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ぎゅ、とルイスが目をつぶり、首を垂れる。
「え? 私が決めるんですか!? じゃあえっと……これから、仲良くしましょう!」
ルイス、口をあんぐり開けた。ちょっと可愛い。
「は?」
私は、ルイスの剣だこまみれの手を、両手でギュッと握った。
「ルイスさん、ギリギリのところで私を救おうと努力してくれました。お家と妹さんのこともあって、すごく怖かったと思います」
「だがっ」
「それに! 私、ボイドに絡まれて怖い思いをしたんですけれど、一番隊の皆さんが、さりげなく守ってくれるようになったんです。ヤンさんかな? て勝手に思ってたけど……隊の皆さんに指示してくれたの、ルイスさんだったんですね? 今、確信しました」
「っっ……私は……何とか……どうにかしたくて……」
「はい。すごく素敵な騎士だと思います! ほんと、お手本みたい! だから、この騎士団に、なくてはならない人なんです」
「っ!」
「キーラの言う通りだ。貴様は、騎士として模範となれる人物だと俺も思う」
「団長……」
「僕も。ルイスには頼りっぱなしだからさ。いなくなっちゃったら、困る」
「副団長……」
「そっすよー。この騎士団が辛うじて形になってたの、隊長のお陰っすからね」
「ヤン……」
ルイスが、両目から滝のように涙を流すから、私はたまらなくなって。
「もう大丈夫ですよ。苦しかったですね。悪い役人も、ボイドも、捕まりましたから。今日アルソスの国王陛下が来て、全部正すそうですから」
言いながら、強く抱きしめた。
「そ、れは、ほ、ほんとうか」
「はい! もう、大丈夫です!」
「あ、あ、良かった、良かったあぁ……ああああぁ……」
私も、涙があふれて止まらなくなった。
――そして、ますます許せなくなった。
「絶対許さない」
思わず言ったら、
「絶対に、許さん」
「報いを受けさせる」
「全力で、やりましょう」
レナートもロランもヤンも頷いた。
「さあルイス。今日は忙しいぞ。がんばれるか?」
レナートが、その肩を優しくぽんと叩く。
「帝国海軍に恥を晒す前にと考えて、罰を受けに来たんだろう? キーラと仲良くすれば許されるのなら、予定通り任務に戻ればいい。どうだ?」
「ふは、そんなに話す団長を、初めて見ました」
私から身体を離して、涙を手の甲でぬぐって、ルイスが笑う。
「ありがたく。顔を洗ってから、戻ります」
「うむ」
「そうだ、待ってレナート! その前にキーラのこと、ルイスには申し送りした方が良いんじゃない? 警護のこともあるし」
「ああそうか……」
私は、ハンカチを差し出しながら、隊長には言っておいた方が良いのか、と悟る。
「キーラ嬢が、なにか?」
ルイスがハグから離れ、ハンカチで顔を拭いながら首を傾げた。
憑き物が落ちたみたいにさっぱりしている。良かったね、と思ったのに。
ロランが説明したら、
「ブルザーク帝国皇帝の妹君……?」
また死にそうになっちゃった!
「ごごご、御無礼を……!」
「ちが! あの! 私が勝手に抱きつきましたし!」
「いやしかし」
ひたすら恐縮するルイスに、ロランが
「大丈夫だよルイス。僕もハグしたし、レナートなんか毎日一緒にね」
「わー!」
「ッロラン!」
私とレナートが慌てたら、ヤンがのほほんと
「あーそれ、斬首案件っすねー」
と言い、
「そ、そうか、言われてみればそう、だな……」
レナートがまともに受け止める。
――悲壮感!
「レナートの命って、いつまで?」
ロランは、悪ノリがすぎるよ!
「あの……私はどうしたら……」
あ、ルイスが死んじゃう!
「おいおい、一体どうした……」
気づいたら、背後に海軍大将ヨナターンのご登場です。あ、これルイスのトドメ刺しちゃう。
「ヨナさん」
「遅いから、その辺のに案内してもらったんだが、また取り込み中か?」
「いえ、今終わったところです、閣下」
「ヨナってそういうとこあるよね」
「あー、確かに」
「!?!?」
「ルイスさん!」
「「「あ」」」
ふらあ〜と気絶したルイスを受け止めようとして、でもやっぱり重さに耐えきれず、私は床にべしゃりと……ならなかった。
「キーラ、大丈夫か」
ルイスごと両腕で抱きとめてくれたレナートの、優しい瞳が間近にあって、やっぱり大好きだなと思った。
――その隈は、私のせい? ごめんなさい、私、変だ。悩ませたのが嬉しくて、ごめんなさい。
「あー……なるほど」
「ね、ヨナ。僕が言った通りでしょ」
「あんなん離したら、自分が殺されますって」
そんな三人の背後に。
「えーっとあの、俺らっていつ紹介してもらえるんかね」
「待っていましょう、ボジェク様」
「オリヴェルって我慢強ぇ……」
「ヤンといれば、そうなれますよ」
「ちげえねえ! はー、陛下の妹君、可愛いな」
「……」
嵐の前触れが、来ていた。




