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【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている  作者: 卯崎瑛珠
第四章 別離?? 決意!? 溺愛!!

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55 会談中継(ロランside)



 アルソス国王グレアムは鋭い眼光で、向かいに座るメレランド国王を、見据えている。

 テーブルの上で組まれた手の甲には青い血管が浮き出ていて、内心の怒りが容易に見て取れた。

 背中までの金色の髪はそのままに、アルソスの紋章がモチーフのサークレットを付けている。

 未だに騎士団長と手合わせをしているという壮年の王は、濃紺のマントと、それに合わせたドレスシャツの装いに威厳が感じられた。

 

 一方のメレランド国王シミオンは、小柄でたるんだ体形で、ベルトの上に腹が乗っている。

 脂ぎった頬には吹き出物が目立つ。王冠には悪趣味な宝石がギラギラ付けられ――どうしても兄王と比較すると見劣りしてしまう。

 

 接見場所に選ばれたのは、大きな大理石のテーブルが置かれた、会議室のような場所。

 控えめのシャンデリアと、白い石造りの暖炉の上には船の操舵輪が掛けられている。花瓶には季節の花が生けられているが、なんとなく元気がない。

 

 テーブルに着いているのはアルソス国王、ヨナターン、ボジェク。向かい側にメレランド国王、クレイグ(縄付き)、そして末席にレナートだ。

 全員の着席を確認してから、扉の脇に警備がてら立ったところで、フレッドが隣に来た――目礼を交わす。


 アルソス国王グレアムが、その厳かな声でついに静寂を破った。

「事の大きさは分かっているか」

 メレランド国王シミオンは肩をびくりと波打たせてから、

「余は、国のためを思って!」

 と口角を震わせながら主張した。

「国のため?」

「そうだ! 遊興でもって国の財産を得たまで! 王国民も楽しんでいる!」


 呆れた主張だ、と全員が大きく息を吐いた。

 

「本気で言っているのか?」

「もちろんだ!」

「なら、その財産とやらは何に使ったのだ」

「国庫にある!」

「……あるなら、今すぐ職人たちに金を払え」

「っ、クレイグ! 仕方がない、払うのだっ」


 首と手首を縄で縛られている、財務院の役人であるクレイグは、いやらしく顔を歪めた。

 

「無理ですな! ひっひっひ」

「なにを申すか! まさか、もう残っていないのか!?」

「ひーっひっひっひ!」


 慌てるメレランド国王に対してすら、小馬鹿にした態度で笑うだけのクレイグ。

 答える気がないと判断し、ヨナターンが忌々し気に口を開いた。

 

「……は~。残念だが、我が帝国の反皇帝残存勢力から、武器魔道具を買っていたという情報がある」

「武器など買って、どうする気だったのだ、シミオン」

「っ」

「アルソスと事を構える気だったのか?」

「ちがう! 兄者は、帝国と、余と、どちらを信じるのだ!」

「……」

「いっつもそうだ! 言うことを聞けば良いだの、お前のやり方は駄目だだの!」


 シミオンが唾をまき散らしながら、椅子を蹴るように立ち上がって、がむしゃらに人差し指を向ける先は。


「余を見下しおって!」

「……お前は、父上の言葉を忘れたのか。元々ここは公爵領。独立して王国にせよと迫ったお前に、前国王陛下は何と言った」

「為政者としての自覚をもって治めよ!」


 ふふん、とのけぞるその姿に、吐きそうになった。

 これが、国王? その辺のガキと一緒だ。こんな奴に、皆苦しめられていたというのか。

 

「その自覚があってのことか? これは」

「そうだ!」

「そうか。では致し方ない……貴国との国交を断絶する」

「んな!?」

「我が国の後ろ盾を失ったと理解するが良い。ヨナターン殿」

「はい」

「アルソスは、この問題に一切関知しない。この国にもし欲しいものがあるなら、()()()()()()()()()()


 良く言うよ、とばかりにヨナターンは肩をすくめた。

 帝国にメレランドを潰させて、あとは公爵領として併合するだけの楽な仕事だ。

 その代わりに無条件で、メレランド王国に現在属しているものを全て捧げると言った。

 つまりは、()()()()()()()、だ。

 

 ――帝国皇帝陛下の妹を、無償かつ無条件で引き渡す代わりに、後始末をしてくれということに他ならない。

 

 水面下でそんなやり取りがあるだなんて、思っていないだろうな、うちの国王は。

 

「そんなことを言っても良いのか、アルソス国王よ!」


 愚鈍な王は、続けた。


「我らには、武器魔道具があるのだぞ!」

「……愚かな」

「なんだと!」

「それこそ、事実上の開戦宣言と受け取らざるを得ない」

「っ」

「ひーっひっひっひ!」

「良いのだな?」

「ふぐ」

「あー、横やりですみませんが」


 ヨナターンが挙手をする。


「なんだ!」

「メレランドが買った武器魔道具、役立たずですよ」

「な!」

「うちの残存勢力が、まともな魔道具を保持しているわけないでしょう。動作確認は? 使い方は? 魔石を入れても動かないと思いますけどね。あと、その魔石だってアルソス頼みでしょ。開戦しても、国交断絶で補給できないならジリ貧なわけですが、本気ですか?」

「ふご! くくくクレイグ!」


 メレランド国王はただ、ぎょろぎょろとその小さな目を動かし、クレイグを促すだけだ。

 

「きっひっひっひ! 知りませんなあ!」

「ゴミ魔道具と供給なしで戦争? 今来てる軍船と戦力で十分だが。なあ少将」

 頷く代わりに、ギラリとボジェクの目が光り、メレランド国王はギリギリと奥歯を噛んで、それを睨む。


「どうした、レナート殿」

 そんな中、アルソス国王は、レナートに目を向ける。

「! いえ、私ごときの身分では」

「発言を許す。考えを聞かせてくれ」

「は。ありがたく……ブルザーク帝国、並びにアルソス王国であれば、この小国を叩き潰すのは容易でしょう。だがしかし、王国民はどうなりますか」


 レナートは、凛とした姿勢でメレランド国王に向き直る。


「陛下は、王国民を愛していらっしゃいますか? であれば、罪を償い、未来を……」

「下賤の者が! 余に意見などするな!」

「では、償う気がないと」

「罪などではない! 余は、余は正しいのだ! クレイグが悪い!」


 その発言で、レナートのこめかみにボコリと青筋が浮いた。

 

「なんたることだ……ここまで愚かとは」

「貴様あ! ナニサマだあ!」


 立ち上がっていた国王は何を思ったか暖炉につかつかと歩み寄り、その上の花瓶を手に取り、何を思ったか――その中身をクレイグにぶちまけた。

「ぎゃっ」

「うぐっ」

「な」「おい」「様子がっ」


 全員が絶句している中――


「ぎゃわわわ!」

 変な声を上げながら悶絶するクレイグを

「お前が悪いんだ! お前が死ね!」

 と汚物でも見るかのように見下ろすメレランド国王。

「な、にを」


 そしてレナートが、椅子から床に滑り落ちた。

 僕は、駆け寄る。が、手で制された。


「ど、く。さわ、る、な」

「花瓶の水に、毒を仕込んでいたのか!」

 

 巻き添えを食ったレナートの肌が、みるみる赤くただれていく。

 フレッドも駆け寄るが、濡れていて触れない。

「くそ」

「ぎゃはは! 下賤だからだ!」

「これをっ」

 アルソス国王が咄嗟に自身のマントを引きはがし、レナートに掛ける。

 僕とフレッドとで肩を支え、部屋を出て一番近い客室を目指す。外の見張りに、薬師の手配を叫びながら。


「だと、おもっ、た」

「レナート!?」

「ようす、へん。なにか、し、よう、と、だか、ら」


 あえて煽ったのか!


「くっそ優秀だねえ! 耐えろ! オリヴェルが解毒薬とポーションを持っているはずだ!」

 ボジェクが叫びながら、通信魔道具を使ってオリヴェルを呼び出している。

「レナート、レナート! しっかり!」


 布の中で、どんどん力が抜けていくレナートに、僕は声を掛けることしかできなかった。


お読み頂き、ありがとうございました。

 あれえ? これ、恋愛小説でしたよね!? ほんっとごめんなさい!!

 必要なストーリーということで、もう少しだけ、お付き合いくださいませm(__)m

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