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【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている  作者: 卯崎瑛珠
第四章 別離?? 決意!? 溺愛!!

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 気絶したルイスをとりあえずソファに寝かせ、レナートが振り返る。


「閣下、そちらは……」

「ん? ああ、俺の部下。でかい方がボジェク少将。細い方が、オリヴェル中尉」

「雑すぎっす!」

 ボジェクが額に手を当てて仰け反る。

 金髪の肩ぐらいの長さの髪の毛を、前髪ごと後ろに一括りに結んだ、日焼けしたガタイの良い人。一見して強そう。

 一方のオリヴェルは、軍人? と思うくらいに線が細くて色白で、真ん中分けの茶髪に薄茶色の瞳。先生みたいな感じだ。

「オリヴェルと申します。ヤンが大変お世話になっております」

「オリヴェルさーん!」

 とヤンが尻尾を振るのを

「……静かに」

「さーせん」

 一言で黙らせた。すごい!


「私は騎士団長のレナート・ジュスタ。こちらは副団長のロラン、お見苦しいですが、一番隊隊長のルイス。そして、事務官のキーラです。こちらこそ、ヤン殿には大変助けられております」

 レナートが丁寧な騎士礼で全員を紹介してくれた。

 ヤンが感激してビシッとなったのを、

「良かったなあ、ヤン」

 ボジェクが笑う。


「すまんな、待ちきれず来てしまった」

 眉尻を下げるヨナターンに、レナートは首を振る。

「とんでもない。来て頂けて良かった。想定より事態が深刻でした」

「いったい、何があった?」

「まずは、お掛けください」

 レナートの仕草で

「お茶、お淹れしますね」

 と私が動くと、ブルザークの全員がギョッとした。

「私、事務官なので!」

 もう、いちいち気にしていられない! と開き直ると、ヤンが笑いながら、手伝いに来てくれた。

 

 ――空いているソファにヨナターンとボジェクが座り、その背後に立つオリヴェルとヤン。

 一方で、ルイスの足元に腰掛けるレナート。私とロランは、執務椅子を運んできて座らせてもらった。

 それぞれにお茶を配り終えると

「幸い接見まで多少お時間がございます。たった今、キーラの推理で判明したことも含めて、こちらの情報をお話させて頂きます」

 とレナートが口火を切った。

 



 ◇ ◇ ◇




「どうなることやらですねえ」


 ヤンが溜息をつきながら、伸びをする。オリヴェルと三人で団長室に残った私は、机の上に乗っている書類を黙々と整理していた。

 アルソス国王との接見に臨むのは、レナートとロラン。帝国側はヨナターンとボジェクだ。

 オリヴェルが机の脇に立って、じっと私の手元を見ていて、落ち着かない。

 

「あ、の」

「ああいえすみません。非常に効率よくお仕事をされているので、感心していたところです」

「団長が、色々教えてくれたんです」

「ほう」

「すごいすよね。団長って相当強いですよ。剣も事務仕事もできるって、オリヴェルさんみたいっす」

「オリヴェルさんも、強そうですもんね」

「そうなんすよー! 尊敬してるんす」


 ぽ、と頬が染まったオリヴェルは、一見取っつきづらそうだけれど、良い人なのだろうなと感じた。

 

「ゴホン。恐縮です」

「あの、中尉って、どのぐらいの階級なのですか? 大将が一番偉いのは分かるんですが、少将?」

「なるほど。知りたいと思っていただけるのは嬉しいですね。お仕事が一段落したら、帝国のことを少しお教えしましょうか」

「ありがとうございます!」

「ちぇー、自分が頼む前に、話がまとまっちゃうんだもんなあ」

「ごめん、ヤンさん!」

「ヤン。お前は気安すぎる」

「さーせん!」

 良い先輩後輩なんだろうな、と私は少し緊張を緩めることができて、ありがたかった。


「オリヴェルさんは……私のことをどう思っていますか?」


 書類の写しを綴じながら見上げると、優しい微笑みがそこにあり、少し面食らった。


「単純に、嬉しいですよ」

「なぜ?」

「皇帝陛下は、孤独なお方。殿下さえ良ければ、側で寄り添って頂けたらと、皆願っております」

「孤独? でも部下の方々がたくさんいるでしょう?」

「……貴女様なら、お分かり頂けるかと」

「そう……ですね……」


 家族と他人とは、やはり違うのだ。

 

「血塗られた皇帝陛下と、仲良くなれるでしょうか」

「ふむ。多大なる誤解があるようですね」

「誤解?」

「はい。五人の皇子方は、帝国の財産を食い潰し、挙句の果てには大した理由もなく、気に入らないというだけで――余興がごとく民を殺しておりました」

「ひ!」

「酷い時には、見せしめで家族の前で凌辱、惨殺する。恐怖で圧政を行おうとしていたのです。陛下は、末弟ゆえ帝位に就こうとはされておりませんでしたが……キーラ殿下が行方不明になり、これではいかんと奮起された」

「わた、し……?」

「はい。家族を失う悲しみを、帝国民に味わわせている兄たちが許せない。だからこそ、民衆の恨みを晴らし、新たな時代の幕開けを宣言するための、斬首を行った。そのお陰で、我らは再び大帝国とともに歩むことができているのです」

「っ」


 その心労を想像するだけで……いや、想像を絶した。


 孤独と、血塗れの両手。

 たった一人で、巨大な帝国の頂点に君臨している、兄。


「お分かり頂けたでしょうか」

「……はい……」



 胸が、苦しくなった。

 私にできることは。すべきことは。なんなのだろう。


 そのために、私は――この初恋を諦めなくてはならないのだろうか。



 鼻の奥がツンとしたので、鼻をすすったら

「冷えましたか? 何か温かいものでもお持ちしましょうか」

 とオリヴェルが気を遣ってくれ、その物腰の柔らかさに

「あは! オリヴェルさんて、なんか執事みたい!」

 思わず言ってしまった。

「ぶっ。それ禁句だから!」

「うーん。どう頑張っても、軍人に見えないようなんですよ……」

 というオリヴェルの愚痴に、また笑った。

 

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