返せ」
「うひひひ」
「返さないのか? ……ならば」
「!?」
ずし、と重くなった。
え? あれ? レナートまさか。
「寒いから、抱き着いて寝るぞ」
ままままさか、上から抱き着いてるの!?
ぎょわわわ!
「ぎにゃーーっ」
「くっくっく。今どこから声が出たんだ?」
近い! 声が近い!
重い! この重みがレナート!
やっば! 胸が! どっきどき! ぜえはあ、ぜえはあ!
「ぶはあ!」
窒息しそうで思わず顔を出したら――目が合った。
「ぶは。真っ赤だ」
「いじわるー」
「どっちがだ? 寒いんだ」
「んー!」
仕方がないからシーツをごそごそして、入っていいよ、て開けて待ってみたら。
今度はレナートが、こんなに暗い部屋でも分かるぐらいに真っ赤になった。――私もこのぐらい真っ赤ってことね!
「はあ。これはなかなかの試練だぞ。ふう。あー。明日の予定はええっと……」
「レナート! 早く! 寒い!」
「うぐっ」
ぎゅ、と目をつぶって、のろのろとレナートが入ってきたので、私はがばり! とシーツを閉じて、抱き着いた。
お返しだぞ! 逃がさないぞ! の気持ちです。
「ふふ。レナート、あっつい!」
「あー、うー、……王太子殿下が昼前に到着されて……今後の体制と権限譲渡を陛下から……」
「レナート! うるさい! 寝るよ!」
「っ、はい……」
レナートの胸に顔を埋めてみたら、大好きな匂いがした。
とても幸せで、離れたくなくて、寝間着をぎゅっと握ったら――あきらめたレナートが、背中に手を置いてくれた。
「はあ。これは猫だ。猫だぞ。うん」
「キーラですう~」
「猫だ。猫なんだ……」
「キーラだってば!」
「頼むから、俺の努力を一言で壊すな」
「なんの努力?」
「……なんでもない……」
んふふふ。
「そこで笑うな。こそばゆい」
「そう?」
「うっ。見上げるな。心臓に悪い」
「文句ばっかり!」
「ああキーラ……もうダメだ……かわいいな……」
「はえ!?」
「ふは。さあ、寝よう」
寝られませんけどお!
最後にものすごいの、落としてくれましたね!?
「あの……私、可愛い?」
でも嬉しいから聞きたいの。
猫と同じ扱いで良いから。
「うぐ! なぜ俺は自らこのような試練を課す真似を……」
「レナート?」
「ああ。可愛い。可愛いんだ。抱きしめて寝る。いいか?」
「うん。嬉しい」
「キーラ……」
レナートが、きゅ、と抱きしめてくれて。
嬉しくて、嬉しくて。
私も夢中で、抱き着いた。
レナートは、私の髪の毛の中に鼻を埋めながら、頭を撫でてくれる。
私は、早鐘を打つようなレナートの胸の音を聞きながら、目を閉じる。
――そうして、レナートが優しい声で「好きだ」って何度も囁いてくれる、良い夢を見たの。
もっと、見たかったな……
お読みいただき、ありがとうございました。
やっと書けましたよ、イチャイチャを!(前の話との落差!)
そしてそれってほんとに夢かな、キーラさんーーーー?




